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コダクロームが残した色



(C) Magnum Photos Tokyo

 昨2004年は、報道写真家のロバート・キャパがインドシナで地雷に触れて亡くなってから50年目。奇しくもその年に、キャパが撮影した大量のカラースライドフィルムが発見された。そのカラー写真が、世界に先駆けて日本で公開される。

●世界最初のカラーフィルム

 『ロバート・キャパ写真展 キャパ・イン・カラー』 (2005年2月15日(火)〜20日(日)於東京・日本橋三越本店開催)。その写真展に先立ち、写真展主催者でもあるマグナム・フォト東京支社を訪ね、話を聞いてきた。

 このカラースライドは通信社、マグナムのニューヨークオフィスの保管庫から見つかった。この保管庫は、マグナムに所属する写真家のオリジナルネガなどを保管するための部屋で、写真家ごとにキャビネットが用意され、そこに作品が厳重に保管されているという。限られた人しか入ることができないセキュリティ的に厳しく守られたスペースである。マグナムでは、この部屋にネガを保存し、プリントは別の書庫に保管しているという。

 今回見つかった写真は、理由は定かではないが、キャパの弟であるコーネル・キャパのキャビネットに入っていた。コーネル・キャパのネガを整理していたところ、キャパ本人のメモが走り書きされた紙袋が見つかり、その中にマウントされたカラースライドが入っていたという。スリーブの状態ではないので、撮影された順序などもよくわからない状態だったらしい。

 コダックが世界最初のカラーフィルム「コダクローム」を発売したのは1935年で、その翌年、35mmスライドフィルムが発売されている。今回発見されたスライドは、このコダクロームで撮影されたものだが、保管庫の環境がよかったことや、コダクロームというフィルムの実力からか、状態は非常によかったらしい。コダックは1947年になって、エクタクロームを発売、キャパもそのフィルムを使ってはいるのだが、残っているものは、ほとんどが退色してしまっていて、とてもプリントができる状態ではないという。

 キャパは、アメリカのニュース雑誌「コリアーズ」の依頼でカラー写真を撮影していたが、実際には、使われずに終わったという事実はわかっていた。こうした事実関係を探りながら、過去のモノクロネガなどとも照らし合わせて検証、今回見つかったスライドが、キャパ本人の撮影によるものと断定されたわけだ。

●Designjetが出力する60年前の色

 今回の写真展は、「写真展」といいながらも、実際の出力は、印画紙を使った銀塩プリントではなく、ヒューレットパッカードの大判インクジェットプリンタ「HP Designjet 130」によるもの。オリジナルスライドは門外不出だ。

 そこで、ニューヨークのマグナムでドラムスキャナを使ってスキャンされた画像ファイルがCD-ROMに保存されて日本HPに持ち込まれた。今回は、それ以外に現存するカラー写真も同時に公開されるが、日本HPは、マグナム管理による第二次世界大戦時のスライド90点は、約2,400万画素のJPEGファイルで持ち込まれたものをA3サイズに出力、それ以外の写真は、ニューヨーク国際写真センター管理のもので、こちらは、TIFF形式のファイルとして持ち込まれたものをA2サイズ出力した。

 実作業では、Mac上のPhotoshopで読み込み、ソフトウェアリッパーでデザインジェットに出力した。当時の紙マウントをはがすことで、フィルムが損傷するのを防ぐために、高解像度ではスキャンしにくかったというような事情もあったようだ。

 マグナム・フォト東京支社ゼネラル・マネージャの小川潤子さんは、オリジナルのスライドを実際にその目で見た数少ない関係者の1人だ。日本HPでは、実際に出力した数枚のプリントを小川さんに確認してもらい、出力のポリシーを決めた。展覧会は来週だが、この原稿を書いている前週の今もなお、まだ、出力作業は続いているという。ロール紙にプリントされた出力結果は、小川さんの最終チェックを経て、額装にまわされ、展示用の作品となる。

 「カラースライドというのは、発明当時から、スクリーンに投影して楽しむためのものでした。カラー印刷技術にしても、コダクロームが発明されたあとにできたものです。ですから、今回は、オリジナルをどう解釈するかでずいぶん悩みました。解釈によって、できあがるものは全然違ってくるんですよ」(小川さん)

●キャパは写真がうまかった

 古い写真は古く見えないといけないんじゃないかという不安が常に頭をよぎったと小川さんはいう。でも、最終的に、小川さんは、今回の写真を古く見せようとはしなかった。オリジナルはマウントされたカラースライドだ。でも、展覧会ではスライドをライトボックスにのせて展示するわけではない。鑑賞者が見るのは、あくまでも、紙に出力されたものだ(実際にはスキャンされたデータをデジタル出力したものが、プロジェクタでも投影されるが、メイン展示はあくまでも紙に出力されたものだ)。

 カラー写真のプリントには、いろいろな方法があるが、今回のようなケースは、銀塩プリントはありえないと小川さんは思った。

 ちなみに、日本HPによれば、ニューヨークから届いたファイルに、カラープロファイルは添付されていなかったそうだ。となると、色再現の頼りは、オリジナルを見たことがある小川さんの記憶とイメージだけだ。結局、作業では、空の青さをかなりいじることになったという。

 ロール紙に出力されたものと、額装された数点を見せてもらったが、最新映画のポスターを見ているような錯覚に陥った。

 「写真的に良い悪いという点では、あまり上手じゃなかったとか、いろいろ言われることもあるキャパなんですが、今回のスライドを見て、私は、実は、キャパって、写真うまいじゃないかと感じました。ISO10(当時ASA)のフィルムを使って、こんな雰囲気のある写真が撮れたんですからね」(小川さん)

 60年前のカラースライドが現代の最新技術で出力され、まるで昨日撮ったかのような鮮やかさでぼくらのまなざしに触れる。ただ、それは、最新のデジタルカメラで撮影したものとはどこか違う。妖しさにも似たその違いを増幅して見せるのがDesignjetだったということなんだろうか。そこには、最新の写真高画質プリンタの出力でも得られない何かがあるとマグナムは感じているのかもしれない。

 最近は、モノクロフィルムばかりを使っていたが、たまには、カラーフィルムも使ってみようかという気になった。もちろん、コダクロームを使ってだ。日本は今、コダクロームの現像が、夜出せば翌朝仕上がってくる世界でももっとも幸せな国のひとつだ。それが、いつまで続くのかはわからないけれど……。

□ロバート・キャパ写真展 キャパ・イン・カラー
http://www.mitsukoshi.co.jp/capa_in_color/

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(2005年2月11日)

[Reported by 山田祥平]

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