PC向けビデオカードのシェア争いで熾烈な競争を繰り広げているATIとNVIDIA。この2社に割って入らんとする新興GPUメーカーが現れた。SiSのグラフィック部門が独立し、さらにTrident Graphicsを吸収して設立された「XGI Technology(以下XGI)」だ。そのXGIから、デュアルチップのハイエンドビデオカード「Volari Duo V8 Ultra」がリリースされた。見た目も含めてインパクトの大きい本製品のパフォーマンスを検証してみよう。 ●久々に登場したデュアルチップ構成のビデオカード
第3のGPUとして期待がかかるXGIの「Volari」シリーズ。昨年のCOMPUTEX TAIPEI 2003でサンプル品の展示が行なわれたほか(写真1)、すでに秋葉原でも販売が開始されているので、興味を持っている読者は多いことだろうと思う。そのアーキテクチャについては、すでに後藤氏のコラムに詳しいので、ここでは深く掘り下げず概要のみ紹介しておこう。 今回登場した製品は、Volariシリーズの中の「Volari Duo V8 Ultra」と呼ばれる構成のビデオカードで、これは「Volari V8 Ultra」というGPUをデュアル構成にしたものである。 Volari V8 Ultraは、DirectX 9.0、OpenGL 1.4に対応し、コアクロックは350MHz。ピクセルパイプラインを8本持つが、Volariはアーキテクチャ上、パイプライン数の半分がPixel Shaderのユニット数となるため、単体使用の場合は4ユニットということになる。 サポートするビデオメモリはDDRまたはDDR2で、クロックはDDR使用時で375MHz、DDR2使用時で500MHzとされている。ビデオメモリのバス幅は128bitとなっている。 このVolari V8 Ultraを2基搭載するのがVolari Duo V8 Ultraである。搭載された2基のGPUは、それぞれが異なるフレームを同時に描画する仕様となっており、これは素直に倍換算、つまりピクセルパイプラインを16本、Pixel Shaderを8ユニット持つと考えていいだろう。ただしGPU 1個当たりのメモリバス幅は128bitのままであり、単純に合計256bitという発想は難しい。 さて、このVolari Duo V8 Ultra搭載製品として初めて登場したのが、C.P.Technologyの「X40D-D3」(写真2)である。2基のGPUを冷却する必要があるため、かなり大型のヒートシンクが搭載されており、ファンも2基備えている。裏面も大型のヒートシンクで覆われており(写真3)、発熱はなかなかのものであると予想される。 ちなみに、この2基のファン、動作中は青く発光し、見た目はなかなか良い感じだ(写真4)。ただし、回転中に甲高いノイズを発し、かなり耳障りである。また、ヒートシンク自体に丈があり、直下のPCIスロットに微妙に被る感じになる(写真5)。直下のPCIスロットが使えなくなるほどではないが、ビデオカード側のファンの吸気を考慮すると使わないほうが無難だろう。 さらに裏面のヒートシンクも大きめなので、マザーボードのレイアウトによっては、メモリスロットなどと干渉する可能性もあり、要注意である。 ブラケット部は、標準サイズのブラケットを持つビデオカードでは一般的となっている、DVI×1、Sビデオ×1、D-Sub15ピン×1の構成である(写真6)。Sビデオ端子はビデオ入力にも対応する。 そのほか、カード表面の2基のファンとともに大きなインパクトを受けるのが、電源部である。消費電力の大きいハイエンドビデオカードでは、光学ドライブなどに利用される電源コネクタを接続する製品が増えているが、本製品では2個のコネクタを接続する必要があるのだ(写真7)。単純にGPU 1個に対して1系統の電源コネクタ、と考えれば分かりやすいのだが、ちょっと閉口してしまう仕様ではある。 ●パワーマネージメント機能も持つドライバ パフォーマンスの検証の前に、Volari Duo V8 Ultraのドライバを見てみよう。設定画面には機能別のボタンが並び、そこから設定を行なうようになっている(画面1)。気になる3D描画に関する設定としては、コア/メモリのクロック確認機能(画面2)や、FSAA異方性フィルタリングなどの設定(画面3)ができる。 ちなみに、画面2にある「V-Drive」という項目。これは「フルスクリーンの3D描画において、いきなり負荷を最大にせず、アプリケーション側の要求に応じて徐々に負荷を高めていくもの」とされている。デフォルトはOFFになっているが、ONにしてもパフォーマンスが下がることはなかった。GPUへの負担を気にする人はONにして使用してみるといいだろう。 このほか、ドライバにはいくつかのアプリケーションが含まれており、タスクトレイから実行できるようになっている(画面4)。 この中でピックアップしておきたいのは、「DesktopPlus」と名付けられているアプリケーションで、これは仮想デスクトップを構築するもの(画面5)。任意の名称で仮想デスクトップを構築でき、それをタスクトレイから切り替えながら使える。 もう1つ紹介しておきたいのは「PowerManager」と呼ばれる機能だ(画面6)。この画面からは、各GPUの温度やパーツ類に供給されている電圧などを監視できるのだが、このソフトを利用するとファンの回転数を下げることもできるのである。 ただ、正直いって、このソフトの仕様は分からない点が多い。この画面には「PowerManager AutoPower」という項目があるのだが、これを有効にしなくても本ソフトを起動しただけでファンの回転数は下がる。 また、下部にある[Stability]-[Balance]-[Performance]というスライダー(画面7)を動かしたところで、ファンの動きはおろかパフォーマンスにも変化が表れないのである。3D描画中は一時的にファンの回転数が上がるので、Windowsの動作を監視して、動的に処理を行なっている様子ではある。 ●DirectX 9環境で優れたパフォーマンスを発揮 それでは、他のビデオカードとの性能を比較してみることにしたい。テスト環境は表1に示したとおりである。Volari Duo V8 Ultra搭載ビデオカードの価格帯は5万円前後で、その意味ではGeForce FX 5950 Ultraや、RADEON 9800 XTが直接のライバルということになるのだが、今回は機材の都合もありGeForce FX 5700 UltraとRADEON 9600 XTを比較対象としている。今回テストに含めていないビデオカードと数値の比較を行ないたい場合は、過去の記事を1つの目安にしていだたければ幸いだ。 【表1】テスト環境
さて、各ベンチマーク条件についてはグラフ内に記載しているが、基本的に1,024×768/1,280×1,024、または1,280×960/1,600×1,200ドットの各解像度で、4xFSAAを適用した場合、加えて4x異方性フィルタリング(Aniso)を適用した場合をそれぞれテストしている。 では結果を見ていこう。まずはDirectX 9のテストである3DMark03の結果(グラフ1)。さすがはデュアルチップというべきか、ハイエンド価格帯の製品というべきか、まずはVolari Duo V8 Ultraがぶっちぎりの性能を見せつけている。4xFSAAを適用した場合の落ち込みが小さいのも1つの特徴である。 ただ、気になる点はある。グラフ2は1,024×768ドット/32bitカラーで、FSAAや異方性フィルタを適用せずにシェーダ関連の個別テストを行なった結果だ。これを見ると、Vertex ShaderこそRADEON 9600 XTには勝っているものの、そのほかの結果ではいずれも奮わない結果が出ているのである。3DMark03は、Vertex ShaderとPixel Shaderの性能がスコアにも大きく響くのだが、トータルスコアは優秀でも、各シェーダの個別性能を見るとイマイチ、という不思議な傾向が出ているのだ。 可能性として考えられるのは、テストごとの得手不得手がかなり激しいという点だが、それにしても、描画内容こそ違えど同一のベンチマークソフトであり、ここまで派手に影響が出るのは極めて珍しい。
さて、DirectX 9のテストをもう1つ。AquaMark3の結果を見てみよう(グラフ3)。このテストは実際のゲームでも使われている描画エンジンを使ったものだが、比較対象製品に比べて、かなり優秀な成績が出ている。過去に検証したGeForce FX 5950 Ultra、RADEON 9800 XTには一歩及ばない結果ではあるものの、かなり優秀といっていいだろう。 加えて注目したいのが、FSAA適用時のパフォーマンス低下が少ないことだ。1,024×768ドットのテストで、Volari Duo V8 UltraはFSAA非適用状態と、4xFSAA適用状態での性能低下が3.5%ほどに留まっている。RADEON 9600 XTが18%、GeForce FX 5700 Ultraが32%も落としたことに比べると驚異的ともいえる水準である。
続いてはDirectX 8.1環境のテストを実施してみよう。まずは3DMark2001 Second Editionである(グラフ4)。このテストでは、1,024×768ドットと1,280×1,024ドット、FSAA適用なしの状態でGeForce FX 5700 Ultraにスコアが抜かれるという事態が起こっており、価格帯を考えると非常に残念なものになっている。 ただし、解像度が高いテストや、FSAAや異方性フィルタリングを適用した場合は比較対象製品に比べ高い性能を発揮しており、このあたりが強味といえよう。 続く、Unreal Tournament 2003のFlybyのテスト結果は、普通ではありえない現象が起きている(グラフ5)。まずFSAAを適用しない場合のテスト結果は、解像度が上がるほどVolari Duo V8 Ultraが優れた結果を出す傾向にあり、これは3DMark2001 Second Editionに近い傾向である。4xFSAAを適用したすると、解像度が低い状態では、スコア低下率は比較対象製品に近いが、解像度が上がった場合は優秀な傾向も見て取れる。 ありえない、と書いたのは異方性フィルタリングを適用した場合のスコアである。4xFSAAのみを適用した場合よりもスコアが上がっており、何度試行しても同じ傾向のスコアが出るのだ。Unreal Tournament 2003以外のテストでは異方性フィルタリング適用時にはスコアが下がっており、このテストだけ上昇というのは何とも不思議な話で、ドライバレベルで描画処理を端折っている可能性もなきにしもあらずな結果である。
さて、次のFINAL FANTASY Official Benchmark 2の結果は、ここまで見えてきた傾向が素直に表れている(グラフ6)。このテストでは、解像度の低い(640×480ドット)テストでは比較対象製品に劣る結果が出たものの、解像度が高いと比較対象製品よりも優秀な成績を出し、さらにFSAAや異方性フィルタリングを適用した場合のスコアの低下率がかなり低い。 しかしながら、最後に紹介するQuakeIIIの結果からは、また違った傾向も見て取れる(グラフ7)。こちらも解像度が高いほど比較対象製品を突き放す傾向はあるものの、FSAA適用時の性能低下が3製品中もっとも顕著に表れたのである。
DirectX 8.1環境のテストは以上である。テストによりパフォーマンスの傾向が大幅に異なるケースが見られるものの、 ・解像度が高いほど比較対象製品に比べ優秀 という2つの傾向が見受けられる。この2点はビデオメモリインターフェイスの帯域幅が影響する部分だが、GPU 1基あたりのバス幅が128bitとはいえ、デュアルチップにすることでボトルネックになりにくいようにうまく回避していると想像される。 ●イメージクオリティテストでは一部に画像が乱れる部分も
続いて、画質のチェックを行なっておこう。テストに用いるのは、3DMark03のImageQualityテストである。画面9~11がVolari Duo V8 Ultra、画面12~14がRADEON 9600 XT、画面15~17がGeForce FX 5700 Ultraで、それぞれ1,024×768ドット/32bitカラー、FSAAなし/4xFSAA/4xFSAA&4x異方性フィルタリング、を適用した場合の結果である。 まずFSAAなどを適用しない場合の画質を見てみると、対象製品と比較してかなり明るい印象で、影になっている部分も鮮明に描画されている。好みはあるだろうが、パッと見の印象は悪くない。 FSAAや異方性フィルタリングを適用した場合はというと、こちらはかなりぼんやりした印象になる。確かにジャギーは消えているのだが、シャープ感をなくしてジャギーを目立たなくしているだけ、という印象を受ける。 さらに異方性フィルタリングを適用すると、その失われたシャープ感を盛り返したような印象になるが、何も適用しない場合に比べるとぼんやりした印象は残っており、好みが分かれそうな描画だ。 また、画面18にあるように、FSAAや異方性フィルタリングを適用した場合に、描画が乱れることがあった。とくに4xFSAAのテストは何度やってもまともに描画されず、ようやく取れたものが画面10なのである。その意味では、描画の安定度はやや欠けるといえるだろう。 ●新旧ドライバ異なる傾向
なお、今回試用しているX40D-D3に付属のドライバCDには「ReactorDriver-XP 1.00.00」というバージョンのドライバが用意されている。XGIからは昨年末に新バージョンである「ReactorDriver-XP 1.01.05」というバージョンのドライバがリリースされているのだが、こちらのドライバには、PowerManagerが含まれていない(画面19)。 また、この新旧2つのドライバ間にはパフォーマンスにも差があるようだ。各ドライバで3DMark03(グラフ8)、AquaMark3(グラフ9)を測定した結果を見てみると、3DMark03では新ドライバが、AquaMark03では旧ドライバがそれぞれ優秀な結果を出している。 しかし、3DMark03の詳細な結果を見てみると、表2に示したとおり、新ドライバは、スコア算出時のウェートが大きいGame2~4では優秀な結果となっているものの、Game1にでは大幅にスコアが落ちている。さらに、Fill-Rate(グラフ10)、シェーダ関連(グラフ11)の個別テストを見てみても、旧バージョンのほうが良い結果となっているのである。 個別テストの結果と、実際のGameテストの傾向がまったく異なるという何とも不思議な結果ではあるものの、パフォーマンスに関しては旧バージョンのほうが優れている可能性もありそうだ。
●安定しない印象はあるものの期待はできる 以上のとおり、Volari Duo V8 Ultraは、DirectX 9のテストで優れた性能を発揮するものの、DirectX 8.1では価格帯の異なるGeForce FX 5700 UltraやRADEON 9600 XTと互角という結果も見られ、コストパフォーマンスを考慮するとGeForce FX 5950 UltraやRADEON 9800 XTにはかなわない印象である。 また、テストによる得手不得手、というよりも、テストによって傾向が大きく異なる場合があるのも気になる点だ。ImageQualityテストで描画が乱れることがあったことも含めて、まだまだドライバのチューンナップ不足が感じられる状況である。 この点について全体のテスト結果から受け取れる雰囲気としては、DirectX 9環境を想定したチューンに注力していて、描画の安定度やDirectX 8.1環境でのパフォーマンス面には手が回っていない、といった感じだろうか。そうしたことから、残念ながら今すぐ購入を勧められるものではない。 しかし、Volariシリーズは本製品が初登場であり、ドライバのアップデートもまだ1度しか行なわれていない。今後価格がこなれ、さらにドライバのアップデートが進んでいけば、大きく化ける可能性も秘めている。ATI、NVIDIAに続く第3の選択肢として、見守っていく必要があるだろう。 □関連記事 (2004年1月28日) [Text by 多和田新也]
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