笠原一輝のユビキタス情報局

939ピンプラットフォームと90nmプロセスの導入を急ぐAMD




 11月6日(現地時間)、AMDは毎年恒例となっている証券アナリスト向けの説明会を開催。その中で同社のロードマップをアップデートした。説明会の中ではロードマップの詳細についてほとんど明らかにされなかったが、別途、AMDが報道関係者向けに行なった説明の中で、徐々にその詳細が明らかになってきた。

 今回は、AMD コンピュテーションプロダクトグループ デスクトッププロダクトマネージャのジョン・モリス氏との質疑応答やOEMメーカー筋情報などから明らかになってきたAMDの2004年、および2005年の戦略についてレポートしたい。

AMDが公開したロードマップ


●940ピンに比べて安価なプラットフォームとなる939ピンソケット

 現在AMDのデスクトップPC向け製品は、ゲームユーザーなどエンスージアスト(熱狂的な)ユーザーに向けた「Athlon 64 FX」、メインストリーム市場のうち、ハイエンドユーザー向けの「Athlon 64」、さらにメインストリームからバリューまでをサポートする「Athlon XP」という3製品がラインナップされている。実際には、超低価格向けのDuronもチャネル向けにリリースされており、4製品と言ってもよい。

 2004年のAMDは、基本的にこの路線を維持しつつ、各製品の位置付けをより明確なものへと変更していく。

 Athlon 64 FXに関しては、基本的にこれまで通り、1MBのL2キャッシュを搭載し、デュアルチャネルDDR400をサポートするという、エンスージアストユーザー向け製品という位置付けに変更はない。

 しかし、CPUソケットに関しては、939ピンの新ソケットへ移行する。「当社は来年の前半に939ピンのソケットを導入する。これはFXのスペースだけでなく、パフォーマンスセグメントやメインストリームセグメントまでをカバーするものとなる」(モリス氏)と、現行の940ピンからの移行を公式に明らかにした。

 モリス氏によれば、939ピンプラットフォームのメリットは、940ピンプラットフォームに比べて2つの点で低コストにできることだという。

 AMDは元々940ピンのプラットフォームをワークステーション向けと位置付けていたため、マザーボードは高コストな6層基板を採用しており、メモリも高価なRegistered DIMMが利用されている。これに対して939ピンのマザーボードでは「4層基板を採用し、Unbufferd DIMMをサポートすることで、より低コストになる」(モリス氏)と、性能はそのままで低コスト化が実現可能としている。

 なお、このことは既存の940ピンのプラットフォームを切り捨てるということではないとモリス氏は強調する。「我々はこのセグメントのハイエンドユーザーを大事にしたいと考えており、顧客が必要とするのであれば940ピンのAthlon 64 FXをリリースしていきたい」(モリス氏)という意向を表明している。

●メインストリーム市場では939ピンのNewcasstleと754ピンAthlon 64が共存

 メインストリーム市場は、現在Athlon 64とAthlon XPの両製品でサポートしているが、AMDは急速にAthlon 64を立ち上げ、メインストリーム市場のほとんどをAthlon 64でカバーしたいと考えているようだ。

 メインストリーム市場向けに投入される新製品が、開発コードネーム“Newcasttle”(ニューキャッスル)と呼ばれる製品だ。モリス氏はNewcasstleに関しては939ピンソケットを採用したCPUで、メインストリーム向けとなるとだけ説明し、キャッシュ容量などについては明かさなかった。

 ただし、Newcasstleに関してはAthlon 64というパフォーマンス~メインストリーム向けセグメントに位置付けていることを明確にしており、上位モデルのAthlon 64 FXとは何かが違っていなければいけないはずだ。OEMメーカー筋の情報によれば、AMDはNewcattleのL2キャッシュを512KBとする計画であるという。このキャッシュサイズの違いにより、Athlon 64 FXと差別化することになるという。

 だが、すでにメインストリーム市場には、L2キャッシュが1MBの754ピンAthlon 64が投入されている。こちちらは、メモリがシングルチャネルのため、それでAthlon 64 FXとの差別化が図られている。つまり、Newcasstleリリース後には、

 ピン数L2キャッシュメモリ
Newcattle939ピン512KBデュアルチャネル
Athlon 64754ピン1MBシングルチャネル

 という2つの製品がパフォーマンス/メインストリーム市場に併存することになる。

 このように異なるL2キャッシュ、メモリチャネル数の製品が同じ市場に混在することにすることで、顧客が混乱しないかという心配もあるが、AMDの場合は製品のグレード表記に、クロック周波数ではなくモデルナンバーを採用しているため、特に大きな問題はないと考えられる。

 例えば、2.1GHzのAthlon 64と2GHzのNewcattleがほぼ同じ性能だったとすれば、どちらも3300+など、同じモデルナンバーにできるので、エンドユーザーが製品を購入する場合に混乱は起きないだろう。AMDが数年前に導入したモデルナンバーが、ここで生きてくるわけだ。

 AMDがNewcattleをAthlon 64(ClawHammer)のL2キャッシュの半分を無効にしたハーフキャッシュ版として製造するのか、それとも最初から512KB版として製造するのかどうかは明確ではないが、後者であれば歩留まりの点でも意味は大きいだろう。というのは、キャッシュがダイサイズに占める割合は大きく、1MBのキャッシュを搭載しているAthlon 64(ClawHammer)のダイサイズは193平方mmとPC用のダイとしてはかなり大きくなっている。このことがAMDのAthlon 64の歩留まりに大きな影響を与えていると考えることができる。

 このため、仮にNewcattleを最初から512KBで製造するのであれば、歩留まりは向上し、より多くのCPUを市場に投入することが可能になる。AMDにとっても大きな意味があるのだ。

●32bitモードのみに制限されたParisでバリューセグメントにK8を落とし込む

 現在バリューセグメントは、K7コアのAthlon XPの低モデルナンバーグレードがカバーしている。今後はバリューセグメントもK8コアのものに移行していくという。それが、来年の後半に投入される開発コードネーム“Paris”(パリス)だ。

 ParisはK8のテクノロジーを採用したCPUコアとなり、754ピンソケットで提供される。AMDは公式にはParisのキャッシュサイズを公開していないが、OEMメーカー筋の情報によればL2キャッシュは256KBとなる公算が強いという。

 Parisにはもう1つ別の特徴がある。「K8のテクノロジを利用したAthlon XP(筆者注:Parisのこと)では、32bitのみをサポートすることになるだろう」ということで、64bitモードをサポートしないというのだ。

 K8コアのCPUではLMEというレジスタの設定により、CPUがレガシーの32bit x86プロセッサとして動作するのか、それともAMD64プロセッサとして動作するのかを決定している。32bitのみサポートするということは、LMEの設定を32bitに固定し、64bitの設定をできないようにするということだろう。

 「バリュー市場では何よりも価格が重要だ。パフォーマンス市場では技術的なメリットも理解を得やすいが、バリュー市場はそうではない。そこで、我々はバリュー市場では32bitだけとすることでより安価に提供できるようにした」(モリス氏)と、差別化のため、32bitに制限したとモリス氏は説明する。

 AMDにとってこの戦略が正しいと言えるかどうかは、IntelがいつYamhillを出荷するのか次第だろう。AMDはIntelがYamhillを武器にデスクトップPC市場で64bitと言い出す前に、AMD64のポジションをある程度は確立したいはずだ。ソフトウェアベンダにAMD64をサポートしてもらうためには、市場にAMD64をサポートしたPCが多く出回る、つまりインストールベースを増やしていく必要がある。最も数が出るはずのバリューセグメントにおいて32bitのみとすることで、AMD64のインストールベースが増えるカーブは鈍ることになる。

 逆に言えば、AMDはIntelがYamhillを早期に出すことはない予測していることの裏返しとも言えるのだが。

●2004年の後半には90nmプロセスルールのSan Diego、Winchesterをリリース

 2004年の後半には製造プロセスルールを90nmプロセスルールに微細化した“San Diego”(サンディエゴ)、“Winchester”(ウィンチェスター)をリリースしていく。両者の位置付けは、現在のAthlon 64 FXとAthlon 64と同じものになるという。つまり、SledgeHammerコアのAthlon 64 FXの後継としてSan Diego、Newcasttleの後継としてWinchesterが位置付けられている。

 「130nmから90nmプロセスへと移行することで、ウェハあたりのダイ数を増やすことができ、コスト面でのメリットが大きい」(モリス氏)と、90nmへ移行する最も大きな意味はダイサイズが小さくなり、1枚のウェハから取れるダイサイズが増え、歩留まりが増加することであるという。

 現在のAthlon 64 FX、Athlon 64に利用されているSledgeHammerやClawHammerのダイサイズは、すでに述べたように193平方mmとかなり大きなものとなっている。同じ130nmプロセスで製造されるIntelのNorthwoodコアのダイサイズが140平方mm、AMDのBartonが101mm程度と比べると、SledgeHammer/ClawHammerがPC用のCPUとしては異例の大きなダイサイズになってしまっているのがわかる。

 ダイサイズが大きくなると、それだけ欠陥率もあがるので、歩留まりはさらに低下することになる。そこで、90nmプロセスに移行すればダイサイズを小さくすることが可能なので、コスト面や歩留まりに与えるインパクトはかなり大きいだろう。

 気になる90nmプロセス製品が市場に登場する時期だが、「2004年の前半にOEMメーカーへの出荷を目指している。実際の搭載製品がいつ登場するかはOEMメーカー次第だが、夏頃から遅くとも年末商戦までには登場することになるだろう」(モリス氏)と、登場時期に関しては含みを持たせており、実際に2004年後半のどのタイミングになるかが明確になるのはもう少し時間がかかりそうだ。

●低電圧版モバイルAthlon 64となる“Oakville”は2005年の前半に登場

 また、AMDはモバイルPC向けのラインも拡張していく。まず、2004年の前半に、熱設計消費電力(TDP)を下げフルサイズノートPCに入るモバイルAthlon 64を投入する。AMDはモバイルAthlon 64の熱設計消費電力がどの程度であるかは明確に明らかにしていないが、OEMメーカー筋の情報によれば、AMDはノートPCの熱設計消費電力を次のようにカテゴライズしているという。

・80W級 デスクトップリプレースメント
・60W級 トランスポータブル
・35W級 フルサイズ
・25W級 シン&ライト

 このうち、すでにAMDはデスクトップリプレースメント向けのAthlon 64を9月にリリース済みだ。これに対して、その下のセグメントは、これまでAthlon XPでカバーしてきたが、来年の前半に予定しているモバイルAthlon 64では、60Wと35Wのレンジをサポートしていくという。リリース当初は754ピンソケットでスタートするが、939ピン登場後には60W級のトランスポータブル向けは順次939ピンに切り替えるというプランも検討されているようだ。

 ただ、25Wのシン&ライトに関してはモバイルAthlon 64ではカバーされない。というのも、AMDのモバイルCPUはデスクトップPC向け製品の低電圧駆動版だが、それでも元々の消費電力が大きいAthlon 64では低電圧にしても25Wを実現するのが難しいからだ。

 AMDはモバイルAthlon 64の90nmプロセス版として“Odessa”(オデッサ)を計画しているが、これに関してはモバイルAthlon 64のシュリンク版であり、25W製品は登場しない。また、2004年の後半には“Dublin”(ダブリン)という130nmのモバイル向けCPUが投入されるが、これはParisのモバイル版、つまりバリューセグメント市場のモバイル向けCPUという扱いであり、低電圧版ではない。

 25Wに入るような低電圧版モバイルAthlon 64は、2005年の前半にリリースされる“Oakville”(オークヴィル)まで待たなければならない。それまで、AMDは25W向けの製品として低電圧版Athlon XP-Mを継続することになる。

 Intelが90nmプロセスのDothanに移行してクロックをあげていくのに対して、AMDは90nmプロセスのAthlon XP-Mを計画していないので、25Wという枠を守りながらこれ以上クロックをあげていくのはかなり厳しい。この25Wの製品ラインは、AMDのモバイル戦略にとっての“泣き所”となる可能性が高い。

●2005年後半に登場するToledoではマイクロアーキテクチャの拡張を行なう

 なお、2005年後半には、同じ90nmプロセスながら新コアとなる“Toledo”(トレド)と“Palermo”(パレルモ)がデスクトップPC向けに投入される。「Palermoに関しては、Parisの90nm版という位置付けになる」(モリス氏)との通り、バリュー向けの製品となり、Parisを置き換える。なお、Palermoのモバイル版としては“Trinidad”(トリニダード)も投入される。

 これに対して、Toledoは、Athlon 64 FXの位置付けの製品となり、性能面での向上が図られるという。「Toledoではマイクロアーキテクチャの拡張を行ない、より高性能を実現する予定だ」(モリス氏)と、何らかの拡張が行なわれることは確実のようだ。

 マイクロアーキテクチャの拡張が、具体的に何を意味するのかモリス氏は明らかにしなかったが、2005年という登場時期を考えると、少なくとも2つ拡張が考えられる。

 1つは、DDR2への対応だ。DDR2への対応についてモリス氏は「登場当初のDDR2はDDR1とあまり性能差がないのに価格のプレミアムがある。このため、我々はOEMメーカーなどと、どの投入時期が適当かディスカッションしている」と述べ、DDR2への対応は時期の問題だと説明している。

 2005年の後半といえば、Intelが第2世代のDDR2チップセットであるLakeportを投入し終わっている頃であり、DDR2に関しても価格的にかなりこなれている可能性が高い。そうした意味では、ToledoでDDR2への対応が行なわれても何ら不思議ではないだろう。

 そして、もう1つはMicrosoftのNGSCB(Next Generation Secure Computing Base)への対応だ。MicrosoftはNGSCBに対応した次世代OS「Longhorn」のリリース時期を明確にしていないが、早くても2005年の半ば、遅くとも2006年での投入が予想されている。であれば、2005年の後半に登場するToledoは当然NGSCBに対応していると考えていいだろう。

AMDが公開した90nmのOpteronの2ウェイサーバー。開発コードネーム“Athens”(アテネ)と呼ばれるコアが利用されている。90nmプロセスのK8コアのプロセッサは、2004年の前半にOEMメーカーに出荷され、2004年の後半に搭載製品が登場する予定

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(2003年11月21日)

[Reported by 笠原一輝]


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