笠原一輝のユビキタス情報局

DLNA互換デジタルホーム機器が白物家電をコントロールする日




 PLC(Power Line Communication)というのは技術をご存じだろうか。電力線を使った通信方式で、ずいぶん前から注目されてきた技術だ。

 PLCでは、高周波帯を利用して高速通信を可能にし、Ethernetの代わりにしようという用途と、低周波帯を利用して、低速通信ながら、家電機器のコントロールに利用しようという用途の2つが検討されている。

 前者が、現時点では法律の壁ですぐには実現しそうにないのに対し、後者は、宅内の家電を制御するための仕様として住宅業者などが注目している。

 後者のPLCとして日本で最も注目を集めているのは、東京電力などが中心になって規格策定が進められている“エコーネット”だが、最近デジタルホーム向けのソリューションとしてSCP(Simple Control Protocol)が注目を集めつつある。

 SCPは、2000年にMicrosoftが発表した、配電線を利用した家電向けの制御プロトコルだが、最大の特徴はMicrosoftが策定したUniversal Plug and Play(UPnP)との親和性が高いことだ。

 そのため、UPnPのデジタル機器を中心に構成されるデジタルホームでは、SCPに対応した白物家電との連携が“デジタルホームの次の一手”として浮上しつつある。


●ゲルジンガー氏が指摘した“デジタルホームの次にくるモノ”

WPC EXPOで基調講演をしたゲルジンガー氏

 先月筆者は、有明で行なわれたWPC EXPOで、Intelの副社長兼CTOのパット・ゲルジンガー氏の基調講演を取材した。その時の模様は別途レポートしているが、米国で行なわれたIDFにも毎回出かけている筆者にとって、DTCP-IPのデモなど、その内容は特に目新しいものではなかった。

 ただ、そうした中でも印象的な話はあった。それは、ゲルジンガー氏が「“デジタルホーム”はAVネットワークだけがゴールではない」と言っていたことだ。さらに続けて、「デジタルホーム構想により家庭内にできる“ホームネットワーク”というインフラは、エンターテインメントのためだけに利用されるものではない」と明確に言い切っていたのには、“そうそう”と筆者も常に思っていたことだけに頷かされた。

 現在DLNA(Digital Living Network Alliance)加盟企業(Intel、ソニー、Microsoft、松下電器など)を中心に進められている「デジタルホーム構想」は、言ってみればAV機器をIPネットワーク化し、ピアツーピアでデータをやりとりできるようにしよう、というものであり、あくまでAV機器を中心としたものだ。

 筆者もたびたびこの連載で取り上げているとおり、実現すればユーザーにとって便利な世界が実現することは間違いないが、あくまで用途はAVに限られている。だが、せっかくIPベースのネットワークができたのなら、それをほかの用途に使わない手はない。その例としてゲルジンガー氏は医療分野などを例に挙げ、遠隔地からお年寄りの健康をチェックするなどの用途を提案していた。

 すでに、DLNAによるAV用途のデジタルホームは立ち上がりつつある。そうした中で、デジタルホーム構想にも“次”が求められている。そうした候補の1つとして、SCPという技術がここにきて注目を集めつつある。

●これまであまり注目されたこなかった白物家電をコントロールする技術

 SCPは、2000年頃Microsoftにより発表されたが、実のところ、これまであまり注目されてこなかった。

 実際、発表当時とその直後は若干の注目を集めたが、メディアでもあまり取り上げられなかった。特に日本では、SCPに対抗する規格として、東京電力などが推し進めているエコーネットが存在していたこともあり、SCPが本命になる可能性は低いと考えられていたことも影響していた。

 だが、筆者は冒頭で、SCPが熱い注目を集めていると書いた。一見矛盾する話に聞こえるかもしれないが、それには訳がある。その訳を語る前に、SCPとはどういうものかを説明しておこう。

 SCPは、Microsoftが開発したIPを持たない白物家電向けの制御プロトコルで、白物家電のベンダはロイヤリティフリーで利用できる。

 SCPは配電線上に流れるプロトコルで、各デバイスが固有のIDをもち、SCPをプロトコルとして通信することで制御できるようになっている。SCPが利用する周波数の帯域幅は5〜7.5kbps程度であるため、テキストベースのメッセージとコマンドが各デバイス間でやりとりされ、デバイスの制御が行なわれることになる。

 想定されているデバイスは、電灯、家の鍵、エアコン、時計、炊飯器、湯沸かし器といった、IPを実装するほどではないが、スイッチのオン、オフぐらいはできると便利というような白物家電だ。

 SCPの特徴は、Microsoftが開発しただけあって、IPネットワーク、そしてその上で動作するUniversal Plug and Play(UPnP)との親和性が高いことだ。

 SCPによる配電線ネットワークは、ブリッジを介してUPnPによるIPネットワークと相互に接続できる。これにより、IPネットワーク上にあるUPnPデバイスから、配電線につながっているSCPの白物家電をコントロールできるのだ。

 SCPの動作は、ブリッジなどに搭載されるプロパティルーター(PropertyRouter)機能を利用して設定できる。たとえば、電灯をUPnP側からコントロールする設定を有効にする、あるいは逆に無効にするといった設定をこのプロパティルーターを利用して行なう。

 SCPが白物家電側に実装されるようになると、例として以下のようなことが実現できる。

・UPnPが実装された液晶テレビから、家中の電灯を消したり、明るさを変更する
・UPnPが実装された液晶テレビから、お風呂にお湯をためる指示を出す
・家の鍵が開いたら家中のテレビやPCに、そのメッセージを表示させる

 発展的な使い方としては、プロジェクタを利用して映画を見ようとした場合、あらかじめ設定しておいた明るさに部屋の照明が自動的に変更されるようにすることも、デバイス側の実装次第では十分可能になるだろう。むろん、ここにあげられた例は筆者でも思いつくようなわかりやすい例であり、将来的にはもっとさまざまな使い方に応用されることになるだろう。

ルネサスソリューションズによるSCPのデモ。左側にあるPCで、右にあるランプのオンオフを行なうことができる SCPに対応した電灯。電灯線を通じてPCからオン、オフできる 手前側にあるのがSCPをコントロールする基板。USBでPCと接続されており、PCから指示を出すことで、奥にあるLEDの数字を変更することができる
プロパティルーターの画面。電灯の状態を変更したり、SCPのコントロールからは切り離したりという設定ができる 米国のランプが試作したDMA側のSCPコントロール画面。DMAや液晶テレビ、PCといったUPnP対応機器にこうしたユーザーインターフェイスを追加するだけで、SCP対応を簡単に実現できる

●UPnPベースのデジタルホームと親和性の高いSCPが急浮上

 ここまで読んできた読者の中には「ああ、わかった、でもそういう技術はエコーネットもそうだし、まぁ未来には普及するかもしれないけれど、我々PCユーザーにはあまり関係ないでしょ〜」という疑問を呈する方もいらっしゃるのではないだろうか。

 だが、ここで思い出して欲しいのは、この前のパラグラフで提示した「これまでSCPはほとんど注目されてこなかったのに、どうして注目されるようになったのか」という命題だ。

 SCPがこれまであまり注目されてこなかったのは、そもそもUPnPとの親和性が高いというその特徴ゆえだ。これまでUPnPはPCベースのネットワークと見なされており、家電とあまり関係のない存在と考えられてきた。このため、PCの存在、ひいてはMicrosoftの存在を警戒する家電メーカー(この場合は白物家電のメーカー)からはあまり注目されてこなかったし、実際、UPnP自体が家電に採用された例はなかった。

 しかし、状況を変えたのは、皮肉にもそのUPnPが普及の兆しを見せていることだ。DLNAによるデジタルホームはUPnPをベースに構築されており、家庭内にDLNAベースのIPネットワークが成立する公算はかなり高まっている。

 こういう新しいインフラで常に問題となるのは“鶏と卵”の議論だ。前回のコラムでは、MCEのエコシステムについて解説した。その中で筆者は、日本市場ではMCEという“鶏”がなかなかうまくできないので、周辺機器やソフトウェアといった“卵”もなかなかでてこない。そして卵がないので、鶏もできない……というエコシステムの悪いサイクルに入っていることを指摘した。

 別にMCEに限らず、新しいプラットフォームやインフラを実現する場合は、こうした議論は避けて通れないのだ。

 ところが、SCPを推進する人たちにとってラッキーなのは、今回の場合、AVネットワークという別の命題により、SCPにとって“鶏”に相当するUPnPのIPネットワークが、家庭内に構築されていく可能性がかなり高くなってきたことだ。

 しかも、UPnPに対応したデジタル機器をSCPに対応させるには、ソフトウェア的に簡単なメニューを追加する程度であり、コストとしてはほとんどゼロに近いものだと言ってよい。

デジタルストリームのUSB/PLC Dongle。簡単にPCをSCPブリッジとして利用可能になる

 なぜなら、コストとしてはUPnPとSCPのブリッジをどうするかという程度で、それもPC自体をブリッジにすれば、コストはかなり抑えることができる。長期的なレンジで考えれば、有線ルータや無線ルータ本体にSCPとのブリッジ機能を持たせることで、低コストで実現できる可能性は高い(最終的には限りなくゼロに近いと考えられる)。

 実際、株式会社デジタルストリームが、すでにUSBのSCPドングルを出荷している。これを利用すれば、PCをSCPへのブリッジにできるのだ。

 また、ルネサステクノロジー(日立と三菱電機による半導体ベンダ)の関連企業であるルネサスソリューションズは、ルネサスの「SH7751R」をベースとして、UPnP - SCPブリッジ作成のためのリファレンスボードを設計しており、有線LANルータの機能も備えているという。

 こうしたソリューションを利用すれば、かなりの低コストでSCPへのブリッジも実現できるだろう。

SCPとUPnPの関係

●次の一手として大いに注目していきたいSCPのソリューション

 こうしたソリューションは、PCベンダや周辺機器ベンダにとっても取り組むメリットがある。1つには、すでに述べたようにかなりの低コストでSCPへのブリッジ機能を実装可能であると考えられるので、PCベンダや周辺機器ベンダとしては他製品との差別化にSCPへの対応を利用できる可能性がある。“白物家電を制御できる”というメッセージはわかりやすく、ユーザーに対するアピールポイントにもなるだろう。

 ただ、“卵”側となる白物家電がどれだけSCPに対応してくれるか、という点は課題といえる。エコーネットという、半ば国策ともいえる別のPLCソリューションがあるという事情もあるため、現在のところ日本の白物家電ベンダでは、SCPに積極的に取り組んでいることを明らかにしているところはあまり多くない。

 ただ、それも“鶏”であるAVベースのデジタルホームができあがったことで状況が変わってくる可能性がある。前出のルネサステクノロジーはSCP対応のコントローラをすでに発表している。同社の関係者によれば、当初は数千円単位の価格になる可能性が高いようだが、将来的に量産が進めば数百円単位まで価格が下がってくる可能性があるという。

 当初はそうしたコストを吸収できるような単価の高い白物家電、具体的にはエアコンや湯沸かし器、炊飯器といった白物家電に採用してもらい、まずは普及を目指すというアプローチは可能だろう。

 白物家電ベンダにとっても、現在では、本来の機能の差別化が難しいなかで、IT機器と連携できるという点はアピールポイントとして魅力的に映るだろう。そうして普及が進めば、SCPコントローラのコストも下がっていき、より低価格なランプやドアロックなどにも採用できるようになっていくだろう。

 重要なことは、DLNA側には“低コストで新しくユーザーに魅力的な機能を実装できる”というメリットがあり、かつ白物家電のベンダ側にも“高価な専用の制御機器が不要で、DLNA対応のデジタル機器を制御装置として利用できる”というメリットがある。

 さらに言うなら、ユーザー側にも“安価に白物家電を制御する”という夢のような話を現実にできるというメリットもある。言ってみれば“三方一両損”ならぬ、“三方皆得?”な話なのだ。ただ、強いてデメリットがある人をあげるとすれば、エコーネットを推進している人たちになるが……。

 “デジタルホームの次にくるモノ”を探しているIT業界にとって、いまここでSCPを見直すことは大きなメリットがあると思う。たとえば、NECや富士通あたりが、来年ないしは再来年あたりにリリースするPCにSCPをコントロールする機能を実装し、周辺機器としてSCPに対応した家電製品を発表すなど、十分あってもよいストーリーだと思う。すでに述べたように、いずれも低コストで実装可能であり、来年からでもすぐにできる話だ。

 ただ、できれば、業界全体としてこうした方向に向かうほうがいい。そのためには、DLNAの内部でSCPを次のガイドラインに含めるといった方向性が必要になってくるだろうし、SCPを推進する業界団体を、白物家電のベンダを巻き込んで作るなど、業界をあげての取り組みが必要になってくるのではないだろうか。

 現在、SCPを推進する業界団体として「Simple Control Protocol Alliance」が準備中だが、加盟企業も明らかにされていないなど、今ひとつの感がぬぐえない。そこで、ここにMicrosoftやIntelといったIT業界のメンバーも加盟してもらい、業界全体で盛り上げて国際規格としての認知度をあげていく……そうした方向性を期待したい。

 居間にある液晶テレビや書斎にあるPCなどから家中の電灯が制御できたり、お風呂を沸かしたり、などの制御ができるのであれば、モノグサな筆者にとっては大変ありがたい技術と言える。

 しかもユーザーとしては、専用機器を買う必要はなく、AV機器やPCのおまけ機能として利用できるというのなら、低コストでもあり、ぜひ実現して欲しいと思う。読者の皆さんはいかがだろうか。

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(2004年11月25日)

[Reported by 笠原一輝]


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