東芝から登場したdynabook SS SXシリーズは、12.1型液晶パネルを搭載した1スピンドルモバイルノートであり、薄さを追求したdynabook SS Sシリーズとは異なり、底面積(フットプリント)の縮小と軽量化を追求していることが特徴だ。 中でも、1.8インチHDDを搭載した超軽量モデル「dynabook SS SX/210LNLN」は、12.1型液晶搭載ノートとしては、世界最軽量となる約995gを実現したことがウリだ。同時に、重さ約1.1kgの高機能モデル「dynabook SS SX/210LNLW」も発表されており、製品としてのトータルバランスという点ではこちらも魅力的だ。今回はこの両機種を入手したので、早速レビューしていきたい。
東芝の1スピンドルモバイルノートPCとしては、最薄部14.9mmを実現したdynabook SS Sシリーズが有名だが(現行モデルは、超低電圧版Pentium M 1GHzを搭載したdynabook SS S9)、今回新たに登場したdynabook SS SXシリーズは、dynabook SS Sシリーズとは別の製品群である。 dynabook SS SXシリーズとdynabook SS SシリーズはどちらもCPUとして超低電圧版Pentium Mを搭載し、12.1型液晶パネルを搭載するなど、スペック的には似ているが、ボディデザインは大きく異なる。dynabook SS S9の本体サイズは、286×229×14.9~19.8mm(幅×奥行き×高さ)であるのに対し、dynabook SS SXの本体サイズは、268×210×27.8~34.6mm(同)である。dynabook SS SXでは、dynabook SS S9に比べて、幅が18mm、奥行きが19mm小さくなっており、見た目の印象もずいぶんコンパクトになった。その代わり、厚さは12.9~14mm厚くなっている。 12.1型液晶を搭載したコンパクトで軽量な1スピンドルモバイルノートPCとしては、松下電器産業のLet'snote T2があるが、Let'snote T2の本体サイズは、268×210×26.1~39.1mmで、奇しくも幅と奥行きはdynabook SS SXと全く同じである。ただし、Let'snote T2は、バッテリ部分の厚みがやや大きいので、持ち運びやすさという点では、dynabook SS SXのほうが多少有利であろう。 dynabook SS SXシリーズは、全く同じボディを採用した2つのモデルが発表されている。1つは1.8インチHDDを搭載し、無線LAN機能などを省略した超軽量モデルのdynabook SS SX/210LNLN(2004年1月下旬発売予定)で、もう1つが2.5インチHDDを搭載し、IEEE 802.11b/g対応無線LAN機能を搭載した高機能モデルのdynabook SS SX/210LNLW(2003年12月上旬発売)である。 重量は前者が約995g、後者が約1.1kgであり、12.1型液晶搭載ノートとしては、トップクラスの軽さを実現している。特に、超軽量モデルdynabook SS SX/210LNLNの約995gという軽さは、これまで12.1型液晶搭載ノートとして世界最軽量を誇っていたLet'snote T2の軽量モデル「CF-T2BC2AXP」(直販サイト限定モデル)の約999gよりも約4g軽く、現時点で世界最軽量となる。 dynabook SS SXの超軽量モデルと高機能モデルでは約105gの重量差があるわけだが、実際に両製品を持ち比べてみると、重さ約1.1kgの高機能モデルでも非常に軽く感じられ、超軽量モデルとの重量差はそれほど感じられなかった。 最近の1スピンドルモバイルノートPCでは、重さ1kg台前半を実現している製品が増えてきているが、dynabook SS SXの約995gと約1.1kgという重量は、中でも群を抜く軽さであり、高く評価したい。
超軽量モデルのdynabook SS SX/210LNLN(以下LNLN)と、高機能モデルのdynabook SS SX/210LNLW(以下LNLW)は、どちらも同じボディを採用しており、CPUやチップセットなどの仕様もほぼ同じだ。 両機種ともに、CPUとして超低電圧版Pentium M 1GHzを搭載し、チップセットとしてグラフィックス統合型チップセットのIntel 855GMを搭載する。メモリは標準で256MB実装しているが、SO-DIMMスロットを1基装備しており、最大1,280MBまで増設が可能だ(1GB SO-DIMM利用時)。 ボディの材質には、マグネシウム合金が採用されており、軽さと強度を両立させている。dynabook SS SXの液晶カバーは、中央に曲線の凹凸を持つ独特の形状(「スプーンカット」と名付けられている)になっているが、これも外からの圧力を分散して吸収するための工夫である。スプーンカットの盛り上がった部分を指で強く押すとかなりたわむが、このたわみによって応力を吸収し、液晶パネルにストレスがかからないようになっているわけだ。底面にも、楕円形に盛り上がった部分があるが、これも外部からの衝撃を吸収・分散するための仕組みだ。 ディスプレイとしては、12.1型低温ポリシリコンTFT液晶パネルが採用されている。通常のアモルファスシリコンTFT液晶に比べて開口率が高いため、鮮明な表示が可能だ。 超軽量モデルのLNLNと高機能モデルのLNLWの本体重量以外の相違点は、「HDD」「無線LAN機能」「CFカードスロット」「バッテリ駆動時間」の4点である。LNLNでは、軽量化を追求するために1.8インチ20GB HDD(試用機では東芝製MK2004GAL)を搭載しているが、LNLWでは2.5インチ40GB HDD(試用機では東芝製MK4025GAS)を搭載している。 1.8インチHDDは、重量や消費電力の点では有利だが、容量やパフォーマンスに関しては2.5インチHDDに比べて劣る。同じ1.8インチHDDを採用したdynabook SS S9のHDD容量は40GBだが、LNLNでは、少しでも軽くするために1プラッタの1.8インチHDDを採用しており、容量が20GBと少ないことにも注意したい。 また、LNLWでは、IEEE 802.11b/g準拠の無線LAN機能を内蔵しているが、LNLNでは省略されている。 CFカードスロットについても、LNLWのみ装備しており、LNLNでは省略されている。ただし、PCカードスロット(Type2×1対応)とSDカードスロットは両機種共通で装備している。 バッテリ駆動時間については、1.8インチHDDを搭載したLNLNのほうが長く、JEITA測定法1.0に基づく公称駆動時間が約5.4時間とされているのに対し、LNLWでは約5時間である。
dynabook SS SXシリーズでは、dynabook SS Sシリーズに比べて、フットプリントが縮小されているため、キーボードにややしわ寄せがきている。dynabook SS Sシリーズのキーボードのキーピッチは19mm、キーストロークは1.7mmであり、不等キーピッチもなく、配列も標準的でタイピングしやすかった。また、ファンクションキーと数字キーの間にスペースが設けられていることも、入力ミスの低減に貢献していた。 dynabook SS SXシリーズでは、カタログに表記されているキーピッチは19mm、キーストロークは1.7mmで、数値だけ見ればdynabook SS Sシリーズと全く同じなのだが、キーボードの縦ピッチが縮められている。 いわゆるキーピッチは横ピッチを意味するのだが、縦ピッチも重要である。デスクトップのフルキーボードなどでは、横ピッチと縦ピッチがほぼ等しい(つまり、キートップがほぼ正方形)。dynabook SS Sシリーズのキーボードも、キートップがほぼ正方形であったのだが、dynabook SS SXシリーズのキーボードでは、縦ピッチが16.5mmに縮められているため、キートップが横長の長方形となっている。また、「む」「ろ」などの右端に近いキーは、横ピッチも短くなっているほか、ファンクションキーと数字キーの間のスペースもなくなっている。 キータッチはdynabook SS Sシリーズとあまり変わっておらず、比較的良好なのだが、縦ピッチが狭くなったことについては、慣れるまで違和感を感じる人もいるだろう。 ポインティングデバイスとしては、タッチパッドが採用されている。これもパッドそのものの操作性はいいのだが、左右のボタンが小さく(特に縦方向)なっているので、最初は、従来と同じような感覚でクリックしようとしてもうまく入力されず、戸惑うことがあった。もちろん、こちらも慣れてきてからは、気にならなくなったのだが。
dynabook SS SXは、インターフェース類も充実している。USB 2.0×3とモデム、LAN、外部ディスプレイの各ポートに加えて、PCカードスロット、SDカードスロット、CFカードスロット(LNLWのみ)を装備しているので、拡張性も十分である。 PCカードスロットのフタは、観音開き式に中に倒れ込むタイプになっているので、フタをなくしてしまう心配はないが、CFカードスロットのフタはダミーカード方式なので、フタをなくしてしまう恐れがある。ちなみにdynabook SS S9では、USB 2.0ポートは2基で、CFカードスロットも装備していないので、拡張性を比べた場合、dynabook SS SXシリーズ(特にLNLW)に軍配が上がる。 操作性の面では、電源スイッチが本体前面に配置されていることも面白い。ディスプレイのフタを閉めた状態でも電源を入れることが可能なので、オフィスや自宅の机の上では、外付けキーボードと外部ディスプレイを接続して、デスクトップ代わりとして使う場合も便利だ。移動中に誤って電源が入ることを防ぐために、電源スイッチの横に電源スイッチロックが用意されている。 また、ディスプレイを閉めている状態での電源スイッチの動作は、Windows上で動作するユーティリティ「東芝HWセットアップ」やBIOS設定によって、有効/AC駆動時のみ有効/無効に切り替えできるようになっているなど、細かいところまで配慮されている。 また、無線LAN機能内蔵のLNLWでは、無線LAN機能をオンオフするためのワイヤレスコミュニケーションスイッチが右側面に用意されているので、航空機内など無線LAN機能をオンにしてはいけない場所で使う場合などにも便利だ。
OSはWindows XP Home Editionで、Officeはインストールされていないが、代わりにデジタルノートアプリケーションの「Office OneNote 2003」がプリインストールされている。その他、東芝独自のネットワーク切り替えユーティリティ「ConfigFree」や路線検束ソフト「駅すぱあと」、音声認識/合成ソフト「LaLaVoice 2001」など、モバイルシーンで役立つアプリケーションもプリインストールされている。 ConfigFreeも最新バージョンとなり、近くで使われている無線LANアクセスポイントのSSIDを検出し、信号の強さに応じた光点をレーダーマップ上に示してくれる「ワイヤレスデバイス検索機能」も追加されている。 また、東芝独自の省電力ユーティリティもよくできており、4段階のバッテリ残量に応じて、バックライトの輝度やCPUの処理速度などを制御することが可能だ。
dynabook SS SXのバッテリは比較的小型だが、10.8V、3,160mAhという仕様であり、セルの数は6本である。dynabook SS Sシリーズでは、標準バッテリ、中容量バッテリ、大容量バッテリ(オプション)という3種類のバッテリが用意されているが、dynabook SS SXシリーズでは、今のところ標準バッテリ以外のバッテリは用意されていない。 前述したように、標準バッテリでも公称約5.4時間(LNLNの場合、LNLWでは約5時間)という長時間駆動が可能なので、大容量バッテリを用意する必要はないという判断なのであろう(ちなみに、松下電器のLet'note T2にも大容量バッテリは用意されていない)。ACアダプタのサイズが小さいことも評価できる。
今回は超軽量モデルと高機能モデルの2台を試用したのだが、超軽量モデルのLNLNは試作機でベンチマーク不可とされていたので、製品版を試用した高機能モデルのLNLWのみベンチマークテストを行なってみた。 ベンチマークプログラムとしては、BAPCoのMobileMark2002およびSYSmark 2002、Futuremarkの3DMark2001 SE、id softwareのQuake III Arenaを利用した。なお、統合チップセットのIntel 855GMはハードウェアT&Lエンジンを搭載していないため、ハードウェアT&Lエンジンを必要とするFINAL FANTASY XI Official BenchMarkは実行していない。 MobileMark2002は、バッテリ駆動時のパフォーマンスとバッテリ駆動時間を計測するベンチマークであり、SYSmark 2002は、PCのトータルパフォーマンスを計測するベンチマークである。また、3DMark2001 SEやQuake III Arenaでは、3D描画性能を計測することができる。 MobileMark2002については、電源プロパティの設定を「ポータブル/ラップトップ」にし、それ以外のベンチマークについては、AC駆動時(電源プロパティの設定は「常にオン」)にして計測した。 結果は下の表にまとめたとおりである。なお、比較対照用に、同じ超低電圧版Pentium M 1GHzを搭載したNECのLaVie J LJ700/7Eのベンチマーク結果もあわせて掲載している。 【dynabook SS SX/210LNLWベンチマーク結果】
バッテリ駆動時のパフォーマンスを計測するMobileMark2002のPerformance ratingの値は130で、超低電圧版Pentium M 1GHz搭載マシンとしては標準的な性能である。ただし、今回は試作機のためテストできなかったが、1.8インチHDD搭載の超軽量モデルLNLNでは、ディスクパフォーマンスが落ちるため、スコアは下がるものと予想される。 バッテリ駆動時間を示すBattery life ratingのスコアは218で、3時間38分の駆動が可能ということになる。実際には、バックライトの輝度やパワーマネージメントの設定、利用するアプリケーション次第で、さらに長時間の駆動も行なえるだろう。LaVie J LJ700/7Eに比べて40分長い記録であり、バッテリ駆動時間についてはかなり優秀だといってよい。 AC駆動時のパフォーマンスを計測するSYSmark 2002のスコアも、LaVie J LJ700/7Eと同等であり、性能について不満はないレベルである。 3D描画性能を計測する3DMark2001 SEやQuake III Arenaの結果は、LaVie J LJ700/7Eに比べてかなり低いが、これはビデオチップの違いによるものだ。dynabook SS SXシリーズでは、グラフィックス統合型チップセットのIntel 855GMの内蔵コアを利用して描画を行なっているのに対し、LaVie J LJ700/7Eでは、単体ビデオチップのMOBILITY RADEON 7500を搭載している。 MOBILITY RADEON 7500のほうが3D描画性能がはるかに高いので、この結果も妥当なものである。このクラスの1スピンドルモバイルノートPCでは、統合型チップセットの採用が一般的であり、むしろLaVie J LJ700/7Eの3D性能が突出しているといえる。
dynabook SS SXシリーズは、dynabook SS Sシリーズの後継という位置づけではなく、両者は併売されていくという。dynabook SS SXシリーズとdynabook SS Sシリーズは、どちらも携帯性の高い1スピンドルモバイルノートPCであるが、そのコンセプトは多少異なる。 キーボードの使い勝手と薄さ、大容量バッテリ装着時の駆動時間を重視するならdynabook SS S9、拡張性とフットプリントの小ささ、標準バッテリでの駆動時間を重視するならdynabook SS SXを選ぶことになるだろう。 dynabook SS SXは、モバイルノートPC分野において豊富な実績と技術を誇る東芝の製品だけあって、完成度は非常に高い。超軽量モデルLNLNの実売価格は21万円前後、高機能モデルLNLWの実売価格は22万円前後とされており、dynabook SS S9(実売価格は23万5千円前後)に比べて、コストパフォーマンスが高いことも魅力だ。 超軽量モデルのLNLNと高機能モデルのLNLWのどちらを選ぶかということだが、価格差が1万円しかないのであれば、重量は105gほど重くなるが、無線LAN内蔵で、HDD容量も2倍の40GBになり、CFカードスロットも追加されたLNLWのほうが製品としてのトータルバランスは高いといえる。超軽量モデルのLNLNは発売時期がLNLWよりも1カ月半くらい後で、台数限定とされていることからも、やはり数が出るのはLNLWという判断なのであろう。 □関連記事 (2003年12月18日)
[Reported by 石井英男]
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