■山田祥平のRe:config.sys■地震災害にパソコンができること |
新潟県中越地震の混乱が続いている。被災された方々には心よりお見舞い申し上げるとともに、一日も早い復旧を祈りたい。そのためにも政府当局をはじめ、関係諸機関には、全力を尽くしていただくことを願う。
地震が起きた土曜日の夕刻、たまたま、仕事でインプレスのビルの7Fにいた。7F建てビルの7Fだ。建物が横に大きく揺れ、一時はどうなることかと思った。こういうときには、すぐにテレビをつける。実際に、そうした。インターネットにつながったパソコンが目の前にあって、即座に、気象庁のサイトで地震情報を参照できたとしてもテレビをつけてしまうのだ。
理由は明らかで、テレビの方がずっとスピーディに状況が把握できるからだ。ちなみに、直後に外からやってきた編集者は、道路を歩いていて地震には気がつかなかったという。
●レガシーメディアとインターネット
10月23日17時58分の気象庁地震火山部発表の震度速報によると、23日17時56分頃に新潟県中越で震度6強の地震が発生したとある。発生から発表までは約2分。メディア各社は、この発表を受けておのおのの報道に走り始める。気象庁広報に確認したところ、同サイトでは、発表とほぼ同時にページが自動更新されるので、一般人であっても情報の入手に関しては平等だ。
NHKは地震の瞬間、カシマスタジアムでのJリーグ鹿島-浦和戦を生中継中だったが、途中で中断し17:58にスタジオに切り替え、独自の震度情報で第一報、そのまま特別編成に切り替わった。この17:58は、気象庁の発表と同時刻だが、NHKに問い合わせたところ、震度6クラスの地震に関しては独自の震度情報網によって報道を開始するため、必ずしも気象庁の発表を受けるわけではないとのことだった。
いわゆるメディア/プレスと呼ばれている報道機関のほとんどが、レガシーな媒体にその出自を持っている。放送局もそうだし、新聞社もそうだ。そもそも、テレビ局にしたって、各局ともに新聞社の系列だ。報道機関のことが「メディア」と呼ばれるのは、純粋な意味でのメディア、すなわちニュースを載せる「媒体」を握っているからだ。
今、これらメディア各社は、インターネットを追加のメディアとしてレガシーメディアからの脱却を図ろうと必死だが、そこにはレガシーメディアを捨てようという意図はない。なぜなら、インターネットは、それをメディアとして握ろうにも利権もなければ独占権もないからだ。そこにつながるコンピュータは、等しく対等だ。
一方、PC Watchのような、インターネットのみを媒体として報道を続けるメディアもある。ただ、インターネットで最新の一般ニュースを知りたい場合は、どうしてもレガシーなメディアを出自とする新聞社やテレビ局のサイトにたよってしまう。新参メディアでは、取材体制の規模でかないっこないことがわかっているからだ。
そして、これらの報道機関が、どのメディアを最優先してニュースを流すかというと、それはもう、どうしたって、出自である電波や紙のメディアが優先される。インターネットは副業の域を脱していないのだ。それでも、新聞であれば、原則として翌朝刊までは発行されないのだから、ここはひとつ、ウェブを最優先してもよさそうなものだが、それでも、テレビの速度に負けてしまうところがふがいない。
湾岸戦争のときに、CNNが注目されたのは、全米テレビネットワークにはできなかったニュース報道を、ケーブルテレビという当時新しかったメディアを使って実現したからだ。インターネットは、そのケーブルテレビに匹敵、いや、それを超える媒体であるとは思うが、その特質を最大限に生かしたサイトが未だ現れていないのがもどかしい。
●インターネットはライフラインじゃない
各種のメディア論をひもとくと、テレビの登場によって新聞は週刊誌化した、とされている。ニュースの速報性では新聞はテレビにかなわないために、スピードよりも一歩踏み込んだ記事が求められるようになったということだ。午前零時頃までのニュースがギリギリ首都圏版の朝刊に間に合うという進行体制ではそれも頷ける。
じゃあ、インターネットはどうかというと、ニュースサイトを見ていたら、地震速報がプッシュされてきてポップアップ表示されるなんていう大手のニュースサイトはまだ見当たらない。動画CMが流れるページはいくらでもあるのだから、技術的にはすぐにでもできそうなものだが、実際には、まだかまだかと、リロードボタンのクリックを繰り返すしかない。
ちなみに、今回の地震関連記事において、朝日新聞では、「ライフライン」として交通、電気、ガス、水道、通信・放送などをあげている。NHKではこれが電気、水道、ガス、電話となる。いずれも、この中にインターネットは入っていない。電話に関しては加入電話と携帯電話の状況が報じられているのみだ。
今、各プロバイダーは、全国共通アクセスポイントを設置し、各地域アクセスポイントを廃止する傾向にある。だから、電話が通じるのなら確実にインターネットは利用できるはずなのだが、ADSLなどのブロードバンドサービスはどうだろう。
NTT東日本のサイトで確認すると、フレッツADSLは小千谷市・川口町エリア/越後川口ビルで、地震直後の18:00に装置故障が発生し、翌24日の13:34に回復している。
また、Yahoo!BBは、この原稿を書いている時点で「2004年10月23日 午後5時56分~ 新潟県中越地方での地震の影響により午後5時56分頃より現在、竹沢、守門、小出、広神、越後川口、五日町、土樽、石打、塩沢、越後湯沢、越後三国、六日町、堀之内、津南、千手、越後大崎、越後大和、十日町、高柳、越後片貝局にてサービスの提供が困難な状況になっております」となっている。
要するにYahoo!BBユーザーがインターネットが利用できない状態がまだ続いている。そんなことを、インターネットで障害情報として公開しても、被害を受けている側は、それを見る術はない。
その一方で、NHKは、安否情報の電話受付とテレビ放送を25日に、FM放送での翌午前2:30に終了した。扱った情報は17,102件だったそうだ。地上デジタルの教育テレビとハイビジョンのデータ放送で、寄せられた情報が大量すぎて処理が追いつかなくなってしまうというなさけない事態も報道されている。双方向通信機能を使って人名などを検索して情報を呼び出せる仕組みだったのだが、これまた企画倒れだ。これこそがインターネット向きのサービスだったのではあるまいか。
加えて、NTTドコモグループは、iモード災害用伝言板サービスを運用開始、現時点で、iメニューのトップには、そこへのリンクが表示されている。ここに被災者が自分の携帯電話番号と自分の情報を登録しておくと、全国からその情報を検索できるというものだ。もっとも、一部の地域で携帯電話がまだ不通になっている状態では効力を発揮しきれない。
●ブロードバンドはブロードキャストを置き換えられないのか
先週来日したIntel CTOのパット・ゲルシンガー氏は、プレスとの懇談会を持った。その場所で、今後の放送メディアの方向性について質問したところ「従来型のブロードキャストメディアはインターネットにリプレイスされていくだろうと考えてきたし、その考えを改めるつもりもない」という答えが返ってきた。
Intelは、WiMAXにも熱心で、ゲルシンガー氏によれば「きっとケーブルによる有線ブロードバンドを置き換える」と鼻息も荒い。それが本当になるかどうか。そうなったとして、それがWiMAXなのか、3G以降の携帯電話網なのかは別問題として、今回のような災害時のことを考えれば、無線ブロードバンドはなんらかの形できちんと整備しておかなければならないだろう。ひとつのアクセスポイントが復旧したときに救われるホストの数が段違いに多いからだ。
個人的にはテレビやラジオなどの放送メディアがインターネットに置き換わることに大きな期待を持っているので、ゲルシンガー氏の発言には、大いに勇気づけられた。でも、よもや、その週末に、こんな事態が起こり、改めて、インターネットとブロードキャストの激しい落差を思い知らされてしまうとは、想像もしなかった。
もちろん、インターネットはインターネットで、各掲示板サイトやブログサイトに現地発の情報が集まっている。インターネットにはインターネット、ブロードキャストはブロードキャスト、それぞれ別のものであり、それぞれの使い方で最大限の機能を発揮する。それはその通りなのだけれども、どうしようもなく複雑な気持ちを持たずにいられない。
□新潟県中越地震リンク集(INTERNET)
http://internet.watch.impress.co.jp/static/link/2004/10/25/niigata.htm
(2004年10月29日)
[Reported by 山田祥平]