NVIDIAからハイエンドGPUの新製品「GeForce FX 5950 Ultra」が発表された。「GeForce FX 5800 Ultra」、「GeForce FX 5900 Ultra」に続き、NVIDIAは今年に入って3回もハイエンドビデオカードの更新を行なったことになる。一足早く登場しているATI Technologiesの「RADEON 9800 XT」と、その3D描画性能を比較してみる。 ●コア・メモリクロックの上昇に留まるマイナーチェンジ 今回登場したGeForce FX 5950 Ultraは、「NV38」の開発コードネームで呼ばれてきたGPUで、“5950”という微妙なネーミングからも分かるように、GeForce FX 5900 Ultraのマイナーチェンジ版にあたると考えていい。 コアクロック・メモリクロックは、それぞれ475MHz、950MHz(475MHzのDDR動作)となっており、GeForce FX 5900 Ultraより向上している。そして、それに伴うメモリ帯域幅の増加や、処理性能の向上がGeForce FX 5950 Ultraの特徴といえる。 ちなみに、GeForce FX 5900 Ultraから実装されたCineFX 2.0、Intellisample HCT、UltraShadowといった機能はそのまま引き継がれており、アーキテクチャの変更はなされていない。コア・メモリクロックの上昇分がそのまま性能向上に繋がると考えていいだろう。 【表1:各ビデオカードの主な仕様】
●冷却機構が変更され、ファンは静粛化 一方でカードの外観は大きく変更されている。今回入手したのはNVIDIAから提供されているリファレンスカードだが、大型のクーラーに目が留まる。 下記に写真を示しているが、GeForce FX 5900 UltraよりもGeForce FX 5800 Ultraに似た、アクリルで密閉されたブロア型ファンが搭載されている。しかし、エアフローはGeForce FX 5800 UltraともGeForce FX 5900 Ultraとも異なる。
具体的に違いをまとめてみると、 ・GeForce FX 5800 Ultra:ケース外から吸入し、ケース外へ排気 という具合だ。ケース外から吸入する点はGeForce FX 5800 Ultraと同様なのだが、GeForce FX 5950 Ultraは、背面のブラケット全体を使ってケース外の空気を吸入しているのだ。 推察するに、このクーラーの刷新は“GeForce FX 5800 Ultraはケース内のエアフローだけでは冷却できなかったが、GeForce FX 5900 Ultraでコアクロックを下げたことにより発熱も下がりケース内だけで冷却できるようになった。しかし、GeForce FX 5950 Ultraになってコアクロックを上げたことで発熱が増加し、やはりケース外からの吸入が必要になった”ということではないだろうか。 それだけGeForce FX 5950 Ultraの発熱が大きいことを感じさせるクーラーだといえよう。 しかも、ヒートシンクの間を抜けた空気が、ケース内へ排出されるのも心配な点である。3D系のベンチマークを実行している最中に排気口に手をかざしてみると、かなりの熱風が流れ出てきている。ケースファンや電源を工夫するなどして、ケース内の換気を良くしておくことが必要になりそうだ。 と、ここまではあまり良い印象を受けないこのクーラーだが、静音性の面ではわりと評価できる。GeForce FX 5800/5900 Ultraよりも大きなサイズのファンを使っている点、アクリルで閉じられている点などが効を奏したのであろう。一緒に回していたPentium 4の純正クーラーの音のほうがよほど耳につくほどで、GeForce FX 5800/5900 Ultraとは比べ物にならないほど静かである。 また、電源投入直後の挙動も変更されている。GeForce FX 5800/5900 Ultraでは、電源投入直後に一旦ファンがフル回転し、その後低速回転、という動きをする。GeForce FX 5950 Ultraは、電源投入直後2~3秒程度はファンが動かず、その後ゆっくり回り始める、という動作をする。つまり、3Dゲームなどでビデオカードに負荷をかけないユーザーは、高回転時の不快なノイズを一切聞くことがなくなったわけだ。 ●ドライバがバージョン5x台へ突入し、名称も「ForceWare」に変更 さて、GeForce FX 5950 Ultraの登場に伴い、ドライバのバージョンが「52.16」へとバージョンアップした。また、その名称も「Detonator」から「ForceWare」へと変更されたが、機能は大きく変わっていない。 主な変更点はユーザーインターフェイスで、例えば従来は別画面が用意されていた「デスクトップの管理」機能が、ツリーメニューに追加され同一画面内で設定できるようになっている。 また、使用するうえで不要なメニュー項目をツリーに表示しないようにする「画面メニュー」設定も追加された。上記のデスクトップの管理がツリーメニューに統一されたため、無駄にツリーが長くなるのを防ぐのに便利だ。 このほか機能面では、目立った変更点がないForceWare 52.16。となると、気になるのはパフォーマンス面での違い、ということになる。同社では従来のGPUでも、DirectX 9に対応した3Dシューティングゲーム「HaloPC」で58%の、3Dフライトシム「Microsoft Flight Simulater」で33%パフォーマンスが向上するとしているが、今回の主題からは外れてしまうので、その検証は別の機会に譲ることにしたい。
●高解像度に強いGeForce FX 5950 Ultra では、GeForce FX 5950 Ultraのパフォーマンスをチェックしていこう。今回用意した比較対象はRADEON 9800 XTだ。 テスト環境は表2に示したとおり。ビデオカードのドライバはGeForce FX 5950 Ultraが先述したForceWare 52.16、RADEON 9800 XTが今月リリースされたCATALIST 3.8を、それぞれ使用している。なお、RADEON 9800 XTは、自動オーバークロック機能「ATI OVERDRIVE」を有効にしてテストしている。 【表2:テスト環境】
ベンチマークにおいては、解像度を1,024×768/1,280×1,024/1,600×1,200ドットの条件でテストし、各解像度でFSAAなし/FSAA 4x/FSAA 4x+8x異方性フィルタ(グラフ中は8xAniso)をかけた場合をテストしている。ただし、ベンチマークによっては、この条件が適用できない場合があるので随時補足していくことにする。 では、ベンチマーク結果を見ていきたい。まずは、DirectX 9環境のベンチマーク「3DMark03」の結果だ(グラフ1)。 結果はもっとも負荷の小さい1,024×768ドット・NoAA/NoAniso環境をのぞいては、GeForce FX 5950 Ultraが優秀な結果を出している。ただし、4xAAのみをかけた場合はGeForce FX 5950 UltraがRADEON 9800 XTを引き離しにかかるが、異方性フィルタをかけた途端に差が縮まるという傾向にもある。 4xAAを適用した場合や解像度が向上した場合の性能向上は、解像度や画質を向上させることでテクスチャデータなどの転送量が多くなり、GeForce FX 5950 Ultraのメモリ帯域幅が有効に活用されたと考えるのが妥当なのだが、異方性フィルタをかけた途端に差が縮まるのは納得できない部分ではある。さらに気になるのは次のグラフだ。 グラフ2は、同じくDirectX 9ベースの「AquaMark3」のベンチマーク結果である。こちらは、標準設定の場合だとGeForce FX 5950 Ultraが優秀な結果だが、FSAAや異方性フィルタをかけた途端、パフォーマンスが大きく低下するという3DMark03とは正反対と言える結果になっている。 よく見てみると、1,024×768ドット(4xAA/8xAniso)の場合は、RADEON 9800 XTに対して67%の性能でしかないのに対し、1,600×1,200ドット(4xAA/8xAniso)の場合には77%まで詰めてはいるので、先にも触れたメモリ帯域幅の効果が表れてはいるようだが、実際のゲームにも使われているエンジンを使ったAquaMark3でのこのような結果は気になるところだ。
さて、DirectX 9環境における傾向はひとまず置いておいて、次にDirectX 8環境でのテストを行なってみよう。まずは「3DMark2001 SE」だ(グラフ3)。 全体にRADEON 9800 XTのほうが高速である結果が出ている印象だ。しかし、解像度が向上したり、FSAAや異方性フィルタをかけた場合にはGeForce FX 5950 Ultraが差を詰め、今回のテストでもっとも高画質となる1,600×1,200ドット・4xAA/8xAnisoの環境では逆転している。 この傾向が果たして3Dゲームベンチにも反映されるかという点だが、まずは「Unreal Tournament 2003」のFlybyテストの結果を見てみよう(グラフ4)。なお、Unreal Tournament 2003では1,280×1,024ドットで動作させることができないため、1,280×960ドットでテストしている。また、このテストの1,024×768ドットにおけるRADEON 9800 XTの成績で、4xAA/NoAnisoと4xAA/8xAnisoの結果が不可解なのだが、何度試してもこの結果が出るので、そのまま掲載している。 さて、こちらの結果は3DMark2001の傾向とは大きく異なっている。負荷が軽い1,024×768ドット・NoAAまたは4xAAと、8xAnisoをかけた状態だとRADEON 9800 XTが優秀で、それ以外ではGeForce FX 5950 Ultraが良い結果となっている。ちなみに、1,280×960/1,600×1,200ドットの結果を見ると分かりやすいのだが、GeForce FX 5950 Ultraは解像度の向上に対して強いようだ。
もう少しほかのベンチマークも見ていこう。次に紹介するのは「FINAL FANTASY Official Benchmark 2」の結果である(グラフ5)。このテストは、Low(640×480ドット)、High(1,024×768ドット)の2種類の解像度でテストしている。結果はと言うと、これはRADEON 9800 XTの完全勝利といってもいい内容である。とくに負荷が高くなれば高くなるほどGeForce FX 5950 Ultraはパフォーマンスを落としてしまっている。 もう1つ、ゲーム系ベンチとして「Quake III」も試してみたが(グラフ6)、こちらは逆にGeForce FX 5950 Ultraが圧勝という結果だ。
【お詫びと訂正】初出時に一部グラフが逆転して掲載されておりました。お詫びして訂正いたします。 ●FSAA、異方性フィルタ適用時の画質をチェック ところで、GPUの性能が上がるにつれ、パフォーマンスに余裕が出来た分、画質の良さを求める向きも高まりつつある。GeForce FX 5950 Ultra、RADEON 9800 XTでは、どちらの画質が上だろうか。チェックしてみたい。
画質チェックには、3DMark03のImageQualityテストを使う。Game4の1,024×768ドットの結果から、一部をトリミング。それを2倍したものを掲載している。なお、ファイルサイズが大きいので注意していただきたいが、フルサイズの結果もアップしておくので、気になる人は参考にしていただきたい。 まずは、FSAAや異方性フィルタを適用しない場合の画質だが、これはリファレンスラスタライザを用いて描画した結果と比較してみたい。草などはGeForce FX 5950 Ultra、RADEON 9800 XTともリファレンスラスタライザとは大きく異なる描画を見せるが、小川や石の描画においては、RADEON 9800 XTのほうが近いように感じられる。 これに4x FSAAをかけると、また違った印象になる。FSAA本来の目的である「ジャギーを消す」という部分においては、RADEON 9800 XTのほうが優れているように感じられるが、GeForce FX 5950 Ultraは草の先端部分まで細かく描画を行っている点は、かえって画質の高さを感じさせる。 8x異方性フィルタを適用すると、さらにGeForce FX 5950 Ultraが細かい描写を見せる。ジャギー感には大きな違いがないものの、小川の流れを表すテクスチャや石の表面など、明らかにRADEON 9800 XTよりもしっかり描画されているのが分かるだろう。 全体にNVIDIAはシャープ感が強く、RADEONはソフト感が強い傾向にはある。従来、NVIDIAのビデオカードと言うと画質はいまいちという印象が強かったが、今回の結果はこれを覆す印象を受けるぐらいGeForce FX 5950 Ultraが優れた描画を見せているといっていいだろう。
●「最速」とは言いにくいが、それ以上に画質に期待 RADEON 9800 XTに対抗するべく登場したGeForce FX 5950 Ultra。そのパフォーマンスの傾向について、ベンチ結果から読み取れることをまとめてみると、 ・解像度を上げたときのパフォーマンス低下がRADEON 9800 XTより少ない といったところだ。 前者は広いメモリ帯域幅を持つGeForce FX 5950 Ultraが、その力を発揮したと考えていい。アーキテクチャやドライバに差があっても、解像度の向上に関しては、その恩恵を素直に享受できると考えていいわけだ。 後者については、アプリケーション(ゲーム)による得手不得手はあるだろうが、3DMark03とAquaMark3などは、あまりに結果が正反対すぎる印象を受ける。今回のテスト結果だけでは結論が見えてこないのだが、この現象の1つの原因として、ForceWare 52.16のチューニング不足があるのではないかと筆者は推測している。 ImageQualityテストの結果を見る限り、FSAAや異方性フィルタを適用した場合の画質はかなり高く、NVIDIAがこれまで以上に画質を重視してきた感を受ける。一方で、この画質での描画におけるパフォーマンスに関してはチューニングが進んでおらず、特定の描画エンジンではそれなりのパフォーマンスで描けるが、それ以外の描画エンジンだと途端にパフォーマンスが落ちてしまう、というわけだ。 結果として、ベンチマークによって、GeForce FX 5950 Ultraが優秀だったり、RADEON 9800 XTが優秀だったりしてしまい、「どちらが高速か」という、最も気になる部分には決着をつけにくい結果になってしまった。 やや強引に結論をつけてみると、まず、解像度は低めで使いFSAAもかけないという人は、低負荷状態で安定したパフォーマンスを見せるRADEON 9800 XTがいいだろう。 一方で画質にこだわるユーザーは一考が必要だ。解像度を上げることのみで画質向上を狙うならGeForce FX 5950 Ultraで決まりなのは言うまでもないが、FSAAや異方性フィルタをかけたい場合は、現時点では実行するアプリケーション、ゲームに依存すると言うしかない。 ただ、新しいForceWareは明らかに画質向上の傾向を見せており、ドライバのバージョンアップによってFSAA、異方性フィルタ適用後のパフォーマンスが向上するようであれば、改めて評価し直してみたいところだ。 (2003年10月24日) [Text by 多和田新也]
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