第273回
対照的だったMicrosoftとAppleの基調講演



 先週、正月気分も醒めやまぬまま4日にはラスベガスへの飛行機に乗り込んだ。もちろん、2005 International CESの取材に出かけるためだ。普段ならやる気満々で出かけるのだが、今年のCESは出発の時から脳裏をやや不安がよぎっていた。

 その不安は的中し、飛行機の中で隣り合わせた風邪真っ最中の母子と10時間を過ごすと風邪モードに突入。さらに例年のラスベガスよりもはるかに寒い。CES期間中は異常気象なのか青空はほとんど見えず、雨が降り、時折ミゾレまで混じるという、とてもラスベガスとは思えない空模様だ。ちなみにこの原稿を執筆中のロサンゼルスも大雨。先日はかなり大粒の雹が降ったそうだ。まるでデイ・アフター・トゥモローの世界である。

 ラスベガス自慢の最新モノレールも、コンベンションに集まった客をさばけるほどの輸送量がない上、オーガナイズも最悪。寒く冷たい雨が降る中、排水対策がまったく行なわれておらずあちこちに川ができているラスベガスだけに、タクシーを拾うこともかなわない。いや、マジメな話ここまで酷い環境下で行なわれたコンベンションは見たことがない。

 ここで今後、ラスベガスでのコンベンションに行く人のために1つアイディアを。

 モノレールでホテル街方面に帰る場合、コンベンションの駅から乗り込もうと思うと1時間以上の行列に並ばなければならない。しかしひとつ手前のラスベガスヒルトンは比較的空いているため、そこまで歩いて乗る方がずっと早く帰ることができる。もしくは比較的空いているサハラ・ホテル行きのシャトルバスでサハラまで行き、モノレールの始発駅であるサハラから乗り込むという手もある。

 モノレールの混雑で困ったときにはお試しを。

●ゲイツ氏にとっても最悪の日?

2005 International CESで基調講演を行なうビル・ゲイツ氏(左)

 すでに本誌でもレポートが掲載されているが、悪いことはどんどん伝搬するものなのだろうか。Microsoftのビル・ゲイツCSAの基調講演はトラブル続きだった。トラブルは1回や2回ではなく、客席からハッキリとわかる異常だけでも4回は何らかの“事件”が起きていたように見える。おまけにXBox用の新規タイトルを紹介する場面では、システムエラーを示すブルースクリーンが出る始末。

 ゲイツ氏はさほど焦った表情も見せず、淡々と講演を進めたが、それを見ていたMicrosoft日本法人CTOで本社副社長でもある古川享氏は「これでは伝えたかったことの30%程度しか伝わらない」と話していた。

 もっとも、すべてのデモがうまく行ったとしても、日本のユーザーにはほとんど響かなかっただろう。最近、色々な記事で訴えているのだが、日本市場とMicrosoftのビジョンがかけ離れてきているからである。

 ただし、Microsoftのビジョンが間違った方向に向かっている、という意味ではない。正しい方向など誰にもわからないが、少なくとも前提となる市場環境とビジョンを描く前提条件が一致していなければ、何らリアリティのない話になってしまう。

 Microsoftのコンシューマ市場向け戦略という意味では、このところWindows XP Media Center Editionや米国独自のサービスインフラを前提とした新製品、新サービスの提案や発表が多い。基調講演もそれに沿ったものだ。しかし日本市場で、その前提となるMCEが存在しないため、新しいビジョンや機能が示されても、どこか他人事のようにしか思えない。

 別途話をうかがった古川氏によると、MCEが日本で普及していないこと、MCEそのものが日本市場にフィットしていないことなどはMicrosoft自身も認識しており、チームを作って日本の放送事情に合わせた録画機能の実装や、日本の家庭で普及している機器、使われ方などを検討した仕様の実装などを検討しているそうだ。

 また、細かな点だが重要なことがある。それはユーザーインターフェイスに関して、現在のMCEよりもメーカー側のカスタマイズ自由度が上がるかもしれないという点だ。現在のMCEは、全体のデザインはもちろんのこと、背景の青色やボタンの緑といった配色に至るまで“統一された操作感”の名の下に、ベンダーによるカスタマイズが認められていない。

 しかしテレビパソコンの顔とも言うべきところに、自社の意向が反映できないというのは、PCベンダーにとっては歯がゆい。古川氏は、どこまでを標準化して、どこまでをカスタム要素とするのかも含め、様々な可能性を追求していきたいと話した。

 古川氏は日本法人への復帰以来、Microsoft本社と日本市場を繋ぐパイプ役となってきたが、その成果が現れてくるとすれば、それは今年の後半ぐらいからだろう。PCユーザーの一人として期待したいところだ。

●ジョブズ氏にとっては最良の日?

Macworld Conference&Expo 2005のスティーブ・ジョブズ氏

 こうして原稿を書いているうちに、だんだんとカリフォルニアの空も晴れてきた。昨日の嵐はどこかに去り、ロサンゼルスには青空がひろがった。数百キロ北にあるサンフランシスコの状況はわからないが、ジョブズ氏の心は晴れていることだろう。

 当地ではMacworld Conference&ExpoでiPod shuffleが発表され話題になっており、こちらロサンゼルスでもその話題が飛び火している。たまたま昼食に入ったレストラン向かいにあったApple Storeが騒がしいので覗いてみると、そこでみんなが手に取っていたのがiPod shuffleだった。

 iPod shuffleはともかくとして、個人的にはMac miniの存在が気になる。ちょっとマニアックに使うならば、BSD Unixマシンにして小型サーバーとして使うのも良さそうだし、カラーイメージング処理専用マシンにするのもいいか? と物欲を刺激されている。

 同日発表されたMicrosoftのEntourage 2004強化ポイントを見ると、EntourageからのExchangeサーバーへのアクセス機能も改善されているようだ。Entourageは2004になってから、普段使いには十分なほどExchangeサーバーへのアクセス機能が充実し、サーバーデータを同期してローカルに複製を置けるなど、使い勝手の面で大きく進化していた。

 “なんでそんなにMacが気になるの?”と言われそうだが、次世代Mac OS XのTigerがサポート予定のSpotlightという機能には大きな魅力を感じる。現在の使い慣れたツールやアプリケーションを投げ打ってまで乗り換えたいか? と言われれば“ノー”だが、ある程度アプリケーション環境の移行がに目処が立つならば、積極的に評価してみたいという気持ちはある。Tigerが登場するまでにはまだしばらくの時間があるが、それまでの予習として小型で安価なMac miniは面白そうだ。

 加えてMac miniには別の可能性もある。Mac miniにはキーボードやマウスが付属していないが、将来的にキーボードなしでシステムのセットアップを行ない、サーバーや特定機能の実行だけをリモコンやEthernet経由のリモート操作で扱えるような仕組みを提供できれば、ユニークな製品になるかもしれない。

 Appleの場合、ハードウェアとソフトウェアの両方を自社で開発しているため、ハードウェアの特徴を活かすソフトウェアをOSに統合して組み込む事が容易にできる。Macだけの閉じた世界にはデメリットももちろんあるが、統合度の向上という意味では圧倒的に有利。ジョブズ氏がMac miniで将来何をやろうとしているのかはわからないが、単に小さいMacというだけでなく、安価なモジュラー型という商品の特徴を生かせるアイディアをソフトウェアで実装できれば、面白い製品へと成長するかもしれない。

 “ジョブズ氏にとって最良の日”とまでは言わないが、なかなかゴキゲンな日だったに違いない。

●日本でEMDが本格的に流行る年になるか?

 ゲイツ氏とジョブズ氏。IT業界を代表する二人の双方が現在力を入れているのが、コンテンツのオンライン配信ビジネスだ。説明するまでもないが、AppleのiTunes Music Storeは世界でもっとも成功したEMDサービスとして知られている。

 ビジョナリストとして語られることの多いジョブズ氏だが、コンテンツ配信に関してはかなり現実派と言っていい。オンラインで動画を販売させたり、ポータブル機で動画を見たりといった使い方は、まだ一般的にはならないと考えている。その代わりにローカライズが比較的楽で、だれもが手軽に楽しめる音楽に関しては、ゲイツ氏よりも先に強くコミットしてiTunesとiPodを育ててきた。

 今年はいよいよ国内でiTunes Music Storeが開始されると言われている。果たして1曲いくらになるのか? 品揃えは? 海外コンテンツはどうなるのか? と興味は尽きない。

 プリペイドカードなどを用いて日本から使ってみたことがあればわかるのだが、iTunes Music Storeには、実に曲を“買ってみよう”と思わせる要素が多い。安く、幅広いコンテンツがあり、視聴が可能で、聞きたいときに聞きたい場所で聞ける自由度の高さがある。ユーザーへの締め付けが少なく、なおかつ1曲あたりが安いとなると、ついつい懐かしい昔の曲を買ってしまう。

 Microsoftも同様に音楽販売戦略を強化しているが、Appleとやや異なるのは、Napsterが実現しているような“月額いくら”で自由に曲を聴けるサブスクリプション形式のサービスもサポートする点だ。

 Microsoftはその準備をほぼ終えており、CESでは「plays for sure」に対応した多数の音楽プレーヤーが展示された。plays for sureはコンテンツ配信の枠組みなので、MSN Music以外にも同じフレームワークを使って配信サービスを行なうこともできる。

 plays for sureの目玉機能であるサブスクリプション型音楽配信サービスが、日本でも実施されるようになれば、1曲いくらで購入する従来のEMDとは全く別の新しい市場を作るかもしれない。1曲いくらで指名買いするユーザーは音楽を自ら選び、購入する音楽に対して積極的なユーザーだ。しかし一方、サブスクリプション型であれば、もっとライトな受け身で音楽を楽しむユーザーにも楽しめる。

 現時点での日本のEMDサービスを見ていると、必ずしも楽観はできない。しかし、関係者によると日本でのサブスクリプション型音楽配信サービスも、夏から秋ぐらいにかけての時期で可能性が見えてきているようだ。曲あたりのコストの高さを見直すことも、市場を広げる上で大きな意味を持つだろうが、サブスクリプション型サービスの可否もその行方を占う上で注目したい。

【1月12日】アップル、ジョブズCEO基調講演を国内公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0112/apple3.htm
【1月12日】アップル、5万円台からの低価格Mac「Mac mini」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0112/apple1.htm
【1月7日】【CES】ビル・ゲイツ氏 基調講演レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0107/ces02.htm
【2004年6月16日】米Apple、iTunes Music Storeを英仏独でオープン(INTERNET)
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2004/06/16/3509.html
【2004年10月13日】米Microsoft、音楽ダウンロード販売サービス「MSN Music」正式開始(INTERNET)
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2004/10/13/4965.html

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(2005年1月13日)

[Text by 本田雅一]


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