石井英男のDigital Life

松下の電子書籍専用端末「ΣBook」を試す
〜2004年は電子書籍時代の幕開けとなるか?




 以前から、書籍や雑誌を電子化してPCや専用端末で読もうという取り組みがなされてきたが、大きな成功を収めるにはいたっていない。しかし、デバイス技術の進歩とブロードバンド環境の普及によって、再び電子書籍に注目が集まっている。

 松下電器産業とソニーという家電メーカーの両巨頭も、電子書籍に積極的に取り組むことを表明しており、電子書籍専用端末の試作品を公開している。今回は、松下電器産業から2月20日に発売予定の電子書籍端末「ΣBook」を試用する機会を得たので、紹介していきたい。


●書籍や雑誌の電子化とは?

 書籍や雑誌、新聞などのいわゆる紙媒体は、長い歴史を持つメディアである。紙媒体は、文字を読むのに十分な明りさえあればどこでも見ることができ、適切に保管しておけば長期保存にも耐えうる。紙媒体は、情報を保存・閲覧するためのメディアとして優れた特性を持つのだが、かさばるので保管に場所を取ることと、数多くの文章の中から、目的のものを探し出すのが困難である(つまり検索性が低い)といった弱点もある。

 そうした紙媒体の弱点を補うために考えられたのが、紙媒体の電子化(デジタル化)である。書籍や雑誌などを電子化してしまえば、メディアのサイズを大幅に縮小できるし、将来さらに高密度なメディアが登場すれば、そのメディアにデータを移行することも簡単である。

 また、電子化されていれば検索も容易であり、動画や音声を組みあわせたマルチメディア書籍の実現も可能になる。電子書籍には、そうした紙媒体にはない長所があるが、その反面、閲覧にPCや専用端末が必要であり、AC電源が利用できない屋外などでは駆動時間の問題もある。

 紙媒体には長い歴史と利点があり、紙媒体が完全に消えてしまうという可能性は、かなり低いように思われる。過去にも、Macintosh/WindowsのエキスパンドブックやNECのフロッピーベースの電子書籍専用端末「デジタルブック」など、書籍を電子化しようという試みはなされてきたが、高い検索性が魅力の電子辞書(EPWING形式のCD-ROMやソニーデータディスクマンなど)以外の分野においては、大成功したとはいいがたい。

 しかし、電子ペーパーなどの表示デバイスの進歩と、ブロードバンド環境の普及によって、電子書籍への注目が再び高まっている。大手家電メーカーである松下電器産業とソニーも、それぞれ電子書籍市場に参入することを表明しており、電子書籍専用端末の試作品を公開している。

●シンプルに書籍の電子化を目指した「ΣBook」

 今回取り上げるΣBook(シグマブック)は、松下電器産業の電子書籍専用端末で、昨年夏からモニターテストが行なわれていた製品である。ΣBookは、2月20日に発売が開始される予定で、価格は37,900円である(ただし、3月までは1,000台の限定販売とされており、コンテンツの拡充を図りながら、順次生産・販売を拡大するとのことだ)。当初は、直販サイトのパナセンスや紀伊国屋書店、丸善などの書店で販売されることになる。

松下電器のΣBook(写真左)をハードカバーの書籍とサイズを比較したところ。ほぼ同じサイズである ハードカバーの書籍(394ページ)との厚さ比較。ΣBookのほうがやや薄い

 なお、今回試用したのはモニターテストで使われていたΣBookだが、機能的には製品版とは同一である。

 ΣBookは、一般的な書籍を模した形状で、見開きで利用するようにデザインされていることが特徴だ。液晶パネルとしては、7.2型記憶型液晶(XGA表示、16階調グレースケール)を2枚採用している。記憶型液晶は、液晶素子自体に記憶性(メモリ性)があり、一旦表示された文字や絵は、電力を消費することなく、そのまま表示し続ける特性を持つ。一旦表示された文字や絵は電源を切っても消えず、書き換え時にしか電力を消費しないため、非常に長時間の電池駆動が可能になる。

 ΣBookは、単3アルカリ乾電池2本で動作するが、1日80ページを閲覧した場合で約3カ月という長時間の使用が可能である。従来の液晶パネルでは、このような長時間駆動は不可能であろう。ちなみに、日本で記憶型液晶を採用した製品が発売されるのは、このΣBookが初となる。

 本体のサイズは、閉じた状態で154.5×205×25.4mm、開いた状態で292×205×12.7mmであり、B6判のマンガの単行本より一回りほど大きい。重量(電池とSDメモリーカード込み)は、約558g(実測値)である。手元にあったハードカバーの書籍(394ページ、182×128mm)の重量は約492gだったので、サイズや重量的にはハードカバーの書籍を持ち歩く感覚に近い。なお、387ページの文庫本の重さは約186gだったので、文庫本では約3冊分の重さに相当する。携帯電話やPDAに比べれば重いが、サブノートPCに比べればはるかに軽いわけで、携帯性については一応合格といったところだ。

 ΣBookは、シンプルに書籍の電子化を目指しているため、ユーザーインターフェイスも単純でわかりやすい。操作ボタンは、左の液晶パネルの下に1つ、右の液晶パネルの下に4つの合計5つしかなく、一般的な書籍と同じような感覚で利用できる。電源スイッチがないのも、記憶型液晶を採用した本製品ならではだ。本を途中まで読んだら、そのまま液晶を閉じて、再度開けばそのまま続きを読み進めることができる。

 それぞれの操作ボタンには、左右のページめくりやしおり機能、設定機能、書棚へのジャンプなどの機能が割り当てられているが、文字の入力や検索機能などは一切用意されていない。検索ができないということは、電子書籍のメリットのひとつを捨て去っているように思えるが、辞書や辞典のようなコンテンツはともかく、小説やマンガなどのコンテンツでは、検索機能がなくてもそう困るわけではない。

 また、音声や動画の再生機能も一切なく、かなり割り切った設計になっている。ΣBookでは、機能を思い切って削減することで、実用的な電池寿命と、シンプルでわかりやすい操作性を実現しているのだ。このあたりは、文字入力が可能なキーボードを搭載しているソニーの電子書籍専用端末の試作品とは、コンセプトの違いが感じられて面白い。

 電子書籍データの格納用メディアとしては、SDメモリーカードが利用されている。SDメモリーカードはセキュア対応メディアであるため、著作権保護が容易にできるという利点があり、ΣBookでは、SD-ePublish for CPRMと呼ばれる電子出版のための著作権管理機構が採用されている。

ΣBookを開いたところ。左上にSDメモリカードスロットが用意されている。操作ボタンは5つで、電源スイッチは用意されていない 単3アルカリ乾電池2本で動作する。中央のヒンジ部分が、電池ボックスになっている

●気になる液晶の視認性は?

16階調グレースケール表示が可能で、解像度も比較的高いため、マンガなども十分表現できる。なお、写真ではコントラストがかなり低く見えるが、実際はそう見にくいわけではない(コンテンツは石ノ森章太郎「サイボーグ009」)

 ΣBookの最大の特徴が、記憶型液晶を採用したことである。前述したように、記憶型液晶は書き換え時にしか電力を消費せず、一旦表示された文字や絵は電源を切ってもそのまま保持されるという特性を持つ。

 ΣBookの液晶パネルの1枚あたりの解像度はXGA(1,024×768ドット)であり、2枚あわせると1,024×1,536ドットの表示領域を持つことになる。7.2型XGAの精細度は180ppiで、ノートPCで採用されている12.1型XGA液晶(精細度105ppi)や14.1型SXGA+液晶(精細度124ppi)に比べると、かなり精細である。ただし、人間の眼で識別できる精細度は300ppi程度といわれているので、紙媒体に負けない表現力を持つためには、さらに精細度を上げる必要があるだろう(もちろん、精細度だけでなくコントラストや反応速度もさらに上げていかなくてはならないが)。

 ΣBookの液晶パネルは、16階調グレースケール表示が可能だが、白黒ではなく、白青で表示される。昔のワープロ専用機などでも、白青タイプの液晶が使われていたが、それに近い感じだ。白黒液晶に比べると、コントラストは低く感じられる。また、バックライトやフロントライトなどは装備していないので、暗い場所での視認性は低下する。とはいえ、文庫本や新聞が楽に読める程度の明るさなら、十分な視認性である。逆に、直射日光下など、一般的なノートPCの透過型液晶では視認性が大きく落ちる場面でも、ΣBookなら快適に閲覧が可能だ。

 ΣBookの記憶型液晶は、一般的な液晶に比べて、反応速度(書き換え速度)が遅いという欠点がある。ページめくりボタンを押すと、2枚の液晶パネルの表示が順次書き換わって行くのだが、液晶1枚分の書き換えに2秒近くかかっており、見開きページを全て書き換えるには、4秒近くの時間がかかる。ただし、我慢できないほど遅いというわけではなく、慣れるにしたがってあまり気にならなくなってきた。

●誰でも直感的に利用できるシンプルなインターフェイス

操作ボタンの上には、割り当てられている機能が表示されている

 次に、ΣBookの機能や使い勝手について見ていくことにしたい。なお、2月20日の発売開始と同時に、ΣBookの公式サイトで、コンテンツの販売が開始される予定だが、今回は評価用に付属してきたコンテンツを利用した。

 ΣBookは、書籍をそのまま電子化しているため、操作が非常に分かりやすい。5つのボタンに割り当てられている機能は、ボタンのすぐ上の液晶部分に表示されているので、マニュアルなどを読まなくてもすぐに操作方法が理解できる。

 1枚のSDメモリーカードには複数のコンテンツを格納することが可能であり、「書棚」ボタンを押すことで、現在装着されているSDメモリーカードに格納されているコンテンツ一覧が表示される。コンテンツ一覧の表示は、文字通り、書店の書棚をイメージしたもので、書棚リスト形式と平積リスト形式から選択できる。

 ΣBookではコンテンツとして、販売されている書籍やマンガの他、一般のテキストファイルを専用ツールで変換して読むこともできる。前者と後者では、ΣBook上で動作するビューワーが異なり、前者は「MEIイメージビューワー 2.0」、後者は「MEIテキストビューワー 2.0」を利用する。

 イメージビューワーで閲覧するコンテンツについては、「先頭ページへのジャンプ」、「最終ページへのジャンプ」、「右めくり」、「左めくり」の設定が可能で、テキストビューワーで閲覧するコンテンツについてはそれらに加えて、縦書き・横書きの設定と文字サイズの指定(標準・大)や、背景色の指定(白黒反転)も行なえる。

 しおり機能も装備しており、それぞれのコンテンツごとに3箇所までしおりを挟んで、ワンタッチでジャンプすることが可能だ。しおりを挟まなくても、読みかけた最終ページは各コンテンツごとに、自動的に保存されるので便利だ。また、ページめくりボタンを2秒以上押し続けると、10ページ単位で高速にめくられていく。

書棚リスト形式のコンテンツ一覧画面 平積みリスト形式では、本の表紙を上からみた形式で表示される
テキストファイルの表示は、縦書きや横書きを指定できる。縦書きで文字サイズを標準に指定した状態 横書きで文字サイズを標準に指定した状態 横書きで文字サイズを大に指定した状態
しおり機能で、3箇所までしおりを挟むことができる 一般の書籍コンテンツは、イメージ形式で格納されているため、レイアウトやフォント、イラストなどもそのまま再現できる

●コンテンツの入手方法は?

 ΣBookでは、ΣBookの公式サイトで販売されるコンテンツのほか、10DaysBookで販売されているコンテンツも利用可能である。

 当初は、マンガ・小説、ビジネス書、実用書を中心に約5,000点のコンテンツが用意されるほか、順次拡充される予定だ。10DaysBookで販売されているコンテンツの価格は、1冊あたり300〜500円が中心であり(写真集などは除く)、印刷や流通コストを削減できることを考えると、もう少し安くならないのかとも思うが、電子書籍市場が拡大すれば、コンテンツの値段が下がることも期待できそうだ。

 基本的には、インターネット経由でPCにダウンロードしたコンテンツをSDメモリーカードに転送して、ΣBookで閲覧することになる。ただし、ΣBookでは、コンテンツの著作権保護技術としてCPRMが利用されており、コンテンツの転送には、セキュア対応SDリーダーライターが必要になることに注意したい。また、今後は、書店などの店頭で、コンテンツの購入が行なえるダウンロード端末を設置するという計画もある。

●コンテンツの拡充や新たな出版形態に期待

 128MBのSDメモリーカード1枚で、文字ベースの書籍なら約12冊、図や絵をベースにした書籍なら約6冊のコンテンツが格納できるという(1冊200ページ換算。単なるテキストファイルなら約100冊分を格納可能)。

 SDメモリーカードは、容量1GBの製品が発表されており、今後もさらに容量が増加していく。ハードカバーの書籍を100冊持ち歩くというのは不可能であろうが(文庫本でもちょっと無理だろう)、ΣBookなら、それだけのコンテンツが、わずか切手大しかない1GBのSDメモリーカードに入ってしまうわけだ。

 例えば、海外旅行の際、書籍を何冊も持って行くのは荷物が増えて困るという場合でも、読みたい書籍を全てSDメモリーカードに入れておけば、ΣBook 1台あれば用が足りてしまう。また、海外に住んでいる人が、日本の新刊を読みたくても、入手が困難であったり、送料が高くついてしまったりするが、電子書籍ならそうした問題もクリアできる。もちろん、こうした使い方をするためには、何よりもコンテンツの拡充が求められる。

 また、マンガの週刊誌などには、毎号多くの連載マンガが掲載されているが、その中で読みたいマンガは、せいぜい2、3本だという人も多いことだろう。こうした週刊誌のコンテンツを切り売りして、読みたいマンガだけ購入するというのも、既存の紙媒体では困難だが、電子書籍なら可能になるだろう。

 好きな本は、形のある書籍として手元に置いておきたいという心情は筆者もよく理解できるし、紙媒体は紙媒体ならではのメリットがあるため、近い将来に、書店から書籍が消えてしまうような事態になるとは考えにくい。

 しかし、読み捨てられることの多い雑誌などは、電子化によって、紙資源の消費削減にも貢献できるのではないだろうか。専用端末というわけではないが、すでにシャープのザウルスやauのCDMA 1X WIN対応携帯電話などに対応した電子書籍リーダーがリリースされており、コンテンツの販売も開始されている。松下電器産業に続いて、ソニーも今年の春に電子書籍専用端末のリリースを予定しており、今年は電子書籍がいよいよ本格的な離陸を果たす年になるかもしれない。今後も、電子書籍の動向には注目していきたい。

□ΣBookのホームページ
http://www.sigmabook.jp/
□10DaysBookのホームページ
http://www.10daysbook.com
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(2004年2月13日)

[Reported by 石井英男]


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