山田祥平のRe:config.sys

読むパソコン



 ビデオリサーチの調査(2000年5月公開)によると、平均的な視聴者は一週間に延べ1,949分テレビを見るそうだ。1日平均で約4時間40分。これはかなりの時間だ。

 興味深いのは超短時間グループ(1週間で1分以上420分以下)と、超長時間グループ(同3,780分以上)を抽出し、その性年代別構成比を見ると超短時間は男性20~34歳・男性35~49歳、超長時間は女性50歳以上、男性50歳以上が目立っている点だ。

 超長時間グループは、デジタルデバイドがその背景にあるのは想像に難くないし、超短時間グループは、視聴すべきコンテンツの種類が多すぎて、相対的にテレビの視聴時間が圧迫されているだけなのだろう。

●新聞さえもパソコンで読めない

 新聞を読み、雑誌を読み、音楽を聴き、テレビを見る。もちろん、ウェブも読めば、電子メールも届く。コミックや書籍も読み、たまには映画も見れば、DVDも買うだろうし、ゲームもする。電車に乗れば車内吊り広告が目に入るし、街を歩いていてもポスターや看板が目に飛び込んでくる。郵便ポストに投函されるDMにも目を通すかもしれない。これらを全部合わせれば、他人の作成したコンテンツを楽しんでいる時間は相当な長さになる。現代の大衆は実に多忙だ。もしかしたら、睡眠時間を除く、ほとんどの時間は、何らかの形でコンテンツに触れているといってもいいかもしれない。

 今、これらのコンテンツと同等の情報はパソコンで受け取ることができる。もちろん、ディスプレイは紙ではないので、新聞や雑誌などの紙媒体と同列に語るわけにはいかない。全面を2ページ分使った巨大見開き広告の迫力などは新聞以外では考えられない。見開きの対角線を計ってみると約39インチ。これを気軽に持ち歩き、用が済んだら捨ててしまえるのだから、紙というのはすごいメディアだ。

 残念ながら、新聞は、パソコンで読むことができない。新聞記事は読めるし、それで大きな不便はないが、あのサイズの紙をパッと見たときに、今、世の中で何が起こり、何が注目されているのかを、ほぼ一瞬で把握するためにはパソコンはあまりにも非力だ。

 ぼくが宅配で購読しているのは、朝日新聞だが、その東京最終版朝夕刊が、広告ページも含めてそっくりそのまま、通常の月刊購読料金+500円程度で宅配とPDFの両方で提供されるのなら、迷わず申し込むと思う(国際衛星版紙面を提供する海外向けのサービス『Web朝日新聞』はあるが日本国内では購読できないし、専用プログラムが必要らしい。また、サンケイ新聞と夕刊フジはデジタル版での配布サービスを提供している)。

 同新聞にはアサヒ・コム・パーフェクトというのがあって、そのライトコースなら月額525円で今日の朝刊紙面の「総合面」、「社会面」、「政治面」、「経済面」、「国際面」、「スポーツ面」の記事が読める。ぼくは、このサービスのユーザーでもあるのだが、夕刊の記事は掲載されないし、何より、新聞紙面のダイナミックなレイアウトとはほど遠い点で世の中の一覧性を得るのは難しい。

 うちのマンションでは、新聞は1Fにある玄関ホールへの配達なので、毎日、紙の新聞に目を通す時点では、大きなニュースのほとんどはウェブで情報は既知のものになっているし、情報も更新されている。それでも紙の新聞を見るのは世間に対するインデックスの再確認という作業にすぎない。

●スタティックメディアとダイナミックメディア

 パソコンはコンテンツを楽しむときに、ある種の能動性を要求するが、テレビや新聞、雑誌といったレガシーなメディアはさほどでもない。どちらかといえば、受動性だけですませることもできる。パラパラとめくりながら、目についた大きな見出しを拾い読みすればいいし、テレビに至っては束縛される時間まで規定されるため、受け取る側にとっては、自発的な判断をする必要がなく、はっきりいって、ラクだ。

 レガシーメディアが持っていた、この「ラク」な面が、パソコンには少し足りないのではないか。パソコンでテレビを見るには、さあ、見るぞという大きなエネルギーが必要だし、ウェブはもっと大変だ。

 デジカメで撮影した写真を楽しむだけでもやっかいな手順が必要になる。そりゃ、PCレスでプリントができる複合機が流行るはずだ。受け手に徹し、スイッチを入れるだけで、あるいは、手に取るだけで、送り手のなすがままに、たおやかにコンテンツを楽しむにはほど遠い環境だ。別の言い方をすれば、世の中の多くの人々は、本当は、シーケンシャルでスタティックなコンテンツが好きなんじゃないだろうか。

 個人的には、外出時に、パソコンを携帯しないことはまずないので、ノートパソコン1台ですべてが済めばそれにこしたことはない。携帯電話のディスプレイサイズでは心許ないが、12型程度の画面サイズがあればまあガマンできる。

 宅配された朝刊とスポーツ紙を手に駅に向かい、電車に乗って都心へと移動するわけだが、目的の駅に到着するころには、手はインクの汚れで真っ黒だ。しかも、最近は、地下鉄や私鉄の駅ホームにごみ箱がないため、読み終わった新聞をずっと持ち歩くことになる。これに10日と水曜日でも重なってビッグコミックと少年マガジンが追加されようものなら、背中のデイパックはズッシリだ。

 ウェブは、インターネットの浸透に、大きく貢献したが、世の中にはシーケンシャルでスタティックなコンテンツを求めている層もたくさんいる。パソコンでそうしたコンテンツを楽しめるようにするのは、それほど難しいことではないはずで、PDFなどは、ダイナミックメディアとスタティックメディアをうまく統合させた環境として機能している。けれども、パソコンに向かい、OSを起動するという行為そのものが、やはり、1つのハードルとなって立ちはだかる。

●3秒で使えるパソコンなら気構えはいらない

 世の中には、パソコンを使い終わったら、律儀にシャットダウンしているユーザーが決して少なくないようだ。身の回りのライター諸氏にもそういう人を見かける。ノートパソコンを常に持ち歩いているようなパワーユーザー記者でさえ、記者会見の会場で席につくと、OSを起動していたりするのを見かける。一般のユーザーであれば言わずもがなだ。

 最近でこそ、パソコンでテレビを予約録画するために、シャットダウンせずに、スタンバイさせておくことも多くなっているようだが、いざ、使おうとしたときに、1分近く待たなければならないとなれば、気持ちの持ち方にも影響を与えるだろう。

 ちなみに、個人的には、シャットダウンや再起動は、させられるものであって、自分からするものではないと思っているし、実際、携帯しているノートパソコンも、常にスタンバイ状態で、液晶ディスプレイを起こして3秒以内には使える状態になる。

 Windows 95や98、Meの時代には、こういう使い方ではいろいろ苦労もあったが、ずっとそうしてきたし、2000以降、XPになってからは、特に不自由はない。今、パソコンの電源を切るとしたら、飛行機に乗って10時間程度かけて移動するときくらいで、さすがに、そのくらい長時間スタンバイさせておくとバッテリもそれなりに消費するし、離発着時の電子機器使用レギュレーションにもひっかかりそうだ。でも、その場合も、休止状態を使い、シャットダウンすることはない。

 世の中にはいろいろなメディアがあって、それぞれに向き不向きがあり、適材適所があるわけで、すべてがひとつのベクトルに引っ張られる必要はない。けれども、パソコンには、それらのメディアをすべて引き受けることができるだけの実力があると思う。でも、その実力が、未だ、最大限に発揮できていないのは残念だ。


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(2004年10月15日)

[Reported by 山田祥平]

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