リコーCaplio GXは、28-85mm相当の光学3倍ズームを装備した500万画素ズーム機だ。コンパクトカメラの大半は、銀塩、デジタルを問わず、ズームワイド端の画角は35mm前後だが、写真を趣味にしている人にとっては、35mm前後の画角はあまりに平凡すぎて写真を撮っていても面白味に欠ける。ところが、Caplio GXはコンパクトなボディながら28mm相当の画角をカバーしていて、オプションで用意されている0.8倍のワイドコンバージョンレンズDW-4を装着すると、なんと22mm相当の超広角撮影が楽しめる。しかも、このコンバージョンレンズが驚くほど小さく、しかも価格もリーズナブルなのも魅力だ。 ちなみに、Caplio GXについては那和氏がレポート( http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0525/dcr015.htm )しているので、今回はこのワイドコンバージョンレンズと、同じく28mm相当の画角をカバーしているキヤノンPowerShot S60との比較を交えたレポートを中心にお届けしよう。
レンズ交換式デジタル一眼レフ(デジイチ)の価格が安くなってきた現在、普及型デジカメにコンバージョンレンズなどのオプションをゴテゴテ装着してまでレンズの画角を広げるのには個人的には好まない。コンパクトデジカメの魅力であるフットワークの軽さを殺しかねないからだ。 しかし、Caplio GXとDW-4の組み合わせならば、十分ボクの許容範囲内だ。他社のワイドコンバージョンレンズはおそろしく大きく重く、そして値段も高いのだが、DW-4はまるでクローズアップレンズのように薄くて小さくて、しかも価格もリーズナブルだ。Caplio GXに装着してもそれほど仰々しくはならないし、DW-4を使わないときはポケットやカメラバッグの中にしまっておいても、まったくその存在がジャマにならないのだ。 もちろん、DW-4を装着するためには、Caplio GXにレンズアダプターを取り付ける必要があるので、電源を切ってレンズが沈胴してもアダプターは突出したまま。カメラの厚みは変わらないので収納性は悪いし、見た目もカッコ悪い。かといって、いちいちレンズアダプターを取り外して、化粧リングを元に戻すのも面倒だ。 ところが、Caplio GXのレンズアダプターHA-1には角形の遮光フードが付属していて、ワイドコンバージョンレンズを使わないときはフードを装着しておける。収納性は犠牲になるが、フードを取り付けることによって遮光性もそれなりにアップするし、アダプターが突出しているのもそれほど気にならなくなる。 ただ、フードはかぶせ式なので、カメラを肩から提げてブラブラさせていると、うっかりどこかに当たって落としてしまうこともなきにしもあらず、なのが難点。実際、平塚の七夕を撮影しに行ってフードを落としてしまったこのボクが言うのだから間違いない!(笑)。仕方がないのでHA-1を買い足したが、フードをなくしてしまった人のために、フードを単品で発売してほしいと思う。
さて、ライバル機種とされるキヤノンPowerShot S60とスペックを比較してみると、両機種とも28mm相当の広角撮影ができる1/1.8型500万画素ズームで、フルオート撮影だけではモノ足りないユーザー層をターゲットにしているという点では共通だ。 特にCaplio GXは、コンパクト機ながらホットシューまで備えていることから、外部フラッシュを使うようなベテランユーザーをも意識しているように見える。ところが、レンズの絞りは3段階しか選択できず、ズームワイド端でF2.5/4.7/8.1、テレ端ではF4.3/8.0/14とズーミングに伴ってF値が変動してしまうので、外光オートフラッシュを使うのに非常に不便だ。 しかも、那和氏のレポートにもあるようにCaplio GXのホットシューは内蔵フラッシュの発光モードと連動しているので、ホットシューに装着した外部フラッシュを発光させるには、内蔵フラッシュも発光させる必要があるのは困り者。フラッシュの照射距離を伸ばしたい場合はともかくとして、バウンス撮影など外部フラッシュの光をメインにしたいときには、内蔵フラッシュ発光部を指で覆うなどして、内蔵フラッシュの光量を弱める工夫が必要だ。それでも、内蔵フラッシュのチャージが遅く、チャージ中は液晶モニター表示が消えてしまうのは不便だし、バッテリーの消耗もそれだけ多くなる。できるだけ早くファームアップで外部フラッシュと内蔵フラッシュの発光を切り分けられるよう改善してほしいと思う。このように、Caplio GXはせっかくホットシューを備えているにもかかわらず、絞りの段数が粗く、内蔵フラッシュも同時に発光してしまうなど、明らかに仕様がちぐはぐだ。 また、AFは外光パッシブAFとCCD AFを併用したハイブリッドAFで、カタログには「(シャッターボタン)一気押しでのレリーズタイムラグは世界最速の0.12秒」と記されている。確かにAF合焦スピードは速く、一気押ししてみるとすぐにシャッターが切れて快適だ。ただし、バッファメモリは2コマ分しかないようで、3コマ目のシャッターを切ろうとすると「メモリー書き込み中」と表示され、10MB/secの高速記録のSDメモリーカードなら約3秒弱の記録待ちで済むが、低速のSDメモリーカードを使うとなんと30秒以上も記録待ち状態になってしまった。多少高くてもCaplio GXには高速のSDメモリーカードを奢るのが賢明だ。 操作性も考慮された設計だ。最初は露出補正やホワイトバランス、感度の変更がメニューの奥深くにあるのにガッカリしたが、取扱説明書を良く読んでみると、撮影時に使用頻度の高い機能はADJボタンで呼び出せることがわかった。ADJ.ボタンを押すたびに、露出補正→ホワイトバランス→ISO感度→AF測距枠移動(マクロ時のみ)→ユーザーカスタム機能(設定時のみ)と変化し、背面の十字キーまたはシャッターボタン横のダイヤルでパラメータの変更が行なえる。 また、パラメータを変更する際にOKボタンを押さないでシャッターを切ると、とりあえずカーソル位置のパラメータで撮影が行なわれ、撮影終了後にはまたパラメータ選択のメニュー画面に戻る。カーソル位置も先ほど選択したパラメータの上でOK待ちになっているので、ホワイトバランスや露出補正、感度など一時的にパラメータは変更して撮影してもすぐに元のパラメータに戻すときには、OKボタンを押さないで撮影するのが便利だ。 電源は単3形電池2本、あるいは、別売の専用リチウムイオンバッテリーで、今回は2,100mAhのニッケル水素充電地を使用したが、バッテリーの残量表示は充電完了直後の電池を入れてもゲージがすでに1目盛り減った状態。すぐにバッテリー切れになってしまうのではないかと不安だったが、フラッシュ撮影をほとんど行なわなかったこともあって、100枚以上は撮影できた。 とはいえ、バッテリー切れを気にせず心おきなく撮影したいなら、別売のリチウムイオンバッテリーセットを購入したほうがいいだろう。オプションとはいえ、大容量のリチウムイオンバッテリーが使え、緊急時にはアルカリ電池やニッケル水素充電池が使える、というのも、Caplio GXの大きな魅力のひとつだ。 一方、キヤノンPowerShot S60は、最近のコンパクトデジカメとしてはちょっとボテッとしているが、絞りを1/3EVステップで設定でき、RAW記録にも対応しているのが特徴だ。従来のPowerShot Sシリーズでは、再生モード切替のレバーを電源と間違って操作してしまったり、背面の十字キーやズームレバーの操作にやや難があったりしたが、S60ではこうした部分のデザインやレイアウトを一新し、誤操作しにくいようになっている。 AFは9点測距AiAFと被写体が画面中央に存在しなくてもピントが中抜けしにくいのが特徴だが、測距枠が自動的に選択されるのは、オートとイメージゾーンのみで、P/A/S/Mのクリエイティブゾーンでは測距枠は1点だけ。その代わり、十字キーを使って測距枠を自由に移動できるようになっている。クリエイティブゾーンを使うようなユーザーは、測距点の自動選択は不要という判断なのかもしれないが、スナップ撮影では測距枠を自動選択してくれたほうが便利なことも多い。せっかく備わっている機能なのに、使わず殺してしまっているのはちょっと残念だ。 それと高精度なAFを追求しているのかもしれないが、シーンによっては合焦サインが出るまでにちょっと時間がかかることもある。全体にソツがなく優等生的つくりのキヤノン機だけに、このあたりのレスポンスもぜひ改善してほしいと思う。 電源は専用のリチウムイオンバッテリーで、従来のPowerShot Sシリーズと同じものが使えるが、S60に付属するバッテリーは、形状は同じでも容量が570mAhから720mAhへとアップしているので、その分、バッテリーの保ちは良くなっている。ただ、まだまだ予備バッテリーは手放せないところだが……。
では、肝心の画質はどうなのだろうか? ISO感度をオートに設定し、プログラムAEで比較撮影してみた。 PowerShot S60は、コンパクトデジカメでここまで写れば不満はないだろう、というキヤノン機に共通した優等生的模範描写で、ノイズも少なく、色や階調の再現も実に巧みだ。 一方、Caplio GXは、コントラストも彩度もシャープネスも高く、かなりドギツイ印象を受ける。写真としては、ちょっとメリハリをつけすぎではあるが、プリントしてみるとこれが結構インパクトがある。今はどうだか知らないが、まだデジカメが黎明期だった頃、リコーのスタッフの1人から「立体カラーコピーを目指している」という話を聞いたことがあるが、まさにそんな感じの絵作りだ。 ただ、モニター等倍で見ると500万画素機であるということを割り引いてもノイズが多く、ザラッとしている。同じ1/1.8型の500万画素CCDを使って、ここまで画質に差が出てしまうのも不思議に思って、Exif情報をチェックしてみると、なんとCaplio GXはISO125で撮影されている。ちなみに、Caplio GXの最低感度はISO64だ。うっかり感度の設定を間違えて撮影してしまったのかと正直ガックリしてしまったのだが、カメラを確かめてみると感度はちゃんとオートになっている。感度オートで撮影すると、露出オーバー限界の明るさになるまでISO125相当の感度で撮影されてしまうようだ。 確かに、ノイズとブレのどちらを重視するかと二者択一を迫られれば、やはりノイズが増えるよりもブレてしまうほうが嫌なので、光量が不足してシャッタースピードが低下するシーンでは、多少ノイズが増えても積極的に感度をアップしてくれたほうがありがたい。しかし、1/500秒以上の高速シャッターが切れ、しかも絞りを絞り込む必要があるほど明るいシーンなら、素直にISO64まで下げたほうがノイズも少ないし、小絞りボケによる解像感低下も避けられると思う。 もしかしたら、シャッターボタン全押しで0.12秒のタイムラグを実現するために、許容できる範囲内で感度を高めに設定し、絞りを絞り込むことで被写界深度を深くし、ピンぼけを回避するようにしているのだろうか? そうとでも考えない限り、ちょっと不可解な仕様だ。したがって、光量の豊富な屋外で撮影する場合は、「感度設定をオートではなく、ISO64ないしISO100に設定して撮影する」のが、Caplio GXで高画質を得るための鉄則だ。 また、オートホワイトバランス(AWB)の精度はいまひとつの感があり、屋外晴天での撮影ではちょっと青みが強くなることが多かったり、複数の光源がミックスしている室内ではカットごとにホワイトバランスが変わったりすることが多かった。Caplio GXは、電源を切ってもホワイトバランスの設定を保持しているので、屋外の自然光撮影では太陽光ポジションに設定して撮影したほうが個人的にはよけいな気をつかわず好結果を得ることができるように思う。完全に光の色カブリを補正したいなら、マニュアルセットのホワイトバランスを利用することもできる。 ただ、液晶モニター表示は階調再現性が悪く、非常にギトギトした絵に見えるのは、撮影していて楽しくないし、露出やホワイトバランスを液晶モニターで判断するのもむずかしい。ハッキリ言って、Caplio GXは模範的優等生ではなく、得意不得意の科目はあるがつきあっていて飽きないおもしろいヤツ、といった感じだ。万人に無条件でお勧めできる機種ではないが、長所短所を把握して使いこなす、もしくは使いこなそうとする技量があれば、使っていて実に楽しめるデジカメだ。 ●ワイドコンバージョンレンズDW-4の画角変化 七夕飾りの迫力を伝えるには、やはり35mm前後の画角ではまったく力不足で、やはり28mmをカバーするワイドズームは便利だ。しかも、ワイドコンバージョンレンズも購入すれば、22mm相当という超広角描写が楽しめる。こうした人混みでは一眼レフよりも、こうしたコンパクトな機種の方がフットワークも軽く、多彩なアングルで撮影できた
●ISO1600の高感度設定は使えるのか? Caplio GXは、最高でISO1600まで感度設定できるのも特徴だ。もちろん、高感度になればなるほどノイズは増え、階調再現も悪くなり、ISO1600ともなると筋ノイズまで発生してしまうが、手ブレや被写体ブレしてしまうよりも、ノイズまみれでも何か写る方がマシというときに威力を発揮する
●Caplio GX作例
□リコーのホームページ ■注意■
(2004年7月27日) [Reported by 伊達淳一 ]
【PC Watchホームページ】
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