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COMDEX/Fall '99 基調講演レポート
Linuxの生みの親、ライナス・トーバルス氏
「オープンソースが変わる:ユーザーが市場を牽引」

ライナス・トーバルス氏

期日:11月15日(現地時間)

会場:Las Vegas Convention Center
   Sands Expo and Convention Center
   Las Vegas Hilton

 

 「Comdex/Fall '99」初日の夜に、Linuxの生みの親、ライナス・トーバルス氏が基調講演を行なった。会場を埋め尽くす熱狂的な観客を前に、オープンソースのコンセプトは変わりつつあり、今後はプログラマではなくユーザーが市場を牽引することになるという展望を語った。また、Linuxの持つ柔軟性を生かして、ハイエンド市場や、モバイル市場でもLinuxが多用されることになるだろうと述べた。

●歓声と「マッドドッグ」に迎えられて登場

ジョン・“マッドドッグ”・ホール氏 抱き合う二人
Linux International
ジョン・“マッドドッグ”・ホール氏
ホール氏、トーバルス氏を暖かく迎える

 最初に、Linux Internationalを率いるジョン“マッドドッグ”ホール氏がステージに登場し、トーバルス氏について語った。同氏は「トーバルスが最初に米国でプレゼンテーションを行なったとき、会場にいたのは40人ほどだった。彼のプレゼンテーションで特に印象的だったのは、ひとつのスライドに一行だけ、『Linuxは、避けられない』と書かれていたことだ」と語ると、会場からは大きな拍手が起こった。また、「ライナスは自分自身のことをエンジニアと思っているが、私は彼のことを息子であり、また友人であると思っている」と語った。

 われんばかりの拍手に迎えられて登場したトーバルス氏は、Microsoftのビル・ゲイツ会長のビデオやゲストスピーカーを多用した華々しい基調講演とは対照的に、ステージには1台のテーブルとノートブックが置かれ台本もほとんどないカジュアルなスタイルで、オープンソースやLinuxについて思いのままに語った。

 同氏はまず、「オープンソースを支えてくれたデベロッパー、ベンダー、そしてユーザーの皆さんすべてに感謝したい」と語り、盛大な拍手を受けた。同氏は「Linux企業が2社、IPO(株式公開)を果たし大成功を収めた。また、大手企業が次々にLinuxを企業システムに導入し始めている。これらの人々のサポートにより、Linuxがここまで急速に発展した」と述べた。

●オープンソースのコンセプトが変わる

 トーバルス氏は、「『どこでもペンギン』現象が起きている。昨年に起こった大きな進歩は、我々がクレジットカードにまでなったことだ」と、ペンギンマークの入った自分自身のクレジットカードを見せた。同氏は、Linuxのシンボルとして、何か太った生き物がコンピュータの前で幸せそうに座っているイメージを表したかったと語る。

 同氏は、Linuxがほんの数年前には無名のOSだったことを振り返り、「3年前、ジャーナリスト達にオープンソースのコンセプトを説明するのは一苦労で、何度説明しても理解してもらえなかった。しかし、今では皆がオープンソースに興味を持ち、『オープンソースが他のモデルよりも優れているのは明らかですね』と話しかけてくる」と語った。

 同氏は「『オープンソースとは何か?』という問いは、決して新しいものではない。しかし、それに対する答えは時代とともに変わってきた。オープンソースは以前、単なるプログラマが楽しむためだけのものだったが、現在ではデベロッパーとユーザーを近づける役目を果たすようにになってきた。これは、ユーザーが開発サイクルに直接関わることで、大きな利益を得られるモデルだ」と語った。

 この例として同氏は「純粋なユーザーというのは非常に少ない。たとえば、企業のシステム管理者は、ソフトウェアのユーザーでもありプログラマでもある。これらのユーザーが様々なアイデアを出し合うことで、ソフトウェアの開発期間を短縮できる。つまり、オープンソースは、プロジェクト内で競争し合うのだ。競争はいいことだ」と語った。

●ユーザーのニーズが市場を牽引する

トーバルス氏

 トーバルス氏は、今後のLinuxの動きとしては、ユーザーのニーズが市場動向を決定するとし、便利さと価格がカギとなるだろうと予測した。同氏は「テクノロジーは、もはや市場を動かす原動力ではない。ユーザーの欲求が市場を牽引している。iMacが登場したとき、5色のボディカラーなどに誰が関心をもつだろう? と思った。しかし、iMacは売れに売れている」と語った。

 同氏は、今後は携帯電話やPDAなどのモバイル市場が急成長を遂げると述べ、「省電力のワイヤレスデバイスは大きくなる。私もノートブックにケーブルがついているのはいつも不便だと思う」と語った。同氏は、「オープンソースモデルでは、個々のニーズに合わせたOSの開発が柔軟にできる」ので、多様なインターネット家電やモバイルデバイス向けの組込み型デバイスで、Linuxが大きく発展することになると予測した。

 クライアントOS市場に関しては、トーバルス氏は「デスクトップは、最も戦略的な分野だ。なぜなら、人々が最初に見て、親しみを持つ部分がデスクトップだからだ」と語った。しかし、同氏はこの市場を「最も参入が困難な市場」と考えている。同氏は「デスクトップ市場は、Linuxが歴史的に弱かった部分だ。人々は依然、UNIXやLinuxを使うのが非常に難しいと考えている。使いやすいデスクトップOSが登場する時期に関しては、以前は2~3年後だと言っていたが、やはり今でも数年後と答えるしかない」と語った。しかし、使いやすいGUIを開発するKDEやGnomeプロジェクトを通して、優れたデスクトップが提供されるようになるだろうという期待も述べた。

●もし、MSがLinuxの配布を始めたら?

トーバルス氏

 トーバルス氏は、講演を早めに切り上げ、恒例の質疑応答を行なった。会場からは、多数の質問が寄せられ、その中には「フィンランドとカリフォルニアの気候はどちらが好きですか?」、「ペンギンのぬいぐるみをいくつ持っていますか?」などの個人的な質問もあった(ペンギンぬいぐるみの数に関しては「たくさん」と答えた)。

 また、MicrosoftがLinuxを配布を始めたら? との質問に対しては、「もし、Microsoft自身がLinuxを配布したかったら、それは可能であり、合法だ」と述べた。同氏はまた「最初、スピーチを弁護士ジョークで始めようと思ったが、それは昨日誰かがやったと言われて止めることにした」と語り、会場を笑わせた。もちろん、昨晩の基調講演を「最近、面白い弁護士ネタのジョークを聞かなかったかい?」という言葉で始めたゲイツ氏への皮肉だ。

 何度かMicrosoftを皮肉って、会場を喜ばせた同氏だが、その一方で「人々は、反MicrosoftとしてLinuxを捉えがちだ。特に、報道されている部分ではそう見えるが、そうではない。私や他のデベロッパーは、Linux対Microsoftという図式では考えていない。単なる興味深いプログラミングプロジェクトとして考えている」と語った。

 講演は、豪華なセットやゲストスピーカーなどはなかったものの、トーバルス氏の一挙一動に大きな拍手が、Microsoftの名前が出るとブーイングが起こり、興奮に満ちたものとなった。

 なお、同氏が関わっているチップ開発企業Transmetaのプロジェクトに関しては、ソフトウェアデザインを使用したチップ「Smart CPU」を開発しているということ以外は何も明らかにされず、「Transmetaの詳細は、2000年1月19日にWebサイトで公開される。それまでは何も公表できない」と述べるに留まった。


□COMDEX/Fall '99のホームページ(英文)
http://www.zdevents.com/comdex/fall99/

('99年11月17日)

[Reported by HIROKO NAGANO,NV]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp