第199回
低電圧版モバイルAthlon XP-M
搭載機の使い心地は?



Mebius MURAMASA
PC-MV1-VC1

 このところCentrino搭載機ばかりを見てきたから、というわけでもないが、今回は編集部からのオファーもあって、低電圧版モバイルAthlon XP-M 1500+を搭載するシャープの「Mebius MURAMASA PC-MV1-VC1」について報告することにしたい。

 PC-MV1-VC1は、シャープのモバイルノートPC、MURAMASAシリーズのうち12.1型2スピンドルのフォームファクタを持つMV1シリーズの最新作となる。オリジナルは低電圧版モバイルAthlon XP-M搭載機ではなく、通常電圧版のモバイルPentium III-Mを搭載したモデルである。

●Pentium III機のフォームファクタをそのままAthlon XP-M機に

キーボード左上のモバイルAthlon XP-Mステッカー

 さて、実機の仕様を見ると、MV1-VC1の発売にあたってシャープは、Athlon XP-M搭載機を「高性能な低価格ノートPC」という位置付けを選んだようだ。B5ファイルサイズ以下のノートPCで長らく使われてきたモバイルPentium III-Mから、そのままのフォームファクタでパワーアップするためには、大きく分けて3つの選択肢がある。

 まずPentium M搭載機へと進む方向。ただし、この場合はPentium III時代から多少コストアップになることが考えられる。それを価格に反映させ、バッテリ持続時間の延びなどを勘案して商品性がどこまで高まるか? が選択のポイントと言えるだろう。

 もうひとつは、なんとか頑張ってモバイルPentium 4-Mの搭載に挑戦してみることだ。実際、MV1-VC1と似たフォームファクタを採用しているVAIOノートV505は、MV1-VC1よりも重くはなっているものの12.1型B5ファイルサイズの筐体に、2.4GHzのモバイルPentium 4-Mを搭載することに成功している。コスト的にも2GHz以下ならば、性能に見合う以上の結果を得られるだろう。

 最後に残った選択肢がモバイルAthlon XP-Mを採用することである(もう数カ月すればTM8000という選択肢も出てくる可能性があるが)。モバイルAthlon XP-Mには、先日新たに低電圧版が加わった。低電圧版はThoroughbredコア採用(1800+のみBartonコアも存在するが、MV1-VC1の採用する1500+はThoroughbredとなる)で、モデルナンバーからもわかるとおりモバイルPentium III-Mのラインから比べると、大きなパフォーマンスアップを期待できる。

 しかも1,000個ロット時の単価は8,520円~17,640円で、Intel製プロセッサと比較して、圧倒的に安価な価格で調達できる。さらに、チップセット価格も含めれば、さらに大きな差となるはずだ。シャープがMV1-VC1のセールスポイントを価格に置いているのも、そうしたことが理由だと考えられる。

 価格的なメリットを生かすためか、本機には無線LANが内蔵されておらず(モバイルPentium III-M搭載機には無線LANモデル有り)、同じくモバイルPentium III-M搭載機には存在するDVDマルチドライブ搭載モデルもない。その代わりにOffice XP Personalがプリインストールされた40GB HDD、256MBメモリ、DVD-ROM/CD-RWコンボドライブの構成で実売が18万円を切る、小型ノートPCとしてはかなり安価なプライシングを実現した。ちなみにモバイルPentium III-Mを搭載するMV1-C5Fは実売価格27万円前後、同じくMV1-D52は25万円前後だ。

●快適な操作感か否かが評価のポイント

 ここではMV1シリーズについては、あまり多くを述べない。すでにMV1は市場で評価されている製品だからだ。12.1型クラスの2スピンドルモデル、しかも12.5mm厚の交換可能なドライブを採用している製品は、現役モデルからはほとんど消えてしまった(今、思いだそうとしても現行機をほかに思い出せない)。それだけにユニークなポジションを確立し、MURAMASAシリーズの中でも、堅実な人気を誇っているようだ。キータッチに関しても、僕個人の好みから言えば(多少ストロークの浅さは感じるが)シリーズ3製品ラインの中でもっとも好みである。

 そのMV1シリーズは、かなり内部的なスペース、レイアウトが厳しい製品だ。大きな交換可能ドライブが横たわっており、バッテリも比較的サイズの大きなプリズマティック(角形)セルを背負っているため、メイン基板と放熱に利用できる空間は決して大きくない。

 そこに詰め込む低電圧版モバイルAthlon XP-Mはというと、TDPのエンベロープが25Wという設定だ。サーマルエンベロープが1つ大きなスタンダード版がTDP 35Wなので、10W分のアドバンテージが存在するわけだ。Intelの製品と比較すると、ちょうどPentium Mの通常電圧版と同じサーマルエンベロープである(ちなみに他のMV1が搭載する通常電圧版モバイルPentium III-Mは22W)。つまり、低電圧版といっても、それはモバイルAthlon XP-Mとの動作電圧の比較であって、TDPのことを示しているわけではない。モバイルAthlon XP-Mには、低電圧版あるいは超低電圧版のPentium Mに相当するモデルは存在しないことになる。

 ただし、TDPの値はどのぐらいの冷却容量を持つ筐体に搭載できるのかを示しているのであって、必ずしも実際の利用時の省電力性能や発熱具合を表示しているわけではない。TDP 25WのモバイルAthlon XP-Mが、TDP 22W用に設計されていたMV1の箱に入ったことは、決して驚くべきことではないが、問題は実利用事の発熱具合にある。

 同じ箱には入ったが、冷却ファンが常に回り続けるようでは、快適な操作感を持つ製品とはならない。

●しかし回り続ける冷却ファン

 実際のMV1-VC1を利用する以前から、多少の懸念を抱きつつ実機のテストを始めた。というのも、低電圧版モバイルAthlon XP-Mの動作電圧は1.05~1.25V。トップエンドの動作電圧は通常版よりも0.2V低いが下の端は同じで、かつ1Vを超えている。これまでのThoroughbredコア採用のモバイルAthlonを見る限り、モバイルPentium III-Mとの比較でも平均消費電力や平均的な利用状況における発熱は大きめ。全く同じコアの低電圧版モバイルAthlon XP-M 1500+が、果たしてどういう製品になっているのか、多少の不安があったのだ。

 結論から言えばMV1-VC1は、モバイルPentium III-Mを搭載した姉妹モデルよりも、実利用事の消費電力が大きめのようだ。たとえばパフォーマンスモニタでACPIのバッテリ放電率を観測していると、作業に影響がない程度まで液晶パネルの輝度を落とした状態で、12Wを少し超える程度の電力を消費する。同様の条件で、モバイルPentium III-MやPentium M搭載機なら、10W前後。中には9W台前半の製品もある。

 搭載バッテリが角形セルで40W時のパック(丸形6セルの場合48W時程度)という点からもわかるとおり、バッテリ持続時間にあまり大きな期待をしてはいけない。2時間15分前後とバッテリ持続時間と考えておくといい。

 もっとも、僕自身は本機にバッテリ性能をあまり期待していなかった。それよりも、安価に高性能を得られ、かつ熱の面で不快な思いをしなければ、それでもいいと考えたのである。低価格な選択肢は必要だろうし、なによりもIntelとは異なるプロセッサの選択肢があることも、市場全体を考えると重要なことだ。

 しかし、熱に関しては銅製ヒートシンクとヒートパイプを採用した冷却周りに助けられ、不快さを感じることは無かったものの、廃熱のための冷却ファンが常に、しかもかなり速く動作している状況が気になった。MV1の冷却ファンは、もっとも低速で動作している時は、ほとんど存在を意識しないが、MV1-VC1の場合はほとんど処理をしていない(メール処理やWebのブラウジング)状況でも、もう一段高い回転数で冷却ファンが動作してしまう。ほとんど回りっぱなしの状態と思っていい。

 さらに10秒ほど負荷の高い処理が続くと、かなり騒がしくなってくる。同時期にモバイルPentium III-M搭載のMV1と直接比較したわけではないため、厳密な比較はできなかったが、はっきりとした差はある。

 これがBartonコアになったときどのようになるのかはわからないが、バッテリ持続時間はともかく、平均的なユーゼージでの発熱が抑えられなければ、せっかくAthlon XPが12.1型クラスに載るようになっても、ただ安くて速いだけのノートPCになってしまう。

 もちろん、安くて速い(とは言え、同程度のTDPのPentium Mよりもパフォーマンスは低めだが)というのは大きなセールスポイントである。しかし、小さな箱に入れるが故に、ユーザー体験の質が落ちるようでは他人には勧めにくい。Intelのプロセッサは、平均消費電力が低く、実利用事の発熱もそれほど大きくない(モバイルPentium 4-M系は除く)ため、あまり平均消費電力のことは話題にならないが、TDP枠も平均消費電力も、どちらも重要な数字で片方が欠けて良いわけではない。

 Athlon XPがB5ファイルサイズの2スピンドルノートPCに入ったことはニュースだが、それがモバイルPCとして高い付加価値を生むプロセッサになるまでには、まだ少しの時間が必要のようだ。

□Mebius MURAMASA PC-MV1-VC1の製品情報
http://www.sharp.co.jp/products/pcmv1vc1/index.html
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【3月12日】シャープ、低電圧版モバイルAthlon XP-M 1500+搭載の「MURAMASA」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0312/sharp.htm
【3月12日】AMD、Athlon XP-M新機種発表。モバイルからデスクノートまでカバー
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(2003年4月15日)

[Text by 本田雅一]


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