山田祥平のRe:config.sys

パソコンを買い換える理由



 4GBを超えるメモリ空間が、コンシューマ環境で必要かどうかといえば、今の時点ではNoだ。けれども、首都高速道路が片側たった2車線しかなかったから、東京は、日常、慢性的な10km超渋滞に悩まされている。将来の予測が難しい以上、ヘッドルームは高いにこしたことはない。

●増える一方のデータサイズ

 Windows XPが出荷されたのは2001年秋だ。当時のパソコンは、デスクトップで、Pentium4 1.7GHzに、120GBのHDD、ノートパソコンでは、モバイルPentium III 1GHzに、40GBのHDDというようなものだった。メモリは双方ともに256MB程度を搭載していた。

 それからすでに4年目に入っているわけだが、クロック周波数とHDD、メモリともに倍になったものの、OSそのものは、サービスパックを2まで数えながらも、基本的には変わっていない。

 一方、扱うデータの種類とサイズはどうだろう。たとえば、コンパクトデジカメでいうと2001年当時のハイエンド製品が400万画素程度。これは、今、その2倍の800万画素超になっている。また、TV録画ができるパソコンが一般的になったが、TV番組を2時間分録画すれば約4GBのデータができる。4GBというデータサイズは、FAT32におけるファイルサイズの上限だ。現行で一般的になったNTFSでは、ファイルサイズの制限はなく、ボリュームサイズのみに依存する。

 こんなふうに見ていくと、パソコンの基本スペックが4年で倍になり、扱うデータもまた倍になったと考えることができる。

●変わっては困る人々と、変わって欲しい人々

 パソコンを買い換えようとするときに、その強い動機となるのは、今、使っているパソコンに対する不満だ。ところがこの4年間、OSやアプリケーションが基本的に変わっていないので、その不満が起こりにくい。HDDの容量は増設で対処できるし、場合によっては、DVD-Rなどに書き出すことで埋め合わせがきくかもしれない。だから、新しいパソコンを購入したとしても、それを手に入れたことによる感動は、それほど大きなものではないかもしれない。

 こうした状況は、少なくとも、次期WindowsであるLonghornがリリースされることになっている2007年まで変わることはないだろう。パソコンに新たな投資をしても、うれしいことがあまりないのだから当たり前だ。それよりも、DVDレコーダーや、薄型TVなどにお金をかけようという気になるユーザーが少なくないのもよくわかる。そちらのほうが、より大きくライフスタイルを変えてくれそうな気がするからだ。

 パソコンを使うユーザーは、大きく2種類に分けることができる。片や常に変化やイノベーションを求める革新派で、片や変化を嫌う保守派だ。

 仕事でパソコンを使うユーザーは、基本的に大きな変化を求めない。むしろ、変わってもらっては困ると考えている。サービスパックはもちろん、ちょっとしたパッチの導入、未評価のアプリケーションの導入によって、さっきまで正常に使えていた業務アプリケーションが不具合を発生しては業務に支障をきたしてしまうからだ。新たな環境を導入するときには、入念な評価をするし、そのためには多額のコストがかかる。だから、3年やそこらでOSやハードウェアがドラスティックに変わってしまっては具合が悪いのだ。

 その一方で、いわゆるホビーとしてパソコンを使う層は、新しいものを歓迎する傾向にある。ベータ版のOSを自分の環境に入れて自業自得で泣いたとしても、それはそれで自分自身の肥やしにし、Microsoftに腹をたてながらも、それをむしろ楽しむ。そして、めげることなく、新OSの発売日には量販店等に深夜から並んだりもする。けれども、こうした向上心旺盛な愛すべきパワーユーザーたちは、ここのところ、ちょっとした欲求不満に陥っているんじゃないだろうか。

●着々と進行しつつあるコンシューマパソコンの64bit化

 それでも長いトンネルの出口に薄明かりは見えている。64bitコンピューティングが現実のものになりつつあるからだ。その状況を強力に推進しているのがAMDであるのはご存じの通りだ。同社は、サーバー環境のみならず、ホームユーザーのクライアント環境にも64bit化を推進する戦略をとろうとしている。

 肝心のOSに関しては、Microsoftが、この5月にも、すでに英語版のRC2が公開されている「Windows XP Professional x64 Edition」を製品パッケージとしてリリースする予定だ。このバージョンは、32bitWindows XP SP2の拡張機能をすべて継承しながら、128GBのメモリサポート、AMD64および、IntelのEM64Tというx64実装のプロセッサごとに最適化がはかられる。そして、64bitネイティブのアプリケーションのみならず、既存の32bitアプリケーションのパフォーマンスも向上するという。

 2月17日、都内のホテルで、AMDが主催する「AMD64+Windows x64プレスカンファレンス」が開催された。ゲストに招かれて登壇したマイクロソフト株式会社業務執行役員サーバープラットフォームビジネス本部長、鈴木和洋氏は、64bitコンピューティングは、まさに、メインストリームに入りつつあることを強調した。

 また、トレンドマイクロも、今年末に出ることになる「ウィルスバスター2006」で、ネイティブ64bitバージョンを用意し、コンシューマ向けも64bit対応を実現する。こうして、ソフトウェアの64bit化は着々と進行しつある。

●2年先は遠い未来ではない

 思えば、8bitプロセッサから16bitプロセッサへの移行のときには、MS-DOSが貢献したし、16bitプロセッサは、32bitもどきの386SXのようなプロセッサが出たりしながらも、ゆるやかにWindow3.xを経験しながら、32bitに移行していった。そして、Windows 95が、ネイティブ32bitアプリケーションの普及に大きく貢献したのはご存じの通りだ。

 こうした過去の状況を振り返ると、2年も先である2007年時点で、メインストリームのプロセッサが、まだ、32bitであるというのは、ちょっと考えにくいんじゃないかと思う。だからこそ、性急すぎるようにも見えるAMDの戦略は、方向性としては正しいように感じる。

 極端な話、Longhornは64bitプロセッサのみの対応といったことになればどうだろう。これには賛否両論あるだろうけれど、それによって、パソコンの買い換え需要は大いに刺激されるのは間違いない。2007年というのは、遠い未来の話のように感じるけれど、AMD、Intel双方の製品がブラッシュアップされるには、そのくらいの時間の演出が必要だと勘ぐることもできる。

 Microsoftとしても、Windows NTとWindows 3.xの共存時代を作ってしまったからこそ、16bitアプリケーションのサポートにずっと足を引っ張られた苦労は忘れられまい。エンドユーザーとしても、すべてが64bitに統一され、複数の環境が混在しない方がうれしい。とはいうものの、そうはうまくはいかないかもしれない。速やかで、かつ、ゆるやかな移行は、どのように演出されるのだろうか。

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(2005年2月18日)

[Reported by 山田祥平]

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