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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

128MBで10万円超-RIMMはどうしてこんなに高いのか

●なぜRIMMはここまで高い

 128MBモジュールで10万円超!
 なぜ、Direct Rambus DRAM(RDRAM)のRIMMモジュールの価格はここまで高いのか? ずっと高値のままなのか? 本当にIntelの言っているように、RDRAMがPCのメインメモリの主流になる日が来るのだろうか?

 まず、この出だしの超高値は、異常事態だ。その理由は、RDRAMとRIMMの供給が極めて少ないからだ。どうして少ないかというと、Intel 820チップセットの遅延で、RDRAMの生産にストップがかかってしまったからだ。

 そもそも、RDRAMは全DRAMベンダーが一斉に生産を始めるという状況にはなかった。820が遅延する前の段階で、RDRAMで先行していたDRAMベンダーはNEC、東芝、韓国Samsung Electronics、それに、同じく韓国のHyundai Electronics(LGと合併)の4社だった。しかも、Hyundaiは合併の余波で遅れており、東芝はPlayStation2という大口顧客を抱えているため、年内に、PC向けに大量供給を期待できるのはSamsungとNEC程度しかないという状況だった。それ以外のDRAMベンダーは、RDRAMの需要拡大を見ながら参入をうかがう態勢で、早くて来年前半に量産出荷というスケジュールだったようだ。

 つまり、そもそも820が遅れる前から、DRAMベンダーが一斉にRDRAMへ移行を進めるという流れにはなかったわけだ。


●RDRAMの生産はSDRAMへ転換されていた

 そして、その細いRDRAM生産は、820遅延でさらに細くなった。まず、820のトラブルが通達されると、ほとんどのDRAMベンダーは製造工程にあったRDRAMの仕掛品をストップしたようだ。そして、820の迅速なリリースの見通しが立たなかったため、RDRAMに割り当てていたラインをSDRAMに振り替えた。

 例えば、NECは「820チップセットが延期されたため、RDRAMの出荷はいったん取りやめた。当初は、12月までに128Mbit品のRDRAMを200万個の生産量に持って行くつもりでいた。現在、この生産力は64MbitSDRAMを100万個分、128MbitSDRAMを100万個分へと転換している」という。この状況はSamsungも同様で、RDRAMの生産を停止して、SDRAMに振り向けているといわれる。この状況でもある程度の生産を続けていたのは東芝で「RDRAMは12月に128Mbit品と144Mbit品を100万個を生産する」というが、その内容はPlayStation2向けが中心で、パソコン向けにはほぼ出荷していない。

 DRAMベンダーは、今回の820のリリースを受けて生産を再開する見通しだが、チップセットの度重なる遅延で、IntelのRDRAM路線に対して、ますます不信が広まっているようだ。また、現在はSDRAMのコントラクト(大口ユーザー向け)価格が12ドル程度と言われており、DRAMベンダーとしてはSDRAMでも十分儲けられる状況にある。そのため、RDRAM移行をなにがなんでも急ぐという姿勢ではないようだ。RDRAMの生産は、12月から再開されるとしても、当初予定していた生産量に達するのは来年前半となるだろう。つまり、RDRAMのスタートは1四半期は確実に後ろへずれ込んだのだ。また、各社の2000年の生産予定量も、この調子では当初予定を下回る可能性がある。


●生産再開まではストック分でまかなう

 では、RDRAM生産がストップしていたこの状況で、どうやってRIMMは生産されているのだろう。それは、モジュールベンダーが、各DRAMベンダーの在庫分を仕入れているのだ。820の延期は、出荷予定の直前だったため、RDRAM生産を進めていたベンダーはすでに完成品をストックしていた。業界関係者によると、とくに韓国にはかなりのストックがあったという。また、RIMM生産で先行しようとしていたモジュールベンダーは、すでに発注をかけていた。そのため、現状はこの在庫RDRAMで、RIMMを生産しているようだ。

 もっとも、もし820が本格的に立ち上がっていれば、そのストック分だけではすぐに不足したはずだが、820システムが大手PCメーカーのメインモデルで登場するのが後ろへずれ込んでしまったために、当面は在庫分のRDRAMだけで十分に需要はまかなえるようだ。

 ただし、もともと限られた量しかない在庫RDRAMを、限られたモジュールベンダーが供給するという態勢にあるためRIMMの価格は高くなる。そもそも、RIMM自体の供給が限られている。現状ではDRAMベンダーからRIMMがほぼ出荷されていないため、システムメーカーやマザーボードメーカーも、RIMMはモジュールベンダーから買わなければならない。また、モジュールベンダーも、RIMM開発では膨大な初期投資がかかったため、その投資の回収のためマージンを高くしなければならない。

 現在の高価格は、こうした背景から産まれているようだ。もっとも、作っている側はいつまでもこのプレミア価格が続くとは思ってはいない。これは、あくまでもRDRAMが離陸に失敗したための異常事態で、RDRAMの生産が再開されて、モノが出てくれば落ち着いてくると見ている。


●DRAMの主流になるかどうかが価格を左右する

 では、RDRAMとRIMMはいつ、どこまで安くなるのか。

 今の流れでは、来年の前半までにRDRAMはある程度の量が出荷されるようになる。そのため、価格は下がるが、SDRAMよりはかなり高値にとどまるだろうと多くの業界関係者が予測する。いくらになるかは意見が分かれるところだが、ともかくSDRAMのような価格にはならないことはたしかだ。

 このRDRAMの高価格は、生産コストよりも生産量の方が大きく影響している。DRAMは伝統的に、主流になった1品種だけが飛び抜けて安くなるという傾向がある。主流になると、各社がこぞって生産、価格競争と供給の拡大でどんどん価格が安くなるわけだ。逆に、主流からはずれた品種の価格は、コストが低くても安くならない。例えば、現在はSDRAMよりもEDO DRAMの方がずっと高価格だ。

 つまり、従来の流れの通りなら、RDRAMは主流にならない限りSDRAMのような価格にはならないということになる。そして、現状では、RDRAMがいつDRAMの主流になるのか、業界の中の人々でさえ明確には予測できないという状況にある。実際、DRAMベンダーの中で、来年のRDRAM生産量がDRAM生産量の50%を超えると言っているところはない。業界関係者によると、各社の予定しているRDRAM比率は、もっとずっと少ないのだという。

 これは、820システムの普及と絡む重要な問題だ。820とRDRAMは、一種の『ニワトリとタマゴ』関係にあり、820の弾みがつかないとRDRAM普及へと向かわないし、RDRAMが安くならないと820の浸透が進まない。


●DRAM市場の価格破壊者Micronの動向が気になる

 RDRAMがPCのメインメモリの主流になるかどうかは、DRAMベンダー、それも有力ベンダーの出方次第だ。DRAMベンダーがRDRAMシフトを進めれば、一気に安くなるし、そうならなければいつまでも高いメモリのままにとどまる。

 では、DRAMの流れを左右する有力ベンダーは一体どこか。DRAM市場は、すでに日本メーカーのリーダーシップを離れて、韓国と米国が主導する市場になっている。ここで勢力を持っているのは、米国のMicron Electronicsと、韓国のSamsung、Hyundaiの御三家だ。この3社のRDRAMへの温度差がなかなか面白い。いちばん積極的なのはRDRAMのトップランナーのSamsungで、次がRDRAM積極派のLGを取り込んだHyundaiだ。その2社に対して、RDRAMへの取り組みがいっこうに見えてこないのはMicronという構図になっている。この最後のMicronの動向が、おそらく今後のカギになる。

 それは、MicronがDRAM市場の価格破壊者だからだ。DRAMを低コストに生産する技術に長け、低価格戦争で競り勝ってきた。MicronのDRAMは、同じ設計ルールのプロセスで同じ容量を設計しても、ダイサイズ(半導体本体面積)が小さい。ダイを小さくして生産コストを抑え、大量に生産して供給を拡大、市場価格を引き下げることで、ライバルメーカーを市場から押し出してきた。つまり、DRAMの価格競争では、Micronが火付け役だということだ。このことは、逆の見方をすると、MicronがRDRAMに本腰を入れない限り、RDRAMの低価格競争の流れは起きにくいということを意味している。


●RDRAMを低コスト化する動きも

 では、RDRAMの普及の重要な要素がMicronの動向だとして、MicronはRDRAMにいつ参入するのだろう。ここで、面白いのは、今年9月にIntelとRambusが、DRAMベンダーと結成した業界団体『Direct RDRAM Implementers Forum』に、Micronが加わっていることだ。このフォーラムでは、RDRAMの普及を促進するために、RDRAMの生産コストの削減策について話し合うことになっている。参加したDRAMベンダーは、Samsung、Hyundai、NEC、東芝の4社と、RDRAMのサンプルを発表しているInfineon Technologies、それにMicronの6社となっている。RDRAMを発表していないのに加わっているのはMicronだけだ。

 Direct RDRAMは、これまでIntelの意向を受けたRambusが開発をしてきた。しかし、このフォーラムは、DRAMベンダーと一緒にRDRAMのスペックを考えるという場になっている。つまり、DRAMベンダー側が口を出せる場が公式にできたわけだ。ここにMicronが加わっているということは、低コスト化ができるRDRAMのスペックができたら、MicronもRDRAM生産に本腰を入れるという姿勢を示しているのかもしれない。

 では、もしRDRAMの低コストスペックができて、DRAMベンダーのRDRAMシフトが始まるとして、それはいつになるのか。Direct RDRAM Implementers Forumでは、RDRAMの高コストの根本的な要因となっているダイサイズを減らすために、メモリバンク数を減らすことも話し合うという。こうした低コスト版RDRAMのスペックが早い時期に作られたとしても、生産にまで持って行くのは、どんなに早くても来年の終わりごろになりそうだ。つまり、どう転んでも、2000年の間はSDRAMが主流のままになるということだ。


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('99年11月26日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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