槻ノ木隆のPC実験室

Pentium 4 3GHzを搭載したA4フルサイズノート
ThinkPad G40 5EJ



 日本IBMの「ThinkPad G40」は、3スピンドルのA4フルサイズノートである。その最上位機種である「5EJ」はPentium 4 3GHzが搭載されており、並みのデスクトップ機にも劣らない性能を持っているようだ。そんなハイパフォーマンスノートを早速試していきたい。


●未発表のPentium 4 3GHz&Intel 852GM?

 まず、今回紹介するThinkPad G40 5EJのスペック表を見てみると、CPUにはPentium 4 3GHz、チップセットにIntel 852GMを使用している。IBM直販価格は279,000円だ。

 Pentium 4 3GHzというと、先日登場したHyper-Threadingにも対応する800MHz FSBのPentium 4 3GHzが脳裏に浮かぶが、Intel 852GMは400MHz FSBまでのサポート。しかも、スペック表にはHyper-Threadingの文字は見当たらない。

 念のためにH.Oda!氏の「WCPUID」を実行して、各コンポーネントをチェックしてみた結果が画面1である。やはりFSBは100MHzのQDR、つまり400MHz FSBで駆動しているようだ。当然ながら倍率は30倍という凄いものになっている。ちなみにSteppingは「7」となっており、Pentium 4 3.06GHzなどと同じC1ステッピングと同じコアを使っているようだ。

 Intel 852GMはグラフィックコア内蔵のモバイル専用チップセットである。グラフィックコアは133MHz駆動なので、Mobile Pentium III向けのIntel 830MGより更に遅い(Intel 830MGは166MHz駆動)事になる。

 ただ、Intel 830MGはPC133のみのサポートなのに対してIntel 852GMはPC2100をサポートするから、多少メモリアクセスが高速化されているはずで、その分の性能の上乗せは期待できそうだ。一応WCPUIDのChipset Informationを見てみたが(画面2)、まだ情報が登録されていなかった。

 それにしてもCPUに関しては謎が多い。400MHz FSBのPentium 4 3GHzという製品はもちろん正式発表はなされていない。またシステムのプロパティから分かるように(画面3)、Hyper-Threadingも搭載されておらずデスクトップ向けCPUを流用したわけでもなさそうだ。結局謎は解けず残念だが、3GHzという高速なCPUであることは間違いなく、製品のパフォーマンス自体には期待できる。それでは、早速製品のほうを見ていくことにしよう。

【画面1】WCPUIDでCPUの情報をチェックしてみたところ、400MHz FSBの3GHz駆動であることが確認できた。L2キャッシュ512KBなどのスペックはPentium 4、モバイルPentium 4-Mなどと同じだ 【画面2】同じくWCPUIDでチップセットの情報を確認。MCHとビデオチップの情報は登録されていなかったが、両者ともIntel製であることは間違いない 【画面3】デバイスマネージャで確認するとCPUは1つしか認識されておらずHyper-Threading機能は動いていない。この画面ではドライブ類の情報も出してあるが、詳しくは後述することにする

●インタフェース周りをチェック

【写真1】良くも悪くもシンプルなThinkPadらしいスタイル

 前述のとおり本製品はA4フルサイズノートである(写真1)。寸法は329×283×37.0~51.0mm(幅×奥行き×高さ)、質量は4.1kgと、ノートPCとしては最大クラスといっていい。とはいえ、このサイズにPentium 4 3GHzを収めた、というのは熱処理の面からみても評価できる。

 本体の左側面にはDVD-ROM/CD-RWのコンボドライブ、PCカードスロットが搭載されている(写真2)。搭載されているコンボドライブは松下電器産業の「UJDA740」が使用されており、CD-R書き込み:最大16倍速、CD-RW書き換え:最大10倍速、DVD-ROM読み出し:最大8倍速、CD-ROM読み出し:最大24倍速というスペックを持つ。

 なおPCカードスロットはType1にも対応するサイズではあるが、1スロットしか用意されていないので注意が必要だ(写真3)。ただ最近ではUSB機器などが主流で、PCカードのみでしか提供されていないというデバイスが少なくなってきてることもあり、1スロットで不満を感じることも少ないと思われる。

 さて、反対の右側面は、オーディオ入出力、FDD、USB2.0×2が用意されている(写真4)。また後方には銅製ヒートシンクが顔を覗かす排気口が見えるが、この点については後述したい。

 本体背面は(写真5)の通り。右端はACアダプタのコネクタである。そのほか、LAN、モデム、PS/2、USB2.0×2、パラレル、VGA端子が並ぶ。パラレルやPS/2といったレガシーポートが残っているのは、ビジネス用途を意識したものだと思われる。

 なおコミュニケーションに関しては、背面のLAN・モデムポート以外に、IEEE 802.11b対応の無線LANカードを内蔵する。本製品の性格を考えるとIEEE 802.11bは外せないだろうが、せめてIEEE 802.11gかIEEE 802.11a/bあたりは搭載されていても良かった気もしなくはない。

【写真2】左側面はコンボドライブとPCカードスロットのみ。本当はここにマウスを取り付けるためのUSBポートが欲しかったところ 【写真3】イジェクトレバーが示すとおり、PCカードスロットはTypeI~III×1なので要注意

【写真4】こちらは右側面。こちらにはUSBポートが用意されている 【写真5】背面。特徴的なインタフェースはないが、パラレルポートの存在を喜ぶユーザーも多いのではないかと思う

●ファン搭載だが非常に静か

 さて、本体背面の左端には、本体右側面にもあった排気口が存在する。この中には銅製のヒートシンクが仕込まれている(写真6)。また本体底面にはファンも搭載されている(写真7)。ここから吸気を行ない、右側面、背面の排気口へ空気を逃がすのである。

 ちなみにこのファン。常に回っているわけではなく、CPU負荷が高くなり発熱が問題になったときのみ回転する。その回転も非常に静かで、回っていることに気がつかないほどである。排気口から出てくる空気は非常に暖かいので、かなりの発熱があると思われるが上手く排熱している。

 それでは、本製品のそのほかの特徴を見ていこう。メモリスロットは本体背面に用意されている(写真8)。初期状態ではPC2100 DDR SDRAMが256MB搭載されている。S0-DIMMスロットは2スロット用意されており、1スロットは空いているので増設は容易だ。

 HDDは左側面に内蔵されている(写真9)。型番は富士通のMHS2040ATの40GBタイプで、4,200rpm、流体軸受けモーター使用といったスペックだ。

 このほか、背面にはバッテリも装着されている(写真10)。バッテリは8.8Ahの大型バッテリで、リチウムイオンが利用されている。バッテリも大型ならACアダプタも大型である(写真11)。とはいえ、本体サイズから考えても持ち運び用途はほとんど考えられないので、たいした問題ではないだろう。

【写真6】背面と右側面に、銅製のヒートシンクを通して排気される仕組み 【写真7】ファンは底面。可変速の静音ファンなので、音はほとんど気にならない 【写真8】底面のメモリスロット。2スロットに512MBメモリを搭載して、最大1GBまで増設が可能

【写真9】流体軸受けモーターを使用した富士通製のHDDが使用されている 【写真10】8.8Aの大型バッテリを搭載するが、使用時間は公称で2時間。もっとも本製品の大きさだとせいぜい会社内の移動程度が限度であり、バッテリ駆動時間の重要度は低い 【写真11】16V-7.5AのACアダプタが付属するが、これまたサイズが大きい。ちなみにACアダプタ自体にファンなどは搭載されていない

●液晶はSXGA+の15型を搭載

 さて、それでは実際に電源を入れて、そのフィーリングを見てみよう。電源投入直後にまず感じるのは、(先にも触れたが)これだけの大型ノートにも関わらず非常に静かだということだ。可変速ファンらしく電源投入直後は一瞬ファンが回転するが、その音も非常に静か。ファンそのものが静かなのと、底面に設置されていることでかなり音が抑制されていると考えていいだろう。

 また、HDDの音も比較的静かである。さすがに音や振動をまったく感じないわけではないが、ノートHDDとしては静かな部類には入る。一方で、かなりうるさいのがコンボドライブだ。回転が安定すれば多少静かにはなるが、全体に音量は大きめ。常に使うものでないが、ほかが静かなだけに残念である。

 さて次に見ておきたいのが液晶だ。本製品は1,400×1,050ドットの表示が可能な15型液晶を搭載している(写真12)。解像度は高いが液晶のサイズも大きいので、文字の視認で困ることはない。また輝度は調節可能だが、かなり明るい設定が施せるので、DVD-Videoの鑑賞などにも向く。ちなみに冒頭でも触れたが、ビデオコントローラはIntel製のチップセット内蔵のものが使用されている(画面4)。

 本体サイズに合わせて、キーボードも大きい。配列は89キーで、これまでのThinkPadと同じ7列のタイプである(写真13)。ちなみにポインティングデバイスには、これまたThinkPadおなじみのトラックポイントが採用されている。ThinkPadを使いつづけているユーザーには、この7列キーボードとトラックポイントに慣れてしまっている人が多い。他メーカーにはない特徴をユーザーのために守りつづける同社の姿勢は評価していいだろう。

 キーボードはキータッチも良い。ストロークはそれほど長くないが、押したときの感触はハッキリしており、フワフワ感はない。また、前述した左右側面の写真を見てもらうと分かるように、本体の形状が背面に向かって厚みが増す形状をしているので、キーボードに傾斜がついており使いやすい。

 またキーピッチは最も長い部分では2cm近く、短いところでも18mm以上確保されている(写真14)。ただ、逆にここまで広いと、手の小さい人には少々使いづらさも覚えるかもしれない。何しろ筆者が普段使い慣れているキーボード(IBMの42H1292という101フルキーボード)よりデカイ状態で、ちょっと「適度」を超えている気もする。

【写真12】1,400×1,050ドットの解像度を持つ液晶ディスプレイ。輝度、色合い共に良好で視野角も広い 【画面4】コントローラはチップセット内蔵のものが使われており、デュアルディスプレイにも対応する

【写真13】ThinkPadユーザーには嬉しい7列配列キーボードとトラックポイント。カーソルキーの両脇のボタンはInternetExplorer用の[進む][戻る]ボタン 【写真14】中心部分のキーピッチは19~20mmほどもあり非常に広い。トラックポイントには3種類のキャップが付属し、使いやすいものを選択できるようになっている

●省電力設定にはSpeedStepに関する設定がない

 ここからはソフトウェアのほうを見ていきたい。まずは省電力に関する設定だ。持ち運びを意識していないノートとはいえ、省電力に関する設定は用意されているが、非常に簡単なものだ(画面5)。

 とくに気になるのはCPU速度の調節に関する設定がない点。モバイル用のPentium 4であればSpeedStepが搭載されており、速度を変更する項目があってもおかしくないからだ。ただ、常に3GHzという速度で回り続けることになり、とにかく高速!、という本製品の性格が表れていると言えなくもない。

 CD-RWのライティングソフトにはVERITAS RecordNowのIBM版がプリインストールされている(画面6)。通常のRecordNowと異なり、ウィザード形式のみでの書き込みが可能となっているのが特徴だ。

 DVD-Videoの再生ソフトはWinDVD4である(画面7)。本製品はDVD-Video鑑賞がメインになるとは考えにくいが、ないよりは、あったほうが良いだろう。

【画面5】省電力に関する設定。設定できる項目は一般的だが、CPUの速度調節はなく、SpeedStepを持たないCPUである可能性が高い 【画面6】ライティングソフトの「IBM RecordNow」。VERITAS純正品と異なり、ウィザード形式によるディスク作成のみが可能 【画面7】DVD再生ソフトはおなじみのWinDVD4

●デスクトップ機なみのパフォーマンスを発揮

 ノートPCということで、デスクトップ機なみのパフォーマンスを期待するのは酷かも知れないが、3GHzというCPUや、明らかにデスクトップ機の置き換えとなりそうな大ぶりなボディから、パフォーマンスもある程度は発揮してほしいところ。

 そこで、いくつかのベンチマークを行なってみた結果を表に掲載した。まず驚くのが、Sandra2003のDhrystoneの結果である。この数値はデスクトップ用Pentium 4の上位クロックにも見劣りしない成績で、3GHzは伊達ではないと感じさせる。

 ただ、Sandra2003とSYSmark2002のそのほかの結果については、ノートPCとしては優秀だが、デスクトップ機なら及第点の成績。FSBの細さや、HDDなどが影響したのだろうが、Pentium 4 3GHzの期待ほどではない結果になった。

 3DMark2001 SEについては、こんなものだろう。H/W T&Lやシェーダーの無い、Intelの内蔵グラフィックを使っている上、動作クロックもかなり遅い。2Dはともかく3Dに関しては期待するほうが無茶というものだ。まぁ、今のところビジネス用途に限れば3Dの必要性は乏しい(取り合えず動きさえすれば許容される)からこれでいいのだろう。

【ベンチマークテスト結果】
Sandra 2003Dhrystone ALU7,608MIPS
Whetstone FPU1,720MFLOPS
Whetstone iSSE23,931MFLOPS
Integer iSSE211,856it/sec
Float iSSE215,139it/sec
RAM Bandwidth Int Buff iSSE21,666MB/sec
RAM Bandwidth Float Buff iSSE21,694MB/sec
SYSmark2002Internet Content Creation313
Office Productivity135
SYSmark rating194
3DMark2001 SE640×480/32bitカラー2304
800×600/32bitカラー1,829
1,024×768/32bitカラー1,350
1,152×864/32bitカラー787
1,280×1,024/32bitカラー906

●デスクトップ機の置き換えとしては魅力

 以上、ざっくり本製品を見た感想を述べると、やはりビジネス志向が強い製品であるという事だ。

 3スピンドルを敢えて用意する(個人ユースでFDDの内蔵が尊ばれるケースは、もはやほとんどない)あたりや、IEEE 1394ポートが無い(DVカメラなどマルチメディアコンテンツの通信には無くてはならない)あたりに、それを強く感じる。つまり個人ユースには、色々と不都合やオーバークオリティを感じる部分が多いということだ。

 一方ビジネス向けパソコンとしての評価をするなら、CPUや液晶などはデスクトップ機なみのものを持ちながら、さらに多少の可搬性も備えている。会社のデスクに置いてあるデスクトップPCを本製品に置き換えても、不便を感じるどころか、一層便利に使えることは間違いない。

 ただ、Pentium 4 3GHzというスペックは、ビジネスにはすでにオーバースペックのようにも思う。その意味では、コンボドライブが外されてしまうが、Pentium 4 2.80GHzを搭載した「4KJ」(IBM直販価格199,000円)や、Pentium 4 2.4GHzを搭載した「3DJ」(同179,000円)などのほうが、価格の面からも魅力的かも知れない。

□製品情報
http://www-6.ibm.com/jp/pc/thinkpad/tpg4034/tpg4034a.html
□関連記事
【4月16日】日本IBM、デスクトップ用CPUを搭載した「ThinkPad G40」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0416/ibm.htm

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(2003年5月29日)

[Reported by 槻ノ木隆]


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