大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

sigmarion III発売! ところで、モバギIIIは?
モバギ生みの親、NEC・成澤マネージャーに直撃!



 NTTドコモがsigmarion IIIを5月にも発売すると発表した。

 この詳細については、本誌記事を参照してもらうとして、この製品が出た以上、当然、気になるのはモバイルギアIIIの製品化の行方ということになるだろう。

 とにもかくにも、まずはNECでPDA事業を担当するモバイルターミナル事業本部・成澤祥治マネージャーに時間をとっていただき、モバイルギアの行方について聞いてみた。

●モバギも復活するのか?

2000年の11月に発売されたモバイルギアII「MC/R550」

 引っ張るようで申し訳ないが、成澤マネージャーのコメントの前に、簡単にモバイルギアの現状に触れておこう。

 モバイルギアは、'96年4月の発売以来、累計出荷56万台の実績をもつキーボード搭載型のPDAだ。最後まで残った唯一のキーボード型PDAとして、高い人気を誇っており、通信社や新聞社の記者のなかでも、これを重宝している人が多い。

 だが、モバイルギアは、2002年3月の段階で生産を終了しており、現在では流通在庫もゼロといった状況である。つまり、新品で入手するのは無理だと思った方がいいだろう。

 設計思想や部品などに関しては、シグマリオンと共通した部分も多く、シグマリオンをひと回り大きくしたサイズとなっている。

 そうした意味で、sigmarion IIIが登場すれば、当然、モバイルギアIIIも復活するという可能性が高まるわけだ。

●年末には製品化の目処がたったが……

 NECでは、昨年10月にPDA事業を大きく再編した。

 詳細は、本誌コラムに詳しいが、簡単に説明すれば、ポケットギアなどの企業向けPDA製品を関連子会社であるNECインフロンティアに完全移管。コンシューマ向けPDAおよびOEM事業(=NTTドコモ向けのsigmarion)を、NECの社内カンパニーであったNECソリューションズのクライアント・サーバ事業部が担当する体制とした。

 その再編以降、次期モバイルギアの製品化は、NECにおいて重要な検討課題となっていた。製品化に向けては、マイクロソフトがキーボードタイプ向けのOSに関するアップデートを取りやめたこと、PDA市場全体が停滞するなかで、どの程度の需要規模が想定できるのかといった問題が立ちはだかった。

 こうしたなか、成澤氏を中心とする部隊は、一応のビジネスプランを昨年末までに完成し、一度、次期モバイルギアの製品化にめどをつけた。

 その背景には、このほど発表されたsigmarion IIIの製品化に対して、NTTドコモが積極的な姿勢を見せていたことも見逃せないだろう。

 部品の共通化などを含めて量産効果も期待でき、事業の側面から見てもメリットが享受できるからだ。

5月に発売予定のNTTドコモ「sigmarion III」。モバイルギア III登場のきっかけとなるか?

●白紙に戻った製品化計画

 だが、今年4月から、金杉明信社長体制によってスタートしたカンパニー制の廃止、事業ライン制の導入によって、モバイルギアの計画は一度白紙に戻った。

 最大の理由は、PDA事業を統括する事業ラインが変わったからだといっていい。PDAの担当部門が、従来のNECソリューションズのクライアント・サーバ事業部傘下であることを考えれば、「コンピュータ事業ライン」、あるいは「パーソナルソリューション事業ライン」のいずれかに所属するのが順当だ。

 だが、今回の組織再編では、PDA事業は、「モバイル事業ライン」に所属することになった。従来の社内カンパニー制でいえば、NECネットワークスの範疇である。

 カンパニー制を廃止して、ソリューションズとネットワークスの2つのカンパニーを統合するのが、今回の事業ライン制度の骨子であることを考えると、正確にはNECネットワークスの範疇という言い方はその主旨からはずれた言い方になる。だが、あえて、これをわかりやすく従来のカンパニー体制を持ち出して例えれば、ソリューションズからネットワークスへの事業移管ということになるのだ。

 組織が変わったことで、モバイルギアの事業化についても、再度検討を開始することになった。成澤マネージャーは、次のように話す。

 「現段階では、次期モバイルギアについては、事業としてやるかどうかは明言できない。ただ、完全にやらないというわけではないことも確かだ」

●やるのか、やらないのか?

 成澤マネージャーの言葉は、確かに歯切れが悪い。やるのか、やらないのか−これが明確ではない。成澤マネージャーは、それを補完するように次のように語りだした。

 「新たな組織体制によって、製品企画の考え方が大きく変わった。従来は、既存のモバイルギアの発展系として、キーボードタイプの市場性を考えた上で製品企画を行なっていた。だが、この考え方では、キーボードタイプのPDAの市場規模はどれくらいあるのか、そのなかでモバイルギアはどれだけ受け入れられるかという議論に終始してしまう。これでは、結果として従来の製品定義の繰り返しとなってしまう。4月以降、我々が考えているのは、PDAによってコンシューマ市場をどうするのか、あるいは、モバイルブロードバンド環境でユーザーが利用するためには、どんな製品が必要なのか、という発想によるもの。その結果、キーボードタイプが必要であれば、キーボードタイプを出すし、時計型でいいのであれば時計型にする」

 端的にいえば、「従来のモバイルギアの延長線上ともいえる機能強化版の投入はない」(成澤マネージャー)というわけだ。

 だが、成澤マネージャーの言葉の裏を返せば、モバイルブロードバンド環境に向けた製品企画の上で、キーボードが必要だと判断されれば、モバイルギアの後継機種ともいえるキーボードタイプのPDAが製品化される可能性があるということになる。成澤マネージャーも、その理解の仕方については否定をしない。

 ここで、次期モバイルギア(ここでは便宜上、こういう表現をする)の可能性について、もう少し深堀りした質問をしてみた。ブロードバンドモバイルを実現する機器の構成要件として、なにが必要とされるかという点だ。

 これに対して、成澤マネージャーは次のように答える。

 「インフラ、テクノロジー、キーデバイス、ニーズの動向を見据えて、これを組み合わせた製品になる」

 旧モバイルギアが登場した際には、メールを簡単にやりとりしたいといった使い方が中心だった。そのために小型化しはじめたモデムを内蔵して、固定電話からのダイヤルアップや、携帯電話と接続したモバイルメール通信をワンタッチで行なうという利用シーンを狙って製品化した。

 では、現在、あるいは近い将来のインフラ、テクノロジー、キーデバイス、利用シーンはどうなるのか。例えば、こんな形だ。

 無線LANあるいはPHS、または、FOMAをはじめとする第3世代携帯電話によるブロードバンドネットワークサービスが、一般的なインフラとして、日本中どこででも利用できる環境が整いつつある。この時にどんな使い方ができるだろうか。

 既存のモバイルギアの延長線上であれば、メールのやりとりを重視したアプリケーションや、インターネットのためのブラウザ機能などを強化するとともに、低消費電力で高性能のCPUの搭載やメモリを強化した製品になるだろう。

 だが、ユーザーのモバイル利用環境を想定した上での発想では、まったく違った製品定義になるはずだ。

 成澤マネージャーは、「あくまでも仮の話だが」として、こう話す。

 「高速なワイヤレスブロードバンドが実現されるのであれば、リモートデスクトップの機能だけを搭載したものでもいいのではないか」

 無線LANへの接続機能を必須で持つものの、アプリケーションソフトは、ブロードバンドで接続した自宅やオフィスのデスクトップパソコンあるいはノートパソコンのものを活用する。本体にアプリケーションを持たない分、低コストでの開発も可能だという。

 まさに、まったく異なる発想のモバイルギアが登場することになる。

 「こうした利用シーンを想定した上で、どうしてもキーボードが必要だという結論になれば、当然、キーボードモデルを開発することになるだろう」

 ここにキーボードタイプの次期モバイルギア登場の余地が生まれるというわけだ。

 成澤マネージャーは、「モバイルギアという名称には愛着がある。生まれ変わった次期製品においても、できればモバイルギアの名前を残したい」とも話す。

 モバイルのためのギア(道具)という意味とともに、インフラ、テクノロジー、キーデバイス、ニーズというそれぞれの「ギア」がうまく噛み合って誕生する製品という想いも込めたいという。

●社内的認知があがったのか?

 4月の組織改革において、モバイルギアを担当するPDA部門が、「コンピュータ事業ライン」や「パーソナルソリューション事業ライン」でなく、結果として「モバイル事業ライン」に含まれたのは、実は、こうした次期モバイルギアの開発コンセプトを考えれば当然の結果といえる。

 「今後のモバイルギアの発展を考えれば、携帯電話事業によって、モバイルおよびワイヤレスの技術的ノウハウを数多く蓄積しているモバイル事業ラインの方が製品化に大きなメリットがある」というわけだ。

 言い換えれば、モバイルギアの今後の発展が、NECが推進するユビキタス時代のモバイル端末として、重要な役割を担うものであることを上層部が認めているとも判断できよう。

 では、この次期モバイルギアともいえる新たなコンセプトの商品はいつ登場するのだろうか。成澤マネージャーに聞くと、「それは2004年度以降になる」という。現在は、コンセプトを再構築するための活動をすすめている段階だという。

 では、PDA担当部門は、今年度は、sigmarion IIIだけのOEM事業のみの売り上げ計上となるのだろうか。

 「上期は、OEM事業のみの売上げ計上になるが、下期はコンシューマ向け製品の売り上げも予算に含まれる」ことを明かした。

 次期モバイルギアでないとすれば、このコンシューマ向けの製品はなんなのか。

 「まだ詳細はお話しできないが、リスクを負って新たな挑戦をする製品になる」と成澤マネージャーは言葉を濁す。

 リスト型のものや、ペンタイプの小型軽量のものなどが想定されるが、これは、あくまでも憶測にすぎない。いずれにしろコンシューマ向けの製品が、なんかしら登場することは明らかだ。

●限定販売の可能性は?

 ただ、早期にキーボードタイプの製品投入を望む声があるのも事実である。sigmarion IIIのパーツをもとに、筐体、キーボードサイズを大きくしたものはできないのか、と聞いてみた。

 「できないことはない。ただ、問題は金型への投資。従来のモバイルギアのものを流用するということもできるが、それでは厚みがあって市場に受け入れられないだろう」

 ただ、取材の最後には、こんな例え話も出た。

 「金型には、かつてのモバイルギアのものを流用する。ここにsigmarion IIIをベースにした仕様を盛り込む。価格は10万円で、3,000台限定。ネットで募集して、3,000台分集まれば生産開始。3,000台集まらなければ、この話はなかったことになる」

 繰り返すが、これは、あくまでも仮定の話である。だが、NEC社内の体制としては、こうした提案が通りやすい環境になってきているという。そして、成澤マネージャーも、実現の可能性があれば、ぜひ考えたい、という。

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□NECモバイル製品サイト
http://www.pdabiz.jp/
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〜45g軽く、6mm薄く、解像度は2.5倍
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【2002年12月9日】NECがPDA事業を再編
〜モバギ、ポケギ、シグマリオンはどうなるのか?
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(2003年4月25日)

[Text by 大河原克行]


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