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Transmeta、Centrinoキラー「TM8000」の概要を発表




●完全に新設計のCPUコア

Transmeta副会長兼CTO兼マーケティング担当副社長のDavid R. Ditzel氏

 Transmetaは、Crusoe後継の次世代CPU「TM8000」の概要を明かした。TM8000はコードネーム「ASTRO (アストロ)」と呼ばれていた新世代CPU。「Crusoeとは異なるブランド名になる」(David R. Ditzel氏、Transmeta副会長兼CTO兼マーケティング担当副社長)は言う。正式な新ブランドの発表は、今年後半になる見込みだ。

 TM8000は、x86命令をソフトウェア(CMS:コードモーフィングソフトウェア)で独自命令に変換、VLIW (Very Long Instruction Word:超長命令語)型CPUコアで実行するスタイルを取るなど、基本的なアイデアはCrusoeと共通だ。しかし、CPUコア自体は、3年かけて開発した完全に新設計のコアとなっている。

 まず、TM8000では1クロックに最大8命令を実行ユニット群に対して発行できる。つまり、最大で8命令を1クロックで処理できる。現行のCrusoe TM5800は4命令/クロックなので、ピーク性能は2倍となる。演算ユニットも、8個以上備える。

【図:Transmetaアーキテクチャ】

 TM8000は、Pentium 4のような高クロック化に向けてチューンされた設計は採らない。そのため、動作周波数は現行のTM5800シリーズより、やや高い程度に留まるようだ。しかし、命令実行の並列度が向上するために、同程度のクロックでもTM5800より大幅に性能が上がるという。

 また、TM8000では、Crusoeの弱点だった浮動小数点演算とマルチメディア処理の性能が大幅に改善される。従来サポートされていなかった「SIMD (Single Instruction, Multiple Data)」命令がサポートされ、1クロックで複数のSIMD演算もできる。つまり、複数のSIMD演算ユニットを備えると見られる。こうした改良のため、TM8000では特にマルチメディア処理性能が向上する。

 ただし、TM8000がどの種類のSIMD命令(3DNow!やSSE2など)をサポートするのかは、明らかにされていない。ちなみに、SIMD命令は1命令スロットしか使わないため、SIMD命令を実行する場合には、8オペレーション/クロック以上になる。

 また、CPUコアが一新されるため、TM8000ではCMSも全く新しいものに変わる。演算ユニットや命令発行ポートの構造が変わるために、アルゴリズム自体も変わる。

 ちなみに、現在Transmetaは、TM5000シリーズ用のCMSの新バージョンへの移行を始めている。この新バージョンでは、頻繁に使うOSのプログラムの一部をあらかじめCrusoeの内部命令に変換しておきディスクに保存しておく「Persistent Translation Technology (PTT)」をサポートする。こうした技術はTM8000でも継承されると見られる。


●インターフェイスの強化もTM8000のポイント

 TM8000ではインターフェイス回りも大幅に強化された。TransmetaのCPUは、ノースブリッジ機能を統合、メインメモリのDRAMインターフェイスを内蔵している。CrusoeはPCIバスとDDR266メモリインターフェイスを搭載しているが、TM8000では、HyperTransportとDDR400メモリインターフェイスになり、AGP 4Xポートも加わる。

 メモリインターフェイスはDDR266/333/400に対応。DDR400もサポートしたことで、モバイル市場だけでなく、より高パフォーマンスが要求される市場もカバーできるようになった。また、ECCにも対応したために、サーバー市場にも対応できるという。

 TransmetaはCrusoeでは他社に先駆けてDDRに対応した。しかし、今回は、次世代DRAM「DDR2」には対応していない。DDR2自体の規格化や製品化が自体が遅れたために見送ったという。Transmeta系のアーキテクチャは、ソフトウェアで命令変換を行なうため、メモリ帯域が広がると性能が大きく向上する。Crusoe TM5000シリーズはDRAMインターフェイスを2系列備えていたが、TM8000は1系列になると見られる。

 HyperTransportは400MHzベースで、バス幅は公開されていない。バス幅がAMDの「Athlon 64 (ClawHammer:クローハマー)」と同じ16/16だとすると、バス帯域は3.2GB/secとなる。今回、Transmetaはサウスブリッジチップを自社では開発しない。顧客は、他社のHyperTransport対応のチップを使うことになる。HyperTransportサウスブリッジは現在、PC向けはALiが提供している。また、HyperTransport版のPCI-Xチップセットなどが出てきた場合には、それも利用できる。

 AGPは1X/2X/4Xをサポートする。CrusoeはPCIバスのみという制約があるために、GPUのグラフィックス性能を活かせなかった。これは、3Dグラフィックスの場合には問題だった。しかし、今回Transmetaは、AGPをサポートしたことでこの制約を外した。だがこれは、ようやく通常のPCチップセット並みになったとも言える。また、LPCバスを備え、フラッシュメモリをCPUに直接接続している。フラッシュメモリはCMSを格納するためのものと見られる。

【図:Crusoe推定ロードマップ】 【図:TM8000システム構成】


●同じ処理ならより低い消費電力で

 TM8000では消費電力も従来のTM5800より低く抑えられるという。これは、CPUの処理の並列度が上がるために、同じ処理をより低い周波数で実行できるようになるからだ。周波数が低くなると、駆動電圧を下げることもできる。消費電力は、周波数×電圧の二乗に比例する。そのため、TM8000では消費電力が低くなるわけだ。また、省電力機能「LongRun」も拡張される。

 ファブレス(工場を持たない)企業であるTransmetaでは、CPUの製造をファウンダリに委託している。TM8000の製造は、現行のCrusoe TM5800同様に、台湾ファウンダリTSMCの0.13μmプロセスを利用する。最初の試作チップは昨年11月のCOMDEXで公開された。また、顧客企業にも、COMDEXの直前に試作チップが公開されたという。顧客向けサンプルは今年初めから出荷され、現在は検証作業をしながら顧客からのフィードバックを集めている段階。最終的なTM8000搭載製品の登場は、今年第3四半期になる模様だ。

 Transmetaは、Crusoeで主に薄型軽量ノートPC市場を視野に入れていたが、マルチメディアパフォーマンスの低さや、インターフェイスの弱さ、信頼性の低さなどのために浸透できなかった。しかし今回はTM8000で、従来の薄型軽量ノートPCだけでなく、大型ノートPCやデスクトップ、サーバー市場も本格的に狙い、市場の拡大を目指す。

 従来のCrusoe TM5600/5800系列は価格を引き下げ、主に組み込み用途やSTB(セットトップボックス)などに向ける。アプリケーションを広げることで、現在の劣勢を挽回しようという目論みだ。単純にPentium M/Centrinoに対抗するだけではなく、Transmetaは戦いの領域を広げようとしている。生き残りのために。

□関連記事
【2002年12月4日】【海外】次世代Crusoe「ASTRO」はより高性能でより低消費電力
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1204/kaigai01.htm
【2002年11月29日】【海外】Transmetaのロードマップ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1129/kaigai01.htm
【2002年11月22日】【海外】BaniasキラーとTransmetaが宣言する次世代Crusoe「TM8000」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1122/kaigai01.htm

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(2003年3月10日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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