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ニューコアが“映像処理プロセッサ専業”で目指すもの
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CleanCapture SiP-1280 |
6月16日発表
ニューコアテクノロジー株式会社(以下、ニューコアと表記)が発表したイメージプロセッサ「SiP-1280」にあわせて来日したニューコア社長兼CEOのJim Chapman氏に話を伺った。
同社はイメージプロセッサ専業ベンダーで、高画質/高機能のデジタルカメラを短期間に開発するための半導体チップとツールを提供。同社の製品は高速連写が特徴の京セラ「Finecam」シリーズの映像処理プロセッサとして採用されているほか、日本ビクターが発表したDVカムコーダ「GR-DZ7」の映像処理チップ「Megabird」としても採用されている。
Chapman氏 | ニューコア製品が採用された、京セラのFinecamシリーズ(左)と、日本ビクターのGR-DZ7 |
また、Chapman氏はかつて、本誌の読者にはTransmetaのマーケティング担当副社長として知られていた人物だ。同氏はIntel、Cyrix、Transmetaと一貫してx86プロセッサベンダーを渡り歩き、そして到達したのがニューコアという点も興味深い。
ちなみにニューコアの創設者は渡邊誠一郎氏(現CTO)、國土晋吾氏(現副社長)の2人で、日本(つくば)とシリコンバレー両方で同時に本社が設立された。他の経営陣もヒューレット・パッカード、Intel、NVIDIA出身者など半導体ビジネスに携わってきた人物が多く、中でもかつてTransmeta日本カントリーマネージャ(それ以前はCyrixジェネラルマネージャ、さらにその前はIntel)だった和田信氏の名前には、聞き覚えのある人も多いのではないだろうか。
●ニューコアのビジネスとSiP-1280
ニューコアの製品は、いつも本誌で扱っている製品とは少々毛色が異なるため、最初に簡単に同社の作ろうとしているビジネスについて述べておくことにしたい。
ニューコアが作ろうとしているのは、デジタルカメラ、ビデオの心臓部となる映像プロセッサである。イメージセンサーからの情報を処理し、デジタルデータとして出力する映像プロセッサは、その品質によってイメージの基礎品質が決まり(最終的な絵作りは別途カスタマイズが行なわれるが、元となる情報の品質が悪ければチューニングできない)、処理能力によってレスポンス、連射性能、機能などが決まってくる。
良い映像プロセッサは、良いデジタルカメラ/ビデオに必須のコアコンポーネントと言えるだろう。キヤノンが開発し、すっかりブランドとしても定着してきた「DiGIC」も映像プロセッサの一種だ。
ニューコアの製品群はアナログフロントエンドプロセッサとデジタルイメージプロセッサに分かれており、アナログフロントエンドプロセッサは「NDX-1260」の名称で製品化されている。
このチップは、カラーフィルターの透過率がRGBで異なる問題を、アナログアンプで増幅してからA/Dコンバートする手法を用いることで量子化ノイズの大幅低減に成功。特にブルーチャンネルのノイズ削減に効果を発揮する。
わかりにくいがNTSCと720Pコンポーネント出力の静止画比較。ニューコアのチップはHDTV出力を備えているため、特殊なチップを内蔵することなく自宅のテレビで高画質の写真を楽しめるカメラを開発可能 |
今回発表されたデジタルイメージプロセッサ「SiP-1280」は、同社としては第3世代のプロセッサで、A/D変換後のデジタルイメージを高画質に処理。USBコントローラやメモリカードコントローラ、液晶パネルコントローラなどを内蔵し、ワンチップでデジタルカメラに必要なデジタル部の機能を実現する。
ここでは詳細を省くが、ベイヤ配列の単板イメージセンサーのデータを誤差の少ない高精度演算でカラーイメージに変換したり、輪郭処理、色空間変換など、様々な映像処理を汎用DSPではなく専用の高精度な処理モジュールで実行。各処理ステージをパイプライン化することで、高いスループットを実現している。
そして、ニューコアの製品がもっとも特徴的な点は、非常に優れたツールと共に製品が提供されている点。デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、それぞれの製品で独自の絵作りを行なうための強力なツールが提供されている。このツールを使えば、SiPシリーズの内部パラメータをカスタマイズし、細かい画質チューニングを行なえる。
たとえば前述した京セラと日本ビクターは、それぞれ映像処理プロセッサに別の名前を付けており、静止画を撮影した時の絵作り傾向も違う。最終的にどのような絵作りに仕上げるかは、各社独自のノウハウを駆使して開発する(言い換えればそのメーカーが主張すべき)部分だからだ。
ニューコアは“基礎体力”となるモジュールを提供し、各社はその基礎体力の上に製品としての色付けを行なう。そして各社に基礎体力部分を幅広く提供するニューコアは、短いサイクルで基礎体力強化に集中して励むことで、早いサイクルの製品開発を支える。これがニューコアの基本的なビジネスモデルだ。
ニューコアの開発ツール(左)と開発の概要 |
●従来の製品ではあり得なかった魅力を
リファレンスボードで取り込んだMPEG-2映像をUSB 2.0で取り込み、DVDに焼くデモが行なわれた。DVD作成ライブラリも提供予定で、直接USB DVDドライブを接続してDVDを作成する機能も実装する予定 |
新製品のSiP-1280はHD解像度のビデオキャプチャ(最高720P/15fps)機能、液晶パネルコントローラ内蔵による省電力化、SDIOコントローラやATAコントローラ内蔵といった機能強化が図られ、映像処理の速度も20%高速化されている。もちろん、これまでも持っていたコンポーネント映像出力(1080iおよび720P)やUSB 2.0、SDRAMコントローラ、Motion JPEGエンジンなどの特徴はそのままだ。
Chapman氏は「今後はテープメディア以外のハイブリッド型デジタルビデオカムコーダが主流になる。SiP-1280にはSDとATAのインターフェイスが内蔵されているため、SDカードやハードディスク内蔵のカムコーダも開発できる」と話す。
「今後、ハイブリッド化が進むと、現在のデジタルカメラ市場と同じように、次々に新しい機能を入れて進化を継続させなければ、商品力を保てなくなる。我々は強力なロードマップを持っており、顧客はタイムリーに高機能な新製品を発売できる」(Chapman氏)。
ニューコアのロードマップ |
ニューコアは10~11カ月サイクルで、新世代のデジタルイメージプロセッサをリリースする計画だ。これまでの同社製品を振り返っても、第2世代製品が若干遅れたものの、第3世代、それに今回発表された第4世代製品に関しては予定通りのペースで開発が進んでいる。
むしろ予定よりも早くスケジュールが進んでおり「今回の製品は予定通りの発表サイクルだが、実際のチップはすでに出荷が開始“されている”」(副社長の國土氏)と、決して無理な開発サイクルではないと強調する。
実際、それは日本ビクターがSiP-1280採用製品をこのタイミングで発表していることからもわかる。GR-DZ7は高解像度の液晶ファインダながら高フレームレートでモニタ可能で、動画撮影モードから切り替えなしに静止画の撮影も可能。非常に軽快な動作を見せる。しかも、開発試作機が完成してから製品化までの期間は僅かに4カ月だった。
「ニューコアはチップとツールに加え、製品にさまざまな付加機能を添えるためのソフトウェアを提供している。データ保存のためのファイルシステムやリアルタイムOS、映像処理ライブラリなどをカメラメーカーは開発しなくてもいい」とChapman氏。
ハードウェアの面でも、ほとんどの機能が集約されているため、カメラメーカーは自動露出、オートフォーカス、ホワイトバランス、GUIを用いたユーザーインターフェイス、絵作りなど、商品の本質部分に注力できる。
たとえばニューコアの製品の動画圧縮チップとして提供されるNECのMPEG-2エンコーダを用いれば、DVDもしくはハードディスク搭載のカムコーダの基本要素がほとんど揃ってしまう。ストレージにDVD規格互換のMPEG-2映像を記録するためのソフトウェアが、チップとセットで提供されているからだ。
「我々の製品を使えば、自社で新しくチップを起こさなくとも、時代のトレンドに合った高機能の製品をタイムリーに提供できる。しかも短いサイクルでの機能アップを繰り返すスケジュールを顧客に示している。映像機器本来の付加価値に開発資源を集中できるのが、ニューコアのチップを使うメリットだ」(Chapman氏)。
●デジタルカメラは、これから高機能化競争が始まる
もちろん、Chapman氏が狙う市場はカムコーダだけではない。拡大を続けるデジタルカメラ市場も、もちろんターゲットだ。しかし、今のところデジタルカメラ市場では、自社開発の映像処理プロセッサを用いた製品が主流だ。
「デジタルカメラベンダーがライバルに勝つための新機能を追加するため、自社でチップを作るのは大変なことだ。しかも短いサイクルで性能がどんどん上がっていく」(Chapman氏)。
かつてのデジタルカメラは、汎用DSPを組み合わせて映像処理を行なっていたが、高画質、高性能を実現するためには、映像処理専用プロセッサを作る方がパフォーマンス効率が高くなる。しかしながら、自社でカスタムを開発していたのでは、製品投入のサイクルに全く間に合わない。
SONY T1のメインボード。最近のデジタルカメラは高機能化のため多様なチップを組み合わせて開発している。しかしニューコアなら多くのパーツを統合可能という |
とはいえ、自社技術で垂直統合するというのが、このところの日本企業が進んでいる方向である。“得意技”を持った企業ならば、自社技術での対応も可能だろう。たとえばキヤノンはDIGiCを少しづつ改良しながら、フラッグシップ機の「EOS-1D mark II」向けに「DiGIC II」を開発した。製品単価の高いプロフェッショナル機に対して高性能映像処理プロセッサを開発し、コストダウンペースにあわせてそれを下位機種へと移植していける。
「それが行えるのはごく一部の企業だけだ。ほとんどのカメラベンダーは、そうした戦略を採れない。しかし、カメラを作るための、あるいはデジタル映像処理を行なうノウハウは持っている。また、現在は自社で映像処理プロセッサを持っているカメラベンダーも、“これだけの性能を出せるなら、自社で開発するよりも、買って本来の商品力を高める方に開発資源を集中させた方がいい”と言っているところもある。また、これから始まる高機能化の波も、我々の製品を有利に押し上げるだろう」。
そう話すChapman氏が言う高機能化の波とは、デジタルカメラの機能が多様化するという予測のことである。今後、ローエンドカメラの画質や性能が向上することで、ミドルレンジカメラが高付加価値路線へと向かわざるを得なくなるとChapman氏は予測しているようだ。高性能の動画撮影機能やリアルタイムの映像処理、高速連射など、さまざまな機能を高いパフォーマンスで組み込んでいくには、どうしても高性能のプロセッサが必要になる。
「近い将来、我々の顧客としてどこが加わるかを聞けば、きっと驚くことになるだろう。自社の技術で垂直統合する方が良いと思える大手のブランドだ。そう遠い話ではない」(Chapman氏)。
冒頭でニューコアチップを使っているのは、京セラと日本ビクターだと書いたが、実はそれだけが顧客ではないという。6月から9月にかけて、毎月のようにニューコアのチップを搭載したデジタルカメラが出てくる。しかし、契約先とニューコアのブランド名を出す契約をしていないため、その情報がオープンになることはない。
秋口にはもう1社、採用ベンダーが明らかになるようだが、いずれにしろ公開されていないベンダーの方が多くなりそうだ。今年いっぱいに計画されているニューコアチップ搭載製品は25機種にも達する。
●CMOSセンサーを統合した携帯電話向けチップも
同社は映像処理プロセッサに特化した半導体ベンダーである。現時点ではその部分だけを販売しているが、将来はもっと統合度を上げるため、その他の要素も取り込んでいくのか。それとも(ARMのように)プロセッサの設計を組み込み用に提供していくのか。
そうした質問を毎回しているが、Chapman氏は「映像処理プロセッサに求められている性能、機能は今のところ留まるところを知らない。組込用に設計データを売るほどに小さな石になることは当面はない。したがって、設計データの販売も全く考えていない」という。
ただし、携帯電話向けだけは異なる。
「携帯電話のカメラ機能は大きなビジネスチャンスだ。そのため、我々はCMOSセンサーのベンダーとジョイントベンチャーを組み、そこでCMOSセンサーとニューコアの映像処理プロセッサを1チップに統合することを考えている」(Chapman氏)。
その考え方からすれば、MPEG-2やH.264のエンコーダなども他社から導入する可能性はありそうだ。設計データを売るつもりはないが、他から買って統合度を上げるやり方はありそうだ。「動画圧縮CODECなどを製品に統合する方向で検討している」とだけ、Chapman氏は語った。
□ニューコアテクノロジーのホームページ
http://www.nucore.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.nucore.co.jp/nu3/30_pressroom/pressreleases_archived/presspr_2004.06.17.html
□関連記事
【2003年10月23日】NuCore、デジカメ専用エンジンの新世代機種を紹介
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1023/nucore.htm
【2003年5月14日】ニューコア、デジカメ用イメージプロセッサ「CleanCapture」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0514/nucore1.htm
(2004年6月16日)
[Reported by 本田雅一]
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