IDF Spring 2003基調講演レポート

拡張されたムーアの法則が今後もIT業界の発展を後押しする


会場:San Jose Convention Center
会期:2月18日~21日(現地時間)

 Intelが開発者向けに開催している技術者会議であるIntel Developer Forum Conference Spring 2003(以下IDF)が、米国太平洋時間2月18日午後より、カリフォルニア州サンノゼにあるSan Jose Convention Centerにおいて開催されている。

IntelCEOのクレイグ・バレット氏

 初日となる本日は、Intel CEOのクレイグ・バレット氏による、基調講演が行なわれた。基調講演において、バレット氏は、ムーアの法則の有効性により今後も技術革新が進んでいくことを強調し、XScaleにベースバンドとフラッシュメモリを統合したManitoba、2004年の新しいモバイルプラットフォームとなるNewport、2004年のデスクトッププラットフォームのビジョンであるPowersvilleなどのデモンストレーションを行なった。

●ITはまだ死んでいない、ムーアの法則が今後も技術革新を後押しする

 「ITへの期待はまだまだ低くなったわけではない」とバレット氏は、恒例といえるような経済状況やIT業界を取り巻く現状から話を始め、昨年が困難な1年であったことを認めつつ、ガートナー、EITO、IDC、アンダーセンなど調査会社による2003年のIT業界成長予測についてふれ「多いところでは7%、そうでないところでも4%もの成長率を予測している」と述べ、今年こそ復活の1年であると聴衆に語りかけた。

 バレット氏はその理由として、今年の後半でWindows 98のサポートが終了するため、法人市場において多くの買い換え需要が期待できること、コンテンツのデジタル化が推進すること、ブロードバンドがより普及する見通しであることなどをあげ、今後もIT産業は発展し続けていくと強調した。

 そして、ISSCCでIntelのゴードン・ムーア名誉会長が語った“ムーアの法則”の延長[http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0212/kaigai01.htm]についてふれ、「この業界は半導体の集積度を上げることで発展してきた。その発展を後押ししてきた、ムーアの法則はまだ死んでいない。今後爆発的な成長は期待できないかもしれないが、少なくとも今後10年程度は、今の成長を維持できるはずだ」と、今後も半導体の要素技術を開発し続けていくことで、IT業界の発展は続いていけるはずだとした。

バレット氏の基調講演で利用されたスライド。各調査会社ともに、2003年は4~7%の性能を予測 ムーアの法則のこれまでを振り返る図。これまではだいたい予測通り、18~24カ月でトランジスタが倍になってきた

●製造プロセス技術のロードマップを示し研究成果を誇示

 引き続きバレット氏はプロセスルールのロードマップについてふれ「現在我々は0.13μm(130nm)プロセスで製造しているが、今年の後半には90nmプロセスの実現化にほぼめどがついている。さらに2005年には65nm、2007年には45nm、2009年には32nmと今後もプロセスを微細化することができるめどが立っている」と述べ、今後もムーアの法則を実現すべくプロセスルールの微細化が行なわれていくという見通しを明らかにした。

 バレット氏は、PCベースの電子顕微鏡を利用して、微細な回路を見るというデモを行なった。最初はノイズだらけで何も見ることができなかったのだが、ノイズ除去のアルゴリズムを利用してノイズを除去したところ、「Intel」という文字が書かれた回路がはっきり見えるというものだ。

 バレット氏は「このように、これまでの固定の装置ではなく、PCを利用することで簡単に装置をアップグレードできるようになり、6層、7層のメタル基板を100nm以下で見分けることができるようになる」と述べ、開発用の装置なども含めてムーアの法則を持続させる努力を続けていることを強調した。

2009年までのプロセス技術ロードマップ。基本的にはこれまで発表されてきたものと大きな違いはない 電子顕微鏡を利用してノイズを取り除いて回路を見ることができるというデモ。こうした様々な技術を応用して、今後もムーアの法則は拡張されていくことになる

●2004年のリファレンスプラットフォームとなるMarble FallsとPowersville

 今回のバレット氏の基調講演で目新しかったのは、モバイル向けのプラットフォームビジョンであるNewport(ニューポート、開発コードネーム)、デスクトップPC向けのリファレンスプラットフォーム(プラットフォームデザイン例)である、Powersville(パワーズビル、開発コードネーム)、Marble Falls(マーブルフォールズ、開発コードネーム)の3つだ。

 NewportはTablet PCに取り外し可能なキーボードを取り付けたノートPCで、Tablet PCとしては約1.1kg、ノートPCとしては2kg強の重量となっている。

 もちろん、Centrinoモバイルテクノロジに基づいており、IEEE 802.11a/bデュアルバンドの無線LAN、GPRS、Bluetoothなどのすべての無線技術を内蔵、ファンレス、TPMチップを内蔵というスペックで、6時間以上のバッテリ駆動が可能になるという。

 また、3つの無線技術(無線LAN、GPRS、Bluetooth)を使い分けるため、GSMのSIMカードを無線LANの認証に利用したり、あるいはモバイルIPの技術を利用してシームレスに無線技術を切り換えるなどの機能を搭載することで、ユーザーの使い勝手を向上させる。

 タブレットの裏側には、Palm端末のような解像度の低い液晶ディスプレイが付いており、Windowsとは異なる独自のOSでメールの送受信などが可能になっている。要するに、ノートPCの液晶の裏側にPalm端末が内蔵されていて、それがPCとは独立して動作すると考えるといいだろう。

 メールを見るだけなら、確かにそういう選択肢もありだろう。Intelでは、このディスプレイを2004年にオフィス内での用途を想定し、2005年には、本体をバッグに入れたまま、Bluetooth対応のPDAなどから接続して利用するという用途も検討している。

 これらの機能はAON(Always On)と呼び、常に電源を入れた状態で利用するという使い方を検討しており、AONの詳細は今年秋のIDFで公開する予定であるという。

Newportのデモを行なうバレット氏 Newportは、取り外し可能なキーボードとTablet PCから構成されている

Newportの液晶の裏側には、AON機能を実現する小型の液晶が用意されている このように、キーボードからはずして利用することができる

AON機能のディスプレイ画面。PDA機能のようなものだと考えればよい

 さらに、デスクトップPCにおいては、2004年の新しいプラットフォームとしてMarble FallsとPowersvilleを公開した。両者ともに、昨年Intelが提唱した新しいフォームファクタであるBig Waterに準拠している。

 Marble Fallsは、2つの液晶パネルから構成されているディスプレイと、SFF(Small Form Factor)のケースから構成されている。

 CPUはHTテクノロジに対応したPentium 4、Intel 865チップセット(Springdale)、CSAで接続されたギガビットEthernet(82574EI)、無線LAN(IEEE 802.11a)、Bluetooth、MOBILITY RADEON 9000、SeagateのSerial ATA HDDなどから構成されている液晶デスクトップだ。

 PowersvilleはいわゆるSFFのデスクトップで、PCそれ自体の構成などに関してはMarble Fallsとあまり変わらないようだ(こちらは具体的なスペックが公開されていなかった)。

 Marble FallsとPowersvilleにおける目新しい点は、NEWCARDと呼ばれるデバイスベイライクなモジュールが採用されていることだ。NEWCARDは、インターフェイスはPCI ExpressとUSB 2.0をサポートしており、デスクトップに新しい機能を追加する際に利用される。

Marble Fallsのデモ。2つのディスプレイを利用して生産性を向上させる Powersvilleのデモ。SFFでもビデオ編集を行なうことができる Marble FallsのNEWCARDスロット。PCカードを置き換えとして利用される

●日本メーカーの存在意義を脅かす? Intelの“Desktop Platform Vision”

 バレット氏は、これらのデスクトップを利用して、ビデオを編集をさせてみたり、クライアントからホームサーバーとなるこれらのデスクトップPCに対してアクセスさせるなどのデモを行なった。

 筆者は「こうした格好のよい省スペースなデスクトップPCを使って、こんなすごいことができるようになる」と言いたいのだなと感じた。そして、実際、米国のエンジニアなどは拍手喝采で、かなり受けているように感じた。

 だが、筆者の正直な感想を言わせてもらえば、何を今更、という感じだ。2004年に実現できるMarble FallsとPowersvilleを待つまでもなく、日本ではすでに同じようなコンセプトのPCが実際に市場に出回っている。Marble Fallsは松下電器のLCシリーズの発展系のようなものだし、Powersvilleに至っては、すでに日本の量販店に行けば、いやと言うほど同じようなマシンを見ることができるだろう。

 Intelは日本の状況を知らないのだろうか? いや、そんなはずはない。Intelの日本法人の担当者と話をする機会を得たときにそうした話をすると、これでもかというほど米国サイドに日本の状況を説明しているという。つまり米国サイドとて、日本の状況は判っているはずだ。だとすれば、これは考え方を変えるべきだろう。

 むしろ、Intelは日本発のPCトレンドを世界のPCベンダに普及させたいと考えているのではないだろうか。実際、このイニチアシブを推進するアライアンスのメンバーが、基調講演の後で行なわれたDesktop Platform Visionを説明する技術トラックで説明されたが、入っていたのはASUS、COMPAL、FIC、MITAC、GIGABYTE、MSI、Quanta、Samsung Electronics、LG、Wistronなど、言ってみればODMメーカー達だ。

 つまり、台湾や韓国のODMメーカーにこれらのプラットフォーム製品を作らせることで、SFFやマルチメディア機能などを一般的なもの、つまり標準化されたPCにしてしまい、コストを下げて一気に世界中に普及させようというのがIntelの狙いではないだろうか。

 だとすれば、例えばDELLやGatewayといったBTO系のPCベンダや、チャネルのホワイトボックスメーカーでも、今後はより優れたフォームファクタのマシンを安価に作れる時代がくる。

 日本のPCベンダの強みは、新しいフォームファクタを作り出したり、新しい機能を作りだし、それをいち早く採用していくことだった。だが、IntelのDesktop Platform Visionの登場により、そのアドバンテージが削りとられる可能性がでてくるわけだ。つまり日本のPCベンダの存在意義にも関わってくる重要な問題だと言ってよい。

 今後、日本のPCベンダがIntelのDesktop Platform Visionを上回る次のステップを早期に発見できるかどうかが、自らイニチアシブをとってデスクトップPCを開発していくメーカーとなるか、それともDesktop Platform Visionのアライアンスメンバーが作った、標準化されたPCに自分のバッジをつけて売っていくだけのメーカーになっていくのかの、大きな分かれ道となるだろう。

□IDFのWebサイト(英文)
http://developer.intel.com/idf/index.htm
□IDF Spring 2003のWebサイト(英文)
http://www.intel.com/idf/us/spr2003/index.htm
□ニュースリリース(英文)
http://www.intel.com/pressroom/archive/releases/20030218corp_b.htm
□ニュースリリース(和訳)
http://www.intel.co.jp/jp/intel/pr/press2003/030219b.htm

(2003年2月19日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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