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Transmetaのロードマップ
~「TM5800」の新CMSと次世代CPU「TM8000」




●ノートPCはTM8000へと移行、TM5800はUPCエリアへ

Transmeta CTO デビッド・R・ディツェル氏

 Transmetaは2世代目アーキテクチャの新Crusoe「TM8000(ASTRO:アストロ)」の初期サンプルを完成。TM8000の製品を、来年中盤に投入する予定でいる。TM8000では、256bitの新アーキテクチャになり大幅に性能が向上する。では、今後、TransmetaのCPUはどのように展開して行くのだろう。Transmetaの創業者でCTOを務めるデビッド・R・ディツェル(David R. Ditzel)氏に、先週のCOMDEXと今年9月の来日時に話を伺った。

 まず、今後の製品ラインナップと市場展開はどうなって行くのだろう。

[Q] TM8000とTM5800は並存するのか。

[Ditzel氏] 併存はタイムフレームによる。今日のノートPC用CPUはTM5800だが、2003年になると変わる。ノートPC分野では、TM8000がTM5800をリプレイスする。それによって、ノートPC用Crusoeは、より高性能になり、今の小型ノートPCだけでなく、より大きなシステムにも浸透して行くだろう。

 一方、TM5800は1GHzの周波数に達しながら、消費電力もさらに下がり続ける。その結果、800g未満、500g~250gといった超軽量のデバイスにも搭載されて行くだろう。当社では、こうしたデバイスを、UPC(Ultra Personal Computer)、つまりPCよりもっとパーソナルなものと位置づけている。

[Q] いわゆる「ウォータフォール(滝)」アプローチ(高性能な新製品が導入されると、旧製品が下の市場に降りてくるタイプの製品戦略)ということか。

[Ditzel氏] そうそう、その言葉を探していたんだ。我々のアプローチはウォータフォールに近い。TM5800は価格も下げられるようになるので、家電的な機器に浸透して行くだろう。

●家電向けのTM6000の消滅した理由

 もっとも、Transmetaは家電市場向けには2Dグラフィックス機能を統合した「Crusoe TM6000」という製品も開発していた。グラフィックスを統合することで、より低消費電力化と低コスト化、省スペース化を図るソリューションだった。また、TransmetaはTM6000を高度なグラフィックス機能が不要なブレードサーバーにもプロモートしようとしていた。しかし、TM6000は、今年になってキャンセルになっている。

[Q] 家電向けにTM6000の開発を断念した理由を説明して欲しい。

[Ditzel氏] 顧客の要請にもとづいた結果だ。TM5000シリーズを使っている顧客は、システムを大幅に変更せずに改良することを望んだ。つまり、同じフットプリント(実装面積)のチップに同じCMS(Code Morphing Software)を継続して欲しいと言われた。そのため、家電領域もTM5000シリーズで行くことにした。

[Q] グラフィックス統合のニーズはなかったのか。

[Ditzel氏] 実際には、顧客ごとにグラフィックスへの要求が異なった。だから、新チップを開発するより、TM5000シリーズに注力することにした。

 実際のところ、デジタル情報家電市場はまだ立ち上がったとはいい難い。そこに、あまり開発リソースをかけられないというのがTransmetaの本音だろう。

●TM5800には新バージョンのCMSも準備

 また、TransmetaはTM5800も継続して性能を向上させるという。

[Q] TM5800の性能強化も続くのか。

[Ditzel氏] TM5800は1GHz版に達した。また、TM5800では、MHzを向上させるだけでなく、CMS(コードモーフィングソフトウェア)も進歩させ続ける。じつは、9月に私が来日した目的のひとつは、来春モデル用の新しいCMSで、Crusoeのパフォーマンスが大幅に向上することをPCメーカーに説明するためだ。詳細は明かせないが、期待してもらっていい。さらに、CMSのWindows XPに対する最適化も行なった。

[Q] チューニングのポイントは。

[Ditzel氏] 特に、システムの起動は高速化された。また、一般的に使用されるアプリケーションもずっと速くなった。

[Q] Windows XPになってCrusoeは遅くなったように感じた。

[Ditzel氏] Windows XPが昨年末に登場して、それからWindows XPを研究してCMSを最適化するために数カ月が必要だった。それがようやく登場するということだ。

 Transmetaのアーキテクチャでは、CPUがソフトレイヤ「CMS(コードモーフィングソフトウェア)」を備える。CMSは、x86命令をCrusoeのVLIW命令に変換し、その際に頻繁に使用するコードについては、同時に処理できる命令を見つけ出して並べ替えるスケジューリングも行なう。そのため、CMSの改良だけでCrusoeは高速化できる。現在のCMSは、バージョンが4.2x世代だが、来春には小数点下のバージョンがアップ、それとともに性能も大きく向上する見込みだ。今回、COMDEXでは、Las Vegasのホテルに設けたスイーツで、新バージョンCMSのデモも行なっていた。

 また、CMSはメインメモリ上にキャッシュ領域を取り、いったんコンパイルしたコードをキャッシュする。そのため、メモリの速度や搭載量が増え、CMSが利用できるメモリ量が増えるとCMSの性能も向上する。また、こうしたアーキテクチャでは、CMSのキャッシュをディスクにキャッシュするというアプローチを取ることも原理的には可能だ。

●PalladiumなどセキュアCPU規格にもCMSで対応

 また、Ditzel氏はキュリティ機能のCPUへの搭載についても語り始めた。今後、TransmetaはCPUにセキュリティ機能を搭載していくという。例えば、9月の時点ではDitzel氏は次のように語っている。

[Q] CMSでは性能向上以外に、機能的な発展もあるのか。

[Ditzel氏] これまであまり話さなかったが、2003年にはセキュリティが面白い展開をすると思う。

[Q] 以前、御社からセキュリティ機能をCMSに実装する計画があると聞いた。

[Ditzel氏] そうだ。この分野ではTransmetaが確実なアドバンテージを持てる。CMSがあるため、セキュリティ機能をインプリメントするのが非常に容易だからだ。

 今回、COMDEXでは、この点について、もう少し突っ込んで聞いてみた。

[Q] MicrosoftはセキュアPC構想「Palladium(パレイディアム)」を明らかにした。Palladiumでは、CPUがセキュア仮想メモリとセキュア実行モードを持つことを要求しているように見える。こうしたセキュアCPUの流れにも、Transmetaは対応するのか。

[Ditzel氏] Transmetaのアーキテクチャが素晴らしいのは、CMSの変更だけで新命令を実装できることだ。我々は、(セキュリティ機能)のいくつかは独自にやっているし、いくつかはパートナーと協力してやっていく。今のところは、標準がどうなるのかの様子見をしているところだ。なぜなら、まだ動向は流動的だからだ。しかし、もし標準仕様が決定されたら、Transmetaは非常に迅速に対応できるだろう。なぜなら、当社だけは、ソフトウェア(CMS)の変更だけですむからだ。

[Q] セキュア仮想メモリとセキュア実行モードも、ハードウェアの変更なしにサポート可能なのか。

[Ditzel氏] もちろんだ。どころか、それらの要素は、すべて、我々にとっては経験済みだ。なぜなら、我々はすでにセキュアメモリとセキュア実行を実装しているからだ。考えて欲しい、CMSは、全てがセキュアメモリにあり、セキュアに実行されている。通常のx86コードからはCMSは見えない。こうした技術があるから、TransmetaがセキュアCPUに対応することは非常に簡単だ。

●セキュリティ機能はすでに搭載済みのCrusoe

 Transmetaのアーキテクチャでは、CMSはCPUに接続されたフラッシュから立ち上がり、CPUとBIOSの間のレイヤとなる。x86命令はCMSに実装されており、そのため、BIOSやソフトウェアからは完全にx86命令に見えるようになる。CMSはもちろんメインメモリ上で動作するが、その存在は、x86ソフトウェアはもちろん、BIOSから上のレベルからも不可視となる。つまり、CMSはもともとセキュアなメモリ空間で、セキュアに実行されているわけだ。これを応用すれば、Microsoftや他のOSが、セキュリティAPIを作ったとしても、すぐに対応ができると言っているわけだ。これには説得力がある。

 おそらく、Transmetaは2003年の段階では、まず独自のセキュリティ機能をCMSに組み込むと思われる。この段階で、完全に分離されたセキュア仮想メモリやセキュア実行モードを実装するかどうかは疑問だ。そうした機能を利用するには、OSの本格的な対応が必要になるからだ。おそらく、もう少し低レベルのセキュリティ機能の実装になると思われる。セキュア仮想メモリやセキュア実行モードは、PalladiumなどOS側の標準化が決まってからというのが、自然の展開だろう。

 また、推測だが、Crusoeの場合、CMSのためのフラッシュメモリに暗号化のルートキーなどを格納することも可能かもしれない。もちろん、CMSの格納メモリ自体がハックされてしまえば安全ではないのだが、このメモリはCrusoe自体に接続されているため、比較的保護が容易だと思われる。また、暗号化アルゴリズムをCMSに実装してしまうことも考えられる。そうすれば、Crusoe自体で、セキュリティチップの機能を兼ねることも可能になる。

 いずれにせよ、TransmetaがPalladiumに一番近い位置にいる可能性は高い。

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【11月22日】BaniasキラーとTransmetaが宣言する次世代Crusoe「TM8000」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1122/kaigai01.htm
【11月26日】【本田】本当に速くなるのかな? TM8000を巡るヒソヒソ話
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1126/mobile181.htm

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(2002年11月29日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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