三洋電機のデジタルカメラはいつも独創的だ。そして動画機能を早い時期から採り入れ、ほかのデジカメとは一線を画してきた。以前の「マルチーズ」などというネーミングも面白かったが、こんどの「Xacti(ザクティ)」はネーミングだけでなく、スタイルもユニークだ。 フィルムカメラとちがって、デザインの自由度が高いデジカメだが、ほかのメーカーにはないデザインの冒険に踏み切ったカメラである。もちろん、動画機能はより充実しているが、いつもどおりにスチル機能を中心にレビューしてみよう。 ●「なんじゃ、これは!」の面白デザイン XactiのTV CFは「なんじゃ、これは!」というインパクトの強いものだった。昔の刑事ドラマのパロディーなのだが、この独創的なフォルムをアッピールするにはぴったりだった。 そのデザインだが、6面写真を見ていただきたい(写真A)。「これがカメラ?」と思わずつぶやいてしまいそうなスタイルだ。ビデオムービーカメラのデザインにやや近いが、それともまたちがう。片手撮りが基本だが、本来はやってはいけないことだ。カメラの構えが不安定になり、手ブレが起きやすくなるからだ。実際、撮影していて、かなりの確率で手ブレで失敗した。とくにズームで望遠側は要注意だ。デジタルズームも付いているが、その場合にはかならず三脚を使用したほうがいい。
このカメラにはアイピース(接眼部)から覗くファインダーは付いていない。液晶モニタをファインダーとして使うことになる(写真B)。これはちょうどビデオムービーの撮影方法と同じだ。液晶モニタは低温ポリシリコンTFTで、視認性はいいほうだが、1.5型と小さめだ。ボディーが小さいからしかたのないところだが、もうひと回り大きいモニタが欲しかった。 操作部は非常にシンプルだ。液晶モニタの下に電源スイッチがある。また、撮影と再生はカメラ上部のRECとPLAYの切り替えだけですむ。あとはカメラ背面に操作部が集中している(写真C)。片手操作のために考え抜かれた操作系だ。 背面の操作部もわかりやすい。中央にズームスイッチがあり、当然だがTで望遠(35mm判換算で220mmまで)と、Wで広角(同38mm相当)へ電動ズーミングできる(写真D)。素早いズーミングができるのはいいが、止めたいところでなかなか止められない。スチル写真ではきっちりとしたフレーミングをしたいので、もどかしく思うことがあった。ズームスイッチの右は動画スイッチ、左が静止画スイッチである。また、MENUボタンを押して、SETボタンで各種の設定をするようになっている。
記録メディアはSDカードで、ボディ底面に収納するようになっている(写真E)。なお、イメージセンサーは1/2.7型CCDで、有効画素数は約320万画素。静止画では2,048×1,536ピクセル、1,600×1,200ピクセル、640×480ピクセルの3種類が可能。動画は640×480ピクセルの30fpsで画質のちがう2種類のほか、320×240ピクセルの30fpsと15fps、さらに176×144ピクセルの15fpsと多彩だ。さすがに「デジタルムービーカメラ」と謳っているだけのことはある。 ストロボはレンズの下に組み込まれているが、これは位置としてよくない。下からの照明になってしまうからだ。やはりムービーカメラのおまけなのだろうか。 使用電池は専用のリチウムイオン電池で、側面に収納する(写真F)。この電池がかなりのスペースをとっている。電池のもちはかなりよく、テスト期間中、数度の充電ですんだ。 また、電池をカメラにセットしたままの充電もできる。専用のドッキングステーション(クレードル)にセットすればいい(写真G)。また、このドッキングステーションを使って、PCやテレビと接続することもできるプリンタに接続するときにもこのドッキングステーションを使う。単に「クレードル」と名乗らなかったのは、このようにマルチな機能を持っているからだ。
設定はすべてMENUボタンをおして、液晶モニタを見ながら、SETボタンで行なう。プログラムAEだけだが、シーンセレクタがあり、ISO感度も変えられる。またホワイトバランスもマニュアル(プリセット)で変更できる。さらに、フィルタ機能とか、いろいろな芸当ができるカメラである。画面表示の代表的なところを掲載しておこう(写真H1~H4)。
●写り具合は想像したよりもいいが…… さて、いつもどおりの実写テストだが、このカメラのデザインはいいが、じつは写りにはあまり期待していなかった。手ブレしやすいし、レンズ自体もズーム比が大きい割には小型で、これできちんと写れば儲けものと思っていたぐらいだ。どうせ動画主体のカメラだから、静止画には期待していなかったのである。 ところが、定点観測のビルの撮影で予想をいい意味で裏切られた。最高画質となるように、感度はISO50に設定して撮影しているが、全体にシャープである。AFの測距ミスもない。広角側のテストでは意外と測距ミスが起きる被写体なのだが、今回はピントぴったりだった(写真1)。歪曲もほとんどなく、優秀な画質である。プログラムAEだが、露出もぴったりで、分割測光の威力を見せてくれた。 望遠側でも、シャープでコントラストの高い画像が得られた(写真2)。こんな小さなカメラでも、これだけ写るというのは驚きである。1/2.7型のイメージセンサーで、レンズの焦点距離も短いことも影響しているのだろう。しかし、望遠側で、これだけのピント精度が得られるということは、このAF機構もなかなか優秀であるということだ。像面AFで測距点が表示されるため、どこにピントがあっているかわかる。これで測距点を自由に移動できるようになると、さらに使いやすくなると思う。 定点観測の2番目は夜景であるが、これもプログラムAEまかせ。ただし、できるだけ遅いシャッター速度で写せるように、ISOは50に設定した(写真3)。電動ズームのために、いつもと同じ画角に揃えるのがひと苦労だった。画質のほうは、あまり良くない。AFもこのような被写体は苦手なのだろう。やや測距ミスが見られた。ノイズは1/2.7型CCDにしては少ないほうである。露出時間(シャッター速度)がプログラムAEのため、2秒になっているのも、長時間露出のノイズが目立たない原因だろう。 もうひとつの定点観測である特急列車の通過シーンは静止画ではパスして、動画にまかせた。 動画機能はMPEG-4に準拠している。いちばん高画質の640×480ピクセルのSHQで撮った。30fpsだから、特急電車でもスムーズな動きで撮れた。やはり、このカメラの本領はムービー撮影なのだろう。
いつもどおり、人物撮影のテストも行なった。35mm判換算で約180mm相当とやや焦点距離を長くして撮影している。これはイメージセンサーが小さいため、背景をボケさせるためだ。曇天だったが、まずはオートホワイトバランスまかせで撮影(写真4A)。かなりきれいな色となったし、ピントもほぼ左目に合っている。ただ、背景のボケ味はあまり良くないが、このタイプのカメラにそこまで要求するのは酷だろう。 マニュアルホワイトバランスで曇天モードにセットして撮ってみると、やや補正過剰だ。黄色みがかってしまい、不自然である。このカメラはオートホワイトにまかせるほうがいいようである。
とは言っても、電灯光ではやはり赤くなってしまう。白熱電球の雰囲気を出すためと、夕日朝日をオートホワイトでもある程度赤く写るように追尾を一定の色温度で打ち切っているのだ(写真5A)。自然な色にしようと思うなら、マニュアルホワイトバランスで白熱電球のモードを選んだほうがいい(写真5B)。ただ、この白熱電球モードはやや補正不足のようで、まだ黄色っぽい。
蛍光灯に照らされた場合には、オートホワイト(写真6A)でも、マニュアルの蛍光灯モード(写真6B)でも、大きな差はなかった。マニュアルではもう少し補正をしてくれたほうがいい。 なお、人物撮影では被写体ブレを避けるために、今回はISO100で撮影している。
このカメラは手ブレしやすいが、注意して写せば、だいじょうぶな場合もある。プログラムAEまかせだから、ISO感度を上げて写すのがいいが、やはりノイズが気になる。このため、ISO100どまりにしておいたほうがいいだろう。うす暗い場所で、1/10秒で撮影したが、ほとんど手ブレは起きていない(写真7)。やはりこの独特のカメラの形状をどうホールドすればブレないか、慣れが必要である。 接写モードにすると、かなりの超接写が可能となる。ただ、焦点距離が長いとピントが甘くなる傾向があるので、中間ぐらいの焦点距離がいい(写真8)。このバラのアップは35mm判換算で約80mmで撮影したものだが、なかなかシャープに写っている。絞り込めないので、ピントが1点にしか合っていないが、色もきれいでいい。 小さなイメージセンサーというとノイズとともに心配なのがダイナミックレンジだ。しかし、明暗の差の激しい被写体を撮影しても、白飛びは起きなかった。ビルの定点撮影の左上の白い看板もじつは白飛びチェックができるのだが、これでも看板の調子が出ている。このカメラはダイナミックレンジでは問題がないようである。
なお、添付のソフトは静止画のビューワーと動画の編集の2種類がある。このうち、静止画のビューワーソフトはなかなかわかりやすくていい(画面1)。 SANNYO Xactiは手ブレさえ注意すれば、なかなかよく写るカメラである。プログラムAEだけでなく、絞りやシャッター速度が設定できたりすれば、もっと撮影の領域が広がるだろう。ちょっとしたムービーを撮りたいなら、デジタルムービーカメラを持ち出すまでもなく、このカメラで十分だ。 □三洋電機のホームページ ■注意■
(2004年1月19日)
【PC Watchホームページ】
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