第244回
PSPの全く新しい取り組み



E3 2004でPSPを披露するSony Computer Entertainment Americaの平井一夫CEO

 昨年5月、E3 2003のプレスカンファレンスで、久夛良木健氏が突然発表したPSP(Playstation Portable)が、今年のE3で初めてその姿を現した。

 デモムービーを見る限り、3Dグラフィックスのレベルも、解像度こそ低いものの現世代のコンソールゲーム機(PS2やGameCube)に近い。価格は発表されなかったが、日本での発売は今年年末。参入デベロッパーも、日本だけで34社、ワールドワイドでは99社を数える。

□PSP 参入ソフトウェアメーカー一覧

 昨年から少しづつ明らかになってきていたスペックに加え、正式発表を受けてより詳細な情報が公開された。詳細なスペックには触れないが、ここでは発表会の様子を含めたレポートをお届けすることにしたい。


PSP 全世界で99社のソフトウェアメーカーが参入する

●18歳以上のアダルト層が第一ターゲット

 昨年、久夛良木氏によって存在が明らかになっていたPSPを、この日、Sony Computer Entertainment AmericaのCEO平井一夫氏は「PSPは、プレイステーションの登場と同じぐらいに革新的なデバイス。光ディスクベースの、多機能な、そして無線ネットワークをハンドヘルドのゲーム機にもたらす。全く新しい体験、新技術、新しいゲームの考え方、新しい顧客層、それに新分野へのチャレンジをもたらす、新しい規格でもある」と紹介した。

 ここで言う“新しい顧客層”とは、どうやら従来のPSシリーズだけでなく、従来の携帯ゲーム機も含んでいるようだ。平井氏はPSPが、既存のゲーム機とは異なるユーザー層を獲得できるプラットフォームだと説明する。

 「PSPが第一ターゲットとするユーザーは18〜34歳の男性。その次がティーンエイジャーだ」(平井氏)。

 ゲームボーイシリーズの場合は、学校というコミュニティを通して子供たちが強固な市場を作っているが、PSPはPS2と同様のユーザー層がターゲットになるわけだ。ゲームユーザーの年齢層は徐々に上へとシフトしているが、一方でPS2などのユーザー層で中心となっている人々は仕事などで忙しい時間を過ごしている人も多く、そうした人たちはテレビの前でゲームに割く時間が非常に限られている。

 PSPによってPS2並のユーザー体験を提供できるならば、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)がターゲットとする18才以上の潜在的ユーザーを掘り起こせる可能性はある。もちろん、PSPはゲームマニアにとっても楽しめる製品だろうが、“PS2で遊ぶ時間はないが空き時間に手軽に楽しめるならばゲームに投資をしてもいい”というユーザーにはアピールできる。その数は、決して馬鹿にできないものだろう。

PSPは様々な機器に接続できる

 PSPは無線LANの内蔵により、その場に集まった仲間同士、アドホックなネットワークを構成して手軽に遊べるネットワークゲームも簡単に作れる。その上、大容量を活かせるハンドヘルドゲーム機は、これまでに存在しなかった。平井氏は任天堂のスーパーファミコンが主流だった時期に、3Dグラフィック、CD-ROMといった技術が投入され、CDプレーヤとしても利用可能だったプレイステーションが起こした革命を、もう一度、ゲーム業界に起こせると言いたげだ。

 現在、開発表明が発表されているゲームタイトルの多くはPS2で人気だったものばかりで、PSPだけのオリジナルゲームがどのようなものになるのか、本当に革命的な違いをもたらすのかはわからない。なぜなら、発表タイトルのほとんどが、何らかの人気タイトルの続編であり、単にPS2を外に持ち出せるようにしただけ、とも言えるからだ。全く新しいジャンルの開拓が果たして可能なのかはふたを開けてみなければわからない。

□PSP 国内ソフトウェアラインアップ(予定)

 しかし99社ものデベロッパー参加を発表できたのは、SCEIにとって強みになるだろう。これだけのデベロッパー参入は、裏を返せばソニーがデベロッパーに対して提示したビジネスプランに対する“賛成票”とも捉えられる。少なくとも“反対票”を投じたわけではなく、そこに市場がある確立が高いとデベロッパーに思わせた成果なのだから。

●残る謎は価格とバッテリ持続時間

 多くのデベロッパーを集めることができた背景には、既存のPSタイトルからの移植性が高いことがあるのではないかと推察される。

 PSPは初代PSよりも高いグラフィック機能を持っているが、スプライン曲線でポリゴンを滑らかにする機能などがあり、初代PSでの開発成果をある程度、活かした開発も可能だと考えられるからだ。実際、PS向けタイトルのデータやプログラムを、ある一定の制限の中でPSP向けに変換する移行ツールが用意されるのでは? と質問した時、SCEI幹部はそれを肯定していた。

 初期のタイトルに、過去の人気ゲームをリメイクしたものが多いのも、そうした理由からなのかもしれない。おそらく、PSPプラットフォームの真価が問われるのは、PSP市場が十分なサイズに成長し、PSPから生まれるオリジナルゲームが登場する時だろう。

 一方、ハードウェアのスペックに目を向けると、バッテリ容量が明らかになった点が目新しい。動作電圧に関しては明記されていないため容量の計算はできないが、PSPには1,800mAhのスペックを持つリチウムポリマーバッテリが搭載されている。

 平井氏はゲーム機として利用時、通信機能併用時、動画再生時、それぞれで動作時間が異なるとしか話していないが、動画再生時に映画を再生しきれる程度のバッテリ持続時間はあると推察される。もっともバッテリ消費が多いと思われるUMD内のH.264コンテンツ再生で、仮に3時間までの映画が鑑賞できるのであれば、単純なゲーム機として使う場合には6時間、遊ぶゲームの種類によっては10時間近く駆動できる可能性もある。

PSPのスペック
1,800mAhのバッテリを搭載する GPS、USBカメラなどの周辺機器も計画されている

 また価格に関しても未だ発表されていない。ターゲットユーザー層が少し高めに設定されている理由として、ある程度経済力のあるユーザー層でなければ買いにくい価格帯なのかもしれない、と考えるのは邪推だろうか。

 4.3型のワイド液晶パネルや新規開発のUMDドライブ、容量の大きなリチウムポリマーバッテリといった要素を考えると、それほど安くはできないのではないか。そうした意見が、プレスカンファレンス会場では聞かれた。もっとも有力と思われているのが、249ドルの線。日本で言えば29,800円といったところだろう。中身を考えれば、それでもかなりバーゲン価格だが、携帯ゲーム機としての絶対金額は低くない(繰り返すが、ここで挙げたのは現地での予想を集めたものであって、まだ発表はされていない)。

●エンターテイメントを1台に

 昨年、久夛良木氏が触れていたUMDによるコンテンツ流通についても、その“触り”だけではあるが、明らかになっている。これまで言われている通り、セキュアでコンパクト、ローコストなメディアとの紹介だが、「メジャーなエンターテイメントパートナーからの幅広いサポートプランがある(平井氏)」と、はじめてコンテンツパートナーについて触れた。

 会場ではソニーピクチャーズエンターテイメントとスクエア・エニックスの映像コンテンツ、ソニーミュージックエンターテイメントの音楽コンテンツ(音楽ビデオクリップ)が流された。H.264で圧縮された映像品質は十分に高いものだ。H.264は細かなディテールが曖昧になる傾向があるが、ハイビジョンコンテンツでは問題になるものの、SD(標準解像度)映像の場合は全く問題にならない。DVDクオリティと思って差し支えないだろう。

 しかしこれらのコンテンツが、どのような流通形態で、どの程度の価格で販売されるのかは現時点でも明らかではない。また、サポートすることが明らかなコンテンツベンダーは、ソニーグループの2企業とゲームベンダーのみ。果たして業界から広範なサポートを本当に受けることができるのだろうか?

新しい規格「UDM(Universal Media Disc)」を立ち上げる

 久夛良木氏は昨年「映画業界の人たちは、DVDより単価の高いゲームコンテンツのセキュリティを担っているSCEIを信用してくれている」と話していた。実際にハリウッド映画スタジオの次世代光ディスク関係者数人に聞いてみたところ、同氏は何度かハリウッドに足を運んでいるようだ。

 ただし「次世代PlaystationはBDを搭載して2005年に発売する。初期出荷だけでも200万台あるから、そこをスタート地点にビジネスをしよう」といった話の持ちかけ方だったという。次世代Playstationが本当に2005年なのかはともかく(単なる目標で変更されているかもしれない)、取材先がはずれているのか、それとも関係者の口が堅いのか、UMDの話はなかなか漏れてこない。

 SCEIはこれまで各ゲーム機で、彼らが「ジェネラルフォーマット」と呼ぶ、特定のメディアをサポートしてきた。初代PSの時はCD、PS2ではDVD、それが次世代ではBDになるのかもしれない。PSXのハイブリッドレコーダ機能やデジタルカメラ画像のハンドリング機能もこれらの一環だと考えられる。しかし、携帯機のPSPにはジェネラルフォーマットがない(あえて言えばMD、Hi-MDが該当するかもしれないが、容量面で採用は難しい)。

 UMDはジェネラルフォーマットのない携帯機に、新しいスタンダードをもたらそうという意欲的な規格だが、これはSCEIの取り組みとしては全く新しいものとなる。しかも記録型メディアがないため、すべてのコンテンツは流通に載せなければならない。それだけに、UMDによるビデオと音楽の流通にどの様に取り組むのか。今回のE3ではその部分が明確になっておらず、今後の注目点となる。

□E3のホームページ
http://www.e3expo.com/
□プレイステーションのホームページ
http://www.playstation.jp/
□ニュースリリース
http://www.playstation.jp/news/pr_040512_psp.html
http://www.playstation.jp/news/pr_040512_pspsoft.html
□関連記事
【5月12日】ソニーとIBMら、CELLワークステーションを開発
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0512/sony.htm
【5月11日】プレイステーション・ポータブル(PSP)がついに公開!(GAME)
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20040512/psp1.htm
【2003年5月14日】これは21世紀のウォークマンだ!
新携帯プラットホーム「PSP」の開発を久夛良木社長が発表(GAME)
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20030514/psp.htm

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(2004年5月13日)

[Text by 本田雅一]


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