パット・ゲルシンガー氏基調講演レポート

超小型Windows XP搭載機を披露


パット・ゲルシンガー副社長
会場:Moscone Center South(米国カルフォルニア州サンフランシスコ)
2004年9月7日〜9日(現地時間)


 IDF最終日の基調講演は、ここ何回かはIntelの研究開発を担当するパット・ゲルシンガー副社長が担当している。今回のテーマは「NewNET」。次世代のインターネットについて語られた。

 最終日ともなると米国のプレスはほとんど姿がなく、IDF参加者もかなり減ってくるが、ゲルシンガー氏の基調講演には不思議と人が集まる。

●TCP/IPが生まれた年

TCP/IPの開発者の1人であるビントン・サーフ氏が登場
 ゲルシンガー氏は、'73年の回顧から話し始めた。映画ゴットファーザーのヒット、ゲルシンガー副社長は小学校だった。そして、'73年とは“TCP/IP”が生まれた年である。TCP/IPは、この年にBBN(Bolt Beranek and Newman)のロバート・カーン氏とスタンフォード大学のビントン・サーフ氏によって発明された。そしてゲルシンガー副社長が壇上に招いたのが、そのサーフ氏だった。

 サーフ氏は、TCP/IPの発明当時を語る。当時は、さまざまなメーカーのコンピュータが独自のネットワークを作っていた。同じメーカー同士は簡単に接続できるが、他社のコンピュータとの接続は困難だった。そこでTCP/IPは、さまざまなネットワークの上で動くように作られた。

 すでに作られて30年以上、ゲルシンガー副社長は、自分が開発した386が、すぐに486に取って代わられ、現在までにIntelがいくつものCPUを作ってきたことと比較して、TCP/IPの寿命の長さを讃えた。サーフ氏は、現在のネットワークはまだ、石器時代(ジョークでシリコン時代と言っていた)といってもいい段階で、まだまだ発展の余地があるという。特に現在では、アーキテクチャ自体の限界が問題になっていると指摘する。


●Windows XP搭載の超小型PCを披露

 対話の中で、ゲルシンガー副社長は、小さなコンピュータを出してみせた。Pentium Mが搭載され、Windows XPが動作する完全なパソコン。小さなキーボードを持ち、タッチスクリーン、無線LANを内蔵している。こうした小さなマシンは、どこにでも持ち込めるため、ネットワークとの接続が確保できるのなら、どこででも、標準的なサービスやアプリケーションが利用できる。Intelは、こうした方向についても研究していると語った。

超小型ながらWindows XPが実行できるフル機能のコンピュータ Pentium M 1.1GHz、1.8インチHDD、無線LANなどが搭載される。本体右側には小さいながらフルキーボードがある。このシステムは、システム状態を監視しつつ、ディスプレイやCPU、ハードディスクといったコンポーネントの電源を制御して全体の消費電力を下げる方法を研究するために試作されたもの

●インターネットが抱える問題点

 サーフ氏は、現在のネットワークの問題として、「容量」、「信頼性」、「セキュリティ」、「アクセス可能性」、「規制と統制」の5つを挙げた。

 ユーザーの数が増え、個人や組織がインターネットに依存している現在、ネットワークの停止やワーム・ウィルスの繁殖は大きな問題となっている。こうした問題を解決しなければ、深刻な脅威に直面することになるだろうと指摘した。

 また、これは、ハードウェアを増強したり、ルーターを増やしたりといった個別の対応では解決できないとサーフ氏は言う。問題はアーキテクチャ自体の限界にあるので、新しいアーキテクチャが必要となる。しかし、既存のネットワークを入れ替えることは不可能で、TCP/IPが既存のネットワークの上に作られたように、現在のインターネットの上に新しいアーキテクチャを載せるしか方法がないだろうと指摘した。

インターネット登場前は、さまざまなネットワーク方式があり、相互の接続が困難だった TCP/IPは、さまざまなネットワークの上で動くように作られ、これを使うことで相互にデータの交換ができるようになった 新しいアーキテクチャは、既存のインターネットの上にコンピュータ処理サービスとして載るものになる

●PlanetLabプロジェクトへの協力を呼びかけ

 サーフ氏が退場し、ゲルシンガー副社長は、Intelが関わっている新しいインターネットアーキテクチャの紹介へ話を進める。

 それは、「PlanetLab」と呼ばれるプロジェクトだ。これは、既存のインターネットの上に構築されるもので、通信手段を提供するのではなく、ネットワーク接続している複数のマシン上にサービス(アプリケーション)を分散して実行させる「コンピュータ処理環境」である。

PlanetLabでは、接続しているノードで仮想マシンが動き、その上にアプリケーションを乗せる アプリケーションは、個々のノードに分散されて動作する。PlanetLabは、インターネットを通信路として利用するのではなく、仮想的なコンピュータに見せる Palnetlabのアプリケーションの1つカルフォルニア大学バークレー校のPHI(Public Health for the Internet)プロジェクト。インターネットをモニタし、イベントを記録する。これは、ワームの活動を視覚化したもの

 Palnetlabは、インターネットの上に、ネットワークを理解し適応した仮想的なコンピュータを実現する。利用者は、インターネットを通信手段として利用するのではなく、コンピュータとして利用する。

 そのアプリケーションは、ネットワーク内の複数のマシンで分散して実行されるため、より大量の計算資源を利用することができるようになる。たとえば、インターネット内で発生しているイベントを監視しようとすると、膨大なデータと大容量の通信経路が必要になってしまうが、これを分散された多数のコンピュータで実現すれば、個々のコンピュータの能力や通信能力はそれほど高いものである必要がない。

 また、多数のノードが1つのコンテンツをアクセスするときに、1つのソースから他のノードがデータを取り出すのではなく、ノードを仮想的な経路で接続、転送時間やノードの負荷が最適になるような「自己組織的」な接続形態を作るといったことが可能になるという。

同じくPlanetLabのアプリケーションの1つ。カーネギーメロン大学によるコンテンツ配布システム「End System Multicast」、コンテンツを接続や負荷などをみながら相互に転送していくネットワークを自動的に構築する新たに6つのノードが接続すると、情報提供元(ソース)の負荷が高くなるため、それうちの1つだけにソースから転送を行ない、残りにさらに転送するように接続形態が自動的に切り替わっていく

 PlanetLabは2002年に101台のマシン、41サイト、7カ国の参加でスタートしたが、現在では、440台のマシン、194サイト、22カ国が参加しているという。

 現状のインターネットは、eコマースや情報提供といった「サービス」の基盤として利用されている。つまり、インターネットの上にサービスが乗っているわけだ。

 PlanetLabは、そのサービスの実行環境をネットワークの上に仮想化されたコンピュータで行なうことで、負荷や資源利用の分散を図ることができる。ネットワークノードの故障や経路の切断、あるいはどこかにボトルネックが発生するといった障害に対して、より強固なシステムを構築できることになり、容量や信頼性といった問題を解決できるわけだ。また、この仕組み自体を使えば、現在は不可能なインターネット自体の状況把握も可能であるため、セキュリティなどの問題にも対応が可能だ。

 最後にゲルシンガー副社長は、PlanetLabへの参加を呼びかけ、基調講演を終わった。

 スタートレックのカーク船長が登場した2002年秋のIDFのような派手さはなかったが、今回の基調講演は、現在のインターネットの問題点の指摘と解決方法の1つを提示するものであり、Intelの社会奉仕精神の一環を見る思いがした。もちろん、インターネットの発展は、Intelのビジネスにも影響があるわけだが、こうした活動への協力には好感が持てた。

□IDF Fall 2004のホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/fall2004/systems/
□PlanetLab(英文)
http://www.planet-lab.org/

(2004年9月11日)

[Reported by 塩田紳二]


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