●ATIとNVIDIAが早くも第2ラウンドの戦いへ NVIDIAはようやく2月20日から、GeForce FX 5800 Ultra(NV30)の(OEMからの)市場出荷を開始する予定だ。だが、その一方で、NVIDIAとATI TechnologiesのDirectX 9/OpenGL2.0世代GPUの戦いは、早くも第2ラウンドを迎えようとしている。両社が揃って、メインストリーム向け製品をリリースしようとしているのだ。 NVIDIAはパフォーマンスのローエンドとメインストリームを狙う「NV31」と、メインストリームからバリューのハイエンドを狙うと見られる「NV34」を3月の第1週に発表する見込みだ。それに対して、ATIはRADEON 9700(R300)後継の「R350」と、メインストリーム向けの「RV350」を準備している。DirectX 9世代の普及版GPUで、両社のつばぜりあいが始まる。 グラフィックスカードの世界では、一般に、メインストリームというと99~199ドル。パフォーマンスが200ドル台以上、バリューが99ドルより下という色分けになっている。このうち、ハイエンド市場にしか、DirectX 9世代GPUは存在していなかった(そもそもATIしかなかった)が、今春は、主戦場はメインストリームへと移り始める。さらに、今春遅くにはモバイルにも広がり、NVIDIAとATI以外のメーカーも投入し始める。つまり、DirectX 9世代GPUの収穫の時期がいよいよ訪れる。 ●RADEON 9700系を高速化したR350 ATIのデスクトップGPUのコードネーム規則は簡単だ。“Rx00”が新アーキテクチャのパフォーマンスGPU、“Rx50”がその改良版、“RVx50”が同系列アーキテクチャのメインストリーム&バリュー向けバージョンだ。それ以外の“RVx80”といったナンバーは派生品であるのが一般的だ。例えば、DirectX 9世代ではR300(RADEON 9700)が最初のパフォーマンス製品で、R350が後継の高性能版、RV350がメインストリーム向け版となる。 R350は基本的にはR300と同アーキテクチャだが、ある程度高速化されていると言われる。また、ATIはR300の時点からすでにDDR2に対応しているため、R350で正式にDDR2搭載ボードも出してくる可能性はある。ATIのDavid E. Orton(デビッド・E・オートン)社長兼COOは「RADEON 9700はDDR2に対応しているが、発表時点ではDDR2の供給が十分ではなかったので発表しなかった。DRAM側の準備が整えば、我々も(DDR2製品を)発表する。現在のところSamsungだけが高速のDDR2グラフィックス用を供給できる。DDR2を使えるようになる時期は、どのメーカーも同じだ」と昨年11月に語っていた。そもそも、DDR2メモリを策定したJEDEC(米国の電子工業会EIAの下部組織で、半導体の標準化団体)のFuture DRAM Task GroupのチェアマンはATIのJoe Macri氏(元ArtX)だったから、ATIがDDR2サポートで技術的に遅れをとる可能性は低い。ただし、現在のATIのパフォーマンスGPUは256bitメモリインターフェイスを持つため、メモリ帯域的には高価なDDR2をあえて使う必然性は低い。 R350の正確な周波数は現在のところつかめていない。だが、R300より高いもののNV30の500MHzには届かないようだ。それはプロセス技術による。R350は当初0.13μm版だと思われていたが、現在は複数のGPUメーカー関係者がTSMCの0.15μmプロセスで製造されるはずだと証言している。0.13μmへ移行しなかったのは、歩留まりを重視したためだと思われる。もっとも、この0.13や0.15という呼び方はあいまいで、各社で定義が異なる。また、NVIDIAやATIは、ファウンダリであるTSMCの重要顧客であるため、製品に合わせてカスタマイズしたプロセスを使うことがある。例えば、トランジスタ層だけを1世代縮小するといった方法だ。R350も、パイプラインの改良や物理設計の改良に加えて、そうしたプロセス技術のテクニックで高速化している可能性がある。
●0.13μmでメインストリームを狙うRV350 一方、RV350ではATIは、NV30と同じTSMCの0.13μmプロセスを使う。そのため、潜在的にはRV350は、R300/R350より高クロック化が容易となる。ただし、登場時にはどの程度の周波数になるかは、まだつかめていない。排熱や消費電力などを考慮すると、むやみにクロックを上げることはできない。 RV350は、基本的にはR300の機能削減版となる。このチップについて、ATIのJewelle Schiedel-Webb(ジュエル・シドルウエッブ)氏(Desktop Marketing)は、R300の日本発表時に次のように語っている。 「メインストリーム向け製品は99~199ドルのボード販売価格となる。そのため、ハイエンド製品の機能は保ちながら、アーキテクチャを絞っていくことを考えている」 通常GPU設計では削るのはまずピクセルパイプの本数だ。DirectX 9のピクセルパイプは、浮動小数点をサポートしたため巨大な面積(R300の場合はダイ写真上で約40%)を取っている。R300の8パイプを、RV350で4パイプに減らせば、原理的には約20%程度ダイを縮小できる。さらに、Vertex Shaderも4個から2個に減らし、メモリインターフェイスを256bit幅から128bit幅へと全てを半減させると、R300の60~70%程度にまでダイを削ることができる。さらに、0.13μm化でダイサイズが70%に縮小するため、計算上は約100平方mm前後のダイサイズに納めることができるようになる。100平方mmというのは、メインストリームGPUのダイのラインで、これ以下でないとコスト的に難しい。 ATIは、メインストリーム版GPUとパフォーマンスモバイル版GPUで同じコアを使う。今回もRV350のモバイル版として「M10」を用意する。ある半導体メーカー関係者は、M10も今春の遅くには登場すると証言する。M10は低電圧(NV30の使うDDR2はコア2.5Vだが、M10は1.8Vを使うと推定される)で低消費電力のDDR2メモリを採用するようだ。つまり、メモリ帯域当たりの消費電力の低減のためにDDR2メモリを採用すると見られる。 ATIはこの他に、RV250系アーキテクチャのRV280も準備していると見られる。このチップは、製造ファウンダリがUMCに移行すると言われている。ATIのK. Y. Ho(KY・ホー)会長兼CEOは昨年8月に「われわれは常に2サプライヤをウェハFabについて確保しようとしている。TSMCは今はメインサプライヤだが、UMCからも新製品が出てくる」と語っていた。 ●次の大きな節目はR400 こうして見るとATIは今回、豊富な弾を用意していることがわかる。NVIDIAのロードマップに完全に対抗できる。ATIがドライバの品質など、従来のユーザーに不評だった点を改善し切れれば、メインストリーム以下の戦いでも有利になる可能性はある。 だが、そうしている間に戦いは次のフェイズに移る。ATIは次の世代として、アーキテクチャを革新した「R400」を準備している。ATIはCG関連のカンファレンス「SIGGRAPH」で製品を発表することが多いため、R400もSIGGRAPHの開催される7月末前後に発表される可能性が高い。R400は完全に0.13μmに移行するほか、Programable Shaderのアーキテクチャも拡張されると見られる。おそらく、今後登場する各社のフラッグシップDirectX 9世代GPUの大半が、ShaderをDirectX 9スペック以上に拡張してくるだろう。それらの拡張は、最終的にはDirectX 10で吸収されると見られる。 複数のGPUメーカー関係者によると、Microsoftは当初は1年以上間をおくつもりだったDirectX 10を早めたという。ある関係者は「MicrosoftはDirectX 10の計画を若干変更した。まだ策定は終了していないが、われわれはすでに来年前半に向けて(DirectX 10世代の)製品を開発している」という。現在、公式にDirectX 10製品の開発を表明しているのはS3 GraphicsとTrident Microsystems。特に、S3はDirectX 9世代の「DeltaChrome(Columbia:コロンビア)」系の次の『Destination Films(デスティネーションフィルムズ)』で、Programable Shader 3.0(DirectX 9は2.0)をサポートすることを明確にしている。S3のロードマップについては、機会を見て詳説したい。 問題は、R400がDirectX 9かDirectX 10かだが、時期的にみてDirectX 10策定には間に合わないと見られる。今秋出荷なら、論理設計は終わっていないとならないはずだからだ。しかし、R400に実装される拡張は、DirectX 10に取り込まれる可能性がある。今後は、こうしたきっちりと揃わない、半世代進んだ拡張がごく普通になっていく可能性が高い。
□関連記事 (2003年2月17日) [Reported by 後藤 弘茂]
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