笠原一輝のユビキタス情報局

富士通 LOOX Tシリーズ開発陣インタビュー
“妥協しないモバイルマシンを”それが出発点




 富士通の新しいLOOX Tは、プラットフォームを従来のCrusoeベースからCentrinoモバイル・テクノロジベースへと移行し、全く新しい製品に生まれ変わった。

 バッテリのセル数も従来製品の標準3セルから6セルへと変更され、バッテリ駆動時間が延びたほか、CPUもTM5800 933MHzから超低電圧版Pentium M 900MHzに変更され、処理能力が大幅に向上している。

 本レポートでは、そうしたLOOX Tを開発した富士通の開発チームに、新しいLOOX Tを設計するに際に重点を置いたところ、および苦労したポイントなどを伺ってきた。


●妥協しないモバイルを作りたかったからLOOX Tを作った

富士通株式会社 パーソナルビジネス本部モバイルPC事業部第二技術部プロジェクト課長 久保毅氏

Q:今回のLOOX Tは従来モデルに比べると、全く新しいマシンといってよいほど大きく変わった製品になっています。LOOX Tを設計するにあたり重視した点はどこにありますか?

【久保氏】一言で言えば、“妥協しないモバイル”、ということです。従来のLOOX Tシリーズでは、何よりもバッテリ駆動時間と軽さという点に重点を置いて設計しました。これはこれで、モバイラーと呼ばれるような先進的なユーザーの方に一定の評価を受けて成功を収めましたが、やはり処理能力という点では満足できるものではありませんでした。

 ところが、IntelさんがCentrinoモバイル・テクノロジを出荷され、そこそこの軽さとバッテリ駆動時間を維持したまま、処理能力を向上させる見込みがたつようになりました。そこで、LOOX Tシリーズをどうしようかと社内で話をしている時にでてきたのが、先ほどの“妥協しないモバイル”というコンセプトなんです。

 “モバイル”というのを一部先進的なユーザーの方だけでなく、広く一般のユーザーの方にも受け入れてもらうには、Centrino、無線LAN、コンパクトフラッシュやSDカード、メモリースティックなどのスロットなど、A4ノートなら当たり前の機能を取り込んでいくことが大事だと考えました。

Q:今回は各社からモバイル向けの2スピンドルノートPCが登場していて、かつ各社の味付けは異なっています。たとえば、松下電器のLet'snote Lightシリーズはビジネスモバイルという方向性を明確にしていますし、ソニーのバイオノートTRはAV志向を打ち出しています。それらに比べてLOOXの方向性はどのあたりにあるとお考えですか?

【久保氏】大前提としてあるのは、「妥協しないモバイル」という基本コンセプトです。これまで、モバイルというのは一部の先進的ユーザーだけがターゲットでした。つまり、モバイルと謳う製品は一部の市場だけをターゲットにしており、我々の感覚だと全体の10%程度という小さい市場にとどまっていました。

 従来のLOOXの延長線上で製品を作ると、これまでと同じ層のユーザーには受け入れてもらえるだろうけど、それだと市場のパイは広がらないというジレンマがあったわけです。我々としては、そのままでいいのかと自問自答があって、モバイルの世界を変えていきたい、そして市場を広げていきたいというのがありました。

 だとすると、モバイルだからセカンドマシンという位置づけでは、より広い層のユーザーの方には受け入れていただけないだろうという結論に至りました。

 モバイルは興味あるんだけど、2台もPCは買えないよ、というユーザーが大多数なんですよね。そうした意味では、このLOOX Tは、現在お持ちいただいているA4ノートPCなりデスクトップPCを下取りに出して買っていただく、モバイルするためのプライマリマシンなんです。

Q:確かにPCを持つことでライフスタイルは大きく変わりますよね

【久保氏】そうですね。ユーザーの方は、そういう経験をすでに携帯電話で体験済みなんです。携帯電話も昔は有線が無線に置き換わって通話できるだけでしたけど、メールができるようになって、いつでもどこでもメールが送信できるようになって、世界は大きく変わりました。それと同じように、モバイルPCも持ち歩くユーザーが増えることで、世界が変わってくれないか、というのが我々の願いなんです。

Q:LOOXならではの特徴というのはどのあたりにあると思われますか?

【久保氏】ソニーさんのように、本体にカメラを内蔵させて特色を出すという方向性もありだと思いますし、そのあたりはソニーさんが得意にされている部分だと思いますが、当社はそういう特色の出し方はあまり得意ではないので(苦笑)、同じ方向は向いていないと思います。

 我々がLOOX Tで考えているのは、ユーザーの皆様は我々が考えもしない使い方というのをするものだ、それに対応できるマシンを作ろうというものです。だから、インターフェイスはコンパクトフラッシュ、SDカード、メモリースティックのすべてに対応できるようにしましたし、IEEE 1394ポートも……と、あるゆる機器のコントロールセンターとして、家でやっていることをそのままモバイルでもできるようにしたかったのです。それが、言ってみれば“妥協のないモバイル”ですから。

 基本的には我々は従来のLOOX TのサイズにCentrino、メモリスロット……などのすべてを入れようと設計していきました。最終的には、ちょっとだけ大きくなってしまいましたけど(苦笑)。

●処理能力などのトータルバランスを考えて今回はCentrinoをチョイス

Q:今回はプラットフォームがCrusoeをベースにしたものから、Centrinoモバイル・テクノロジへと移行しました。今回CrusoeからCentrinoへと移行した理由はなんですか?

【久保氏】初代のLOOX TでCrusoeを採用した理由は、当時Intelのモバイル向けCPUの消費電力がLOOX Tに採用するにしては高かったからです。

 我々がCrusoeを採用したのは、なんといっても低消費電力で長時間バッテリ駆動が実現できるというところに可能性を見いだしたからです。そこそこの処理能力、小型化、低消費電力という特徴からLOOXの世界ができあがっていったのです。

 ところが、Centrinoが登場したことで処理能力という別の要素が加わってきました。今回、我々がCentrinoを評価するにあたり、特に処理能力と省電力機能の部分をチェックしてみましたが、Intelが我々に対して提示したターゲットを十分実現できていると評価しました。これにより、処理能力、低消費電力というところのバランスを勘案して今回はCentrinoを選択しました。

Q:私は、CrusoeからCentrinoに移行することで、平均消費電力はあがってしまっていると推測しています。実際、LOOX Tは同じ6セルで比較した場合、従来モデルがJEITA測定法で6.5時間であったのに対して、新しいLOOX Tは6時間と減っています。

【久保氏】そうですね。新しいLOOX Tは前のモデルに比べると若干バッテリ駆動時間が短くなっています。CPUがすべての要因ではないですが、プラットフォーム全体で、テクニカルな観点から見るとすれば、まだCrusoeのLongRunの方がまだ一日の長があって、平均消費電力では優れていると思います。

 以前、Crusoeを使ってLOOXを出したときに、どうしてTransmetaを使ったんですかと聞かれたことがありました。その時に私が答えたのは“我々が作るモバイルPCに、IntelさんよりもTransmetaさんが適していたから”というものでした。

 つまり、我々はこうした装置を作るタイミングで、どの素材が適しているのかをその時々に検討していて、そのタイミングで最もフィットした部材を選択しています。今回に関しては処理能力を含めたトータルバランスというものを考えて、このCentrinoをチョイスしたというわけです。この先、変わるかもしれないですけどね(笑)。

Q:すでにCrusoeベースLOOX Tの後期モデルでも、すでにファンは内蔵されていましたが、さすがにCentrinoベースだとファンレスにするのは難しいですか?

【久保氏】難しいですね。熱設計の観点からはちょっとはずせないと考えています。当社にはマックス状態である程度以下の温度になるようにという規定があって、環境状況が悪いところで使用する場合でもそれをクリアする必要があります。それを前提に考えると安全のためにもファンははずせません。ただ、通常利用では滅多に回らないようにしていますし、回っても低速で回るように設計しているので、ほとんど音はしないはずです。

●ピーク時に対応するために余裕を持たせた基板設計

富士通株式会社 モバイルPC事業部 第二技術部 遠山賢治氏

Q:モバイル環境だと、ピークパワーにいくことはあまりなくて、実際には平均消費電力をいかに抑えるか、というのが大事になってくると思います。今回、平均消費電力という点では若干あがってしまったと推測しますが、その原因はなんですか?

【久保氏】従来のLOOX Tと比べてという意味では、メモリの消費電力が増えたのが痛いですね。CrusoeではDDR SDRAMとSDRAMの両方が使えましたので、当社はずっとSDRAMを使ってきました。よく「どうしてDDR SDRAMにしないんですか?」というご質問を頂いていたんですが、その理由は消費電力が違っているからだったのです。

 現時点ではDDR SDRAMとSDRAMを比較した場合には、DDR SDRAMの方が消費電力が大きかったのです。しかし、CentrinoではDDR SDRAMのみの選択となるので、DDR SDRAMとなりましたが、それが平均省電力に与えるインパクトは大きかったです。

Q:今回平均消費電力を下げるために、何か工夫している点はありますか?

【遠山氏】現在のノートPCで電気食いのデバイスは、CPU、液晶、HDD、そして電源あたりですね。Centrinoのプラットフォームを利用する限りは、CPU、チップセットなどは、どのPCベンダもほぼ同じものを利用していますので、それ以外の部分、たとえば液晶や電源まわりをどうするかがポイントになります。

 液晶の場合には、できるだけ明るくしながら省電力を実現したいわけですから、インバータの効率を工夫してみたりとか、動的に変えられる明るさの範囲をできるだけ広くとって、消費電力を最小限に抑えるなどの工夫をしたりしています。また、電源部分は設計を見直すことで、できるだけ効率のよい電源供給を行なうようにしています。

Q:電源供給部の効率化というのは、どのように進めているのですか? 現在のPCの設計は、基本的にはデザインガイドに沿って行なうことになると思いますが。

【遠山氏】ある程度までは、どのベンダさんも一緒だと思いますが、どれだけ電源に対して信頼性のあるデザインにするかで、各社違ってくる部分だと思います。プリント基板をたくさんみていらっしゃる専門家の方であれば、当社の電源設計はかなり堅い設計だということがわかっていただけると思います。

Q:ぱっと見る限り、ボルテージレギュレータの設計が4重(4フェーズ)に見えますが、このクラスのノートPCとしてはかなり余裕がある設計に見えます

【遠山氏】そうですね、余裕はかなりあります。当社ではピークに対してかなりシビアに考えているので、そうした設計になっています。

Q:今回グラフィックスチップは、Intel 855GMの内蔵グラフィックスを採用しています。個人的には、単体チップでもう少し3D性能が高いものを採用してほしいなぁと思うのですが?

【久保氏】先ほど“これが1台目”というお話をしましたが、そこだけはちょっと弱いかなと我々も考えています。“これではFINAL FANTASY XIが標準で動かない”という議論はありました。とはいえ、正直なところ、基板も結構いっぱいいっぱいなので、さらにGPUを別付けするかと考えると難しいところはあると思います。

 今回の基板は、ベイの上に乗っている形状になっています。さらに、ベイの隣にはHDDがどーんと入っていて、基板の裏側はほとんどチップを実装していない設計になっています。なので、さらにチップを乗せるとなると難しいなぁというのが正直なところです。

Q:やはり、これ以上基板を小さくするためには、チップのフットプリントが小さくなる必要がありますよね。

【遠山氏】そうですね、もう少しフットプリントが小さくなってくれるといいんですけどね。現在のパッケージだとちょっと大きいですね。

LOOX Tの基板。裏側にはほとんどチップが搭載されておらず、表面にチップが集中している。これは、裏面は光学ドライブやHDDなどに接地しているため、チップを搭載することができないため

●モバイルだからこそHDDは大容量がほしい

Q:HDDはユーザーがアクセス可能なようになっていますね。

【遠山氏】技術的にはできちゃいますね(笑)。ただ、保証することができませんので、我々としてはそれができるよとは言えません。メモリの交換に関しては、ユーザーエリアにしてあります。

Q:HDDは標準的な2.5インチ/9.5mm厚のドライブが採用されています。容量は標準で60GBと、モバイル向け製品としては大容量のドライブが採用されています。

【遠山氏】リテール向けの製品では最上位モデルが60GB、下のモデルが40GBという構成になっています。モバイルするユーザーの方は、HDDになんでもかんでもデータを詰め込む方が少なくないと思うんですよ。他人に言わせると、“削ればいいじゃん”ってことになるんだと思うんですが、やっぱりHDDの容量が大きければ大きいほどよいと思うんですけどね。

Q:おっしゃるとおりですね。私の周辺でも、モバイルしている人はやっぱりみんなHDD足りないんですよね。だから、いつもベンダの方にはモバイルマシンこそ大容量のHDDにしてくださいとお願いしているんですが、価格の問題もあってなかなか難しいところですよね。

【久保氏】そのあたりは、社内でも様々な議論をして、今回のスペックに落ち着きました。また、今回はメモリスロットをMicro DIMMからSO-DIMMに変更しています。これにより、従来のMicro DIMMを利用してメモリを大容量に交換する場合よりも、安価に大容量に交換できるようになると思います。

LOOX Tシリーズの内部を見ることができるようにした特製のスケルトンモデル

●12.5mm厚のドライブを採用したのはDVDマルチとベイバッテリのため

Q:今回のLOOX Tの大きな特徴として、上位モデルにDVDマルチドライブを採用していることがあげられると思います。薄さということを優先して9.5mm厚のドライブを採用するベンダが多い中で、現状では12.5mm厚のドライブしかない書き込み型DVDを採用するのは割り切りが必要になると思いますが、いかがでしたか?

【久保氏】DVDマルチドライブに関しては、前のモデルの時からWebモデルとしてテスト販売をしてきました。その結果を見る限り、DVDマルチに対する要望は多いと判断しまして、今回の上位モデルに採用しました。

 残念ながら我々はソニーさんのように提案していくのがあまり得意じゃないので、DVDマルチで何をするのかと考えると、バックアップするのに便利ですよ、とか外付けのチューナをつけてテレビPCになりますよ、など割と一般的なものになってしまっています。

 ただ、冒頭でも述べたように、逆にユーザーの皆様の方が我々の思いもしない使い方を見つけて使いこなして頂いてます。そういうユーザーの期待に応える意味でも、DVDマルチは必要だなというのはありました。

 もう1つ、12.5mm厚にこだわっている理由が、ベイバッテリなんです。ベイにオプションのセカンドバッテリを入れることで、長時間駆動を実現できるというのは大事なことだと思っています。とにかく長時間駆動が希望であればベイバッテリを入れて使って頂けるし、ドライブが必要な時はドライブを入れて持って行く、少しでも軽くしたい時には付属のベゼルを入れて持って行って頂くなど、シーンによって使い分けて頂けると思います。こうした柔軟性はLOOXにとってアイデンティティであると考えています。

Q:2スピンドルモバイルノートは、3社から発売されていますが、今回面白いのは、ドライブに関しては3社とも異なっていますよね。ソニーは9.5mm厚のドライブを、松下電器はむき身のドライブを、と。

【久保氏】当社の場合は、先ほど述べた理由から12.5mmのドライブを選択しましたが、12.5mmのドライブを採用した割にはうまくまとまっているのではないかと考えています。当社では、以前より12.5mmのドライブを選択してきましたので、12.5mmでこのサイズにするパッケージを最適にするレイアウトとか、そういうノウハウはうちのエンジニアは持っているので。

Q:12.5mmドライブを選択したため、DVDマルチドライブを利用することができるというメリットはありますが、逆に大きくなってしまったとデメリットがある、というトレードオフですね。

【久保氏】そうですね。予想してはいましたが、お客様の声をお聞きすると、そういう声があるのは事実です。ちょっと言い訳みたいなんですが、3セルのバッテリオプションが用意しているので、軽さが必要なユーザーの方にはそうした選択肢も用意したいと思っています(笑)。

 ちなみに、今回の製品で6セルを標準にしたのは、3セルのバッテリだとDVDを1本見るにはやや厳しいという声があって、それを反映してのためです。

●エンターテインメントモバイルを実現するために必要な“ピカピカ液晶”

Q:今回のLOOX Tでは、いわゆる“ピカピカ液晶”や“ツルツル液晶”などと呼ばれる高輝度、高コントラストのスーパーファイン液晶が採用されています。スーパーファイン液晶を採用したのはなぜですか?

【久保氏】LOOX Tのキャッチフレーズとしてエンターテインメントモバイルと言うのがありますので、前々からスーパーファインにしたいと考えていました。ただ、以前はそこまで技術が追いついていませんでした。

 たとえば、スーパーファインで綺麗に見えるためには、輝度が明るくないといけないんですが、モバイルだと輝度が抑えめになっていたので難しかったのです。

 しかし、ここ最近、液晶の技術やインバータの技術などの性能が上がってきて、モバイル向けの液晶でも明るくできるようになってきました。たとえば、今回の製品だと液晶面で230cd/平方m、パネルを通すと220cd/平方m程度の明るさがあります。このぐらい明るいとスーパーファインの良さがでてくるんです。

Q:液晶の高輝度はどのようにして実現したのでしょうか?

【久保氏】当社で液晶を製造しているわけではないので、液晶メーカーさんの努力のたまものなんですが、いま進んでいるのはフィルターの改善です。色の純度、透過率、開口率などが改善されており、液晶自体の透過率が改善されています。また、導光版の技術も上がってきており、蛍光灯の光をいかに逃さず液晶に送るかという点も改善しています。また、インバーターメーカーさんにも改善してもらって、電力を効率よく取り出せるようにしています。

 もともとLOOX Tのインバーターではインバーターメーカーの方に苦労してもらっていて、輝度の設定レンジを広く取っています。薄暗い部屋とか、外とか、最低の輝度でも問題ないシーンというのはあるので、そういう時にバッテリを効率よく利用するためです。

Q:今回のモデルでは下の輝度は一桁程度まで下がっているようですね。

【久保氏】こういう設計にしたのは、先ほど述べたようにモバイルでも映像を綺麗に見せるということがあり、そのためにはスーパーファインにするんだけど、バッテリ駆動時間も犠牲にしたくないというのがありまして、液晶ベンダさんやインバーターベンダの方と協力して、広い輝度のレンジを実現しました。これにより、バッテリ駆動時間を犠牲にせずに高品質の画面表示が実現できていると考えています。

●モバイル向け製品なのでキータッチはややカッチリめに

Q:今回の製品では、実に多くのメモリカードのスロットがついています。PCカード、CF、メモリースティック、SDカード……。

【久保氏】そうですね。CFスロットがついているのは、明快な理由があります。1つ目の理由がワイヤレスWANカードを利用するためというものです。具体的にはAirH"や@FreeDなどの通信系のカードなんですが、それらをサポートするために必要だと考えています。もう1つの理由は、デジタルカメラとの連携です、メモリースティック、SDカードスロットが用意されているのも同じ理由ですね。

Q:しがらみのない富士通だからこそできる、というのはありますよね。

【久保氏】それはあると思いますよ。当社のノートPCではA4サイズのノートPCも含めてメモリースティックとSDの両方つけていますし。

Q:ただ、アナログRGBのコネクタがミニコネクタなのはユーザーとしては気になるところです。

【久保氏】そうですね(苦笑)。そこを標準のコネクタに出来た方がいいのは事実だと思いますが、正直なところこれ以上場所がないというのがあります。変換ケーブルにCRTとSビデオ出力と両方頼ってしまったのは今回トレードオフですね。

Q:キーボードですが、今回はキータッチも、これまでの富士通製品とはだいぶ違うタッチになっています。

【久保氏】このキーボードも、ずいぶんベンダーさんにがんばってもらってるんですよ。特に、押した時の特性をどうするかというのはかなり検討しました。当社のA4サイズのノートPCで採用しているのはやや柔らかめの、みなさんが“富士通のキーボード”といった時に想像されるような製品とはやや趣が異なっています。

 今回のLOOX Tでは、モバイル向け製品なので、机の上だけで使うわけではないし、多少は変えた方がいいだろうという議論をしていました。最終的にはキータッチや特性などを調べるエンジニアなどと相談して議論した上で、ややカッチリめなタッチにしました。

Q:私個人としては、こうしたカッチリめのタッチは好きなんですが、キータッチばっかりは個人の趣向の問題ですから、難しいところですね。

【久保氏】そうですね、個人差が大きいところですので。今回、キータッチよりもさらに議論をしたのが、キー配列の方なんです。従来製品では17mmピッチだったんですが、今回の製品では約18mmとなっています。今回は少し横幅が伸びたので、それに併せて、もう少し変則ピッチのキーを増やすと文字キーは19mmになるのではという議論もあったんですが、激論を交わした結果、むしろ変則ピッチのキーをできるだけ減らしたほうが打ちやすいだろうという結論になり、今回のキー配列になりました。

 あと、よく見て頂くとわかるんですが、今回はキートップを微妙なスケルトンにしてあります。今回はキーボードの色を黒にするというのは決まっていたのですが、どういうデザインにしようかという話をしている中で、スケルトンにしようというアイディアがでてきたんですよ。最初は、ウケ狙いで中のメカまで見えるようなスケスケのキートップを作ってみたりしたんですが、ボディの黒のシックなイメージからやや浮いちゃったんですよ。そこで、スケルトンを濃くして、さりげなく透けるようにしようということで、こういう微妙なスケルトンに落ち着きました。

Q:今回のモデルではポインティングデバイスがスティックからパッドに変わりました。なぜパッドになったのでしょうか?

【久保氏】これも様々議論がありました。最も大きな理由は、パッドを採用することで薄くできるというのがありますね。パッドにすると面積は使いますが高さは必要ありません。ところがスティックにすると、キーボードの下に必ずユニットが飛び出すことになります。それをどうするかということをさんざん議論した結果、今回はパッドを採用することにしました。

Q:パッドかスティックのどちらがいいのか、というのも個人の趣味の問題ですから難しいところですね。

【久保氏】これは言い始めると、キーボードのフィーリングと同じくらい延々と……(苦笑)

●下位モデルが密かにIEEE 802.11g対応なのは……遊んでください?

Q:無線LANについてなのですが、上位モデルはCentrinoなので、11b対応ということでいいのですが、下位モデルにはBroadcomの無線LANモジュールが搭載されていて、無線LANモジュールのスペック上は11gに対応していることになっています。実際、試してみると11gの通信速度でつながってしまったという報告もあがっています。

【久保氏】いくつかの記事などで指摘されているように、中身は確かにBroadcomのチップを採用した無線LANモジュールを採用しています。

 しかし、我々としてはIEEE 802.11gのスペックが正式に決定してフィックスするまでは責任もってサポートすることができないので、IEEE 802.11g対応とは言えませんでした。個人ユーザーの方が11gのアクセスポイントを用意されて、つながってしまうことは当然考えられますが、当社としては残念ながらサポートを提供することができないので、現時点ではIEEE 802.11b準拠とだけしか申し上げられないのです。

Q:6月の半ばにはIEEE 802.11委員会による正式規格の策定も行なわれるようですが、その後の扱いはどうなりますか? (筆者注:このインタビューは正式規格策定の発表前に行なわれている)

【久保氏】公式見解としては「未定です」としか申し上げられません。おそらく、当社では11g対応を謳わずに11b対応として出荷させて頂いた製品なので、それは難しいと思います。

Q:ファームウェアのバージョンアップで対応するとか、特に11gだといわずに、こっそりと、とかはどうでしょう?

【久保氏】公式見解としてはなんとも言えませんが、11bのファームウェアとしてはあるかもしれませんね。RPGの宝探しみたいになってしまうけど、そうしたところで少し遊んでみてください、としか言えないのが苦しいところなんですけど(苦笑)。

●ビジネスマンが使っても違和感がない色としての“ブラック”を採用

富士通株式会社 総合デザインセンター プロダクトデザイン部 チーフデザイナー 澤口亮氏

Q:今回のLOOX Tのデザインなんですが、これまで富士通のノートPCと言えば、青に近い色という決まった色があったと思うんですが、そうではなく黒というこれまでにない色にもチャレンジしています。

【久保氏】デザイナーはやはりコーポレートアイデンティティーを意識しています。たとえば銀であっても青っぽい銀とか、濃いブルーだとか、当社の製品はなにかしらブルーが入っています。

 デザイナーにも彼らのカラーパレットというのがあるんですけど、今回の製品は完全にそこから外れています。担当レベルの話からレベルアップしていって、もうちょっと上のほうで「本当にこういう製品を出すのか」なんて議論しました。

【澤口氏】久保が述べたように、今回黒を選ぶにあたって、社内でいろいろな議論がありました。これまでは、コーポレートアイデンティティとして、あの青を使ってきたという経緯もありましたので。

 そんな中で、他社さんも様々な色にチャレンジされていて、いつかは流行という観点から色を変えてみようよという議論は社内でもしていましたが、今回ここまでガラッと変えるのかというぐらい今回は変えてみました。こうしたインパクトがある変更を行なったのは、1つにはやはり新しい製品が登場したんだという、“登場感”を出したかったというのがあります。もう1つは“ビジネスマンがほしい製品”という切り口を持たせたくて、その結果この色になったというのはあります。

Q:黒という色は、よく言えば落ち着いた色、別の言い方をすると地味な色とも言えますが、黒という色を選んだ理由は何ですか?

新しいLOOX T。左側が超低電圧版Pentium M 900MHzを搭載した上位モデル「T90D」、右側が超低電圧版Celeron 600A MHzを搭載した下位モデル「T60D/W」

【澤口氏】カタログにありますが、やはりフォーマルなイメージをねらっているという事情はあります。現在のモバイルPCのターゲットは、お子様でも、女性でもなく、やはり男性なんです。そういう現状を認めた上で、そうしたユーザーの方に買って頂くことを考えた時に、赤とか黄色とかそういうポップなイメージはやはり似合わないだろうと。で、シルバーは世の中にあふれている、白は最近増えてきたよなぁ……と考えていって残ったのがこの色だったんですね。

Q:確かに黒という色はどちらかと言えば男性に似合うイメージの色です。ただ、最近は女性をターゲットにした白も増えてきていますが、そのあたりの傾向はどう考えていらっしゃいますか?

【澤口氏】(女性ユーザーにも訴求できる製品というのも)もちろん戦略としては検討しています。ただ、これまで富士通がMS-DOSの時代からつかんできたユーザーは、どちらかと言えば男性であるという歴史が良くも悪くもあるわけです。そうしたメインユーザー、ターゲットユーザーになる男性ユーザーをがっちりとつかんだ上で、次のステップを踏んでいく必要があるだろうと考えています。ただ、確かにおっしゃるとおり、最近、白を基調にした製品が増えつつあるのは事実で、市場の反応を見て次の製品計画に生かしたいなとは考えています。

Q:ところで、バッテリはブラックではなく、シルバーになっています。どうしてこれはブラックじゃないのですか?

【久保氏】そういう意見もありましたが、今回はわざとこのバッテリをシルバーにしてあります。今回唯一の企画側からのリクエストで、バッテリはシルバーのままにしてあります。後ろから見て頂ければわかりますが、ヒンジの部分をシルバーに、ボディを黒に、バッテリをシルバーにしたことで、銀と黒が互い違いに入っていて、違和感のないものになっています。逆にバッテリを黒にしたら、ヒンジの部分だけシルバーになって、ここだけ浮いてしまうので。

Q:下のモデルは銀ですよね。上のモデルを黒にしたというのは、やはり上のモデルに特徴を持たせたかったんでしょうか。

【久保氏】上のモデルは、Centrino+特別色というので、Centrinoモデルのプレミアム感をだしたかったというのでアイデンティティとしてこうしました。ただ、あまりにブラックが人気あるので、我々もびっくりしているところです。

●モバイルPCの普及を果たすことが“ミッション”である

Q:ところで、Sシリーズはどうなったのでしょうか? 今回は特に新しいモデルはでずに、継続販売となっています。Centrinoにはならないのかとか、TM8000にならないのか……。

【久保氏】どうなんですかねぇ…(笑)。今ひとつだけ言えることがあるとすれば「いつになるかはわからないけど、終わりじゃないです」ということですね。

【遠山氏】そうですね、いま言えることは「やめていません」ということでしょうか。Sがねらっているところは、一番パイが小さいところなんですよ。その市場に対してどうやって新しいものを提示していくことが可能か、ということを検討している段階です。

Q:最後に、LOOX Tシリーズの今後の方針を教えてください。

【久保氏】今後も「妥協しないモバイル」というのを突き詰めていくことになるでしょうね。我々はLOOX Tを“起承転結”だと思っていて、最初のLOOX TであるLOOX T5が“起”、ベイバッテリになった第2世代が“承”、そしてCentrinoになった今回の製品が“転”なんです。それが、市場にどう受け入れられていくのか、そのフィードバックを受け入れていって次を考えていきたいですね。

Q:日本のユーザーの求めてるものは多種多様ですからね。

【久保氏】そうですね。各社が手探り状態ですが、それで市場が広がってくれるといいと思いますね。

Q:いま10%〜20%程度と言われてるモバイルPCの市場が40%〜50%などになってほしいですね。

【遠山氏】そうですね、ニッチだっていわれない市場になってほしいですね。

【久保氏】遅ればせながらアメリカでもだんだんモバイルPCが受け入れられるようになってきていますからね。日本を含めてアジアはモバイル先進地域なわけですが、アメリカやヨーロッパが続いてくると、状況は一気に変わると思います。そのときに備えて、我々も腕を磨いて待ってなくちゃ、というところですね。

【遠山氏】このカテゴリの普及を推し進めることが、我々のミッション(使命)でもあるので、がんばります。

Q:本日はどうもありがとうございました。

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【6月9日】【Hothot】CentrinoとDVDマルチドライブで強化された「LOOX T 90D」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0609/hotrev218.htm
【5月13日】富士通、Pentium MベースになったLOOX Tシリーズ
〜超低電圧版Celeron 600A搭載モデルも
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0513/fujitsu2.htm

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(2003年6月12日)

[Reported by 笠原一輝]


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