大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

「富士通アイソテック」工場見学記
〜国内生産の強みを生かすデスクトップ生産拠点


 富士通アイソテックは、富士通のデスクトップパソコンの生産拠点として、年間120万台のパソコンを生産している。前回、本コラムで掲載したパソコン組立教室の取材の際に、同工場を見学する機会に恵まれたので、その様子をレポートする。

●昨年12月に本社を福島県に移転

 富士通アイソテックは、福島県伊達郡保原町にある。JR福島駅から阿武隈急行に乗り換えて約20分の保原駅で下車し、歩いて約10分の工業団地内。自動車ならば東北自動車道の福島飯坂インターチェンジから約20分。飯坂温泉からも約20分程度の距離だ。

福島県伊達郡保原町にある富士通アイソテック 富士通アイソテックの工場内配置図。第5組立棟でパソコンおよびサーバーの組立を行なう。第1組立棟ではパソコンの修理および一部中古パソコンの再生も行なう。また、第2組立棟ではプリンタの組立を行なっている 第5組立棟の入り口。1階でサーバーの製造、2階でパソコンの製造が行なわれる。これまでは、1階にパソコンの部品スペース、梱包スペースがあったが、改善活動でパソコンの製造工程はすべて2階に移動した

 富士通アイソテックの前身となるのは、'57年に設立された黒沢通信工業。富士通通信機製造(現・富士通)と黒沢商店の共同出資会社として大田区蒲田に設立され、設立当初は、印刷電信機、電子計算機用端末機の開発・製造を行なっていた。

 その後、東京都稲城市南多摩に本社を移転し、データ通信用端末機器の量産工場へと発展。この場所は、現在、富士通のパソコン事業部門などが開発拠点としている南多摩工場となっている。

 '75年には南多摩から福島へと生産拠点を移転し、シリアルプリンタ、熱転写プリンタの量産工場へと転換。'85年には富士通アイソテックへと社名を変更した。デスクトップパソコンの生産を開始したのは'95年から。同社のパソコン生産の主力拠点である島根富士通から個人向けデスクトップパソコンの生産を徐々に移管し、'99年には企業向けデスクトップパソコンの生産を移管、2001年にはIAサーバー、ワークステーションの生産を開始した。

 昨年12月には東京都稲城市から、保原町に本社を移転し、名実ともに保原町の地元企業となった。

 現在、同工場では、個人向けおよび企業向けのデスクトップパソコンの生産のほか、IAサーバーやプリンタの生産、東日本地区のユーザーを対象にしたパソコンの修理に加え、同社のインターネットサイト「AzbyClub」だけで取り扱っている中古パソコンの再生も行なっている。

●納期、品質で国内生産の強みを生かす

富士通アイソテックの川勝匡紘社長

 「当社の強みは、国内生産にこだわっている点にある」と切り出すのは、富士通アイソテックの川勝匡紘社長。「人件費が中国の15倍となる日本で、いかに日本ならではの優位性を出せるかが鍵。我々は製造のプロフェッショナルとしての自覚をもって、世界トップレベルの品質、納期、コストに挑む」と続ける。

 富士通のパソコン生産の基幹工場である島根富士通では、特殊なボード形状が必要となるノートパソコンの生産拠点であるということもあって、基板製造からの一貫生産となっているが、富士通アイソテックの場合は標準製品が多いデスクトップパソコンの生産であるため、どうしてもアセンブリが中心となる。

 その点で、島根富士通に比べて、日本ならではの優位性を発揮しにくいともいえるだろう。

 だが、川勝社長は次のように話す。

 「例えば、いかに早く製品を市場に投入するか。この点を捉えても、国内生産の優位性は発揮できる。企業向けパソコンでは、BTOによる個別仕様の製品生産が求められる。現在3万種にのぼる組み合わせが可能だが、それをいち早く組み上げて、お客様のもとに納品するのは、やはり国内生産の強み」

 企業向けパソコンだけではない。個人向けパソコンについても、同様に納期の面での国内生産の強みが発揮されている。

 富士通では、開発、調達、生産、物流、販売までを結んだSCMを構築しているが、ここでは土日に販売した結果をもとに、火曜日までに生産量を決定。それにあわせて生産を行ない、金曜日までに製品を販売店に納品し、次の土日の販売に備えるという体制を実現している。

 「この仕組みを実現するには、海外で生産して船便で流通させていてはとても回らない。といって飛行機で流通していてはコストが高くなる。国内生産によるメリットはここにもある」

 すでに、午前9時から10時までに注文をもらえれば、その日の午後5時から6時までに生産/出荷することで、東京ならば深夜のうちに配送し、翌朝午前9時には販売店に納品できるといったことも可能になっているという。

 「部材調達のサイクルは週間単位になっているが、今年7月からは、一部デイリーオペレーションの試行を開始している。9月以降は、これを開始する方向で準備を進めている」と川勝社長は語る。

 もちろん、コスト面では、常に台湾、中国の生産拠点とのベンチマークを行ない、コスト競争力でも負けない体制づくりに余念がない。

 そして、もうひとつの国内生産のポイントは品質だという。

 「同じ部品を使っていても、組み上がったものの品質には大きな差がある。日本で組み上げるがゆえの優位性を発揮したい」

 組立品質の向上とともに、生産段階における抜き取り検査や、エージング検査をはじめとする全量検査などのほか、同社製パソコンに使われる部品は、材料、素材にまで遡って品質の吟味を重ねるという。一部製品に関しては、納品されたものを富士通アイソテックで全量検査を行なってからラインに供給するという仕組みも取っているという。

 また、工場内には、ORT(オンゴーイング・ランニング・テスト)と呼ばれる検査システムを導入している。島根富士通にも同様のシステムが導入されているが、ここでは量産製品の抜き取りを行ない、40度の温度と、高い湿度環境のなかで1週間の動作検査を行なうといった品質テストが行なわれる。検査の方法によっては経年変化などのシミュレーションなども行なえるというシステムだ。

 富士通アイソテックでは、ORTを完成品だけでなく、HDDなどの部品でも実施。あらゆる角度から品質維持のための取り組みを行なっている。

 また、同一敷地内に修理拠点を持っていることも強みだ。「修理は壊れたところを治せばいいというわけではない。なぜ壊れたのかを徹底的に分析し、それを生産や設計、調達にフィードバックして、同じような問題を起こさないようにすることが大切。これも品質維持に大きなメリットを及ぼしている」(川勝社長)。

●富士通・黒川社長から求められた絶対品質の追求

 昨年12月、富士通の黒川博昭社長が、富士通アイソテックを訪問した。生産ラインには、複数の外部委託会社が入っているが、社員と委託会社を問わずラインを担当する人たちの熱気が高いことを、黒川社長は高く評価したという。

 だが、その一方で、品質に対する強い要望があったという。

 富士通アイソテックでは、それまでは1,000台あたり何台壊れるか、という数値管理を行ない、この削減に向かって努力を重ねてきた。この点では大幅な改善があり、着荷障害は1%を遙かに切る数値にまで落ちていた。だが、黒川社長は、この数値を追求しているだけでは駄目だと提言したという。

 「1,000台のうち着荷障害が1台以下といっても、それに当たったお客様にとっては、それがすべてである。障害は、1かゼロであり、生産側は絶対品質を追求しなくてはならない。黒川社長の訪問以降、着荷障害ゼロへの取り組みを加速させた」と川勝社長は語る。

 富士通が国内生産にこだわるのも、こうした品質への徹底追求があるからだ。

●第1次生産革新運動で生産性などを大幅に改善

 富士通アイソテックは、昨年10月から第1次生産革新運動に取り組み、今年8月末で第1次の取り組みが終了する。

 ここでは、生産性2倍、スペース半減、製造手番半減、着荷障害ゼロという大胆な目標が掲げられ、それに向けた改善が進められてきた。

 「残念ながら、すべての目標を達成することはできなかったが、スペースは半年間で約4割削減。組立コストは、3年前に比べて約半分、ここ1年というスパンでは20%の削減を達成した」という。

 社員に対しては、1秒で1円、1平方mで月700円の削減が可能という具体的な数値メリットを提示し、小集団活動を支援してきた。

 富士通アイソテック製造統括部 田辺芳夫部長代理は、「社内には65グループの小集団を設け、それぞれがどの程度の改善ができたかを、毎月社長に直接報告するという仕組みをとった。ラインでの作業内容をビデオで撮影して、なぜこの時に人がラインからはずれたのか、なぜ振り向かなくてはいけないのか、などといった作業ひとつひとつを吟味し、作業の短縮化を図った。機械加工では、30分の作業が8分で済むようになった例もあった」という。

 同時に、スペースの削減にも積極的に取り組んでいる。

 昨年までは、組立のためにコロコンラインを工場内に敷設していたが、これをパイプで組み立てた「屋台」方式へと転換。セルライン型とすることで、組立が完了するまでの距離、スペースを3分の1から4分の1程度にまで削減することに成功した。

 また、従来はパソコン生産ラインで使用する部品は、外部の部品倉庫から供給し、生産後の梱包は2階の組立ラインから、1階に下ろして行なっていた。だが、これも省スペース化への取り組みによって、入庫後の一部部品の置き場所や梱包作業スペースまでを同じく2階に置くことが可能になった。

 梱包ラインの2階への移設で1階に空いたスペースは、今後部品倉庫とする予定で、「昨年までは工場周辺に9カ所あった倉庫を、現在は4カ所に削減。それをさらに2カ所にする」という大幅な削減を可能としている。

 この1年の取り組みで、手番、スペース、生産性は大幅に改善されているといえよう。

●ますます高まる生産革新のハードル

 富士通アイソテックにおけるデスクトップパソコンの生産は、国内生産の強みを生かすことをこだわったものだといえよう。

 品質、短納期という国内生産のメリットが比較的発揮しやすい分野を徹底的に追求するのに加えて、比較的メリットが享受しにくいコスト削減という効果でも、大きな成果をあげている。

 今後、コスト面での競争はさらに激化するだろう。そして、中国や台湾の生産拠点での品質面での改善も急ピッチで進んでいるのも事実だ。

 今年9月からは第2次の生産革新運動に取り組むなかで、いかに生産性、スペース、製造手番、着荷障害を減らすことができるかが鍵になる。そして、そのハードルはますます高くなるといっていいだろう。

 国内生産のメリットを追求し、維持するための富士通アイソテックの挑戦はこれからが本番だといえる。

■生産ラインのようす■

Tシリーズの製造ライン。6人で生産を行なうセルライン方式を採用。部品の供給は、作業者の後ろ側から行なわれている こちらは個人向けDESKPOWERの生産ライン。写真撮影時は、ちょうどラインが停止していたため、人がいない。ラインの通路にあるダンボールは部品が包装されていたビニール袋を捨てるゴミ箱。今後は、部品の荷姿を変えてラインに導入する仕組みへと変更することを検討中。それによりライン内でゴミが出ないように改良する予定
こちらは企業向けDESKPOWERの生産ライン。BTOへ対応できるようにしている 6人ごとのセルラインは、3つの屋台がつながって構成されている。大幅な省スペース化を実現するこの屋台によるラインは、企業向けパソコンで8ライン、個人向けパソコンで10ラインが用意されている 屋台によるラインは、Tシリーズとは異なり部品を前側から供給し、作業者が相互の作業を補完できるようにしている
アセンブリ完了後、Tシリーズをラインから移動させる特別のクレーン。人手では重量が重すぎるためにクレーンが必要となる アセンブリが終了すると移動が可能な台に乗せられる。Tシリーズの場合は筐体が大きいので4台。省スペースデスクトップでは12台まで搭載が可能
エージング工程。45分から1時間高温でのランニング検査が行なわれる。移動可能な台をそのままエージング工程に入れることで、作業工数を削減している 同じようにテストラインにも、この台のまま移動。固定された後側の棚には検査用の道具が置かれ、配線を接続するだけでいい。台を移動することで、コンベアなどを不要とし、設備投資コストの削減にも直結 検査が終わると梱包ラインに入る
付属品の梱包は逆方向から行われ、本体梱包ラインとドッキング Tシリーズは他のパソコンと比べて大型になるため、ダンボールもTシリーズ専用のものを用意している 出荷直前のFMV DESKPOWER
ORT(オンゴーイング・ランニング・テスト)と呼ばれる量産製品の検査システム。抜き取りで、40度の温度と、高い湿度環境のなかで1週間の動作検査を行なう。工場内にこうした検査設備を設けることも品質の高さを維持することに大きく寄与している HDDへの自動インストールライン。従来は1段だったがスペースおよび作業効率の実現のために、2階層方式に改良した 工場の改善活動によって空いた1階のスペース。赤い線が空いたスペースを意味する。ここに、部品倉庫などを入れる予定で、外部倉庫の削減につなげる

□富士通アイソテックのホームページ
http://www.fit.fujitsu.com/
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【3月22日】【大河原】これが国内最大のPC一貫生産拠点・島根富士通だ
〜年間195万台のノートPCを製造
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0322/gyokai90.htm

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(2004年8月24日)

[Text by 大河原克行]


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