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NVIDIAのトップがSCEIとの提携を発表




●PCグラフィックス一色になる次世代ゲーム機

Jen-Hsun Huan 社長兼CEO
 「ソニー・コンピューターエンタテインメントとの提携は、われわれにとって非常に重要な発表だ。詳細をまだ話すことはできないが、次世代PlayStationは、非常にパワフルなプラットフォームとなるだろう」

 NVIDIAの社長兼CEOのJen-Hsun Huang(ジェンセン・フアン)氏は、12月7日(現地時間)に開催された同社のカンファレンスで、NVIDIAが次世代PlayStation(PlayStation 3?)のグラフィックスプロセッサ(GPU)の開発でのソニー・コンピューターエンタテインメント(SCEI)との提携を発表した。これで、PlayStationにもPCグラフィックスのテクノロジが流入することが確実となった。ATIがGPU技術を提供するXbox2(Xenon)と、NVIDIAのPS3。ゲームコンソールの世界では、現世代のXbox(NVIDIA)とGAMECUBE(ATI)に続いて、次世代でも、再び赤(ATI)と緑(NVIDIA)の対決が繰り広げられることになった。

 ちなみに、任天堂も次世代機の開発でATIと提携を結んでいる。これによって、SCEI、Microsoft、任天堂の3社ともが、次世代機にPC系GPUベンダーの技術を使うことになると見られる。大きな流れでは、PCとゲーム機のグラフィックスの技術がより親和性が高くなって行くことも示している。PCゲームやその技術が、ゲーム機に、より流入しやすくなる。特に、グラフィックスの技術ではPCゲームの世界が大きく先行してしまっていただけに、影響は大きい。

 唐突に発表された感がある、SCEIとNVIDIAの提携。しかし、すでにNDAベースでPS3の基本情報はゲーム業界に出ており、ゲーム業界側ではすでに知られていたようだ。また、PC業界側から見ても、じつは、いくつかの兆候はあった。

 まず、SCEIがGPUベンダーと接触を持ったという情報が、2002年の春頃に、PC業界関係者からもたらされていた。また、2002年夏頃にSCEIの久夛良木健氏(ソニー・コンピュータエンタテインメント社長兼グループCEO)と会った際に、同氏はNVIDIAのChief ScientistであるDavid B. Kirk(デビッド・B・カーク)氏について「非常に頭がいい人物だ」と形容、面識があることを示唆していた。このほか、NVIDIAが、PS3のメモリXDR DRAMに関心を示しているといった情報や、PS3のGPUの開発状況が一切聞こえてこない、海外のPCゲーム系のエンジンベンダのトップが来日するといったサインはあった。

●NVIDIAはPS3向けチップをメディアプロセッサと表現

 では、NVIDIAはPlayStation 3の何を作るのか。リリースではグラフィックス・プロセッサ(GPU)となっているが、NVIDIAのHuang氏はPS3向けの製品をメディアプロセッサと分類していた。

 「メディアプロセッサビジネスは、家電分野でも非常に重要だ。我々は、ソニー・コンピューターエンタテインメントと他の2つのパートナーとともに、次世代のPlayStationを創る」(Huang氏)

 Huang氏は、同社の製品カテゴリを、GPUとMCP(Media & Communications Processor)、(Wireless)Media Processorの3つに分類。3つ目のMedia ProcessorとしてGoForceの他にSCEIとの提携を説明した。GPUはグラフィックスに特化、MCPはメディア&コミュニケーション&セキュリティに特化してGPUと組み合わせられる。それに対してMedia Processorは、GoForceの例を見ると、グラフィックスだけでなくオールラウンドのメディア処理をプログラマブルハードウェアで担当する。また、以前からSCEIの久夛良木氏は、PS3のCPUであるCellプロセッサと組み合わせられるコンパニオンチップをグラフィックスエンジンではなく「メディアエンジン」と呼んでいた。これらの発言から、NVIDIAのチップはGPU+MCP的な、メディアプロセッサであると推定される。つまり、オーディオやネットワークなどの非グラフィックスの処理機能も実装すると見られる。

 また、NVIDIAの提供する技術はハードウェアだけにとどまらない。

 「久夛良木氏は、我々の仕事について、彼らと協力して素晴らしいゲームコンソールを作ることだと言った。それには、多くの要素が含まれる。グラフィックステクノロジは、もちろん最も重要だ。しかし、ソフトウェアテクノロジやツール開発なども、非常に重要な部分を占めている。幅広い範囲に渡って協力する」(Huang氏)

 別なNVIDIA幹部も「ソニー・コンピューターエンタテインメントが我々をパートナーに選んだ理由のひとつは、我々がソフトウェア面で協力できることだ。NVIDIAが蓄積してきたソフトウェア技術が評価された」と説明する。

 NVIDIAは、自社GPUのためにシェーディング言語「Cg」を開発、最適化コンパイラを提供している。また、優れたパフォーマンス解析ツールなども開発している。NVIDIAのPS3チップは、まず間違いなくProgrammable Shaderを搭載しているはずで、同社のコンパイラやツールなどが重要な役目を果たすと推定される。また、GPUに密着したローレベルのミドルウェアについてもNVIDIAが担当している可能性は高い。

 ちなみに、SCEIは、2004年の中頃から盛んにミドルウエアベンダーに接触している。SCEIは、PS2の時とは方針を転換して、PS3ではソフトウェア層による仮想化に注力しているように見える。組み込み向けのグラフィックスAPI「OpenGL ES」を策定する業界団体Khronos Groupへの参加はその一例だ。Khronos側は、SCEIが同グループに加わった目的はPS3にOpenGL ES 2.0を採用するためだと明言する。NVIDIA GPUの技術を使うなら、OpenGL系APIを採用するという動きも、より納得できる。

●PS3メディアプロセッサの開発は2年前からスタート

 SCEIとPS3チップを作るNVIDIA。両社は、いったいいつから提携していたのだろう。

 「我々はこのプラットフォームに関わるようになって2~3年になる。およそ2年といったところだ。GPUテクノロジを作るには一定の時間が必要だ」(Huang氏)

 Huang氏の説明通りだとすると、SCEIとNVIDIAは、おそくとも2002年の後半には共同作業をスタートさせていたことになる。もっとも、2年間はすんなり進んで来たわけではなさそうだ。

 「実際には、かなり紆余曲折があった。途中で立ち消えになりかけたりもしてやきもきした」とあるNVIDIA関係者は語る。

 NVIDIAのXGPUとXMCPを搭載したXboxが登場したのが2001年11月。リードタイムを考えると、SCEIとNVIDIAは、Xboxが出たあたりからすでに交渉を始めていたと考えられる。これは、XboxがSCEIに影響を与えた可能性が考えられる。

 実際、2002年初春にあるGPU業界関係者は「SCEIはもともとPS3のグラフィックスを内部で開発する予定だった。しかし、Xboxがあれだけのグラフィックスパワーで登場したことがSCEIに衝撃を与えたと聞いている。だから、次世代機のグラフィックスチップは、自社での開発だけでなく、PC系のGPUベンダーのチップを使う選択肢も考慮しているという。そのため、GPUベンダーと接触を始めた。しかし、どんな選択をするか、まだ決定していないようだ」と語っていた。

 ちなみに、Microsoftが次世代XboxでATIと技術協力していることを明らかにしたのは2003年夏。このあたりの裏事情はまだ藪の中だが、当然、Microsoftの発表は、SCEIとNVIDIAが密接な共同作業を始めた後ということになる。

 NVIDIAは、Xboxではチップセットを製造、Microsoftに販売した。では、PS3ではどんな契約になるのだろうか。NVIDIAがSCEIにチップを売るのだろうか、それともテクノロジをライセンスするのだろうか。Xboxの際には、NVIDIAはライセンスではなくチップの販売を望んだと言われていた。だが、NVIDIAのHuang氏はライセンスビジネスに何も問題はないと強調する。

 「コンセプト的な部分では、ライセンシングに悪い部分はなにもない。製品を売ることとライセンスを提供することで、売ること自体には何も違いはない。PlayStationのような製品を作るために、我々は最高のエンジニアを専従させなければならない。我々がやっているのは、そうした、頭脳ビジネス、知的資産ビジネスだ。製品の開発にエナジーを集中させるなら、それに見合うリターンが必要になる。それだけだ」

 Huang氏はこのようにリターンがライセンス契約でもチップ販売でも構わないという姿勢を示した。実際、製造FabがSCEI/ソニー/東芝系であることから、SCEIがNVIDIAのファウンダリを行なうとは考えにくい。今回の提携はコア技術のライセンス形態を取る可能性が高いと推測される。

 では、NVIDIAのPS3メディアプロセッサはどんな姿になるのだろう。これも、これまでのNVIDIAの発言から、ある程度の予測はできる。次回は、その点をレポートしたい。

□関連記事
【12月7日】NVIDIA、PS3用GPUをSCEIと共同開発
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1207/nvidia.htm
【7月29日】【海外】SCEIがPlayStation 3にOpenGL ES 2.0採用か
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0729/kaigai104.htm
【2003年8月18日】【海外】ATIが次世代Xboxに提供するGPU技術とは
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0818/kaigai012.htm
【2003年7月14日】【海外】PlayStation 3は256MBのXDR DRAMを搭載
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0714/kaigai003.htm

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(2004年12月7日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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