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AMDが次世代Athlon計画を発表-2次キャッシュ統合/ソケット化


●4種の新Athlonを2000年の終わりまでに投入

Athlonロードマップ(発表資料より)
 米AMDは、11月11日に米国で開催したアナリスト向けのミーティングで、2000年に登場するAthlonプロセッサの概要について明らかにした。2次キャッシュの統合、ソケット化、0.18μm製造プロセスへの移行、銅配線技術の導入。これらの革新により、2000年のAthlonはパフォーマンスが向上する一方、コストも下がり、サーバーからモバイルまでカバーレンジが大幅に広がる。

 「Thunderbird(サンダーバード)」「Spitfire(スピットファイア)」「Mustang(ムスタング)」--これらは、すべて今年から来年にかけて登場する新しいAthlonのCPUコアのコードネームだ。AMDは、これだけの数のAthlonをこれから1年間で投入しようとしている。では、AMDが発表した今後のAthlonコアのラインナップをちょっと整理してみよう。

 まず、最初に登場するのは、アルミニウム配線0.18μmプロセス版Athlonだ。これはK75と呼ばれるコアで、第4四半期中に750MHzで登場、最高900MHzが予定されている。次はThunderbirdで、2次キャッシュSRAMをMPUとワンチップ(On-Die)に統合、ソケット版も登場する。来年半ばの予定で、1GHzレンジのクロックが予定されている。Thunderbirdと同じコアを使ったバリュー(低価格)PC向けの2次キャッシュ統合版がSpitfireだ。こちらはソケット版だけで登場する。

 最後に登場するのはMustang。Athlonコア自体が拡張され、On-Dieの2次キャッシュも最大2MBに拡張される。また、モバイル向け機能が搭載され、Spitfireと同種のバリューPC向けバージョンも登場する。来年後半に登場する予定で、銅配線技術で製造されるため、クロックはさらに上がる可能性がある。ソケット版とスロット版がある。

 こうやって並べると、ごちゃごちゃしているように見えるが、ひとつひとつの製品計画はロジカルでわかりやすい。もう少し、詳しく見てみよう。


●0.18μm版Athlon-750MHzを前倒しで投入

 0.18μm版Athlonは、現在のAthlonコアを0.18μmにシュリンクしたバージョンだ。アナリストミーティングでの発表によると「すでにAthlonのウエーハ投入は全て0.18μmへと移行した」という。ウエーハ投入から製品出荷まではタイムラグがあるが、来年第1四半期には、Athlonのほとんどは0.18μm版になるだろう。

 AMDは、0.18μm版を年内に750MHzでスタートし、来年第1四半期には800MHz版を投入する。これは、AMDが当初予定していたスケジュールよりも1四半期づつ早まっている。それだけ高クロック品の歩留まりが良好ということになる。AthlonはPentium IIIより高クロック化が容易な設計になっているため、AMDが0.18μmへの移行に完全に成功した場合、Pentium IIIがAthlonのクロック向上のペースについていくのは難しいかもしれない。AMDの場合、MPU製品を発表した場合に出荷しなければならない個数がIntelよりも少ないことも、高クロック品の前倒し発表を容易にしている原因だ。

 0.18μm版Athlonは、テキサス州オースチンのFab 25のアルミニウム配線0.18μmプロセス「CS50」で製造される。ダイサイズ(半導体本体の面積)は102平方mm。これは0.25μm版Athlonの184平方mmの約55%であり、驚くほど小さい。AMDが当初0.18μm版Athlonの予想ダイサイズとして発表していたのは125平方mmなので、予定より大幅にダイを縮小できたことになる。

 ダイサイズは、製造コストに大きく影響するため、原理的には、0.18μm化でAthlonは大幅に低コスト化できることになる。ちなみに、Microprocessor Forumのセミナーでは、0.18μm化でAthlonの製造コストは20ドル以上下がり、70ドル程度になると見積もっていた。だが、パソコン用MPUの主力は製造コスト60ドル以下と見られているため、0.18μm版でもまだAthlonが高コストであることに変わりはない。これは、外付けの2次キャッシュSRAMやSlot Aカートリッジといった余計なコストがあるからだ。


●Thunderbird-2次キャッシュをOn-Dieに統合

 Thunderbirdは、2次キャッシュを統合する初めてのAthlonとなる。On-Dieの2次キャッシュの容量やインターフェイス幅は発表されなかったが、アクセススピードはCPUと同クロックになるという。現在のAthlonは、512KBの2次キャッシュSRAMを外付けにして、CPUコアの半分のクロックでアクセスしている。そのため、2次キャッシュ用バスの帯域が狭く、2次キャッシュアクセスのレイテンシも比較的大きかった。だが、Thunderbirdではこうした問題は解決される。性能も、同クロックの0.18μm版Athlonより向上する可能性が高い。

 コスト面でも有利になる可能性が高い。外部SRAMが不要になる上に、「Socket A」と呼ばれる新ソケットに対応するPGAパッケージでも提供されるからだ。ダイサイズがSRAM搭載で増加する分はコストアップとなるが、カートリッジとSRAMチップの削減で総合的なコストは減らせるだろう。AMDでは、一部のハイパフォーマンス版以外のAthlonは、PGAパッケージへと移行させるつもりらしい。


●Spitfire-バリューPC市場での巻き返しの切り札

 Spitfireは、バリューPC市場向けのAthlonだ。Thunderbirdと同様に、フルスピードのOn-Die 2次キャッシュを搭載、Socket A対応PGAのみで提供される。Thunderbirdとの違いは明確には説明されなかったが、2次キャッシュ容量やバスクロックなどが異なる可能性があるかもしれない。AMDの公開した図では、Spitfireは0.18μm版のK6ファミリとAthlonの中間のパフォーマンスレベルに位置づけられている。そのため、性能的には600MHzレンジだと予想される。

 このPGA版バリューPC向けAthlonに関しては、以前、このコラムでその登場を予想した。Athlon発表時に「Athlon Select」の名称で紹介されたプロジェクトが、このSpitfireに発展したと思われる。おそらく、K6ファミリが苦戦しているCeleronの高クロック品やPentium IIIの低クロック品に対抗して投入されるだろう。ThunderbirdはパフォーマンスPCから上という位置づけなので、棲み分けるものと思われる。ただし、インフラは同じSocket Aであるため、システムベンダーは同じプラットフォームでサポートできる。


●Mustang-全市場でIntelに対抗する次世代Athlon

 Mustangは第4世代のAthlonで、銅配線の0.18μmプロセスで製造される。MPUコア自体が拡張され、モバイル向け機能も搭載されると発表されたが、その内容は明らかにされていない。Thunderbird同様に、2次キャッシュをOn-Dieに統合するが、そのサイズは最大2MBとなっている。2MBの2次キャッシュはデスクトップではあまり意味がないため、2MBの2次キャッシュ搭載版Mustangは、サーバーやハイエンドワークステーション向けだと見られる。じつは、Intelも次世代Pentium III Xeon(Cascades)で2MBのOn-Die 2次キャッシュサイズを計画している。Mustangのハイエンド版は、Intelとサーバー/ワークステーション市場で張り合うつもりだろう。

 また、Mustangは2次キャッシュ容量を抑えたバージョンなど、複数のバージョンが存在する可能性が高い。アナリストミーティングでは、バリューPC向けのMustangも計画されていることが明らかにされた。また、Mustangはモバイル機能(おそらく低消費電力モードなど)を持ち、ノートPC市場にも投入される。ちなみに、MustangにもSlot A版とSocket A版があり、バリューPCやモバイルではSocket A版だけが提供される見通しだ。


●K6-2+/K6-III+ -ローコスト市場をカバーする

 AMDは、年内に533MHz版のK6-2を出荷、さらに来年第1四半期に0.18μm版のK6ファミリ「K6-2+」と「K6-III+」を出す。K6-2+は、すでにこのコラムで説明した通り、On-Dieで2次キャッシュを統合、CPUコアと同クロックで駆動する。そのため、従来のK6-2と較べるとクロック以上に性能が上がると見られる。K6-2+とK6-III+のどちらも、引きつづきSuper 7プラットフォームとなる。また、AMDはバリューPC市場向けにはK6ファミリを2001年まで提供し続ける予定だという。これは、100ドル前後から下の価格の市場では、Athlonより低コストなK6ファミリでないと採算が合わないためだと思われる。なお、Intelは、ローエンド市場向けには、来年グラフィックスとチップセットを統合したMPU「Timna(ティムナ)」を投入すると発表したが、AMDには、こうした統合MPUのプランはない。


●CS50-2000年の主力プロセス技術

 AMDは、アナリストミーティングで、プロセッサ計画だけでなく、プロセス技術の今後の計画も明らかにした。まず、AMDはテキサス州オースティンのFab25で、0.18μmのデザインルールの製造プロセス「CS50」の量産を第4四半期中に始める。CS50は、6層アルミニウム(Al)配線で、アナリストミーティングでの説明によるとゲート長は0.12μmだという。ゲート長がデザインルールよりも小さいのは、先端ロジック用プロセスでは当たり前のこととなっている。現在の0.25μmプロセス「CS44」からは、まずAthlonが移行、次にK6ファミリが移行する。


●HiP6L-AMDの未来を開く次世代プロセス技術

 AMDは0.18μmプロセスを2つ持っている。2つ目の0.18μmプロセスは「HiP6L」で、ドイツのドレスデンのFab 30で採用される。これはMotorolaとの技術提携によるプロセス技術で、Motorolaの「HiP6」プロセスと基本的には同じものだ。最大の特徴は、従来のアルミニウム配線に代わって銅(Cu)配線技術を採用すること。6層Cu配線で、ゲート長は0.1μmだという。銅配線により配線遅延が抑えられ、長いインターコネクトに使われる上層のピッチを細くできる。原理的には、CS50よりHiP6Lの方が、同じAthlonでも高クロック化が容易になるはずだ。量産開始は2000年中ごろの予定で、来年後半にはHiP6Lで1GHz以上を達成するとAMDはアナウンスしている。

 HiP6Lは、AMDが製造技術でIntelに巻き返す切り札となる技術だ。しかし、HiP6LとCS50では、同じAthlonでも物理設計をかなり変えなければならないと思われる。そのため、AMDはHiP6Lへの移行で開発リソースを食われるかもしれない。また、新プロセスで歩留まりを向上させるには、ある程度時間がかかる。特に、銅配線では歩留まり向上が技術的なハードルになりやすい。そのため、2000年中は、まだCS50がAMDの主力の製造プロセスにとどまるのではないだろうか。実際、AMDもFab30がフルボリュームの生産態勢に入るのは2001年に入ってからだとしている。

 また、AMDは2001年には0.13μmのプロセス技術「HiP7L」を立ち上げる。これは、技術的にはHiP6Lの拡張になる見込みで、同じFab 30で製造される。さらに、AMDはMotorolaとさらに微細な0.10μm「HiP8L」プロセスなどでも協力していくという。


●業績は回復の見通し

 このほか、AMDはアナリストミーティングで、AMDは99年第4四半期でようやく業績が持ち直し、損益分岐点まで持っていける見通しになったことを明らかにした。これは、第4四半期に80万個以上の出荷を見込んでいるAthlonの効果だけでなく、好調なフラッシュメモリにも支えられた結果のようだ。もし、AMDが赤字を脱却し、Athlonを市場に浸透させることができれば、AMDは膨大なFabへの投資を続けてIntelに挑むという、現在の戦略を維持できるだろう。

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【11月12日】米AMD、Athlon 750MHzを年内に出荷と言明
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/991112/amd.htm


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('99年11月15日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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