今回発見したのは、株式会社 ビックスから出ているUSBオーディオ(PCM2704)キットである。PCで使えるサウンド系のキットは非常に珍しく、筆者としても興味津々。写真をみるとシンプルで作り易そうだ。
このキットと主要ICの仕様を簡単に並べると、
- Texas Instruments社製USB DAC PCM2704DBを使用
- 電源はUSBによるバスパワード(USB 1.1)
- 基板サイズ40×70mm
- SSOPのPCM2704DBは基板上に実装済み
- バッファにOPA2340PA(DUAL、単一電源、低電圧)を使用
- ドライバはOS標準装備のものがそのまま使える
- 16bit デルタシグマDAC、オーバーサンプリング、サンプリングレート 32/44.1/48kHz、電圧出力、アナログLPF内蔵
- セルフパワー対応、S/P DIF出力あり*1
*1これはPCM2704DBの仕様であってキットの仕様ではない。
といった感じである。USB Audioとしてはあまり高いスペックではないものの、改造すればいろいろ楽しめそうだ。早速ネットで注文し2日後には到着した。
●実際に作ってみる!
これまで工作してきたものと違い、このキットは部品点数も少なく、難易度は非常に低い。一度でも半田ごてを持って何か自作したことのある人ならいとも簡単にできてしまうだろう。
注意する点があるとすれば、抵抗に書かれているカラーコードが非常に細く色がわかりにくいので、ある程度仕分けした後テスターを使って抵抗値を確認した方がいい。またコンデンサの容量を示す“104”や“223”という文字も細かく見分けるのに苦労した。それ以外は極性を注意すればOKだ。
以下、簡単であるが、組み立てからインストールまでを順追って解説する。(オペアンプの8pin ICソケットと、出力のシールド線、RCAコネクタ、ケースは付属しない)
キットの中身キットの簡単なマニュアル(左)とインストールマニュアル(右)、基板(左)、パーツの入った袋(右)とシンプルな構成だ。回路図もあるので改造の参考になる。ドライバはOS標準ドライバを使うためメディアは付属しない。 |
SSOPは実装済みメインのパーツであるPCM2704DBはSSOPで0.65mmピッチ。これを半田付けするのはかなりの修行が必要で初心者が取り付けるのは困難だ。しかし、このキットは既に半田付けしてあり簡単に組み立て可能である。 |
音出し中1あっと言う間に完成。右側の電解コンデンサの極性がプリントパターンと逆なのは改造編を参照して欲しい。仕様上そのまま交換できるオペアンプは少なく、ICソケットを使わず直接半田付けしてもいいだろう。 |
USB Audio DACで認識Windows XPへ接続すると、このように認識された。マニュアルにはWindows 98以降であれば使えると書かれている。また、データシートによるとMac OS(X)にも対応しているので、ほぼ全てのPCをカバーできる。 |
ASIO4ALLを使うソフト側の音質改善として汎用ASIOドライバであるASIO4ALLを使う。詳細は以前の記事を参考にして欲しい。現在の最新版はVersion 1.8となっている。非ASIO対応ドライバがASIO対応になるのはありがたい。 |
Winamp + ASIO plug-inリッピングしたCDやインターネットラジオを聴くのはWinampへASIO plug-inを入れて使っている。トータル的な音質はUSB Audioとしては並だろうか!? 完成品と違い改造し易いので手を入れてみることにした。 |
●改造編!
オリジナルのパーツを見て何カ所か変更したい部分が目に入る。少なくとも電解コンデンサは全て交換。デカップリング系はOS-CON、DCカット用のコンデンサはオーディオグレードへ。特にDCカット用のコンデンサは音質に大きく影響する。
手持ちのMUSE NP(無極性)、BlackGate NPやOS-CONなどを試してみた。高価になるがASCやSyCapなども評判がいい。0.1μFのASCと数μF以上のBlackGateをパラるのも良さそうだ。筆者的にはHovlandのMusiCapも気になるところか!? ただ今回のケースでは回路図と極性が逆になり、オペアンプ側が+となるので極性のある電解コンデンサを使う時は注意が必要(オペアンプ側に約+2.5Vの電圧がかかっている)。更に知人のエンジニアから「USB Audioはクロックとセルフパワーが音質向上のコツ」と聞いたのでそれも試してみる。
キットが安かったので2組購入。1つは一旦オリジナルパーツで組み、その後数カ所だけ入れ替えたのをVersion 1.5、はじめから思い通りのパーツで組み上げたのをVersion 2.0とした。部品を外して交換するのは面倒な上パターンを傷める。できれば目的のパーツをいきなり投入するのがベターだ。内容の詳細はキャプションを見て欲しい。
改造Version 1.5オリジナルからの変更点は、DCカットコンデンサをBlackGate NP 33μF/16V、他の電解コンデサを16SP100、水晶発振子両端にある22pFをディップマイカへ……と控え目だ。これだけでも随分良くなる。 |
改造Version 2.0このバージョンは、アナログ関連の抵抗をDALE-CMF55、DCカットコンデンサをSyCap 2.2μF、電解コンデンサを16SP100、フィルタのコンデンサをMKTB、12MHzの水晶発振子から精度50ppmの水晶発信器へ交換した。 |
増設した回路水晶発信器への乗せ換えは上記の回路となる。精度が50ppmなのでオリジナルの回路よりはいいハズだ。Verion 1.5の音と比較して、輪郭が滑らかになり、音が前に出るようになった。22pFはディップマイカを流用。 |
ACアダプタ手元にAC出力9V/3.4AのACアダプタがあったので、これを使ってバスパワーからセルフパワーを試してみる。但し、完全なセルフパワーはPCM2704DBの作動モードを変更し、外部電源に+3.3Vも用意する必要がある。 |
+5V安定化電源今回は簡易セルフパワーで、PCM2704DBの作動モードはバスパワーのまま、VBUSの+5Vを外しいつもの+5V電源を組んだ。SBDにA&R LabのFCH/FRH10A15を使ったのが違う程度。他はDAC工作と同じ内容だ。 |
音出し中2組み立てた+5V安定化電源をVersion 2.0へつないでみた。笑ってしまう程音は激変! やはりPCの電源はオーディオに良くないようだ。8パラ(改)やTDA1541A 1FS DACと比較してスッキリ系の音である。 |
S/P DIF出力回路図音質改善は一段落したので、5pinのDOUTを使いデジタル出力を付ける。回路もご覧のように非常に簡単だ。Coax出力にはパルストランスを追加したいところであるが、今回は簡易形式にした。 |
DOUTの5pinへ接続最大の問題はSSOPの0.65mmピッチにどうやって半田付けするか!? だ。左右にブリッジしてしまうともう大変なことになる。眺めていても解決策は思い浮かばず力ずくで半田付けした。 |
S/P DIF光出力とりあえず配線が簡単な光出力モジュールだけを付けて実験した。結果はもちろんOK!普段、WAVETERMINAL U24を使っているが、比較しても音質に差は無かった。(但し、音量は少し大きくなる) |
以上、今回の工作内容をご紹介した。追加予算はVersion 1.5で約2千円、Version 2.0で1万円未満(AC出力のACアダプタは電源トランスで代用可能)である。ベースのキットが安価なので、それなりに触っても音質を考えると安上がりだ。流石に工作したPCM61P 8パラDACやTDA1541A non-oversampling DACには及ばないものの、これまでいろいろ聞いたUSB Audioの中では一番オーディオ的な音がしていると思う。外部DACまでは必要ないがUSB Audioである程度の音質を安価で欲しい人にはお勧めの逸品と言えよう。
更に音質向上として考えられる手は(但しバスパワーは使えなくなる)、パターンカットや+3.3Vの電源も必要になるため躊躇している完全なセルフパワーを試すことだ。PCM2704DBのデータシートを見ると、特性的にもセルフパワーモードの方が良い。また、今回使われているオペアンプOPA2340PAはDUALであるが、単一電源&低電圧モデルなので、OPA2604など一般的なDUAL系のオペアンプと入れ替えても動かない。この部分も音質に影響するので別途±10~15Vの安定化電源をを用意、アナログ部分を別基板に組み直し、OPA604やOPA627などを使ってみるのも効果的だと思われる。デジタル部分に関しては今回省略したCoax出力へパルストランスを入れ、水晶発振器への電源供給を独立した+5Vの三端子レギュレータで行なうと良い。
なかなか遊べるこのキット、惜しむべきはアナログ出力が少し低め(約2/3)なのと、DOUT(5 pin)の信号が基板上に出ていないことだろう。DOUTに関しては本キットの仕様から外れているので仕方がないものの、できればロット変更時に対応して欲しいと思う。回路の追加は必要ではあるが、S/P DIF出力も簡単に付くとなればそれなりにこのキットの売りとなるハズだ。
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