前回のこのコラムでは7月上旬にOEMメーカー筋から入ってきた情報を元に、IntelがモバイルPentium 4、Dothan(ドタン、開発コードネーム)などのモバイル向けCPUを9月後半から10月にかけて次々とリリースしていくと説明した。 ところがその直後、このプランはひっくりかえってしまったようだ。8月上旬に、新しいロードマップがOEMメーカーに対して公開されたが、情報筋によれば、IntelはDothanのリリースを9月から、来年の第1四半期に延期したと明らかにしたという。 ●Dothanは9月のリリースから第1四半期へ延期。1.90GHz以降のプランが不明確に
今回、IntelはDothanに関するプランを大幅にアップデートした。情報筋によれば、元々のプランでは第4四半期にDothanを1.80GHzでリリースし、2004年の第1四半期に1.90GHz、第2四半期に2GHz以上というスケジュールだった。 ところが、Intelはこのプランを変更し、1.80GHzを2003年末にOEMメーカーへ出荷、2004年の第1四半期に発表、第2四半期、第3四半期に1.90GHz以上をリリースするという、やや不透明なものに変更されてしまったのだ。第2四半期には2GHzをリリースするという、以前のロードマップに比べれば明らかに後退していることがわかる。 現在PC業界では、どうしてDothanが延期になってしまったのかを巡って、その原因探しが始まっている。あるソースは、そもそも90nmプロセスルール自体が1四半期程度後ろになってしまったからだと指摘する。だが、その可能性は低そうだ。 というのも、デスクトップPC向けの90nmプロセスのCPUであるPrescottは、同じタイミングのロードマップのアップデートでも、第4四半期に3.40GHz、2004年の第1四半期に3.60GHz、第2四半期に3.80GHz、第3四半期に3.80GHz以上と、予定通りのスケジュールで進んでいる。 また、Intelに近い別のソースによれば、90nmプロセスルールは歩留まりなどの問題もなく順調に進んでいるという。そうしたことを考えると、歩留まりなどに問題があってDothanのリリースが1四半期遅れたということは考えにくい。
●消費電力が上がってしまうDothan、原因はリーケージ電力か
だとすれば何が原因なのだろうか? あるソースは、発熱量が思ったよりも大きくなり、設計変更が必要になるためだと指摘する。 そのソースによれば、Intelはこれまで、Dothanの熱設計消費電力は21Wだと説明してきたが、7月半ばのアップデートで30Wに近い熱設計消費電力になると通知してきたという。
これまで、IntelはPentium Mの通常電圧版の熱設計消費電力を25Wに設定してきて、Dothanもその壁を守ると言ってきた。それがもし30Wになるとすれば、OEMメーカー側の設計変更は必至だし、そのためのリードタイムも必要になる。これが原因で1四半期スリップしたというのだ。 現時点では、この情報は1ソースからだけで、他のソースから同様の情報を得ていないため、完全に確認されたわけではない。しかし、このことを裏付ける状況証拠は整いつつある。 まず、Dothanの平均消費電力は、現行のPentium M(開発コードネームBanias)に比べて若干あがっているということだ。Baniasの平均消費電力は1W以下であったが、Dothanでは1.25W以下へと若干引き上げられているという。 この平均消費電力の引き上げは何を意味しているのだろうか? 1つ原因として考えられるのは、リーケージ(漏れ)電力が思ったより大きかったことだ。 後藤弘茂氏もたびたび指摘しているように、90nmプロセスルール世代の問題点は増大してきたリーケージ電力をどのように抑えるかがポイントになっている。プロセスルールを微細化したのに平均消費電力があがってしまったのは、Intelが考えていたよりもリーケージ電力が大きかったのかもしれない。仮にリーケージ電力が原因だとすれば、熱設計消費電力もあがってしまった可能性は否定できない。 そして、もう1つの状況証拠が、Dothanと同じ90nmプロセスルールを利用するPrescottも、やはり熱設計消費電力があがってしまったという事実だ。詳しくは後藤氏の記事“この夏、Prescottが熱い。来年は消費電力100Wオーバーへ”を参照していただきたいが、Prescottではシミュレーションで予測していた熱設計消費電力(TDP)よりも、実際にできあがってきたシリコンで計測した熱設計消費電力が高くなってしまったという。 その原因として最も可能性が高いのが、先ほど指摘したリーケージ電力だ。仮に、90nmの“持病”ともいえるリーケージ電力が原因で消費電力があがってしまったのであれば、同じ90nmプロセスルールを利用するDothanも同じ理由で消費電力があがってしまった可能性はかなり高いといえる。 もし、この推測が当たっているとすれば、第2四半期以降のクロックの予定が1.90GHz以上と、明確でなくなったこともつじつまがあう。仮に、1.80GHzで30Wだとすれば、1.90GHzや2GHzではそれを超えてしまう可能性がでてくる。30Wを超えれば、モバイルPentium 4-Mと同じ熱設計が必要になり、Centrino/Pentium Mのアドバンテージが失われてしまうだけにIntelとしても避けたいところだろう。 だとすれば、Dothanのコアを改良し、消費電力を下げるなどの解決策を見つける必要があり、現時点ではそれが見えていないため明確ではないのだろう。 こうした問題は、Centrinoの未来に大きな影響を与える可能性もある。本連載でも何度も指摘してきたように、ノートPCを作る上でCentrinoを採用するメリットとは、熱設計消費電力が下がったことでデザイン上の自由度が増えたことが1つ、そして平均消費電力が下がることでバッテリ駆動時間を大きく伸ばすことができるという2つがあるといえる。 ところが、Dothanでは、その両方がBaniasに比べて後退する可能性がでてきたといえ、モバイルユーザーにとっては憂慮すべき状況といえる。 ●モバイルPentium 4、モバイルPrescottはスケジュール通りに進展
なお、この延期はDothanに関してだけであり、他の製品に関しては大きな影響はない模様だ。チップセットのIntel 855GME(Montara-GM+)、無線LANのIntel Pro/Wireless 2100Aなどは、9月のリリースはなくなった模様だが、第4四半期中にはリリースされるようだ。 また、デスクトップリプレースメント向けのモバイルPentium 4は、9月の第3週ないしは第4週にHTテクノロジ対応版3.06GHz、2.80GHz、2.66GHzがリリースされ、第4四半期には3.20GHzが追加される。さらに2004年の第1四半期にはモバイルPrescottと呼ばれるDTR版のPrescottが3.46GHz、第2四半期には3.46GHz以上、第3四半期には3.73GHzと予定通りリリースされていく。 なお、すでにモバイルPentium 4には、チップセットとしてIntel 852GME、Intel 852PMがリリースされているが、2004年の第2四半期には、Intel 852GMEの内蔵グラフィックスのみバージョンであるIntel 852GMVが追加されることも明らかになっている。 □関連記事
(2003年8月6日) [Reported by 笠原一輝]
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