米国でのiPod mini発売直後、あれだけ容量が中途半端だなぁと言いつつ、先日の米国出張でiPod miniを2台も買ってきてしまった。が、やはり実際に使ってみて今ひとつ気に入らないところがある。容量は持ちやすさのトレードオフとして我慢するとしても……と、その話は後回しにしよう。 結局、カミさんと二人で使うつもりだったiPod miniは、カミさんのイマイチな反応もあって、iPod miniが欲しいと繰り返し訴えていた元Mac雑誌編集者の手に渡ることになった。しかし、HDD内蔵のポータブル音楽プレーヤへの興味が薄れたわけではない。 ということで、すべての機種を拾うわけにはいかないが、個人的に興味を持った製品を集めてみることにした。現時点で集まったのは、東芝の新gigabeatとアイリバーのH320である。
●求む新iPodもどき HDD内蔵のポータブル音楽プレーヤに興味を持った理由は、このところアップルコンピュータが推し進めている、iPodのプロモーションとは関係がない。都内に住んでいる人なら、JRの車両全体にiPodの広告が貼り付けられたところを見たことがあるはずだし、頻繁にテレビコマーシャルも行なわれるようになった。 だが、PCのHDDに音楽を詰め込むようになって、もう随分時間が経過する。実は現在も、アイリバーのH110を手元に置いて使っているのだが、2つの理由から買い換えを検討し始めた。 ひとつは単純に容量不足。僕の場合、PCではWinAMPにMADプラグインを入れ、ASIO経由で24bit DAC対応のUSBオーディオに入力する手法でPCからの音を出している。このため、CODECはすべてMP3にしており、ビットレートは192kbps以上。手持ちのCDからたぶん聴かないと思われるタイトルを除いても、14GBほどになってしまうので、10GBのH110だと足りない。 H110はUSB HDDやボイスレコーダとしても使っていたこともあり、最低でも20GB以上にはしたいと考えていた。ちなみにアイリバーのボイスレコーディング機能は、オートゲインコントロールがうまく動作してくれることもあり、インタビューや会議の録音にも使いやすい。 もうひとつは充電機能。iPod miniはUSB給電を利用してバッテリ充電が可能だったが、これがすこぶる使いやすい。似たようなACアダプタだらけになる長期の海外出張時に、アダプタ個数が減るのもウレシイ。ということで、次に買うならUSB充電機能が欲しいと思ってきたのである。 こんな話をしていると、来月にはHi-MDも発売になるよ、と声をかけられるのだが、個人的にはあまりHi-MDに対して興味が沸かない。これは僕の音楽的な趣味とも関係することだが、新旧を問わず流行に左右される音楽をあまり聴かないため、その時々に合わせてMDを編集するという使い方をしたいと思わない。手持ちのライブラリから何を聴くかは、そのときの気分次第。だから全部入れておきたい。ま、それだけ年寄り趣味(?)なだけなのかもしれないが。 ●iPodとiPodもどき さて、落ち着いて世の中を見回すと、iPodはMDを駆逐できるか? あるいは新しい文化として根付くか? といった話題まで出てきている。HDD内蔵のポータブル音楽プレーヤではなく“iPod”だ。この言葉はもしかすると、ソニーが作った“ウォークマン”と同様に、それはHDD内蔵のポータブル音楽プレーヤの代名詞になってしまうかもしれない。蛇足だが、来月1日にはウォークマンの歴史も25周年になるという。 デザインと操作性に優れるとの評判のiPodは、確かによくできている。HDD搭載で大量の曲データを管理するため、クルクルと丸くなぞるユーザーインターフェイスを開発した。大量のデータに簡単に素早くアクセスできる作り方は絶妙である。しかもiTunesとの連携で、曲データはもちろんのことプレイリストや再生頻度、お気に入り度などの属性情報までも同期できる。ここまでうまくPCと音楽プレーヤを統合した製品は、現在でもiPod以外にはない。 iPodもどき(iPodは元祖ではないのだから“もどき”でもないだろうが、一般の認識としてはiPodとiPod以外という分類だろう)とはひと味違うというものの、1.8インチHDD搭載音楽プレーヤではシェア80%というほどに、“もどき”との差があるとも思えない。
しかしだ。コンピュータという少々理解しがたいキカイをほとんど意識することなく、そもそもCDから録音するといった概念さえ覆すシンプルさで、iPodを楽しめるようにしたAppleの功績は大きい。Appleは米国において、すでにiTunesを基礎にしたオンラインの音楽販売ルートを確立している。そして今後は、AirTunes技術によってiTunesの基盤を新しい用途へと活用範囲の拡大を試みようとしている。 そう、AirTunesは注目すべき技術だ。ユーザーがこれを受け入れれば、iTunesの支持は揺るぎないものになるだろう。それは音楽を楽しむためのあらゆることに対する基盤なんだ。と言うと、少々大げさか。 Apple以外の世界を見渡すと、ソニー、Intel、Microsoftなどが中心になって、DHWGという団体を組織。互いのデバイスを相互に接続しようとしている。しかし、iTunesに匹敵するような核となる技術をDHWGは作れるだろうか? 単にネットワークで繋がりますよ、だけでは、話は始まるかも知れないが、そこから先の発展性はあまりない。 本当に世の中に浸透させようというのなら、その先の戦略が重要になってくる。ソニーはそんなにすばらしいソフトウェア作れる会社だろうか? Intelはもちろん、無理だろう。Microsoftもβテストが始まったWindows Media Player 10を見る限り、まだまだiTunesを超えられそうにない。 ●とりあえず比較してみる
さて、酔っているわけではないが、前説が長くなりすぎてしまった。 両製品をごく個人的な都合をもとに比較してみよう。 なお、いずれの機種も付属イヤホンは低域が痩せて、ハイ上がりな傾向を示す。周波数バランスが悪く分解能もイマイチ。これはどの製品にも言えることだが、付属イヤホンはオマケ程度に考えておく方がいい。 今回はSHIREのE5c(インピーダンス110オーム)に、以前この連載で紹介したER-4Sのパッドを取り付けて評価している(ER-4Sはうっかりしたミスで壊してしまった)。一応、音質の感想も書いてはいるが、使用するイヤホンによって印象は変わるかもしれない。 【音質】
まず新gigabeat(お借りしたのは5GBモデル)だが、以前に試用したことがあるG20(2世代前)とは音が変わっている。G20はS/Nもよくクリアで綺麗な音だったが、元気の良さには欠ける印象だった。しかし、このモデルではS/Nの良さはそのままに、アタックの早い音にも素早く反応するイキの良さが加わっている。 東芝に問い合わせたところ、DAコンバータとOPアンプが一体になった出力部のLSIが新しいものに置き換わったため音が変化したのではないか、とのことだ。LSIの変更は今回発表の3モデルから。 一方、H320はH110と基本的に同じ音だと考えていい。無音時のノイズは大きめで、能率が高く遮音性の高いイヤホン(試用に使ったE5cがまさに該当する)では、サーッというノイズが少し気になる。実際の音は全体にやや歪みっぽさを感じるものの、躍動感を感じさせる明るい音調だ。絶対的な質ではgigabeatに届かないが、出先で使うことを考えれば気になるほどの差ではない。それよりも音調の差で、H320の方が好きという人も少なくないと思う。 【操作性】 gigabeatの操作性は、ボタン配置やメニュー構成など、基本的にG20の頃から変わっていない。ボタン配置が使いやすくなかったり、メインで使うジョグの押し込みがやりにくいのは難点。メニュー構成は目的の曲にたどり着くまでのステップが多めだ。 またデフォルトではファイル名がそのまま見えるため、ファイル名に曲名を割り当てていない場合などは、曲を特定しにくい。オプション変更でタグ名を表示するように変更しておけば問題ないが、デフォルト設定には疑問が残る。 付属のネックストラップリモコンは、首からかけて使う人には便利だが、個人的には首からぶら下げて使おうと思わないこともあって、あまり評価していない。首の後ろの部分にヘッドフォン端子がついていて、ショートコードのイヤホンと組み合わせるとコードの取り回しがスッキリするのはいいと思う(ただ、ネックストラップで音楽プレーヤをぶら下げている人を、電車の中で見たことがないのだが……)。 H320は、基本的な部分ではH110と同じ。専用ユーティリティでDBを作っておけば、アルバム名やアーティスト名などの切り口で曲を探し出すNAVI機能を利用できる。NAVIの呼び出しもワンボタンでなかなか使いやすい。ただ、ファイル名が長いとDB作成してくれないようで、我が家の場合、半分以上の曲のDBが作成されない。 DB作成できないファイルのプレイリストを自動生成するユーティリティがオンラインソフトで配布されているものの、せっかくのNAVI機能を活かせない点は不満が残る。 もっとも、ボタンは押し込みやすく、集中配置で見やすいため、操作そのものはgigabeatよりもやりやすい。H100シリーズはボタンが左右と前面に分かれており、多少ボタン操作に迷うことがあったが、H300シリーズではそのようなことはない。 なお、両者とも曲数が増えてくると、アーティスト名や曲名の選択時にスクロール操作させるのが少々かったるい。デジタル入力のボタンで大量の曲を管理することの限界を感じる。この問題に取り組んでいるのは、iPod以外だとRio Karma、クリエイティブが発売予定のZen Touchあたりになる。 また両者とも付属リモコンは液晶付きではないシンプルなもの。胸ポケットに入れて使っている僕の場合、いずれにしろリモコンは重要なアイテムではないため、これでも問題ナシ。H320にはオプションで液晶リモコンも用意されるそうだ。なお、H110の液晶リモコンを挿入してみたところ液晶表示は正しく行なえたが、ボタン割り当てが微妙に異なり、そのままでは使いにくかった。 【PCとの連携】 gigabeatに付属する連携用のソフトウェアは、東芝オーディオアプリケーションとWindows Media Player用のプラグイン。東芝オーディオアプリケーションは、Windows Explorerのファイル操作を模したユーザーインターフェイスで、ドラッグ&ドロップでファイルを移動させる。WMPプラグインは、WMP内の音楽デバイスサポート機能を利用するものだ。 gigabeatでは、すべての音楽ファイルを暗号化してから転送する。このため、USBマスストレージデバイスとして認識されているディスクに、直接MP3やWMAをコピーしても演奏はできない。転送速度は遅く、アルバム1枚(約99MB)で22秒かかるが、これはPCで暗号化処理を行なう時間がかかっているためだ。 H320はというと、基本的には前述したDBを作るユーティリティのみしか付属しない。ファイルの移動はWindows Explorerで行なえるので、特別なソフトウェアは必要ないだろうという考えのようだ。アルバム1枚(約99MB)の転送にかかる時間は13.5秒だ。 なお、gigabeatには曲データをPCの特定フォルダと同期する機能があるが、iPodとiTunesのように接続すると自動的に同期されるといったインテリジェンスはない。H320の場合、同期を行ないたい場合はディレクトリとファイルの同期(あるいは自動バックアップ)を行なうユーティリティを応用すれば、同様の機能として使うことも可能である。 試しにWindowsのブリーフケースをH320内に作り、その中に音楽データを入れててみたが、簡易的な同期機能として十分使えた(ただしブリーフケースは、ディレクトリ内容をカタログ化して保存しないため、同期時はすべてのファイル情報をスキャンすることもあって同期速度は遅め)。 【オマケ機能】 オマケというと、聞こえは悪いが、個人的には非常に重要なポイントだ。gigabeatには、残念ながら付加機能と言うべきものは実装されていないが、本体側の端子はUSBのmini B端子で、マスストレージクラスのポータブルUSB 2.0 HDDとしても利用できる。 H320の本領は実はこの先にあり、USB 2.0のmini Bに加え、USB 1.1のmini A端子がついている。本体パッケージにはmini AからUSB A端子のメスに変換するショートケーブルが付属しており、これを用いて他のUSBマスストレージクラスデバイスを接続すると、本体のブラウザ機能から接続先のストレージにアクセスできる。 接続相手にできるのはUSBマスストレージクラスなので、別のマスストレージクラスMP3プレーヤにファイルを移したり、マスストレージクラスをサポートするデジタルカメラの映像を吸い上げることが可能だ。転送速度はUSB 1.1のためさほど速くはないが、デジタルカメラの非常用ストレージとして十分に利用できるだろう。ファイルコピーはファイルもしくはフォルダ単位で行なえる。 さらにJPEGファイルの表示にも対応。一度に4枚の画像を表示するサムネイル機能付きだ。さすがに600万画素クラスだと、サムネイル作成、表示ともに2.5秒ほどの時間がかかるが、200万画素クラスならば1秒もかからないうちに表示できる。 ただし搭載されている液晶パネルは26万色表示で、減色処理は特に行なわれないため、それほど画質は高くない。また、整数分の1に縮小表示されるらしく、画面いっぱいに画像が表示されるわけではない。あくまで簡易的なビューアとして捕らえるべきだろう。 ほかにも、H100シリーズでおなじみのMP3録音機能、FMチューナ機能が継続採用されている。ラインイン/アウトが装備されるのも同じだが、光デジタル入出力はH320には装備されていない。デジタルケーブルで、デジタル入力付きオーディオに繋いで音楽を楽しみたいユーザーにはH100シリーズの方が良さそうだ。 というのも、カラー液晶搭載が必ずしもメリットにならない場面もあるからだ。搭載される液晶パネルは完全な透過型で、バックライトがないと内容を確認できない。このため演奏中に液晶パネルを見てもすぐには状態を確認できず、何かキーを押してディスプレイをオンにしなければならないからだ。 またサイズや重量も若干ながら増えており、携帯性の面でもH100シリーズの方が勝る。USB充電機能とUSBマスストレージのホストになれる機能が不要ならば、安価なH100シリーズをあえて選ぶのも手だろう。音質やその他の機能はほとんど変わらず、光デジタル入出力の有無も考えると、両者のどちらが良いかは微妙なところである。
●なぜiPodではない? さて、あれほどiTuneとiPodの操作性をほめながら、なぜこうしてiPodもどきを探しているのか。ひとつにはiPodの音質が、あまり好きになれなかったことがあるが、主に出先で使うプレーヤに、そこまで音質を求める意味はあまりない。 しかし、USB充電機能の有無、録音の可否(iPodにも録音を可能にする周辺機器はあるが、ゲインコントロールがイマイチでボイスレコーダ向きではない)、汎用のUSB mini Bコネクタではない、といった部分で、あまり気乗りしない。純粋に使いやすい音楽プレーヤというだけなら、ライバルが多数登場した今でもiPodがベストの選択だとは思う。 一方、gigabeatは薄さ、軽さが魅力。40GB版は少々厚くなるが、むしろその方が手にしっくり来る。音質的にも褒め称えるほどではないが、このカテゴリでは上質な方だ。操作性や転送速度の遅さといった部分に目をつむれば、良い選択と言える。もし、ボイスレコーダとしても使いたい、と思っていないなら、本機もまたオススメしたい。 また上記2製品とも、バッテリ持続時間が今ひとつ。iPodは公称8時間。おおむね7時間ぐらいは大丈夫といったところか。gigabeatは公称11時間だが、実際には9時間ぐらいと考えておく方がいい。普通の使い方なら、それでも十分と言えるが、僕の場合はうるさい飛行機の中で、耳栓型のイヤホンで静かにゆっくりと音楽を聴きながら、そのまま眠ってしまう、という使い方もしている。すると、iPodでは到着前の食事時にはバッテリ切れになり、gigabeatでも少し心許ない。 そこで、カタログ表記で15時間以上の再生を個人的な要求ラインとしている。H320はこのラインをクリアし、その上で様々な機能を搭載していることが、今回取り上げた理由だ。デザイン面でも、大きなヘソが出っ張っていたH110よりもこちらの方が好み。 他に似たような機能を持つiAudio M3もあるが、あちらは液晶リモコンでの操作が基本で大量の音楽データを管理するには不向きと判断して、今回は選択肢から外した。 【お詫びと訂正】記事初出時、iAudio M3にUSB充電機能がないと記述しましたが、M3はUSBケーブルからの充電にも対応します。お詫びして訂正させていただきます。 結論としては、今のところH320が最右翼。しかし、新しいライバル製品も登場する見込みのようだ。クリエイティブが米国で発表したZEN Touchは、縦長のタッチパッドが装備されており、いかにも操作性が良さそうに見える上、録音機能もある。さらに24時間というバッテリ持続時間も魅力だ。従来のZENシリーズは、音質面でもそこそこ良い。 クリエイティブメディアに問い合わせたところ、現時点でのスケジュールは未定なものの、日本語版の発売も検討中とのこと。ただし、発売は「すぐではない。米国でも実際の出荷は少し先になると思う」とか。USB充電機能がない点は残念だが、急いでいないならば、この製品も比較検討に入れてはいかがだろう。 □H320の製品情報 (2004年6月18日) [Text by 本田雅一]
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