今回の本題とは関係ないが、1つ興味深いソフトウェアを紹介しておきたい。筑波大学1年生の登大遊氏が開発、12月17日に無償公開した「SoftEther」がそれだ。SoftEtherは簡単に言えば、Ethernetの動作手順をそっくりそのまま真似るソフトウェア。ソフトウェアでEthernetカードの動作手順も、HUBの機能もエミュレートする。 物理的な情報の伝達は、TCP/IPパケットの中にカプセル化される。つまりトンネリングを用いたVPNの一種だが、システムからは通常のEthernetアダプタと全く同一に見えるため、既存ソフトウェアとの親和性が非常に高い。 またファイアウォール越えが非常に簡単なことも特徴のひとつだ。Softetherは1つだけTCPポートを使うが、直接繋ぐ方法以外にも、8080ポートなどを通じてSSLセッションに見せかけるなど、様々なネットワーク環境下において、シームレスな仮想ネットワークの構築を可能にする。NATフリーなプロトコル設計にもなっており、暗号化もエンドツーエンドで行なわれるため、高価なVPNルータを用意しなくとも簡単に自宅LANにアクセス可能な環境を作り出すことが可能だろう。 興味がある人は、公開されているβ版を試してみるといい。実験用の仮想HUBがインターネット上に公開されており、誰もが自由にSoftEtherの動作を確認できる。 【追記】 【追記】 ●IP電話じゃなくてインターネット電話な理由 さて今回のお題はインターネット電話である。最近はIP電話の番号が付与されたことを受けてか、インターネットを通じた電話サービスの話題が少なくなっているようだ。しかし、実際にIP電話を導入してみてもなかなか無料電話の相手がいなかったりする。IP電話は特定のサービス提供会社が作るネットワークの中で提供される電話サービスなのだから、当然と言えば当然。異なるISPを使っている知り合いとは無料では繋がらない。 これに対してインターネット電話は、文字通りインターネットを通じて音声通信を行なうため、ISPに依存しないサービスが可能だ。発信と着信を仲介するサービスに同じものを使っていれば、誰もがインターネットを通じた無料通話が誰でもできる(もちろんインターネットへの接続料金は別だが)。 インターネット電話には一般加入者電話などからダイヤルする番号が付与されないため、通常の電話の置き換えとして利用することはできない。総務省によるとインターネットが間に入ると、通信遅延やパケットロスなどの品質保証を行なえないから、というのが理由だが、実際に使ってみると多くの場面で問題なく利用できることがわかる。ここ数年の急速なブロードバンドの普及により、インフラの強化が進んだことも一因と言えるかもしれない。 従って限られた仲間内で通話するのであれば、インターネット電話の方がずっと便利なことも多いのだ。実際、僕の周りでは米国でサービスが開始されているSIPphoneが流行している。SIPphoneはLindows.comのCEOであるMichael Robertson氏が始めたサービスで、あらかじめパラメータが設定されたSIPベースの電話機をEthernetにプラグするだけで通話が可能になる。
このサービスを利用するためには、専用の電話機もしくはアダプタが必要だが、言い換えれば専用ハードウェアさえ購入すれば、普通の電話感覚でインターネット電話を利用できるとも言える。SIPphoneと同じサービスは、Livedoorで知られるエッジが国内でも提供を開始しているので、そちらを購入する手もある。 仲間内や実家との間を、SIPphoneでつなぐというのが正当な使い方だろうが、個人的には長期の出張時、ホテルがブロードバンド回線をサポートしているのであれば、SIPアダプタをスーツケースに詰め込んで出掛け、自宅との間で無料通話を楽しむという使い方を考えてみた。海外出張が多い人ならば、元手はあっという間に取れてしまうだろう。 ●専用アダプタなしでも無料通話 SIPphoneのいいところは、インターネット電話に必要な設定が不要なこと。購入してインターネットに接続すれば、誰でも簡単にサービスを利用できる。みんなで示し合わせて購入したり、あるいは2台セットで購入して1台を誰かにプレゼントするというのもいいだろう。エッジの提供している国内向けサービスの場合、加入者電話との発信・着信を可能にするサービスも提供されており、特に米国向け発信は非常に安価だ。 加入者電話からのダイヤル方法などについては、実際に日本のSIPphoneを利用していないため不明だが、直接ダイヤル可能な番号を付与できないため、何らかのゲートウェイを通じた通話になるだろう。 またエッジは携帯電話型のSIP対応電話機を来年1月に発売する予定だ。こちらはEthernetではなく無線LANを用いたサービスとなる。無線LANアクセスサービスなどから利用するために持ち歩くか? という点には疑問もあるが、自宅用のコードレスIPフォンとして利用するのはいいかもしれない。 ただ、手軽に使いたいだけという人は専用電話機やアダプタの購入を躊躇するかもしれない。しかしSIPの設定を自分で行なう気があるならば(たいていのモバイルPCユーザーのスキルならば難しい作業ではない)、あちこちにある無料のSIPサーバとPC用SIPクライアントを用いることも可能である。
たとえばFree World Dialup(FWD)の場合、登録ユーザーは無料でSIPを用いたサービスを受けられる他、米国のフリーダイヤル(1-800や1-888など)をはじめ、UK、フランス、オランダへのフリーダイヤルに無料電話をかけることも可能。しかも留守番電話機能も有し、指定したメールアドレスに留守番電話の内容を送信する機能もある。 FWDのサービスにサインアップし、自動接続できるようにカスタマイズされたSIP対応インターネット電話プログラム(FWD専用のX-Lite)も無償配布されているので、FWDのWebページから申し込みを行なわなくとも利用することは可能だ。英語が不得手な人でも、専用版X-Liteを使えば比較的容易にFWDを楽しむことができるだろう。X-Liteはルータを導入しているユーザー向けの設定も行なえる。 SIPphoneで使う電話機や、シスコ製のIP電話機、あるいはSIP対応をうたっている電話アダプタをFWDで利用することもできる。SIPphoneの場合、本体が取得しているIPアドレスに対してWebブラウザでアクセスしてみると、SPIパラメータを編集するページが表示される。電話機を持っていないPCユーザーとも通話したいならば、ここの内容をFWDのものに入れ替えることで、SIPphoneの機材を用いつつFWDに乗り換えることもできる。 ●NATフリーで使える便利なH.323サービスも 日本の会社が運営しているインターネット電話サービスもいくつかある。主な日本でのインターネット電話サービスは、前述したSIPphone以外にもIPtalkとSelecomが行なっている。IPtalkは専用端末を用いる方式だが、SelecomのVPHONEは専用端末とWindows用ソフトウェアの両方から利用が可能だ(PocketPC版も開発中とのこと)。ここではPC用ソフトウェアを提供している「VPHONE」を実際に利用してみた。
VPHONEがユニークな点は、SIPではなくH.323をベースにしたサービスであること。H.323はIPベースでのテレビ電話を実現するプロトコルである。 このため、VPHONEにはテレビ電話端末が用意されており、Windows用のVPHONEクライアントは動画も扱える。ただし音声通話専用の端末やアダプタも用意されており、加入者電話への通話料も国内に限ればトップクラスの安さ(単純な比較は難しいため、http://www.selecom.co.jp/info/press.htmlを参照)という点からもわかるとおり、電話サービスとしての色が濃い。 VPHONEの利用は完全無料ではなく月額基本料500円の有償サービスとなる。しかし携帯電話への通話料金が毎分20円と安いため、使い方次第では十分に元が取れるだろう。一般加入者電話への通話料金も毎分7.5円と相場より安めだ。 H.323は自IPアドレスを通信フレームの中に埋め込むため、IPアドレスを変換するIPマスカレードなどとの相性が非常に悪いことで知られる。自宅からの利用だけならば、UPnPルータを用いることで解決できるが、無線LANアクセスポイントやインターネット対応ホテルなどから利用する場合は使えないことが多い。 しかしVPHONEではSelecomで用意するプロクシサーバを経由することで、通信フレーム内のIPアドレスを動的に差し替え、どんな場所からアクセスしても問題なく通話可能な非常に使い勝手の良いサービスを実現している。 またH.323対応のネットワーク機器が安価になってきていることが、料金を安く設定できた最大の要因とのことだ。今後、SIPによるサービスが増加すると、音声サービスだけならばSIPの方がコスト効率が良くなる可能性もあるが、Selecomではマーケットの状況を見てSIPへの移行も見据えているという。Selecom側でH.323とSIPの両方のサービスを用意し、相互に乗り入れるためのゲートウェイを設置することで、ユーザー自身はどちらのプロトコルを利用しているのかを意識することなくインターネット電話を利用できる。 通話品質もSIPを用いたインターネット電話とほとんど変わらず、遅延時間をそれほど意識することはない。さすがにAirH"128k経由で通話をしているとコンマ数秒の遅延を感じるが、会話で大きな違和感を感じるほどではない。もちろん、より高速なネットワーク下では遅延は小さくなる。 ただしひとつだけ問題がある。それはVPHONEからの発信時、VPHONEに対しては番号通知が行なわれるが、加入者電話や携帯電話に対しては発信者番号が非通知になってしまうこと。特に携帯電話にコールする際、相手が通話を受けてくれない(非通知時、ベルが鳴らないように設定している人もいるだろう)可能性がある。 とはいえ、VPHONEユーザー同士の会話だけを考えても、NATフリーで誰もが簡単にパソコンを使ってインターネット電話を楽しめる優位性は揺るがない。長距離の電話代に悩んでいるならば、FWDやSIPphoneも含め、IP電話とはちょっとだけ違うインターネット電話の利用を検討してみてはいかがだろうか。僕は早速1月の米国出張時、いずれかのサービスを利用してみることにしたい。
□SoftEther (2003年12月24日) [Text by 本田雅一]
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