笠原一輝のユビキタス情報局

光学ドライブ内蔵で世界最軽量“Let'snote W2”開発者に聞く




松下電器産業のLet'snote W2、DVD-ROM/CD-RWコンボドライブをパームレスト部分に内蔵しながら、重さが1.29kgと軽量

 先週、松下電器産業が発表したLet'snote W2は、12.1型液晶ディスプレイとDVD-ROM/CD-RWコンボドライブを内蔵しながら重量が1.29kgと、光学ドライブを内蔵したノートPCでは世界最軽量(同社調べ)であり、大きな注目を集める製品となっている。

 同じ12.1型液晶を採用し、光学ドライブを搭載した他社製品では2kg前後が当たり前のなか、圧倒的に軽い1.29kgを実現し、48Whのバッテリを採用しながら7.5時間という長時間駆動を可能にするという仕様には驚くばかりだ。

 本レポートでは、そんなLet'snote W2の設計を担当した設計チームを代表して、松下電器産業 テクノロジーセンターハード設計第一チーム主任技師 奥田茂雄氏と松下電器産業 テクノロジーセンター機構設計チーム主任技師 島田伊三男氏のお二人に、Let'snote W2の秘密を伺ってきた。


●“モバイル”に特化した製品を提供し続ける松下のPC事業

Q:松下電器は、他社とは違ったユニークなノートPCを提供していますね。

【奥田氏】弊社のPC事業は、特定の市場にフォーカスを置いています。1つはフィールドモバイルという、主に法人向けの堅牢性が必要とされる市場です。そして、もう1つがビジネスモバイルというべき市場です。どちらかと言えばパーソナルに近い製品で、小型軽量で、バッテリ寿命が重視される製品です。

 昨年の1月に、R1という10.4型の液晶を搭載した製品を発表しまして、おかげさまでご好評をいただきました。我々と同じ考えを持つ方は少なくないと確信しまして、そのR1からのフィードバック、例えばキーボードをもう少し大きくして欲しいとか、VGA出力が欲しいなどのフィードバックを元に、昨年の11月に12.1型液晶を搭載したT1を発表させていただきました。両方の製品で我々がこだわったのは、軽量さ、そして長時間バッテリ駆動、さらには堅牢性の3点です。持ち運ぶ機会が多いモバイルPCは、どうしても落とすという可能性が高いですから、堅牢性ははずせない要素です。

 そして、今年の春に、インテル様からCentrinoモバイル・テクノロジ、つまりPentium Mがリリースされることが判っていたので、RシリーズもTシリーズもそれを採用して新しくしようという話がでました。それに加えて新シリーズをラインナップしていこうと考え、RシリーズはR2へ、TシリーズはT2へ、そして新シリーズとしてW2を商品化させていただきました。

Q:セカンドジェネレーションというわけですね。

【奥田氏】CPUやチップセットなどプラットフォームが大きく変わり世代が変わりましたので。RシリーズがR2になってプラットフォームは変わりましたが、弊社がずっと言い続けている軽さ、電池寿命という点では変わっていません。プラットフォームをCentrinoにし、CPUを超低電圧版Pentium M 900MHzに、チップセットをIntel 855GMに、無線LANも内蔵と、仕様は強化していますが、軽さ、バッテリ駆動時間の観点では930gと5時間という従来製品の枠を守っています。Tシリーズも同様です、T2になりCentrinoに対応していますが、999gで5時間という線は維持しています。そして今回W2という新しいコンセプトの製品を追加するということになりました。

Q:ドライブが2つだからW(ダブル)なんですか?

【奥田氏】そういう意味もありますが、それを言い出すと、先のはどうなのという話もありますので(笑)。なかなかナイスな回答がないんですが、“R”、“S”、“T”、“U”、“V”と使ってきて、“W”なんです。ぜひ皆さんでよい意味を考えてください。

●軽量化と長時間駆動を実現する秘密は設置面積をできるだけ小さくすること

Q:今回新しく追加されたW2ですが、設置面積(フットプリント)的にはT2とほぼ同じだと思いますが?

【奥田氏】Tシリーズと全く同じです。

Q:並べてみると、違いがわかりませんね。

【奥田氏】それが狙いなんです。例えば、周辺機器として外付けのドライブが販売されていますが、W2はT2がそうした外付けドライブを食べてしまって内蔵した、そういう製品なんです。ドライブを食べた分少し太ってしまっていますが、ほとんど変わらない。これがW2のコンセプトなんです。

Q:しかもバッテリ駆動時間も延びている、と。バッテリの容量はW2で増えているのですね?

【奥田氏】W2のバッテリは6,600mAh×7.4Vなので、48.8Whとなっています。RとTは4本のセルだったのを、W2では6本にしています。DVDドライブが内蔵されているので、DVDを見るのに十分なバッテリ駆動時間を確保しないといけないと考え、W2ではバッテリ容量を増やしています。

Q:だとすると、48.8Whで7.5時間駆動ですから、システムの平均消費電力は6W台ということになりますね。一般的なCentrinoマシンの平均消費電力が10W台前半といわれてますから、ものすごい低電力ですね。

【奥田氏】そこをぜひアピールしたいところなんですが、なかなかアピールするのが難しくて(苦笑)。

 弊社はとにかく、軽量化と、バッテリ駆動時間にこだわった製品作りをしていますと、言うのは簡単なんですが、ご存じのように軽量化とバッテリ駆動時間は相反するところがあり、どのようにバランスを取るのがいいのか難しいのです。例えば、T2とW2のバッテリを比較すると、T2の4セルの方が軽いので軽量化には適しています。しかし、長時間駆動ということを考えると、W2で採用した6セルのバッテリの方がよいのは言うまでもありません。

 そこで、弊社が設計するときに、一番最初に着目したのは設置面積(フットプリント)を最小にしようということです。なぜかと言えば、質量は体積に比例して増えていきますが、その体積は設置面積に比例しているからです。つまり、設置面積を小さくすれば、体積は減り、さらに質量も減るのです。

 それでは、どうしたら設置面積を小さくできるか? それは大きく2つの手法につきると考えています。1つは、薄く作る手法で、もう1つは小さく作るという手法です。軽くするという目的だけで作るのであれば両方を満たす製品を作るのがよいのですが、バッテリ駆動時間を伸ばすという点を一緒に実現するとなると薄く作るのは難しいです。というのは薄く作ると、厚さがあるけど効率のよいバッテリを使うことができなくなるからです。また、CPUなどのコンポーネント(部品)を基板の片側だけに配置しなければいけなくなって効率的ではありません。

 そこで、薄くではなく小さく作ろうという方向に頭を切り換えていくと、基板の両面に部品を配置することができるようになり、基板の面積も半分で済ますことが可能です。基板の面積が半分で済むということは、重さも半分にできるという点でメリットがあります。

 このように、設置面積を最小にすることこそが、軽量化そして長時間駆動という2つのポイントを実現できる鍵なのです。

Q:むき身のドライブを内蔵するという発想もユニークですね。

【島田氏】通常、ノートPCに光学ドライブを内蔵させようということになると、トレイ方式のドライブを採用することになります。ところが、こうしたトレイ方式のドライブだと、12.5mm厚のもので200g程度、9.5mm厚のもので170g程度となっています。ところが、今回W2に採用したドライブは99.9gとなっており、圧倒的に軽量になっています。

 もう1つのポイントは、トレイ式だと場所をとってしまうということです。トレイ式のドライブを利用すると、結局基板の場所を確保するために設置面積を大きくとらないといけなくなり、システム全体の重さがどうしても増えてしまいます。このため、W2の設計をする段階で、一般的なトレイ式をそのまま使うという選択肢はありませんでしたね。先ほど奥田が述べたように、設置面積を小さくしなければいけませんから。

T2(左)とW2(右)を比較すると、設置面積の点では同じとなっている 通常のトレイ型コンボドライブ(左)とLet'snote W2に内蔵されているコンボドライブ(右)。新しいドライブは重さ99.9gと、従来の12.5mm厚のドライブに比べて約半分

ドライブの裏側 上がW2のバッテリ(6セル)で、下がT2のバッテリで、4セル

●話をもっていったドライブ部門にびっくりされた特製の内蔵ドライブ

Q:ドライブがパームレストの真下にあるということで、振動がパームレストにこないのかという点を不安視する声もありますが、大丈夫でしょうか?

【島田氏】光学ドライブでは、ピックアップの振動を防ぐためにピックアップそのものが浮いています、さらにそれを収納したフレームがトレイで浮いていて、振動自体が増幅されるため振動が出るというメカニズムとなっています。そこで、このW2に内蔵したドライブでは、フレームにピックアップ部分を浮かせて取り付けているので、トレイ式のドライブと比較して振動は小さくなっています。どうしても、ディスクの偏重心などが原因で起こる場合もあるので、完全に防ぐことは不可能ですが、従来のドライブ内蔵のノートPCに比べて悪いということはないですし、むしろよい結果がでています。

W2の左側面。右端にあるスイッチが内蔵ドライブのスイッチ。電動式になっている

Q:トレイのスイッチは電動式なんでしょうか? 一見すると機械式に見えますが?

【奥田氏】トレイのスイッチは電動です。スイッチを押すことで、少しあけて、そのあと手動であけるという仕組みになっています。機械式にすることもできますが、そうするとCD-RWに書き込んでいるときに開いてしまったりということを防止できません。このため、スイッチが押されると、まずソフトウェア的に停止し、それから蓋を開けるという仕組みになっています。

Q:ドライブは松下電器の社内で製造されたものなのですか?

【奥田氏】元九州松下電器であるPCC(Panasonic Communications Company)で製造しています。

Q:ドライブの部門に持っていた時に、先方の反応はどうでしたか?

【奥田氏】最初はひたすら、びっくりされましたね。最初は足繁く通って、「軽量と長時間駆動を実現したいので、なんとかしてください」とお願いを繰り返しました。「こういった形でドライブを入れることで堅牢性も高まるんです、どうしても、このプロジェクトのためには必要なので、人的資源を含めて資源を割いてください」とお願いしまして、ドライブ部門もこれは面白いと熱心に取り組んでもらいました。最終的には、すごい製品ができたと、ドライブ部門も満足しているようです。

Q:ドライブの消費電力はどうなんでしょうか?

【奥田氏】基本的には、いま一番性能がよくて、低消費電力なドライブを、そのままこの形にしているので、消費電力ではかなり下がっているという言い方ができると思います。

●液晶は半分自社設計を行なう“セミ”内製

Q:先ほど、低消費電力の秘密は設置面積を最小にすることにあるというお話しがでましたが、そのほかにはどのような部分に手を入れていますか?

【奥田氏】1つは液晶ですね。液晶にバックライトの効率を上げる仕組みを採用しています。CPUも確かに電力は食っていますが、アイドル時はそうでもありません。となると、液晶がその次に大きな電力を食っているデバイスになるので。

Q:液晶はどのあたりを工夫されているのでしょうか?

【奥田氏】バックライトのコントロール部を自前で設計しています。このため、液晶メーカーさんから購入しているのは、液晶のアレイの部分だけで、導光板などの設計は弊社で行なっています。

【島田氏】導光板のパターンを少しでも効率のよいものをということで、パートナーと一緒になって研究・開発したり、樹脂メーカー様と一緒に形状、パターンニングを研究しています。

 ディスプレイに関しては関係会社と共同で開発しています。弊社ではセミ内製といっていますが、液晶の中のユニットに関しては半分弊社で開発し、半分はあちらでというように分担しています。今回のWにしても一緒で、液晶のアレイの部分は一緒ですが、バックライトに関してはほぼ内製に近い設計になっています。

【奥田氏】2.5インチのHDDもそうですね。東芝様から購入してきた製品なんですが、1.8インチの3.3Vを使うというのが通常なんですが、やはり容量では2.5インチにかないませんから、2.5インチのドライブを選択しています。しかし、そのままでは消費電力が気になりますから、もともと5V駆動の2.5インチのドライブで、3.3V駆動という製品を東芝様に作っていただいて、採用しています。3.3Vに落とすことで数%の電力のダウンが見込めます。

●ファンを入れたくても入れる場所がない

Q:無線LANのアンテナですが、今回は液晶部ではなく、ボディの部分にアンテナが内蔵されています。飛びに影響はないのでしょうか?

【島田氏】アンテナはボディ部分に2つ内蔵していてダイバシティになっています。アンテナの特性で一番効いてくるのは、周りの特性をいかに安定させるかなんです。液晶部分に持って行くと飛びそうなんですが、液晶に持って行ったとしても液晶全体のキャビネットの特性を安定させなければ飛びません。どっちが一概にいいということはないですね。例えば、アンテナの後ろには空間を用意していますが、これを何mmに設置するかというのがノウハウになるのですが、今回は弊社のノウハウをフルに活用して最適な値になっていると思います。ここも意外と難しくて、あまり離してもよくないし、近づけてもよくないんです。

Q:熱設計はどうでしょう? 今回もファンレスとなっていますが。

【奥田氏】ファンレスというのがこの製品の売りの1つなんです。

【島田氏】R1、T1、全部そうなんですが、ファンがないということはマシン全体でくまなく放熱しなければならないんです。そこで、熱源を端っこに持って行くと、端っこだけ局部的に熱くなってとても使い物にならなくなってしまいます。

Q:それを回避するポイントはどこにあるのでしょう?

【島田氏】シンプルに言えば、CPUなどの熱源をとにかくど真ん中に持ってくることです。このサイズだと、大型の放熱版などをつけるのは難しいので、キーボードの裏側のシャシーなどを放熱に利用するしかないんです。また、今回の製品では裏側の蓋の部分を金属製にして、これも放熱に利用しています。これも部分的に熱いと駄目なんですが、真ん中からじわっと暖かくなれば全体的に放熱できるんです。ファンを入れるとなっても、ファンを入れるスペースは無いという設計になっているので、全体で放熱するしかないんです。

 また、電源の線の引き回し具合によっては、熱を引っ張ってきてしまうので、そのあたりも考慮に入れて基板の設計を行なっています。そういうことも考えて基板を設計しないといけないので、設計は従来よりもかなり難しくなってきています。

●モバイルも、メインマシンも、と両方を満たすユーザーに購入して欲しい

Q:最後に、T2とW2は液晶サイズも同じで非常に似通った製品になっています。これらがそれぞれ競合するということはないのでしょうか? また、どのようなユーザーを想定していますか?

【奥田氏】弊社としては、Rシリーズは本当に小さいサイズ、鞄に縦に入れることができるサイズというのを目指しています。TシリーズはRシリーズに比べると操作性を優先する製品、Wはドライブを入れる製品で、より一般の方向けという切り分けをしています。

【島田氏】まだまだ一般のユーザーの方は、PCを買うといっても2台、3台ということは珍しいと思います。そのため、1台目に買うなら、ドライブが入っているものという要求はあったと思います。これまでドライブを内蔵しているノートPCと言えば、2kg前後だったわけですが、それが1kgの前半になりモバイルできるようになるわけです。

 メインマシンとして使いたいし、時にはモバイルしたいという要望をお持ちのユーザーの方も少なくないと思うので、ぜひそういうお客様に購入していただきたいですね。これまでだったら、モバイルかデスクトップリプレースメントかという二者択一だったわけですが、これはその中間の解というべきか、そういうカテゴリーだと思っています。

□松下電器のホームページ
http://www.panasonic.co.jp
□製品情報
http://panasonic.jp/pc/products/w2a/index.html
□関連記事
【5月7日】松下、光学ドライブ内蔵で1.29kgの新型Let'snote
~従来シリーズもすべてCentrino対応に
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0507/pana.htm

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(2003年5月15日)

[Reported by 笠原一輝]


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