■後藤弘茂のWeekly海外ニュース■新機種ごとに新しい光ドライブを導入するSCEの意図 |
PlayStationシリーズと光ディスクの関係 |
そして、この問題は、ソニー・コンピューターエンタテインメント(SCE)の第3世代PlayStation(PS3?)にも大きく関わってくる。それは、SCEがPS3に、Blu-ray Disc(BD)ドライブを採用する予定を明らかにしているからだ。
SCEのゲーム機は、光ディスクメディアと密接に関わってきた。そもそも、ソニーグループがゲーム機ビジネスに参入した動機が、CD-ROMベースのゲーム機を作ることだった。つまり、光ディスクゲーム機というのは、PlayStationに一貫した思想のひとつだ。そして、SCEはゲーム機を1ファミリ立ち上げるごとに、別な光ディスクをもって来ようとしている。PlayStation(PS)がCD-ROM、PlayStation 2(PS2)がDVD-ROM、PSPがUMD(Universal Media Disc)、そしてPS3がBDと、見事に、1ゲーム機に1光ディスクの対応関係だ。
もっとも、各ゲーム機と光ディスクの関係は、一様ではない。同じゲーム機と光ディスクの組み合わせでも、4つの組み合わせでスタンスが大きく異なる。PSではゲーム市場へのブレークスルーとして既存のディスク規格のCD-ROMを持ち込んだ。PS2では、ゲーム機の立ち上げを加速しDVD普及も促進するポジティブスパイラル形成のためにDVD-ROMを利用した。どちらも、基本的にはディスクメディアの力をゲーム機が借りる形となっている。
ところがPSPとPS3では、スタンスが逆転する。簡単に言えば、ゲーム機側がディスクメディアを引っ張る形だ。PSPでは、まったく新規のUMDを導入して、その規格を映像メディアにも広げようとしている。PS3では、上記の通りの規格戦争最中のBD-ROMを採用することで、次期光ディスク競争をBDへと傾けようという意図が見える。
つまり、ソニーグループのゲーム機の力が弱かった時は、光ディスクの力を借りていた。ところが、ゲーム機の力が相対的に強くなったために、今度はゲーム機が光ディスクのけん引車となったように見える。しかし、その分、ゲーム機側のリスクは増している。
●PlayStationのカギはCD-ROMによる改革
PSではCD-ROMは、既存のゲーム流通を改革するための必須要素だった。任天堂のモデルでは、コンテンツ供給がROMカートリッジベースであるため、制約がきつかった。生産にリードタイムが必要で、小ロット生産が難しく、高コストだった。PSでは、CD-ROMによるコンテンツ供給を導入することで、小ロット多サイクル生産を可能にし、コストも引き下げた。
PSでのこの戦略は、ゲーム文化の改革へも続いている。ROMカートリッジベースの場合は、生産上の制約から、販売の予想がつきやすくボリュームが見込めるタイトルへ流れやすかった。しかし、低コストでの小ロット多サイクル生産が可能になると、より小マーケットを狙った実験的なタイトルが出しやすくなる。
つまり、PSでは、ゲームコンソール業界へCD-ROMという既存のメディアを流し込むことで、既存の体制を破壊。そのパワーで、PSとPSのタイトルを成功させるという狙いがあったわけだ。
●PlayStation 2はDVD普及とのリンクで立ち上がる
これが、PS2とDVDになると、関係は少し変わってくる。
DVDも、当初は現在と同様に、SD(東芝、松下など)とMMCD(ソニー、フィリップスなど)の2規格に分かれて激しく争っていた。しかし、'95年末に、両陣営が逆転の大統一に至り、PS2開発の時点では、すでに規格上の争いはROMについてはなくなっていた。DVDも段階的に普及に向かっており、PS2登場時には、本格的に普及するまであと一歩という、“普及前夜”の状況にあった。
PS2は、この絶好のチャンスをうまく利用した。PS2を、ゲームもできるし、DVDムービーも見ることができるマルチデバイスとして位置づけた。どうせDVDプレーヤを買うんだったら、ゲームも出来るし割安なPS2を買おうと消費者を惹きつけた。つまり、「PS2はDVD映画を見ることができる→映画を見たいだけのノンゲーマーもDVDプレーヤ代わりにPS2を買う→いつの間にかノンゲーマーもゲームをやるようになる→ゲーム人口が増えPS2がますます発展する」という流れだ。
この戦略には、ユーザーがゲームをやらないでDVDだけを観ているなら、ソフトウェア側の収入が伸びないという危険があったが、結果として成功した。当初は、PS2がブレークスルーとなってDVDが普及し、DVDの普及とともにPS2が伸びるというポジティブスパイラルで伸びた。DVDという普及期にさしかかりつつあったメディアのパワーを利用することで、PS2はうまく立ち上がったわけだ。
●PSPはUMDへと映像コンテンツを誘う
PS2の戦略が、DVDの映画コンテンツを利用してゲームへとユーザーを引き込む戦略だとしたら、その逆の関係にあるのがPSPとUMDだ。SCEは、PSPではUMDでゲームコンテンツだけでなく映像コンテンツの提供も狙っている。まず、ゲーム機自体の魅力でPSPとUMDを普及させて、その上にコンテンツを集めるという戦略だ。ゲームコンテンツを利用して、映像コンテンツへとユーザーを引き込むわけだ。
さらに、その先では、UMDをもっと広汎なデバイスへと広げる可能性も示唆している。UMDドライブ内蔵の据え置き型プレーヤやTVといった方向を考えているようだ。構図としては、「PSPがゲーム機として魅力的→ゲーマーに普及する→ユーザーがPSP上で映像コンテンツも楽しむようになる→映像コンテンツが豊富に揃う→UMDを他のデバイスにも広げて映像コンテンツの新しい標準メディアのひとつにする」となる。
PSPとUMDの難しさは、ディスクメディアがゲーム機を引っ張るのではなく、ゲーム機に引っ張らせるところにある。UMDがPSPを助けてくれるわけではない。そのため、PSやPS2と比べると、ハードルが高い。
●PlayStation 3はBD規格のけん引役に
次世代PSへのBDROMドライブ搭載を発表する久多良木氏 |
もちろん、この意図は明白だ。ワールドワイドで数年間に数千万台規模の出荷が見込めるPS3への採用を宣言することで、次期光ディスク規格競争をBDに傾かせようという戦略なのは間違いがない。今回は、前回SD側だった松下がBD側に来ているという、ソニーにとって有利な材料もある。VHS対βのように両規格が併存したまま市場が始まった場合には、PS3のパワーでBDへと流れを向けるわけだ。また、逆に手頃な価格でBDのHD(高解像度)コンテンツが楽しめるという魅力でPS3を引っ張る。
この戦略は、うまく行けばPS2+DVDの時のスパイラルのように作用する。しかし、PS2+DVDと比べると、PS3+BDは、不鮮明な要素が多い。PS3もPSPに負けず劣らず、いやそれ以上に光ディスクについてはリスキーだ。
PS3にとって悪いケースは、2つ考えられる。(1)DVDの時のように統一規格になってしまって、それにドライブを合わせるためにPS3の投入が遅れてしまうという場合。(2)BDが競争に敗れて、HD-DVDへと流れが収束してしまい、BDの利点がなくなってしまう場合。
(1)のケースの場合はどうしようもないが、(2)のケースでは、まだ対応策はある。PS3のドライブを両対応にしてしまうことだ。BDとHD-DVDの両規格にはディスク自体に互換性はないが、ドライブ側は両対応にもできる。万が一のオプションとして、SCEがそうした対応を考えていないわけはないだろう。その場合の問題はコストだが、ディスクドライブの常として、一定量が出るとスケールメリットでコストダウンが進む。PS3だけでもある程度のコストダウンは見込めるかもしれない。
BDのもうひとつの欠点は、当初のイニシャルコスト(初期投資)が高くつくことだ。ただし、ドライブは量産効果でコストが下がるが、逆にある一定以下には下がりにくい。おそらく、SCEはPS3のライフサイクル全般を見通して、リーズナブルなコストで手に入るドライブはBDになると判断したのだろう。
こうして見ると、同じゲーム機と光ディスクの組み合わせでも、4つの組み合わせの内容が大きく異なることがわかる。そして、後ろへ行けば行くほど、ゲーム機が光ディスクメディアに与える影響は大きくなる。光ディスクのドライバとしての役割を担わされている。
おそらく、ソニーグループの描く理想型は次のようだと推定される。
PS3とBDは互いに普及を促し、BDが標準規格となる。PSPはUMDでの映像コンテンツを成功させて、ソニー以外でのUMD採用も始まり、UMDが事実上のSD(標準解像度)の映像コンテンツの次期メディアに育つ。
その結果、直径120mm(4.7インチ)のディスクは、BDベースでHDコンテンツへと移行。同じフォーマットで、HDのゲームコンテンツもPS3上で繁栄する。一方、直径60mm(2.4インチ)のディスクは、UMDがSDコンテンツのメディアとなる。逆を言えば、SDコンテンツは120mm系のDVDから、60mm系のUMDへと移行するというわけだ。そして、この構想の実現には、PlayStationファミリの力が欠かせない。
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【9月22日】次世代PS、BDドライブ搭載の意味
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0922/mobile261.htm
(2004年10月12日)
[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]