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2年で激変したIntelのデスクトップCPUロードマップ




●動作周波数が低い? Smithfield

 Intelが2005年中盤に投入するデスクトップ向けデュアルコアCPU「Smithfield(スミスフィールド)」にはさまざまな謎がある。現在、もっとも大きな疑問は、Smithfieldがデュアルコアでありながら、シングルコアPentium 4と同程度のTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)になるとされていることだ。

 CPUコアを2個搭載すれば、それだけトランジスタ数が増え、シングルコアCPUよりも大幅に消費電力&発熱が増えるというのが半導体の常識だ。ところが、IntelはSmithfieldを、シングルコアPentium 4向けマザーボードスペックの枠内(TDP 125W)で提供するとしている。物理的に考えれば、デュアルコアで低TDPを達成するためには、Smithfieldの動作周波数と供給電圧を大幅に抑えなければならない。

 消費電力は、動作周波数×電圧の2乗に比例し、周波数を落とすと電圧を落とすことも可能になる。そのため、一般に動作周波数を70数%に落とせば、消費電力を50数%程度にまで抑えることが可能だと言われている。Smithfieldの場合は、2つのCPUコアで共有する部分(バスユニットなど)があるほか、来年になるとCPUのTDP枠も上がる(115W→125W)ため、それよりは周波数を上げられると思われる。現在の90nm版Pentium 4(Prescott:プレスコット)は、Smithfield登場時には4GHzに達している。もし、Smithfieldの周波数がシングルコアの80%程度だとしたら、Smithfieldの動作周波数は3.2GHz程度ということになる。

 Intelの抱える問題はここにある。もし、Smithfieldの動作周波数が3.2GHz程度だとしたら、パフォーマンスが落ちてしまう。もっとも、SmithfieldはデュアルコアCPUなので、例え動作周波数が低くなったとしても、2CPUコアによる並列処理で性能を上げることができる。しかし、その場合、向上するのはマルチスレッド性能だけだ。そのため、従来のシングルスレッドアプリケーションでは、Smithfieldで性能が落ちるケースが出てしまう。

 「熱の制約があるため、Intelはデュアルコアにした時点で周波数を落とさなければならない。PCの場合、そうすると、既存のソフトウェアの性能が上がらなくなる。これは、Intelにとって大きな問題だ」と、あるマルチコアCPUのアーキテクトは指摘する。

●シングルスレッド性能のためにシングルコアも併売か

 SmithfieldがNetBurst(Pentium 4)系アーキテクチャであることが明らかになって以来、同CPUの性能とTDPのトレードオフ問題は大きな謎だった。もし、IntelがSmithfieldをPentium 4後継のパフォーマンスCPUと位置づけているとしたら、動作周波数の低下によるシングルスレッド性能の下落はクリティカルだからだ。

 しかし、Intelは製品ラインナップを工夫することで、この問題を一応は解決することができる。それは、デュアルコアのSmithfieldと、シングルコアのPrescottやその後継CPUを並行して提供することだ。例えば、3.2GHzのSmithfieldと、4GHzのPrescottを同価格レンジで販売して、ユーザーニーズに合わせて選択してもらう。“マルチスレッド性能は高いが、低周波数でシングルスレッドの性能が相対的に低いデュアルコアCPU”と“高周波数でシングルスレッド性能は高いが、マルチスレッド性能は低いシングルコアCPU”という選択肢を用意するわけだ。

 Intelが現実にこうした戦略を考えているかどうかは、まだわからない。しかし、いくつかの状況証拠が、デュアルコアとシングルコア併存戦略の可能性を示している。

 まず、Intelは、SmithfieldによってパフォーマンスCPUが全てデュアルコアに置き換わるのではないと説明している。当面はデュアルコアCPUとシングルコアCPUの両ラインを並行して提供すると言っているらしい。このことは、逆にSmithfieldの動作周波数が低いことも示唆している。もし、Smithfieldが十分に高クロックで、シングルスレッド性能も高ければ、Intelは単一製品ラインへ収斂させるだろう。シングルコアもパフォーマンスCPUで併存するということは、Smithfieldのクロックが低いためだと考えられる。

 また、Intelは、2005年第1四半期には、L2キャッシュ強化版のPentium 4 6xxファミリを、Pentium 4 5xxファミリと同価格帯で投入しようとしている。Pentium 4 6xxは、既存のPentium 4 5xxを置き換える新CPUではない。Pentium 4 5xxを補完し、異なるニーズに答えるCPUという位置づけだ。この動きは、SmithfieldとPrescottを、同価格帯で並行して提供する戦略の前哨戦かもしれない。

●将来の新アーキテクチャ導入を見据えての布石

 Pentium 4 6xxと5xxを並行して提供するIntel。もし、Smithfieldが、現在欠番となっているPentium 4 7xxファミリとして登場するなら、7xxが5xxまたは6xxと併存することになるだろう。Intelは、Processor Numberの浸透とともに、おそらくクロックの隠蔽をもっと進めて行くと見られる。そうすると、ユーザーはGHzではなく、7xxや5xxといったグレードナンバーと、デュアルコアやシングルコアといったCPUの特性で購入するようになる。それがIntelのシナリオだろう。

 この戦略は、Intelの次のステップでも重要な意味を持つ。同価格帯で、ニーズ別に異なるCPUを提供できるのなら、アーキテクチャが全く異なる新CPUの導入が容易になるからだ。もっとも、それは、OEMメーカーにとっては迷惑な話かもしれないが。

 そもそも、Intelの元々の計画では2006年後半に、Pentium M系CPUを開発したイスラエルチームが中心となって開発している「Merom(メロン)」コアを使ったデュアルコアCPUをデスクトップに投入する予定だった。Meromコアでは、NetBurstアーキテクチャを離れ、極めて高い性能/消費電力を達成できるようになる予定だった。

 現在、この計画がまだ生きているかどうかわからない。しかし、Intelが、コア当たりの消費電力の低い新CPUアーキテクチャを、デスクトップで採用しなければならないことだけは確かだ。コア当たりの消費電力の高いNetBurst系コアでは、デュアルコアにするとフルスピードで動作させることが原理的に難しい。しかし、コアの消費電力が低ければ、デュアルコアにしても、高いシングルスレッド性能を達成できる。そうすると、最終的にはデュアルコアとシングルコアを並行して提供するといった、二重化の必要もなくなるだろう。

●2年で激変したIntelのデスクトップCPUロードマップ

 過去2年間のIntelのCPU計画の変遷を見ていると、同社のデスクトップ部門が、今、混乱期にあることがよくわかる。

 2年前のIntelの計画は、じつにすっきりしたものだった。0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)の後継として2003年後半に90nm版Pentium 4(Prescott:プレスコット)を投入し、2004年後半にはHyper-Threading性能を高めた「Tejas(テハス)」を投入。その後、2005年にはTejasの65nm版である「Cedarmill(シーダミル、一時はTejas-Compactionとも呼ばれていた)を投入。さらに、次世代アーキテクチャである「Nehalem(ネハーレン)」も導入する。

 それが、いつのまにかNehalemが消え、次世代CPUにはデュアルコアCPUが据えられていた。「Conroe(コンロー)」という名称でも知られるこのデュアルコアは、すでに述べたようにMeromベースとされていた。また、この時点ではTejasも、2MB L2キャッシュでFSB 1,066MHzのプレミア版Tejasと、1MB L2キャッシュでFSB 800MHzのメインストリーム版Tejasに分かれていた。さらに、Cedarmillをデュアルコアにした「Presler(プレスラ)」も検討されていた。ただし、これらの計画はさらに見直され、今年2月頃にはTejasは2MB L2キャッシュ版に一本化されていた。

 そして、今年の春にTejasがキャンセルされた。知られているようにIntelはデュアルコアを90nmプロセスへと前倒しし、全体の計画が再び大きく変わった。この時点では、デュアルコアまでの中継ぎとしてPrescott 2Mが位置づけられ、Pentium 4 XEが廃止される代わりに、Prescott 2MはPentium 4 7xxとしてPentium 4 5xxを置き換えて行く計画になっていた。

 ところが、8月頃になると再びIntelは計画を変更。この時点ではPrescott 2MはPentium 4 XEオンリーとなり、デュアルコアのSmithfieldまではPrescottが続くことになっていた。また、Smithfieldが登場してもシングルコアCPUも継続されることが明確となった。そして、今度のロードマップ変更だ。Prescott 2Mが再びメインストリームCPUに登場した。また、Smithfieldの後に65nmプロセスのデュアルコアCPUがあることも現在わかっているが、これが元々の計画のMeromベースなのか、それともCedarmillベースなのかはわかっていない。

 こうして見ると、2年の間に、Intelのデスクトップ製品計画はめまぐるしく変わっていることがよくわかる。同時期にモバイルCPUの計画はそれほど大きく変動しなかった。これは、IntelがデスクトップCPU開発の舵取りを誤り、その収拾に大わらわになっていることを示している。

 最大のポイントはデュアルコアで、デュアルコア化がIntelの予想より早く動き始めていることから、混乱が生じているように見える。IntelデスクトップCPUは、高クロックアーキテクチャへと向かったことで、ちょうどプロセス技術の消費電力が下がらなくなる時期と重なり、CPUのTDPが異常に増大してしまった。ところが、デュアルコアでは、CPUコアが小さくTDPが低いほど有利だ。そのため、IntelのデスクトップCPUはデュアルコア化で壁に直面してしまった。

 そのために、モバイルCPU系のMeromコアを投入しようとしたり、NetBurstのデュアルコアをシングルコアと並行して導入しようとしたり、苦労をしているのだ。

Intel CPUコアの移行計画の変遷
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【8月31日】【海外】IntelがPentium 4 6xx(Prescott 2M)ファミリを2005年頭に投入
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【8月20日】【海外】EM64Tとデュアルコア導入を急ぐIntelロードマップ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0820/kaigai111.htm
【5月12日】【海外】Intel、将来のNetBurst系CPUをすべてキャンセル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0512/kaigai089.htm
【5月9日】【海外】Intelが次世代デスクトップCPU「Tejas」をキャンセル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0509/kaigai088.htm
【3月15日】【海外】Intelの次々世代CPU「Merom」の姿
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0315/kaigai074.htm

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(2004年9月3日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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