●ハイリスク・ハイリターンを実証するハイテク産業
Microsoft対米司法省の反トラスト法裁判で、11月にMicrosoftに不利な事実認定が出たとき、Microsoftの株価はすぐに冷え込んだ。このとき、Microsoft株を離れたカネはどこへ向かったのか。ハイテク産業の要たる企業に黄信号が灯ったのだから、他の産業の株に逃げたのか。
そうではなかった。代わりに上がったのは反Microsoftハイテク企業の株だった。Windowsの支配力が下がればLinuxやJavaが浮上するはずと、Red HatやSun Microsystemsの株が上がったのだ。その後も、個々の企業や1日ごとの株価に浮き沈みはあっても、トレンド全体としてみるとハイテク産業株は相変わらずの強さを誇っている。いったい、これはなぜだろう?
1つ言えるのは、それだけ「これからの経済はハイテク」という意識が、米国では一般人の間にまで浸透しているということだ。どんな産業の企業に投資するのでも、将来性ということになると、話題はハイテクに戻ってくる。だが、もっと根本的なのは、底辺にある「ハイリスク・ハイリターン」セオリーへの信頼、言い換えればアメリカンドリームへの信頼だろう。
ハイテク株人気は、米国のハイテク企業に、新しいビジネスに精力的に挑戦できる資金力を与えている。好例がRed Hat。9月に株式公開したばかりの同社は、高騰した株の利益によって、11月には別のLinux関連企業Cygnus Solutionsを7億ドルもの代価で買収できた。こうしたハイテク企業のダイナミックな動きが、ハイテク株の人気を支えている。つまり、米ハイテク産業とハイテク株には鶏と卵の関係のような好循環が働いており、それが両方の強さの秘密となっているわけだ。
だが、このポジティブスパイラルのシステムが成り立つには次のような人々が欠かせない──成功を夢見て走る起業家、アイデアだけの起業家に投資するベンチャーキャピタリスト、名のない企業の株を買う一般投資家、ストックオプションの大化けを信じて集まってくる人材。個々の企業では成功できない企業があっても、別の企業ならと信じて挑戦する人々が常にいることによって、本当に成功する企業が現れる。
ハイリスクを冒せばそれに見合うハイリターンがあるという認識を皆が持っているからこそ、強さの好循環の輪が完成するのだ。
逆の日本を見ればよくわかる。日本では、消費者は一般に米国よりずっとハイテク好きなのに、ハイテク産業そのものは相変わらず大企業主導で、米国並みにはすそ野が広がらないでいる。起業家もキャピタリストも一般投資家も社員も、誰もリスクに見合ったリターンを期待できないから輪ができない。だから本当にリターンを得にくい状況になる。
もちろん、この「アメリカンドリーム」システムでは、できるだけ早いリターンを求める投資家を意識して、企業は常に成長をアピールしなければならない。そのため、企業に長期的視野や安定性が欠けやすい一面はあるし、企業規模が大きくなってくると「前年/前期の○倍」といった一般受けする成果を出しづらくなるジレンマもある。でも今はそうしたプレッシャーさえも、米ハイテク産業の異様に速いビジネススピードとなって、産業の強さに貢献しているようだ。
●Microsoft株は和解の噂で上下
もっとも、いくら米ハイテク産業株が底強いと言っても、先に述べたように個々の企業のどれに人気が集まるかはいつも流動的だ。
例えばMicrosoftは、やはり裁判の和解の噂で上下する。12月14、15日には「Microsoftの弁護士がプライベートに調停役である控訴審判事と会った → 和解が近い」という噂で、4%近く株価が上がった。しかし「U.S. shoots down Microsoft settlement rumors」(San Jose Mercury News, 12/14/'99)などによれば、司法省がこの噂を否定すると、またしぼんでいる。
ハイテク株の中でも特に一般投資家の間で“カリスマ”人気を誇るインターネット関連株では、消費者相手のドットコム企業(Amazon.comなど)に代わり、ショッピングサイト向けソフトメーカーのようなB-to-B(Business to Business)コマース企業や通信インフラ関連の企業が注目を集めているという(「Older Net Stocks Lose Spark, But Other Web Names Shine」』The Wall Street Journal, 11/15/'99)。企業名にドットコムがつけばいい時代は、とっくの昔に終わっている。
●Wall Street Journal Interactive Edition(ペイパービュー)
http://interactive.wsj.com/
●「U.S. shoots down Microsoft settlement rumors」
http://www.mercurycenter.com/svtech/companies/watch/microsoft/docs/012237.htm
[Text by 後藤貴子]