Intelが、9月に続々とノートPC関連のコンポーネントをリリースする計画であることがOEMメーカー筋の情報により明らかになってきた。 IntelがOEMメーカーに明らかにしたところによれば、Intelは遅れに遅れていたIEEE 802.11aと11bのデュアルバンド/デュアルモードの無線LANモジュールであるIntel Pro/Wireless 2100Aを9月にリリースするほか、モバイルPentium 4やPentium MといったノートPC向けCPUの最新クロックグレードを相次いで投入する。 同時期にはAMDがモバイルAthlon 64を、さらにTransmetaがTM8000をリリースする予定だが、Intelもアグレッシブな製品投入を行なうことで他ベンダの追い上げを振り切る計画であるようだ。 ●半年遅れでようやく投入されるデュアルバンド/デュアルモードのIntel Pro/Wireless 2100A
Intelは、Centrinoモバイル・テクノロジのコンポーネント(部品)として、シングルバンド(IEEE 802.11b準拠)とデュアルバンド/デュアルモード(IEEE 802.11aと11b準拠)の2つの無線LANモジュールを、Centrinoの発表と同時にリリースする計画だったのだが、デュアルバンド/デュアルモードの製品は開発の遅れなどにより、2003年半ばに延期されていた。ところが、すでに7月をすぎているが、いまだリリースされていない。 Intelは、この11a/bデュアルバンドのIntel Pro/Wireless 2100Aのリリースを9月の第2週と決定し、OEMメーカーにその旨を通知している。同時にIntel 855PMの新しいステッピング(Bステップ)も同時に投入される。
Centrinoの無線LANが11bのシングルバンドのみしか選択肢がなかったというのは、多くの点でひずみを生んでいた。たとえば、日本IBMは、同社のThinkPad Tシリーズ、XシリーズにおいてCentrinoを採用しているが、ハイエンドモデルにはAtheros Communicationsのデュアルバンド/デュアルモード無線LANを採用していたため非Centrino、メインストリーム向けモデルはIntel Pro/Wireless 2100を採用してCentrinoモデル、ローエンドモデルは無線LANなしで非Centrinoという構成になっている。 Intelとしては、本来デュアルバンドCentrinoがハイエンドにきて、シングルバンドCentrinoがメインストリーム、無線LANなどがないローエンドが非Centrinoという位置づけを狙ったのだが、実際にはそうはならなかった。 では、デュアルバンドの2100Aが投入されれば、解決かといえば、そうでもない。というのも、IEEEがIEEE 802.11gの規格を正式に策定したことで、市場のチェックマークに11gが入ってきているからだ。Intelは2100Aを投入することで、ハイエンドは11a/bデュアルバンド、メインストリームとローエンドは11bシングルバンドと位置づけるだろうが、実際にはノートPCベンダのプランはそうなっていない。 無線LANのアクセスポイント市場では、ハイエンドがデュアルバンド/トリプルモード、メインストリームが11b/gのシングルバンド/デュアルモード、ローエンドが11bのシングルバンドとなっている。これに併せて、ノートPCのベンダも、内蔵する無線LANを同じように位置づけている。 実際、無線LANコントローラを販売するAtheros、Broadcom、Intersilなどはそうした価格設定をしている。Atherosのクレイグ・バーラット社長兼CEOは「9月の多くのモデルで当社のトリプルモード(a/b/g)のモジュールを搭載したノートPCが多数リリースされるだろう」と述べるなど、無線LANコントローラのベンダは、IntelのCentrinoのブランド戦略にかかわらず、同社の11a/b/gトリプルモードを採用する製品は多いと自信を見せる。 ●本格的な矛盾の解消は、11g対応のCalexico2の投入後となる
ただ、PCベンダにとって“Centrino”を名乗ることの意味は決して小さくないため、ハイエンドやメインストリームの一部はCentrinoになる可能性が高い。Centrinoのロゴをつける魅力の1つは、Centrinoとして無線LANモジュールをIntelから購入することで15ドル程度の割引を受けることができることだ。 そして、もう1つの理由が、Intel Insideプログラムにおけるキックバック率の向上という点だ。よく知られているように、Intelは広告にIntelのロゴや製品名を露出させることで、広告費の半分程度をキックバックするというIntel InsideプログラムをOEMメーカーにオファーしている。 情報筋によれば、通常、Pentium 4やPentium Mの場合50%強の還元率なのだが、大手PCベンダがCentrinoのリリースと同時にCentrinoマシンをリリースした場合、85%をIntelが負担するというオファーがされていたという。このオファーはCentrinoリリース時のスペシャルであったということだが、現在もPentium MやPentium 4よりも高いオファーは継続されているという。 このため、どのベンダも必ずラインナップには必ずCentrinoマシンが入っているし、今後もそうした現象は続くだろう。ただ、Centrinoのプログラムにおけるキックバックを受けるためには、すべてのモデルがCentrinoである必要はないようで、たとえばローエンドの一部だけCentrinoで、上位モデルは非Centrinoという、Intelの思惑とは異なる状況が続く可能性が高い。
これが解消されるのは、Intelが11gに対応した次世代のIntel Pro/Wireless 2100(開発コードネームCalexico2)をリリースした時だろう。Calexico2には11a/b/gのデュアルバンド/トリプルモードに対応した製品と、11b/gのシングルバンド/デュアルバンドに対応した2つの製品が予定されている。これに、現行のIntel Pro/Wireless 2100(11b)を加えて、ようやく他の無線LANコントローラベンダに追いつくことになる。なお、Calexico2は既報の通り、今年末に投入される予定になっている。 ●より省電力を実現したDothanを1.80GHzで早ければ9月末にも投入
情報筋によれば、Intelは、Centrinoのテコ入れとして、より高クロックなPentium Mを9月末から10月の第1週にかけて投入する。投入されるのは1.80GHzとなり、コアは従来の0.13μmのBaniasから90nm(0.09μm)プロセスのDothan(ドタン)へと変更される。 Dothanでは、L2キャッシュが2MBと、現行のBaniasの1MBの倍になる以外は機能的にはほぼBaniasと同じ製品となる。しかし、製造プロセスルールが90nmへと微細化される。 現在伝わってきている情報では、パフォーマンスモード(最高クロックモード)時の電圧は、現行のBaniasの1.48Vから1.31Vに引き下げられ、熱設計消費電力(TDP)は21Wと、現行Baniasの24.5Wから引き下げられることになる。 この後、Dothanは2004年第1四半期に1.90GHz、第2四半期に2GHzと投入されていくことになるほか、同じく2004年の第1四半期に低電圧版の1.30GHz、超停電圧版などが投入されていくことになる なお、このDothan 1.80GHzと同時に、Intel 855GMEが投入される。Intel 855GMEでは、DDR333サポートが追加されるほか、内蔵グラフィックスのエンジンクロックが引き上げられ、負荷に応じてエンジンクロックを変動させる機能などが追加される。
●9月にHTテクノロジに対応したモバイルPentium 4を投入する、が……
Intelは6月にポータビリティ向けのCPUとしてモバイルPentium 4プロセッサ(以下モバイルPentium 4)を投入した。これは、ノートPCの冷却機構の進化により、デスクトップリプレースメント(以下DTR:DeskTop Replacement)と呼ばれる大型のノートPCに、熱設計消費電力が高いデスクトップ向けCPUを格納できるようになったため、多くのPCベンダがノートPCにデスクトップPC向けCPUを搭載してきていることに対する対応策だ。 だが、残念ながらモバイルPentium 4はIntelが思ったほどは普及していない。実際、いくつかのベンダが企業向け製品としてリリースしたが、多くのPCベンダは、引き続きDTRノートにはデスクトップPC向けPentium 4やAthlon XPを利用している。 その理由は、モバイルPentium 4が、デスクトップPC向けPentium 4に比べて、価格が高く、かつスペックの点で劣るからだ。以下は、同じ2.40GHzでモバイルPentium 4-M、モバイルPentium 4、Pentium 4 2.40B GHz、2.40C GHzを比較した表だ。 【Pentium 4プロセッサのスペック】
みてわかるように、モバイルPentium 4 2.40GHzとPentium 4 2.40B GHzのスペックにおける違いは、前者がSpeedStep機能を持っているというだけにすぎない。また、スペック上に現れない違いとして、モバイルPentium 4は、Intelのモバイル向けチップセットであるIntel 852GMEやIntel 852PMとのバリデーション(動作検証)が行なわれており、PCベンダがバリデーションを行なう必要がないという違いもある。 この差が2製品の価格差である23ドルを正当化するものであるかといえば、微妙なところだ。多くの大手PCベンダは、バリデーションは自社でやる能力を有している。また、DTRはその名の通りデスクトップPCの代替として利用されるので、SpeedStepによりバッテリ駆動時間が少しぐらいのびても、アピールポイントにはならない。 さらに言うならば、800MHzのシステムバスをサポートし、HTテクノロジまで利用できるPentium 4 2.40C GHzは、モバイルPentium 4 2.40GHzよりも安価な178ドルに設定されている。もし自社でバリデーションが可能であるPCベンダであれば、高くて技術的なメリットの小さいモバイルPentium 4よりもデスクトップ向けPentium 4を採用した方がよいのは自明の理だろう。 こうした状況を覆すため、IntelはHTテクノロジに対応したモバイルPentium 4 3.06GHz、2.80GHz、2.66GHzを9月末に投入する。ノートPC向けのCPUとしては初めてHTテクノロジに対応することになる。 ただ、Intelの思惑通りこれでデスクトップPCのCPUからモバイルPentium 4への移行が進むかと言えば、難しそうだ。たとえば、ある大手PCベンダは、秋に出荷する予定のDTRノートPCにおいてデスクトップ版Pentium 4(800MHzバス)+Springdaleという組み合わせの設計を行なっているという。そのPCベンダのマーケティング担当者は「これはPrescottへの移行を見据えた選択だ。DTR市場においては、処理能力が何よりも重要で、コストパフォーマンスに優れたデスクトップ版CPUという選択がベストチョイスだ」と指摘する。 だとすれば、今後もDTRノートPC市場ではデスクトップPC版CPUが選択され続けるという状況が続いていく可能性が高い。DTRノートPC市場にもデスクトップ版と同じシステムバス、機能を持つCPUを投入するなど、戦略の練り直しが必要になるだろう。 □バックナンバー
(2003年7月30日) [Reported by 笠原一輝]
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