いやいや、高速、高耐久、高画質といえばやっぱりレーザープリンターでしょ、と思っている人は少なくないだろう。モノクロ文書を大量に印刷するビジネス用途に限定すれば、モノクロレーザープリンターの方がトータルで見た時にランニングコストも低く抑えられるのでは? と。
それは正しくもあり、正しくないとも言える。
たしかにレーザープリンターは高速だ。細かい印字も得意で、トナーやドラムなど消耗品の耐久性(印刷可能枚数)も高い。しかし、だからといって必ずしもインクジェットプリンターの方がレーザープリンターよりビジネス性能に劣る、というわけではない。オフィスで使うことを想定したビジネスインクジェット複合機が、ここへきて劇的に進化してきているのだ。
その1つが、2017年2月に新しく発売されたブラザーのA3対応ビジネスインクジェット複合機「MFC-J6995CDW」。インクジェットはインクジェットでも、家庭用ではない“ビジネス向け”として、高速、高耐久、高画質を誇り、ランニングコストまで抑えたという。同機種がどれほどのポテンシャルをもっているのか、さっそくチェックしてみよう。
家庭用インクジェットとビジネスインクジェットの違い
改めて言うと、インクジェット方式は「レーザーよりプリントは遅いし、耐久性にも不安がある」と思われがちだったかもしれない。モノクロレーザープリンターと比較して「いつか使うかも」という“保険”的な意味で、せいぜいカラー印刷できる点にメリットがあるかな……程度に感じていた人もいるのではないだろうか。MFC-J6995CDWは、そんなビジネスインクジェットの先入観を払拭してくれる1台だ。
MFC-J6995CDWについて紹介する前に、まず「家庭用インクジェット」と「ビジネスインクジェット」は、明らかに異なる製品であるということを頭に入れておきたい。家庭用はあくまでも自宅で使用することを前提に、機能や性能が決められている。例えば給紙トレイの容量、使用するインクの数や種類、印字速度、製品寿命などだ。
ビジネスインクジェットは一般的に給紙トレイの容量が大きい。MFC-J6995CDWは2つの給紙トレイに計500枚を収納可能
MFC-J6995CDWのインクはCMYKの4色。カラーは約1,500枚分、モノクロは約3,000枚分のプリントが可能な大容量タイプのインクカートリッジとなっている
毎日使うことはなく、一度にたくさん印刷するのが年賀状シーズンに限られたりするであろう家庭では、どちらかというと可能な限り高い品質で印刷できることが求められることと思う。利用者は家族だけだから、使用頻度が極端に高くなることも考えにくい。したがって、十分に高品質に印刷できるのなら、それ以外の高速さやランニングコスト、耐久性はさほど重視されないはずだ。
一方、ビジネス用途の場合、印刷品質がその業務に耐えられるクオリティであれば、あとはいかに大量の文書を効率的に出力できるか、が肝となる。業務のある平日は毎日のように使うだろうし、従業員が多いほど使用頻度が高まるのは間違いない。ただ、ヘビーに使っているからといってあっという間に製品寿命が尽きてしまっては、設備更新の手間があまりにもかかりすぎる。そういった使用環境を想定し、高負荷な業務にも耐えうる性能を磨いてきた、という点で、家庭用とビジネス向けは全く異なる製品なのだ。
ファーストプリントアウトタイムは6秒以内! 高速さの秘訣は「地道な作業」?
では、ブラザーのビジネスインクジェット複合機MFC-J6995CDWは、ビジネス向け製品としてどれほど高速、高耐久、高画質なのだろうか。
1つ目の「高速」という点では、特に「ファーストプリントアウトタイム」で顕著な進化がある。ファーストプリントアウトタイムとは、PCで印刷を実行してから、最初の1ページ目を出力し終えるまでの時間だ。MFC-J6995CDWでは、スペックシート上はモノクロ印刷で約5.5秒、カラー印刷で約6.0秒。これは、2015年発売の従来モデル「MFC-J6973CDW」よりどちらも3.5秒、つまり4割近く速度アップしていることになる。
ビジネスの現場では、一度に大量印刷する使い方もあれば、何人もの従業員がそれぞれ1枚ずつ(もしくは少ない枚数)を頻繁に印刷する、といった使い方もある。後者の場合、その1枚を高速に印刷できるとオフィス全体として業務効率改善につながるはずで、ファーストプリントアウトタイムは軽視できない性能指標の1つなのだ。
しかし、本当に6秒以内という短時間で印刷が完了してしまうのだろうか。MFC-J6995CDWと従来モデルのMFC-J6973CDWを横に並べ、ヨーイドンで同時にカラー印刷を開始して高速さを実感できるか確かめてみた。その様子を動画にしたのでご覧いただきたい。MFC-J6995CDWはカタログスペック(パソコンでの印刷実行後、1枚目がプリントアウトされるまでの時間)に近いタイムで印刷が完了し、もはや明確な“待ち時間”と感じられるものはほとんど意識できないくらい……というのは言い過ぎだろうか。
従来モデルMFC-J6973CDWのモノクロ約9.0秒、カラー約9.5秒というファーストプリントアウトタイムも、決して遅いわけではない。おおざっぱなイメージとしては、少し広さのあるオフィスなら、パソコンで印刷を実行して席を立ち、複合機の前に移動したちょうどその頃にプリントアウトが完了するような速度ではないだろうか。
それより高速なMFC-J6995CDWは、パソコンで印刷を実行して席を立ち、歩き始めた直後にプリント完了、くらいの違いがありそうに思う。どちらにしても、印刷実行後に複合機まで取りに歩いて行く、という一連の流れを考えれば、実質の待ち時間は乱暴に言えばゼロみたいなものだ(もちろんオフィスの広さによるが)。
この3.5秒という差はどうやって生み出したのだろうか。開発者によると、「印刷処理の工程で時間のかかりがちなプリンターの各種準備動作を並列化したり、印刷データを送る前にその準備動作に必要な命令をあらかじめ実行しておく」といった工夫によって、印刷時間の短縮を実現したのだという。
ひとくちに印刷と言っても、プリンター内部ではさまざまなプロセスを経てデータと印字の処理を行っている。各プロセス1つひとつはゼロコンマ数秒ほどの時間しかかかっていなかったとしても、それを足し算していけば最終的には明確な「待ち時間」として現れてしまうわけだ。逆に言えば、そこでわずかずつでも地道に短縮できれば、目に見えて「待ち時間」の減少につながる。
たった3.5秒でも、4割のスピードアップと考えれば、単純計算で一定時間内に(1ページ)プリントできる人数が10人から14人になる。1台の複合機でまかなえる従業員数が4割アップする、と言い換えてもいいだろう。この3.5秒は、企業にとってはたいへん大きな差だ。
耐久性は1.5倍、画質もアップしたのに、ランニングコストは低く
次のポイントは「高耐久」であるということ。MFC-J6995CDWは、製品として約15万ページの印刷を可能にしている。従来モデルのMFC-J6973CDWは約10万ページだったから、一気に1.5倍も耐久性をアップさせたわけだ。
15万ページというのはどれほどの量だろう。年間365日のうち平日のみ稼働させた場合、企業の平均的な年間休日数は120日程度とされているので、毎日100ページを印刷したとして5年間、毎日200ページでも3年間以上の使用に耐えられることになる。かなりヘビーな使い方でもこれほど長期間に渡って使い続けられるのだから、さまざまな業種の業務スタイルにもマッチし、末長く付き合っていけるに違いない。
3つ目のポイントは「高画質」。ビジネス用途では過剰な高画質は必要とされないとはいえ、それでも文書に挿入した写真や図版が見やすく、鮮やかな色彩で印刷されていれば、プレゼンの際の説得力に多少なりとも影響があるはず。MFC-J6995CDWでは、インクの原料を全色顔料ベースとしたことで、従来より大幅に印刷品質が向上した。
これまでカラーは染料インクだったが、これを顔料ベースに変えることで、どんな紙や印刷内容でもにじみにくく、水濡れなどにも強い性質を保ったまま、文字や図版をくっきりとした色合い、輪郭で描けるようになった。従来モデルのMFC-J6973CDWで同じ内容を印刷して比べてみると、MFC-J6995CDWの方はひと目見ただけで全体の彩度が上がっているとわかる。きりっとした輪郭で、図形の明瞭さ、写真のコントラストの良さが際立つ。
ただし、MFC-J6995CDWが全てにおいて従来モデルに勝っているわけではない。実は顔料ベースのインクは光沢紙への印刷が得意ではなく、この点のみ染料インクを使った従来モデルのMFC-J6973CDWの方が見栄えが良くなる可能性が高いのだ。とはいえ、光沢紙を使うのは主に写真を印刷するような時だろうから、ビジネス用途でそう頻繁に発生するシチュエーションではないと思われる。
ちなみに、ランニングコストも従来モデルからさらに抑えられている。MFC-J6995CDWの1枚あたりの印刷コストは、A4カラーが約4.0円、A4モノクロだと約0.9円で、従来モデルのカラー約6.1円、モノクロ約1.4円(カラー、モノクロ各1枚あたり)からぐっとダウンした。そして、ブラックで約3,000枚、カラーで約1,500枚の印刷が可能な大容量の専用インクカートリッジとなっていることにも注目したい。
1個あたりの印刷可能枚数が増えてインクカートリッジの交換頻度が少なくなることと、画質が優先されない印刷物については「インク節約モード」を使ってインク使用量を減らせることも考えれば、体感的には数値以上のコスト低減効果が見込めそうだ。
低価格の2機種も含め、導入しやすいモデルを選択したい
MFC-J6995CDWの価格は、実売で7万円前後。この価格帯は、会社の備品として経費で購入するにしても、部長決裁や課長決裁で処理できる額だろう。従業員10名前後の企業であれば会社単位で1台導入するのもいいし、50名ほどの企業規模なら、部署単位で使う複合機として用意するのもおすすめだ。当然ながら、数名が働く筆者のオフィスのように、こぢんまりとしたSOHO的な環境のユーザーにも適しているだろう。
7万円という初期投資額が気になるようであれば、下位モデルの「MFC-J6980CDW」(実売5万円程度)や「MFC-J6580CDW」(実売4万円程度)の2機種から選ぶのもおすすめ。いずれもランニングコストがカラー印刷約6.0円、モノクロ印刷約1.3円と、フラッグシップであるMFC-J6995CDWには少し及ばないものの、従来モデル以上のコストパフォーマンスを発揮するモデルだ。
MFC-J6995CDWが多くの企業にとってベストな選択となるはずだけれど、その下位機種のMFC-J6980CDWやMFC-J6580CDW、あるいは光沢紙への印刷も考慮した従来モデルMFC-J6973CDWのどれが自社の業務内容にマッチしているか、実際に印刷速度や画質などを体感して決めるのも良いだろう。東京支社の「ブラザー東京ショールーム」などに足を運んで確かめてみてほしい。