東京・秋葉原のラオックス ザ・デジタル館が、2003年1月13日で閉店する。万世橋交差点の一角を占める同店は、その特徴的ともいえる白く巨大な壁面を持ち、Windows XP発売時にマイクロソフトの巨大広告がこの壁面を飾ったことは、まだ記憶に新しい。その様子は、JR中央線の神田-お茶の水駅間の車窓からも見ることができた。 先端情報家電製品を取り扱うことを目的に開店したザ・デジタル館は、なぜ閉店に追い込まれたのか。そして、ラオックスにとって、なにが残ったのか。ザ・デジタル館の開店時には、店舗のコンセプトづくりでチームリーダーとして取り組んだ経験をもつ、ラオックスの山下巌部長に話を聞いた。 ●差別化、黒字化、商品展示に限界
--ザ・デジタル館の閉店の理由はなんですか。 山下 ひとことでいえば、採算がとれなかったということです。こうした店を出すときには、3年程度は赤字でも、その後は黒字化すればいいという考え方をします。しかし、デジタル館の場合は、'99年10月にオープンしたものの、3年を経過しても黒字化のめどがつかない。タイミング的には、社内で閉店という議論が出ても当然だったわけです。 --売り上げは年々減少していたと。 山下 具体的な数字は申し上げられませんが、'99年10月にオープンして半年間は、ラオックス本店に匹敵する勢いを持っていました。しかし、その後は下降傾向を辿っていった。残念ながら一度も黒字化はしませんでした。 --デジタル館のコンセプトが受け入れられなかったということでしょうか。 山下 もともとデジタル館のコンセプトは、これから到来するネットワーク社会において、AV機器や白モノ家電と呼ばれる商品からネットワークにアクセスして、生活を楽しんだり、生活を豊かにする人たちを対象にした製品を取り扱うことを、基本コンセプトとして開店しました。 これに対して、パソコンやPDAなどからネットワーク社会にアクセスする人は、ザ・コンピュータ館に行ってもらえばいいという棲み分けを考えていたわけです。しかし、最大の読み違いは、こうしたデジタル館のコンセプトと合致する製品がなかなか出てこなかった点です。 とくに、期待していたのは大型テレビをネットワークで接続した製品でした。デジタル館のコンセプトからいえば、テレビが最もわかりやすく、デジタル家電の切り口となりうる製品です。だが、そうした製品がない。一部メーカーから、インターネット電子レンジなど、ネットと接続した家電商品が出ましたが、こうした商品が一堂に見られるとなると、店としての意味が出てくる。だが、インターネット電子レンジを一台だけ展示していても、店としてのインパクトはなにもないわけです。 そうなると、必然的に、パソコンをコアにして、AV機器などとの接続利用例などを展示するようになる。これでは、コンピュータ館との差別化ができなくなる。つまり、見せる商品がなく、店として差別化できるものがない、という事態に陥っていったわけです。 --ただ、'99年時点を振り返っても、デジタル館のコンセプトに合致する製品は皆無に近かったわけですから、しばらくはコンピュータ館と差別化ができなくても仕方がない、という見方も社内にあったのでは。 山下 確かに、それはありましたね。とくに最初の半年は、その意識が強かった。言い換えれば、開店から半年経過すれば、いくつかの製品が出揃ってくると考えていたのです。だが、それが出てこない。しかも、当面の「飯の種」ともいえるパソコンの市場が縮小しはじめた。もう少し、DVDレコーダーやネットワーク対応テレビがパソコンを代替してくれるような製品に育てばいいのですが、これにも時間がかかる。当面の「飯の種」と期待していたパソコンもいつ市況が回復するかわからない。採算点を考えると、このままの存続は厳しいと判断さぜるを得なかったですね。 --万世橋の横という、立地的な要素は問題ではなかったのですか。 山下 休日の歩行者天国を考えると、デジタル館に来るには横断歩道を1つ渡らなくてはならないのです。これは、マイナスポイントでした。ただ、それ以上に、そこまでお客さんを呼べる店にはならなかったという点は大きな反省です。 立地という点では、ラオックスが秋葉原に出店している店舗を見た時に、最も末広町寄りの店舗がコンピュータ館でした。しかし、今後の秋葉原の再開発事業やツクバエクスプレスの開業などの影響を考えると、電気街は、どんどん末広町寄りに発展していくことになる。2005年を考えると、今のデジタル館の場所は、この手の店をやるには、もっと悪い環境になるとも考えられます。 そうした意味で、ラオックスとしても、末広町方向になんとか1本「くさび」ともいえる店舗を持ちたかった。そこに、旧T-ZONE.ミナミの跡地の話が入ってきた。いまのアソビットシティの場所です。これも、デジタル館の再考を促すきっかけになった。 --つまり、一時は、場所を変えても、継続するという考えがあったと。 山下 可能性は、いろいろと検討しました。デジタル館をもっと拡大して、現・アソビットシティの場所に持っていくということも考えましたし、コンピュータ館の場所にデジタル館を移転し、コンピュータ館をアソビットシティの場所に、というシャッフルも考えました。 ですが、先ほども触れたように、デジタル館の将来を考えたときに、本当に採算がとれるのか、採算がとれるようになるまでにつなぎの商品はあるのか、そして、他店との差別化はできるのか、という点を考えたときに、それはノーだった。一方、社内を見回すと、ホビー館や楽器館、BOOK館での成功体験やエンターテイント分野における店舗運営のスキルが蓄積されている。エンターテイメント分野で他社と差別化できると判断したわけです。 コンピュータ館も初年度は65億円の売り上げ高からスタートして、のちに300億円を越える店舗に成長した。1年後には、秋葉原全体をパソコンの街に変えてしまうだけのインパクトをもっていた。アソビットシティは、同様のインパクトを持った店舗だと考えています。 --ところで、そのアソビットシティの出足はどうですか。 山下 ちょうど年末の商戦期ですから、最もお客さんが集中している時期です。土日平均で1日2万人程度が訪れています。パソコンや家電と違って、土日と平日の集客数の格差が少ないというのが、こうした店舗の特徴ですね。11月30日には、新狭山店にインショップ形式でアソビットシティの2号店をオープンしました。 1月までは、この好調ぶりは確実だと思っているんです。しかし、需要が落ち込む来年2月にどうなるか、というところで評価したいと考えています。 --デジタル館の跡地はどうなるのですか。 山下 あそこは、ラオックストゥモローという当社の関連会社のものなのですが、閉店後の入居先としては、あるデベロッパーと契約していますので、そのデベロッパーが店舗を誘致するという形になります。どんな店舗になるかはわかりません。 --最上階がレストランだとか、1、2階がパチンコ屋だとか、いろいろと噂が出ていますが。 山下 電気店が入ることはないようですね。レストランやパチンコ屋という噂は私も聞いていますが、それはわかりません。ただ、万世橋交差点は、第一家庭電器本店がシャッターを卸していて、もう1つは万世橋署の跡地。そして、デジタル館が少なくとも3カ月間は閉鎖することになるでしょうから、秋葉原の街全体を考えた場合にも、あの一角は早くなんとかしないといけないですね。 ●デジタル館の名前は復活するのか? --デジタル館の体験は、ラオックス全体にどんなノウハウの蓄積を生みましたか。 山下 いま、コンピュータ館のパソコン売り場に空気清浄機を一緒に展示しているんです。デジタル館では、生活シーンという捉え方をしていましたから、パソコンを使う環境では、一緒に空気清浄機もあった方がいいだろうという提案型の展示を心がけていた。これもデジタル館のノウハウの1つで、それをコンピュータ館に移管した。 それと、コンピュータ館はパソコンを知っている人が中心の店ですから、レジカウンターの作り方や商品引き渡しの方法、説明の仕方なども、やや中級者寄りとなっていた。商品タグをレジにもっていってもらうといった方法も、ある程度パソコンを知っている人を対象にしたやり方ですね。しかし、デジタル館では初心者が多いですから、店員がしっかりと説明をして、専門用語を使わない表示方法に心がけた。地方店舗や新店の出店時などでは、これらのノウハウが生かされています。これからは、デジタル館で行なっていたような展示を、コンピュータ館の一部にも採用していくことになります。パソコンをコアにして、つなぐという点での知識や販売/展示ノウハウがデジタル館で蓄積されましたから、コンピュータ館の店自体にも広がりが出ることになると思います。 --そうなると、コンピュータ館が昨年打ち出した、中小企業、SOHOのための店づくりというコンセプトも変更することになりますか。 山下 その考え方については、6階のフロアに集約して継続することになります。さらに、外販を行う法人営業部門も、本社直轄組織として拡充を図ります。現在30人の要員を、来期には100人体制にまで拡大します。店舗で待つというだけでなく、実際にお客様の元に出向いてソリューション提案を行うという仕組みを作りたいと思っています。 一方のコンピュータ館ですが、情報に関わる商品を扱っていく店になります。これまでは情報に関わる商品は、パソコンが中心でしたが、地上波デジタル放送などが始まると、情報という意味合いが変わり、必然的に取り扱い製品も変わってくる。ただ、これもむやみに広げると店の差別化ができにくくなりますから、慎重にやっていくつもりです。 --しかし、ここにきてデジタル館のコンセプトに合致した商品がいくつか出てきましたね。いま、話題に出た地上波デジタル放送もネットワーク家電の登場には追い風になるでしょうし、すでに、ソニーのコクーンなどのネットワーク型家電製品も出ています。閉店よりも、むしろ、これからだ、というタイミングのような気がしなくもありませんが(笑) 山下 デジタル館がイメージした店づくりや、コンセプトは間違ってはいないと思っています。ただ、採算点を考えると、まだ早すぎた。このまま継続するのは、無理があるという判断なのです。ですから、もしかしたら、1年後、あるいは3年後になるかもしれませんが、改めてデジタル館という名前の店舗が復活する可能性があるかもしれませんよ。もし、そうなった時には、いまのデジタル館とは異なる、まったく生まれ変わった店舗になるでしょうね。
□ラオックスのホームページ
(2002年12月24日)
[Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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