キヤノンのデジタルカメラと言えば、EOSシリーズの一眼レフとIXYシリーズのコンパクトが際だっている。もちろん、PowerShotシリーズもあるのだが、キヤノンの顔というとこの2つのシリーズのような気がする。 そのIXY DIGITALシリーズに「L」が加わった。同じ有効約400万画素のIXY DIGITAL 400とは、スタイルもイメージセンサーも違う。しかし、同じ400万画素でより小型化されたとなると、両者を比べてみたくなるのは人情。そこで、発売直前のベータ版のLと、製品版のIXY DIGITAL 400を比較しながら、この新しい超コンパクトデジカメをレポートしよう。 ●デジカメ付き携帯電話よりもコンパクト
コンパクトデジカメはまずスタイル、というか見てくれが大事、というのは日頃から筆者が主張していることだ。コンパクトデジカメではデジタル一眼レフ以上にデザインが大事だと思う。 そこで、このIXY DIGITAL Lだが、IXY DIGITAL 400と比べると、ふた回りぐらい小さい感じだ(写真A)。競合するのはほぼ同じ時期に出るペンタックス オプティオS4だが、厚みはこのIXY DIGITAL Lのほうが薄い。横幅はオプティオS4のほうがわずかに短い。 いずれにしても、IXY DIGITAL 400でも、かなりコンパクトだと思っていたが、IXY DIGITAL Lを見てしまうと、大きく、厚く、重い。もちろん、IXY DIGITAL 400のほうは、3倍光学ズームレンズ付きだし、記録メディアはCFカードだ。IXY DIGITAL Lは単焦点レンズ付きだし、記録メディアはSDカード。この大きさや重さのちがいは当然とも言えるが、やはりこれだけ小型化されていると携帯性が抜群にいい。上着どころか、シャツのポケットにだってすっぽり入ってしまう。筆者の持っているデジカメ付き携帯電話(SO505i)よりも小さいぐらいだ。これで400万画素とは思えないほどである。 単に小型軽量だけではなく、スタイリッシュだ。前面にはほとんどなにもなく、すっきりしている(写真B)。そこにハンドストラップの吊り金具を兼ねた、キヤノンのエンブレムが目立つ。さらに、ボディーカラーはプラチナ・シルバー、パールホワイト、シルキーブロンズ、そしてピアノブラックの4種類のバリエーションがある。 このうち、今回試用したのはピアノブラック、落ち着いた黒のボディーである。ボディーはマグネシウム合金とアルミ合金の両方を使っていて、とてもいい質感である。IXY DIGITAL 400はいかにもカメラらしいデザインと質感だが、このLはお洒落な携帯電話かな、と思わせてしまう。このLの登場で、IXYシリーズは新しい時代を迎えた感じである。 仕事で使う人、遊びで使う人、いろいろなユーザーに受けそうなデザインと使い勝手である。とくに女性に好まれそうな感じがする。手のひらサイズで、ハンドバッグに入れてもまったくじゃまにならないだろう。モデルの岸さんの第一印象は「かわいい!」だった(写真C)。
●IXY DIGITAL 400をかなり継承した使い勝手 背面も整理されていて、IXY DIGITAL 400に比べて、すっきりしている。液晶パネルの上には撮影、動画、再生のスライドスイッチ。右にはMENUボタンとFUNNCボタン(SETボタンを兼用)、それに十字キーがあるだけ(写真D)。ただ、十字キーは拡大再生、セルフタイマー、ストロボモード切り替え、削除を兼ねていて、とっさにはわかりにくい。ボタンを少なくした弊害とは言える。 FUNCボタンを押すと、各種の設定ができる(写真E)。とくに重要なのはマニュアルで、露出補正をしたり、ホワイトバランスを変えたり、ISO感度を変えたり、測光モードや画質モードを変えられる。ただし、絞りやシャッター速度を選ぶことはできない。撮像素子が小さいから、絞りを選ぶのは意味がないかも知れないが、せめてシャッター速度は選べるようにして欲しかった。とはいえ、夜景などでは長時間露出モードもある。また、スーパーマクロではレンズ前面から3cmの超接写ができる。 再生はヒストグラムを表示することができる(写真F)。このヒストグラムは撮影時にも液晶モニタに表示することができる。これは便利なのだが、欠点はやや見にくいことだ。ヒストグラムに黄色などの色を付けたほうがよかったのではないだろうか。あと、再生時にヒストグラムと同時に、各種撮影情報を表示できるようにしたら、なおさら良かっただろう。しかし、コンパクトデジカメとしてはこれでも十分とは言える。
光学ファインダーは搭載されていない。光学ファインダーは、カメラをしっかり顔に押しつけて撮影できるため、ブレを防げる。しかし、この大きさで光学ファインダーの搭載は無理だろう。 液晶モニタ(1.5型)にはメニューが順次表示されるようになっている。再生メニュー(写真G)には「全消去」があるのが便利だ。設定メニューでは液晶の明るさや情報表示を選べる(写真H)。液晶モニタは初期設定では明るく見えすぎるので、やや暗めに設定して使ったほうがいい。また、自分の設定を記憶させておく「マイカメラ」機能もIXY DIGITAL 400ゆずりだが、なかなかいい(写真I)。 電池は小型のリチウムイオンバッテリで、記録メディアのSDカードの隣に収納するようになっている(写真J)。 シャッターボタンはIXY DIGITAL 400よりも小さくなり、ややストロークが長くなった感じがする。スイッチを入れてからの起動時間はほぼ同じ。もう少し早かったら、さらに快適になるが、このクラスとしては早いほうだ。
●実写ではIXY DIGITAL 400をしのぐ場面も では、実際に写してみるとどうか。定点観測はLと400を比較して写してみた。 まず、ビルを写す撮影だが、IXY DIGITAL Lは39mm相当(35mm判換算)、IXY DIGITAL 400は36~108mmの3倍ズーム。そこで、広角側で比較してみた。 まず、両方ともISO50で撮影してみた(写真1)。そうすると、IXY DIGITAL Lのほうがコントラスト特性がよく、くっきりした描写になる。IXY DIGITAL 400も3倍ズームにしてはいい描写だが、やっぱり単焦点レンズにはかなわないのか。あるいは、撮像素子が変わったせいなのか。画像エンジンDIGICがさらに性能アップしたのか。いずれにしても、このテストではIXY DIGITAL Lの画像は非常に優れている。 つぎに両方の機種の最高感度であるISO400で撮り比べてみた(写真2)。この感度だと、両方とも中間調部にノイズが出るが、その出方はIXY DIGITAL Lのほうが目立つ。また、この条件ではコントラストも落ちてしまう。感度をISO400にしたら、IXY DIGITAL 400のほうがよくなった。これは、Lのほうがイメージセンサーが小さいため、無理にゲインを上げているところから来ているのではないだろうか。Lでは、ISO50またはISO100(ほかの実写作例は動画をのぞいてすべてISO100)で撮影すべきだろう。 つぎの定点観測は夜景。Lの場合つらいのは、焦点距離が短いから被写体が小さくなってしまうことだ。といって、デジタルズームを使ったのでは意味がない。そこで、Lと400を広角側で撮影してくらべてみることにした。ふつうはマニュアル露出にするのだが、この2機種ともプログラムAEのみ。ただし、長時間露出モードがある。最長15秒まで可能で、しかもノイズリダクションが自動的に働くようになっているという。 そこで、撮影してみたが、露出値はLも400も1秒となり、絞り値がそれぞれF2.8とF3.2となった(写真3)。この露出時間(シャッター速度)なら、ノイズはそれほど目立たないはずである。実際、拡大してみると、空の部分にノイズがあるが、それほど気になるほうではない。ただ、IXY DIGITAL 400のほうはやや甘い描写になった。やはり、こういう厳しい条件での撮影では単焦点レンズのほうがいいのかもしれない。 もうひとつの定点撮影である、急行列車の通過は行なわなかった。IXY DIGITAL Lは39mmレンズ付きで近くでなければ、大きく写すことができない。もうひとつは、AFに動体予測機能が付いていないことだ。このため、AFの動体追従能力を見ることはできない。かわりに、急行列車を動画モード(AVIファイル)で撮影した。15fpsというコマ速度で、急行列車の通過を音声とともに記録できた(動画)。 つぎの定番撮影はモデル撮影である。Lが準広角レンズだから、やや離れた撮影をしてみた。いつもなら、顔のアップと全身の2カットだが、今回は4分の3を撮影した(写真4)。そうすると、Lのほうが彩度が高く、きれいに写った。400のほうはやや地味な発色である。パソコンで処理する場合には400のほうがいいかも知れないが、PictBridgeなどでカメラから直接プリントアウトするにはLのほうがいい。順光でも撮ってみたが、やはりLのほうが彩度が高かった。 つぎの定点撮影はタングステン光(電球光)に照らされた室内でのオートホワイトバランスチェック。AWBまかせでは両方ともほぼ同じで、赤みを残した色あいになった(写真5a~b)。これは、夕景などの赤み、あるいは電球光での雰囲気を残すため、わざとこうしてあるわけだ。では、電球光モードにするとどうだろうか。これはLのほうが補正がきちんとしているようで、400はやや黄色みが残った(写真5c~5d)。 蛍光灯はできれば、AWBできちんと追尾してくれることが望ましい。そこで、蛍光灯で照らされたビル内を撮ってみたが、きちんと補正され、緑かぶりはなかった。このIXY DIGITAL Lのオートホワイトバランスが信頼性が高い(写真6)。 明るい部分と影の部分が混在する、いわゆるコントラストの大きな被写体も撮影してみたが、ハイライトもシャドーもほどほどに出た。ダイナミックレンジはこの小さな撮像素子にしては広いほうだと思う(写真7)。 スーパーマクロはものすごい接写ができる。たとえば切手を画面いっぱいに入れて撮ることができる(写真8)。この機能は仕事先などで、書類の一部を複写しておく場合などにも使えそうだ。なお、このときの照明は室内の蛍光灯で、オートホワイトバランスである。 また、マクロにしなくても、ある程度の接写はできる。旅先で料理などを撮っておくのもいいだろう(写真9)。この場合、店内が電球光で照らされていたので、タングステンモードで撮影した。よく補正され、きれいに写った。 キヤノンIXY DIGITAL Lは4万円以下という価格にもかかわらず、高級感があり、また写りもいい。このカメラは常時持って歩きたくなる。おすすめの超コンパクトデジカメだ。 □キヤノンのホームページ ■注意■
(2003年10月21日)
【PC Watchホームページ】
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