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nano tech 2005レポート
~燃料電池や100GB光ディスクなどが展示

会場:東京ビッグサイト

会期:2月23日~25日



 nano tech 2005は、ナノテクノロジーに関する総合展示会・技術会議で、今年で4回目の開催となる。nano techは年々規模が拡大しており、今年は国内から234企業・公的機関・大学、海外18カ国・地域から92企業・団体が出展する、かなり大規模な展示会へと成長した。また今年は、ナノバイオExpo 2005も同時に開催されている。

 ナノテクノロジーとは、nm(1mの10億分の1)オーダーの構造(例えば、結晶の大きさや膜厚、粒子の直径など)を持つ物質を創製すること、およびそれらの物質を組み合わせて、デバイスやマイクロマシンなどを創製する技術のことである。

 会場では、ナノテクノロジーを利用した最新デバイスや材料から、ナノレベルの加工を実現するための超微細加工技術、評価用の機器にいたるまで、さまざまな展示がおこなわれていた。ここではその中から、本誌読者の関心が高いと思われるIT関連の話題を中心に取り上げる。


●燃料電池やカーボンナノチューブ・トランジスタなどを展示していたNEC

 今年のnano tech 2005は、日韓の大手エレクトロニクス企業の出展が増えていることにも注目したい。常連の日立製作所やNECの他、松下電器産業や三菱電機、富士通が初めて出展したほか、韓国のSamsung、LG電子も出展を行なっていた。説明員に熱心に質問を行なう来場者も増えており、2年前に取材したnano tech 2003に比べて、ナノテクノロジーへの期待と関心が高まっていることが感じられた。

 NECでは、燃料電池でノートPCを動作させるデモを行なっていた。今回展示されていた燃料電池一体型ノートPCは、昨年秋に開催されたWPC EXPO 2004で参考出展されていたものと同じだ。もちろん、このまま市販されるわけではなく、あくまで開発中の製品ということだが、2年前のnano tech 2003で展示されていたものに比べると、より完成度が向上している。

NECが開発した燃料電池一体型ノートPCの試作機。超低電圧版Pentium M 713を搭載し、250ccの燃料で約10時間の連続駆動が可能

 今回展示されていた燃料電池一体型ノートPCの試作機は、CPUに超低電圧版Pentium M 713(1.10GHz)を採用しており、チップセットとしてIntel 855GMEを搭載する。液晶としては12.1型XGA液晶パネルが採用されている。燃料カートリッジの容量は250ccであり、濃度約30%のメタノールを利用して、約10時間の連続駆動が可能だという。最大出力は10W程度であり、大電流が流れる起動時のみ、2次電池を補助的に利用する。

 実用化時期については、2007年頃を予定しているとのことだ。ちなみに、nano tech 2003でNECの説明員に実用化時期を尋ねたところ、ノートPCでは2004年末から2005年にかけて、携帯電話では2005年あたりから実用化が始まるだろうという回答であったので、当初の予定に比べると、実用化時期は後ろにずれている。NEC以外にも、燃料電池を展示していたメーカーはあったが、それらのメーカーも2007年を目処に実用化したいと語っていた。

 現在は禁止されているが、航空機内へのメタノール燃料の持ち込みが2007年に解禁される見込みであることも、燃料電池の実用化に向けての強い追い風となる(というより、航空機内に持ち込めないのであれば、携帯電話などに燃料電池を採用するのは難しい)。

ノートPCの下側にあるのが、燃料電池の本体。背面にあるのが燃料カートリッジ 燃料の残量は常に監視されており、ユーティリティで残量や予想駆動時間などを知ることができる

 そのほか、NECブースでは、カーボンナノチューブをチャネルとして用いたカーボンナノチューブ・トランジスタや光と電子でLSIを動かすナノフォトニクス、量子コンピュータ用デバイス、超小型で低抵抗を実現したスイッチ「ナノブリッジ」などに関する展示が行なわれていた。カーボンナノチューブ・トランジスタについては、現在素子の特性評価を行なっている段階であり、2020年頃にはカーボンナノチューブ・トランジスタを利用した集積回路を実現したいとのことだ。

カーボンナノチューブを電子が流れるチャネルとして利用するカーボンナノチューブ・トランジスタの構造模型。4本並んだ筒状のものがカーボンナノチューブ。現在のSiトランジスタよりも、はるかに高速な動作が実現できるという カーボンナノチューブ(左)とカーボンナノホーン(右)の分子模型


●燃料電池やBlu-rayディスクの容量を4倍に高められる集光機能ナノガラス薄膜を展示していた日立製作所

 日立製作所のブースでは、Blu-rayディスクなどの光ディスクの記録密度を大幅に向上させることが可能なナノガラス薄膜の展示が行なわれていた。このナノガラス薄膜は、青紫色レーザーが照射されることによって、可逆的に屈折率が変化するという特徴を持っている。青紫色レーザーが照射された部分は、5ナノ秒以下というごく短い時間で屈折率が可逆的に42%も向上し、レンズおよびマスクとしての役割を果たす。ナノガラス薄膜を通過したレーザービーム径は1/2に絞られるので、記録密度は4倍に向上する。

集光機能を備えたナノガラス薄膜の説明パネル。レーザービーム径を1/2に縮小することが可能だ ナノガラス薄膜を利用した記録メディアの試作品

 Blu-rayディスクにこの技術を応用することで、片面1層で100GBの大容量記録が実現され、デジタルハイビジョン放送を8時間記録することが可能になる。集光機能ナノガラス薄膜の実用化は2007年を目指しているとのことだ。

 また、3月25日に開幕する愛・地球博の日立グループ館で使われる燃料電池搭載情報端末「Nature Viewer」や、KDDIと共同開発中の携帯電話用外付け燃料電池、ノートPC用燃料電池など、燃料電池に関する展示も充実していた。日立が開発中の燃料電池は、電解質膜に一般的なフッ素系膜ではなく非フッ素系の膜を利用しており、触媒となる白金をナノ粒子化して電解質膜に接合させることで、反応効率を高めていることが特徴だ。

愛・地球博の日立グループ館で来場者に貸し出される情報端末「Nature Viewer」。燃料電池で動作する。燃料カートリッジの容量は5ccで、リチウムイオン電池とのハイブリッド方式により13時間の連続駆動が可能 Nature Viewerのトランスルーセントモデル。中央に1.8インチHDDを採用するiVDR Miniが内蔵されている。左側に見える緑色の筒が、燃料カートリッジである

 また、100円ライターを作っている東海と共同で、携帯電話向けの小型燃料カートリッジも開発している。このカートリッジの容量は5ccで、Nature Viewerでも同じカートリッジが採用されている。携帯電話用外付け燃料電池の出力は1~1.2Wで、2007年の実用化を目指しているとのことだ。また、参考出展されていたノートPC用燃料電池のカートリッジ容量は25ccで、出力は10~20W、約2~3時間の連続駆動が可能である。

東海と共同開発した携帯電話向け燃料カートリッジ KDDIと共同開発中の携帯電話向け燃料電池。まずは外付けの充電器タイプとして実用化予定 参考出展されていたノートPC用燃料電池。携帯電話向けに比べて、燃料カートリッジも大型化されている


●Samsungは世界最高容量の8Gbit NAND型フラッシュメモリなどを展示

60nmプロセスルールで製造される8Gbit NAND型フラッシュメモリ。なお、パッケージサイズが大きいが、これは展示用のもので、実際にはTSOPなどの小型パッケージに封入されることになる

 Samsungは、世界最高容量となる8Gbit NAND型フラッシュメモリなどのメモリデバイスを中心に展示していた。この8Gbit NAND型フラッシュメモリは、60nmプロセスルールで製造されており、多値記録技術も採用されている。8Gbitフラッシュメモリを4チップ積層することで、1パッケージで4GBの容量を持つフラッシュメモリが実現可能になる。

 Samsungは、1999年から2004年の5年間にわたって、毎年フラッシュメモリ1チップあたりの容量を倍増させてきているが、これはムーアの法則をも上回る驚くべきペースだ(1999年に256Mbit、2000年に512Mbit、2001年に1Gbit、2002年に2Gbit、2003年に4Gbit、2004年に8Gbit)。今年は、16Gbitのフラッシュメモリを目指して開発が進められているとのことだ。

 また、2Gbitのフラッシュメモリを4チップ積層して、TSOPに封入した8Gbitのフラッシュメモリや世界初の2Gbit DDR2 DRAMなども展示されていた。

8Gbit NAND型フラッシュメモリのシリコンウェハー。ウェハーの直径は12インチ(300mm)という最新のものだ 2Gbitフラッシュメモリを4チップ積層して作られた8Gbitフラッシュメモリ 世界初の2Gbit DDR2 DRAM。このメモリを使えば、1枚で8GBの容量を持つDIMMも実現できる


●4層の次世代Blu-rayディスクや砂糖で動く太陽光バイオ砂糖電池を展示していた松下電器

 松下電器のブースでは、記録層が4層の次世代多層ディスクが展示されていた。これは、Blu-rayディスクをベースにしたもので、1枚で100GBの容量を実現し、デジタルハイビジョン放送を8~9時間程度記録することが可能だ。実用化は2007年秋から2008年にかけてを予定しており、カートリッジについては、ありとなしの両方を検討中である。

 また、太陽光バイオ砂糖電池に関するパネル展示も行なわれていた。バイオ砂糖電池は、燃料電池の一種だが、光触媒と酵素によって、燃料となる砂糖から電子を取り出すことが特徴だ。現時点ではまだ実験室レベルだが、将来的には、人間の身体に埋め込み血液中の血糖を利用して発電することで、電池交換が不要なペースメーカーや、砂糖を食べて動くペットロボットなどの実現を目指して研究が進められているとのことだ。

松下電器が試作した4層の次世代多層ディスク。1枚で100GBの容量を実現。展示されていたのは追記型(ライトワンス)だが、現在書換型(リライタブル)も開発中とのこと 4層の次世代多層ディスクの構造図。各層の厚みを1nm単位で厳密に制御している 太陽光バイオ砂糖電池の原理説明図。出力電圧は約0.7V程度とのことだ


●カーボンナノチューブFEDを展示していた双葉電子と三菱電機

 次世代薄型ディスプレイの1つとして期待されているFED(フィールドエミッションディスプレイ)だが、安定した電子源の作成が難しく、実用化への道のりは遠いとされていた。そこで注目が集まっているのが、電子源としてカーボンナノチューブを使う方法である。カーボンナノチューブは、先端が細くアスペクト比が高い(つまり針のようにとがっているということ)だけでなく、電気伝導特性も良好で、化学的、機械的にも強いため、電界放出型電子源に最適である。

 nano tech 2005では、双葉電子と三菱電機がカーボンナノチューブFEDに関する展示を行なっていた。双葉電子のブースでは、カーボンナノチューブFEDの試作品が展示されており、表示デモが行なわれていた。三菱電機では、FED自体の展示はなかったが、カーボンナノチューブを利用した10型のFED用電子源が展示されていた。解像度は320×240ドット(QVGA)で、各ドットがRGBのサブピクセルから構成されているため、フルカラー表示が可能である。

双葉電子が展示していたカーボンナノチューブFED。薄型で、輝度も高い。ドット数は16×128ドットで、電光掲示板などの用途を想定している こちらも双葉電子が試作したカーボンナノチューブFED 三菱電機が展示していた10型FED用電子源。320×240ドットのフルカラー表示が可能


●創薬研究に最適化されたコンピュータシステムを展示していた富士通

富士通では、半導体の層間配線(ビア)にカーボンナノチューブを使うことを狙っている

 富士通は、シミュレーションを積極的に活用してナノテクノロジー新素材の研究開発に取り組んでおり、ブースでも各種シミュレーションのデモが行なわれていた。直接ナノテクノロジーというわけではないが、ちょっと面白いものが展示されていたので紹介したい。

 それは、分子動力学シミュレーションをはじめとする創薬研究でよく用いられるシミュレーションに最適化されたコンピュータシステム「BioServer」である。分子動力学シミュレーションとは、物質の性質を明らかにするためによく用いられる方法で、物質を構成する全粒子(原子や分子)の間に働く力を与えて、ニュートンの運動方程式を解き、瞬間瞬間における各粒子の位置を計算していくことで、粒子の集合体としての物質の性質を求めるというものだ。

 BioServerは、こうしたシミュレーションに最適化されたハードウェア構成になっており、大規模シミュレーションを高速に行なえることが特徴だ。BioServerは、高いスケーラビリティを誇るシステムであり、128個のCPUが搭載されたプロセッサボックスが基本単位となる。CPUには、富士通製のFR555Aと呼ばれる組み込み向けCPUが採用されており、128CPUでのピーク性能は184GFLOPSに達する。プロセッサボックス全体での消費電力も700Wと小さく、デスクサイドに縦置きすれば、研究者1人1人が所有することも十分可能だ。さらに、プロセッサボックスをラックにマウントしていくことで、CPU数をさらに増やすことができる。1つのラックに最大15個のプロセッサボックスを内蔵できるので、最大1,920CPU構成を実現可能だ。1,920CPU構成時のピーク性能は実に2.8TFLOPSに達する。

BioServerのプロセッサボックス。ずらりと並んだCPUボードが壮観だ。全部で32枚のCPUボードが搭載されており、合計CPU数は128個となる ラックマウントタイプでは、高さ2mのラックに最大15個のプロセッサボックスを内蔵可能で、1ラックで最大1,920CPU構成が可能。1,920CPU構成時のピーク性能は2.8TFLOPSに達する
CPUボードの表面。大きな4つのチップがCPUである。CPUの発熱は小さく、ヒートシンクは装着されていない CPUボードの裏面。メモリやフラッシュメモリなどが実装されている。CPUボード1枚あたたりのメモリ容量は1GBで、プロセッサボックス全体では合計32GBとなる

□nano tech 2005のホームページ
http://www.ics-inc.co.jp/nanotech/
□関連記事
【2月23日】愛・地球博・日立グループ館プレス見学会
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0223/hitachi.htm
【2004年10月21日】WPC EXPOに登場した2台の燃料電池ノート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1021/wpc3.htm
【2004年6月4日】ロボットと燃料電池
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0604/nedo.htm
【2003年2月26日】nano tech 2003レポート
~NECが燃料電池で動作するノートPCのデモを実施
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0226/nanotech.htm

(2005年2月24日)

[Reported by 石井英男]

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