笠原一輝のユビキタス情報局

ノートPC向けGPUの3D描画性能をチェックする
〜MOBILITY RADEON、GeForce FX Go、
そしてTrident XP4の実力は?




 前回のレポートでは、ノートPCの性能評価の基準に「平均消費電力」と「電力あたりの処理能力」という基準を付け加えようという話題に触れた。今回は、少し趣を変えて、ノートPCに搭載されているGPUの性能について考えていきたい。

 GPUの性能と言えば、2D、3Dの2つのモードにおける描画性能が考えられるが、最近では2Dの描画性能に関してはどのGPUを利用してもほとんど変わらなくなってきており、主に3Dの性能がチェックポイントとなりつつある。そこで、今回は複数の最新ノートPCを用意して、どの程度の3D描画性能であるかをチェックしていきたい。


●3D描画性能が向上してきた最近のノートPC向けGPU

 以前、ノートPC向けのグラフィックスチップでは、3D描画性能について語られることはほとんど無かった。その最も大きな理由は、デスクトップPCに比べてCPUやチップセットなどの処理能力が劣るため、3Dゲームには不適であるという見方が大勢を占めていたからだ。

 ノートPCベンダも、高い3D描画性能を持つGPUを搭載してもアピールポイントにならないと考えていたため、3D機能をほとんど持たないグラフィックスチップが搭載されることが少なくなかった。

 ところが、現在ではDTR(DeskTop Replacement)と呼ばれる、省スペースデスクトップPCの代わりに利用されるような大型のノートPCが普及してきたため、3D性能にもそれなりの注意が払われるようになり、GPUベンダは、デスクトップPC向けのGPUを、低電圧化するなどして、高度な3D機能を持つGPUをモバイル向けにも投入し始めた。現在ではそれなりの3D機能を持つGPUがノートPCに搭載されるのも珍しいことではなくなってきている。

 以下の図は、ATI、NVIDIA、S3 Graphics、Trident MicrosystemsなどのノートPC向けGPUと、Intel、ATI、VIAの統合チップセットを、対応するDirectXの世代別に分類したものだ。

 こうしてみると、ATI、NVIDIAという2大GPUベンダは、デスクトップPC向けのGPUのうち、メインストリーム/バリュー向けのコアをノートPC用として転用していることがわかる。これは2つの理由がある。

 1つは、ビデオカード単体という製品が存在しないノートPCでは、GeForce FX 5900やRADEON 9800のような超高性能ながら超高コストであるGPUは必要とされないことだ。

 そしてもう1つの理由が、そうした超高性能なハイエンドGPUは、多くのトランジスタを集積しているため、消費電力の点で不利であるからだ。

 これに対して、S3 GraphicsやTrident Microsystemsなどは、最初からノートPC専用に設計している。これは、彼らがデスクトップPC市場において市場をほとんど持っていないため、最初から低消費電力に注力した設計を行なっているためだ。実際にはデスクトップPC用もリリースされているが、あくまでノートPC用のチップをデスクトップに転用している製品となっている。

 S3やTridentのチップは、まず消費電力を落とすことを前提に設計されているため、消費電力あたりのパフォーマンスで優れている。

 単体のノートPC向けGPUが、DirectX 8世代、DirectX 9世代などに移行しつつあるのに対して、グラフィックス統合型チップセットに内蔵されているグラフィックスコアは、未だにハードウェアT&Lも内蔵していないDirectX 6世代にとどまっている。それでも、徐々にハードウェアは改良されてきており、徐々に描画性能が向上しつつある。

●高い描画性能を発揮するGeForce FX 5600 Go

 今回は、過去にAKIBA PC Hotline! Hothotレビューで取り上げた機種に加え、いくつか筆者の方で追加で計測したベンチマーク結果を合わせて1つのグラフにまとめてみた。

 ノートPCを使用したベンチマークテストでは、搭載CPUなどが各機種で異なり、デスクトップPCのようにGPU性能だけを直接比較するのは難しい。今回はあえて各機種を並列で掲載するが、CPU性能による差もあることを念頭においていただきたい。

 用意したのはGeForce FX 5600 Goを搭載したソニー バイオノートGR(PCG-GRT99/P)、MOBILITY RADEON 9000を搭載しているソニー バイオノートGR(PCG-GRV99G/P)、IBM ThinkPad T40、NEC LaVie M、MOBILITY RADEON 7500を搭載するIBM ThinkPad T40、MOBILITY RADEONを搭載するThinkPad X31、Trident XP4を搭載する東芝 DynaBook SS S7、Intel Extreme Graphics2内蔵のIntel 855GMを搭載するエプソンダイレクトのEDi Cube Sの各製品だ。

 利用したベンチマークは、3DMark2001 Second Editionの800×600ドット/32bitカラー(グラフ1)と1,024×768ドット/32bitカラー(グラフ2)の2つの解像度と、Final Fantasy XI Official Benchmark(グラフ3)、Unreal Tournament 2003 Frybyの1,024×768ドット/32bitカラー(グラフ4)の3つだ。テストには、各マシンの標準環境を利用し、ドライバはプリインストールされたものを利用している。

■ベンチマーク結果

【グラフ1】3DMark2001 SE 800×600ドット 32bitカラー 【グラフ2】3DMark2001 SE 1,024×768ドット 32bitカラー



【グラフ3】FinalFantasy XI Official Benchmark 【グラフ4】Unreal Tournament 2003 flyby(XGA)



 今回比較した全モデルの中では、GeForce FX 5600 Goを搭載したソニーのバイオノートGR(PCG-GRT)が最も高速な結果を残した。MOBILITY RADEON 9000(開発コードネーム:M9)を搭載した春モデルのバイオノートGR(PCG-GRV)に比べても高い結果を残しているが、搭載されているCPUはGRTがPentium 4 2.80GHz、GRVがPentium 4 2.60GHzとなっているため、GPUそのものの性能差は若干縮まる可能性もある。

 ATIも、DirectX 9世代のMOBILITY RADEON 9600 PRO(開発コードネーム:M10)を発表しているが、若干出荷が遅れてしまったため、今回の夏モデルのタイミングには間に合わなかった。このため、デスクトップリプレースメント(デスクトップ代替機)の市場では、GeForce FX 5600 Go、GeForce 4 Go、MOBILITY RADEON 9000/7500ないしは統合型グラフィックスという選択肢になっている。

●3DMark2001のファイル名をリネームするとスコアが下がるXP4

 しかし、モバイル市場に目を向けると、GeForce FX Goの採用例は、今回の夏モデルでは一例もない。現在のところ、GeForce FX Goの主なターゲットはデスクトップリプレースメント市場であり、いわゆる2スピンドルのシン&ライトと呼ばれる市場では、ATIのMOBILITY RADEONシリーズか、IntelのIntel 852GM/855GMという統合型チップセットが採用されている例がほとんどだ。

 モバイルの市場におけるATIとIntel以外の数少ない例外と言えるのが、Trident MicrosystemsのXP4を搭載している東芝のDynaBook SS S7だろう。XP4に関しては、省電力の割に高い描画性能を持つことが評価されている。

 だがこれに関しては、3DMark2001において興味深いベンチマーク結果がでている。3DMark2001の実行ファイルの名前を、別のファイル名に変更すると、スコアが下ってしまう現象がみられるのだ。

 例えば、1,024×768ドット/32bitカラーにおいて、ファイル名をリネームする前のXP4は4,960と、MOBILITY RADEON 9000を搭載しているIBM ThinkPad T40に迫る結果を残しているのに、3DMark2001のファイル名をリネームすると、スコアは2,727となり46%も下がる。

 そこで、3DMark2001 SEでリネーム前後のイメージ品質を比較してみると、リネームする前では、イメージ品質が明らかに低いことがわかる。

 例えば、以下の画面はGame Test1の画面だが、「MAXPAYNE」とかかれた看板の文字が見えなくなったり、トラックにかかれたロゴが見えにくくなったり、赤いトラックについているナンバーの文字が描画されていないなど、明らかにイメージ品質が下がっていた。こうしたことから、XP4には、3DMark2001のファイル名をチェックして、描画品質を自動的に下げ、ベンチマーク結果を向上させる仕組みが入っている可能性が高い。


■リネーム前の画像(1,024×832ドット)

リネーム前の画像では表示品質が低く、文字などがにじんで見えるのがわかる


■リネーム後の画像(1,024×832ドット)

リネーム後の画像では下のリファレンス画面に近い表示品質となっている


■3DMark2001のリファレンス画面(1,024×832ドット)

 搭載CPUなどが異なるので直接比較するのは難しいが、このリネーム後のスコアで見ると、XP4はMOBILITY RADEON 7500を搭載しているThinkPad T40を下回るが、Intel 855GMに内蔵されているIntel Extreme Graphics2を搭載するエプソンダイレクトのEDi Cube Sなどは上回るようだ。

 これは、実際のゲーム環境に近いベンチマークである、Final Fantasy XI Official Benchmark(グラフ3)やUnreal Tournament 2003(グラフ4)を見ても同じ傾向であるので、XP4の描画性能はMOBILITY RADEON 7500には届かないが、MOBILITY RADEONやIntel Extreme Graphics2は上回るというのが正しい評価であるということができるだろう。

●今後の課題は3D性能を上げながら、消費電力を下げていくこと

 こうしてみると、ノートPCのグラフィックス性能は、一昔前に比べると明らかに向上していることがわかる。特に、デスクトップリプレースメント市場向けのGPUでは、GeForce FX 5600 GoなどのDirectX 9世代のチップも登場してきており、ノートPCでもデスクトップリプレースメントなどの大型液晶を搭載した製品では、デスクトップPCとあまり変わらないようなパフォーマンスが実現されている。

 ただ、モバイルにおいては別だ。すでに述べたとおり、モバイルPC向けのGPUとしては、ATIのMOBILITY RADEON/MOBILITY RADEON 7500/MOBILITY RADEON 9000ないしは、IntelのIntel Extreme Graphics2、TridentのXP4などが選択肢としてあるが、現時点でデスクトップPCにも匹敵するような性能を発揮していると言えるのはMOBILITY RADEON 9000ぐらいだ。それに続き、MOBILITY RADEON 7500、Trident XP4、Intel Extreme Graphics2、MOBILITY RADEONという位置づけになるだろう。

 また、統合型チップセットに関しては、グラフィックスコアの世代としては、DirectX 6世代にとどまっており、単体型GPUがDX6>DX7>DX8>DX9と進化しているのに比べるとやや見劣りするのは事実だ。

 特に、2005年にWindows XPの後継としてリリースされるLongHornでは、標準のユーザーインターフェイスも3Dとなり、フル機能を利用するにはDirectX 9世代のGPUが必要になる。そうした意味で、2005年までに高い3D描画性能を持ちながら、消費電力の低いGPUや統合型チップセットが実現される必要がある。

 そのためには、現在のようにデスクトップPC向けGPUやチップセットに内蔵するコアを、低電圧化してモバイルに転用、というアプローチでは限界を迎える可能性が高い。GPUベンダもそろそろ“モバイル専用GPU”、つまりGPU版Baniasのようなものに取り組む必要があるのではないだろうか。

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【5月27日】NVIDIA GeForce FX 5900 Ultraの描画性能をチェックする
〜FutureMarkの“Cheatドライバ”対策パッチの影響は?
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0527/hotrev215.htm

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(2003年5月30日)

[Reported by 笠原一輝]


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