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EM64Tを一気に解禁するIntelの新戦略




●積極策に打って出たIntel

 IntelがCPUロードマップを大きく切り替えた。デスクトップではデュアルコアCPU「Pentium 4 8xx(Smithfield:スミスフィールド)」ファミリの投入を前倒し、64bit拡張技術「EM64T(Extended Memory 64 Technology)」も一気に全CPUラインナップでイネーブル(有効)にする。モバイルでは2006年第1四半期に投入する「Yonah(ヨナ)」の製品プランを明らかにした。サーバー&ワークステーションは、2006年に一気にデュアルコア一色へと塗り替える計画を明確にした。

 今回のIntelのロードマップ変更では、特に、デスクトップCPUの変動が大きい。IntelのデスクトップCPUロードマップでの大きなポイントは、次の4点。

(1) EM64Tを一気にトップツーボトムで普及させる
(2) Smithfield投入を2005年第2四半期へと前倒しにする
(3) 2006年第1四半期に65nmプロセス版CPU群を投入
(4) Vanderpool Technologyを2005年後半にイネーブルする

 今回のデスクトップCPUの計画を一言でくくると「アグレッシブ&カオス」となる。変更のほとんどは、従来の計画を前倒しまたは拡大、明確化するもので、Intelが押しの連続で攻めるプランとなっている。特に、カギとなる64bitとデュアルコアのプランが拡張された意味は大きい。

 その一方で、新製品と派生製品の投入により、Intel CPUはますますバリエーションが増え、ロードマップははるかに複雑怪奇になった。2005年のデスクトップ市場に併存するIntel CPUのバリエーションはざっと50sku(製品構成)弱。それぞれFSBやL2キャッシュ、その他フィーチャのイネーブル/ディセーブル(有効/無効)が異なるCPUが、40数種類も市場に混在する。下のロードマップ図には、Vanderpoolのイネーブル/ディセーブルのバリエーションは加えていないから、実際には、これよりもまだskuは増える。

 これだけバリエーションが増えると、もはや業界関係者ですら記憶し切れない。もちろん、在庫管理の複雑化やエンドユーザーの混乱ももたらす。Intelの積極策は、痛みも伴っているわけだ。

Intel CPU Roadmap
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●Celeron Dにいたるまで全ラインを64bit化

 Intelは、64bitテクノロジEM64Tのイネーブルプランについては、これまで何度か揺れていた。直前のプランでは、2MB L2キャッシュ搭載のPentium 4 6xxシリーズでサポートすることになっていたが、現行のPentium 4 5xxでもイネーブルにするプランも保留していた。しかし、今年に入るまで、IntelのEM64T戦略は不鮮明で、Intelがこのテクノロジをどれだけの勢いで推進するつもりなのかも、分かりにくかった。

 だが、今回、IntelはEM64Tについての姿勢を一変させた。従来のPentium 4 6xxだけでなく、2005年第2四半期からはPentium 4 5xx、Celeron D(LGA775版)の全ラインナップでEM64Tをサポートする。つまり、IntelのデスクトップCPUは、上から下まで、どの価格帯でもEM64Tを使えるようになる。EM64Tを実際に使うのは64bit OSが必要だが、逆を言えば、64bit OSをインストールしさえすれば、Celeron Dでも64bit CPUになる。

 もう少し詳しく見て行こう。IntelのPentium系CPUのうち、Pentium 4 6xx以降のCPUファミリは、登場時からEM64Tイネーブルとなる。Pentium 4 6xxと同じPrescott 2Mコアを使ったPentium 4 Extreme Edition(XE)も登場時からEM64Tがイネーブルにされている。これは、デュアルコアのSmithfieldでも同様だ。

 さらに、現行のPrescottベースのPentium 4 5xxも、第2四半期にEM64Tイネーブル版に入れ替わる。周波数帯は変わらないが、一応プロセッサ・ナンバは変わり、端数の1が加えられる。つまり、Pentium 4 570(3.8GHz)のEM64Tイネーブル版はPentium 4 571になる。EM64TイネーブルCPUは、64bit OSを導入しなければ、従来通りの32bit CPUとして振る舞うため、IntelはEM64Tディセーブル版を併売はしない。全ラインがEM64T版に切り替わる。

 Celeron Dでは、LGA775版のみがEM64Tイネーブルになる。こちらも同様に端数の1がプロセッサ・ナンバにプラスされる。わかりにくいのは1桁目が5だった場合で、例えば、Celeron D 345(3.06GHz)のEM64Tイネーブル版はCeleron D 356になる。また、Celeron D 355(3.33GHz)は、1が加えられていないが、EM64Tイネーブルだ。LGA775版Celeron Dも、Pentium系と同様に、EM64Tイネーブル版へと切り替えられる。

 Intelは、もともとPrescottコア全てにEM64Tを実装している。Prescottのダイを見ると、不自然に整数演算パイプラインが拡張されており、整数演算パイプを32bitから64bitに拡張した痕跡が見える。そのため、潜在的には全てのPrescott以降のCPUは、64bitイネーブルにできる。決定は、技術的に可能になったという類の話ではなく、純粋に市場戦略上のものだと推測される。

 IntelのEM64T積極策の目的は明確だ。それは、IA-32の64bit拡張で先手を取ったAMDに追いつき追い越すことだ。MicrosoftのWindows XP 64bit Editionが以前の計画よりずれ込んだ(ずれこませた? )ため、Intelは64bit化での出遅れをある程度はリカバリできる情勢になってきた。

 一方、AMDはまだ低価格帯の製品ラインには、K8アーキテクチャをもたらすことができておらず、64bitアーキテクチャAMD64も、メインストリーム以上の製品のフィーチャに留まっている。そこで、AMDの先手を取って一気に64bitを低価格帯までイネーブルにしてしまうことで、Intelは遅れを覆そうという計画だと推測される。

Intelの2005〜06年のデスクトップCPU比較
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●意外と安いIntelのデュアルコアCPU

 Intelは、デュアルコアのプランも前倒しにした。もともとIntelは、デュアルコアのSmithfieldを今年第3四半期に投入する計画だった。ある情報筋によると、第3四半期も後ろの方で投入すると聞いていたという。だが、現在のプランでは第2四半期中の投入となっている。ある情報筋は、Intelは次世代チップセット「Intel 955/945ファミリ(Lakeport:レイクポート)」の投入と同期してSmithfieldを投入すると伝える。

 こうしてみると、Smithfieldの市場投入は、約1四半期早まったことになる。これは、Intelのテストラボでの、Smithfieldのバリデーションが1サイクル分短縮されたことを意味すると思われる。

 Smithfieldについては、プロセッサ・ナンバと価格も顧客に伝えられた。プロセッサ・ナンバはこのコーナーの予想を覆し800番台となった。3.2GHz(840)、3GHz(830)、2.8GHz(820)の3skuで、周波数は以前にレポートした通りだ。ブランドも今のところはPentium 4のままとなっている。つまり、SmithfieldなどNetBurst系デュアルコアCPUは、新ブランドをつけるような新世代CPUではなく、あくまでも現在のPentium 4の延長という位置づけだ。

 意外だったのはCPU価格で、Intelは想定よりも低い価格帯に設定してきた。Smithfieldの価格概要は下の通り。

3.2GHz(840):500ドル台
3GHz(830):300ドル台
2.8GHz(820):240ドル前後

 それに対してPentium 4 6xxの価格は下の通り。

3.8GHz(670):850ドル前後
3.6GHz(660):600ドル前後
3.4GHz(650):400ドル前後
3.2GHz(640):270ドル前後
3GHz(630):220ドル前後

 Pentium 4 840(3.2GHz)は、ちょうどPentium 4 660(3.6GHz)と650(3.4GHz)の間に挟まる価格となる。つまり、価格に対する周波数の差は約300MHz程度、これがデュアルコアのバリュー分ということになる。CPU自体は、価格的には意外と手頃なレベルからスタートする。

 Intelが新CPUの価格を低くつけて来る時にはパターンがある。それは、新CPUの新機能によるパフォーマンス向上が緩く、付加価値を価格に転嫁するのが難しいと判断した時だ。Smithfieldは、価格戦略を見る限り、Intelはバリュー分をそれほど大きくできないと判断していると思われる。あるいは、Intelは200平方mmちょっと程度のSmithfieldのダイサイズ(半導体本体の面積)なら、低価格で市場に十分供給できる量を製造できると踏んでいるのかもしれない。

 Intelは、過去1年の間に、何度もロードマップ変更を行なった。これは揺れるIntelの戦略を表しているようだった。だが、今回のロードマップ変更は、ちょっと異なっている。今までは、不鮮明な部分が多く、Intelの行き先が見えにくかったが、今回の構図では、Intelの打って出る姿勢が明確だ。昨年春に次世代CPU「Tejas(テハス)」をキャンセルしてからの迷走に、ようやく終止符を打つことができたということだろうか。

Intel CPU Price & Brand & Processor Core
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【2004年12月24日】【海外】ポラックの法則に破れてキャンセルされた「Tejas」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1224/kaigai144.htm
【2004年10月22日】【海外】デュアルコアCPU“Smithfield”は来年第3四半期に登場
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1022/kaigai128.htm

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(2005年1月26日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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