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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Intel 820問題続報2 -Coppermineに間に合わせるための解決策を模索


●820をCoppermineに間に合わせることができる唯一の方法

 「820はできるだけCoppermineに間に合うようにする」と語るインテル日本法人。 出荷を延期した次世代チップセットIntel 820を、Coppermine(0.18ミクロン版Pentium III)に間に合うようにするためには、たった1つしか手段が残されていない。それは、現在の820チップ、マザーボードとRIMM(RDRAMのメモリモジュール)のままで出荷する方法だ。

 インテル関係者は、10月発表とIDFでアナウンスされたCoppermineと同時にIntel 820システムを出すには、その方法しかないことを認めた。そして、「今のシステムのままでなんとかできるかどうかを模索している」と、その方向で動いていることを明かした。しかし、その一方でIntelは、マザーボードメーカーにRIMMスロットを2基に減らしたデザインへの変更を要求している。どうやら、Intelは、820問題をどう解決するか苦慮しているようだ。


●ハードルの高いRDRAMのインプリメンテーション

 今回の問題の経緯は、インテルや業界関係者の話を総合すると次のように想像できる。

 もともと、3基のRIMMスロットを装備した820マザーボードで、3つのRIMMを装填した場合にエラーが起きる場合があることは知られていた。しかし、これは特定のメーカー製品の組み合わせで起きるという単純な相性問題ではなく、そのため、原因の解明に手間取っていたようだ。インテルによると「チップセットのバリデーション作業は、通常数カ月かけて行なう。普通はもっと早い段階で問題が発見され対処する。しかし、今回は、最後の最後までかかってしまった」という。

 この問題の原因の1つとして疑われているのは、インピーダンスのマッチングだ。多くのメーカーが、RDRAMのインプリメンテーションではインピーダンスのマッチングが難しいと訴えている。RDRAMは高クロックにするために、28Ωのプラスマイナス10%というシビアなインピーダンスコントロールを要求している。あるボードベンダーによると、量産ボードでは誤差で2.8Ω程度のぶれは出てしまうという。つまり、量産品では、マザーボードやRIMMの組み合わせでインピーダンスのずれが出てくる可能性が高いわけだ。

 もっとも、インテル関係者は「インピーダンスも原因だが、それだけではない」と、原因が複合したものであることを示唆する。いずれにせよ、RDRAMのインプリメンテーションが、ボードベンダーにとって難しいことは間違いがない。Intelもそれをあまり認識していなかったフシがある。その結果、820システムを作ってみたら3RIMM構成がうまく動かず、しかも、それが簡単に修正が利くものではなかったというのが現状らしい。

 Intelは当初、RIMMスロットのうち2基にしかRIMMを装填しないよう指導することで、この問題に対処しようとしたようだ。RIMMスロットは空にしておくことはできないため、この場合は3スロット目にはダミー(Continuityと呼ばれる)を挿すことになる。しかし、2RIMM+ダミーの場合でもエラーが発生する場合があるため、9月中の出荷を断念、延期を通知したという。

 ここでIntelが、前例のないドタキャンを決意したのは、「エンドユーザーの手にわたるのを最小限に抑えようとしたら、こういう選択肢になった」からだという。これは想像だが、Intelは820の評価を犠牲にして、RDRAMを救おうとしたのではないだろうか。RDRAMは、今のところ高価格なのに今のソフトではパフォーマンスが出ないという問題を抱えている。そこへもってきて、互換性に問題があるという評判が立ってしまっては致命的だ。それを避けるために、820のドタキャンという手段に出た可能性がある。

 また、Intelはこの際に、発表だけしておいて出荷を遅らせるというIntel 810のような方法は取らなかった。その理由の1つは、「810の場合のように処置しなければならないステップが明確になっていなかったため」だという。つまり、対処が決まっていないため、いつまでかかるかわからなかったから発表せざるをえなかったということのようだ。


●2RIMMスロットデザインへの変更と既存マザーボードでの検証を並行

 Intelは、対策の第1弾として、PCメーカーやマザーボードメーカーには2つのRIMMスロットしかないデザインへの変更を要請した。マザーボードベンダーはこの方針に従うようだ。だが、PCメーカーの中にはそれで納得しないところが出ているようだ。

 また、マザーボードデザインを変えるとなると、早くて年内ぎりぎり、悪ければ2000年第1四半期まで820マザーボードの量産出荷がずれこんでしまう。そのため、特定の3RIMMスロットシステム上で2RIMM+ダミーの構成でなんとかエラーなく動くように、バリデーション作業を必死に進めているようだ。つまり、現在の820チップ、マザーボードとRIMMのままで、出す方法を模索しているわけだ。これがうまく行けば、10月には、一部の820システムは3RIMMスロットのままで、3つ目のRIMMスロットにRIMMを挿すことを禁止、RIMMのダミー(Continuity)モジュールの特性などを厳しく管理するなどの対策をほどこして出てくるのではないだろうか。そして、その次に来年になってから2RIMMスロットしか備えないシステムが各社から登場してくるというパターンになる。

 また、IntelはIntel 820マザーボードに「MTH(Memory Translator Hub)」と呼ばれるRDRAM→SDRAM変換チップを搭載、SDRAMを使えるソリューションも提供する。Intelは、そのためにRIMMスロット2基とDIMMスロット2基の両方を載せる「2+2」ソリューションを提案していた。しかし、この構成ではMTHは一種のRIMMとしてRDRAMチャネル上に存在するので、原理的には3RIMMスロット構成と同じエラーが発生する可能性が高い。そのため、この2+2デザインも見直されているようだ。


●RDRAMを諦めれば問題は解決する?

 もっともMTHを使ってこの問題を回避する方法もある。それは、MTHを使ってDIMMスロットしか搭載しない0+2ソリューションだ。この場合は、Intel 820の横にMTHを置いて、その先にDIMMを装備できる。RDRAMチャネル上のデバイスはMTHだけになるので、問題を回避できる可能性が高いだろう。ただし、この構成では820システムといってもSDRAMしか使えなくなり、RDRAMの普及に水を差してしまう。しかし、Intelもこの構成のマザーボードを他社が作るのを認めたり、自社でもそうしたソリューションを提供せざるをえなくなるだろう。

 また、Intel 820の兄貴分に当たるXeon用新チップセットIntel 840は、IDFでの説明によるとRDRAMチャネルに「MRH(Memory Repeater Hub)」と呼ばれるリピータチップを介して大容量メモリ構成を取るようになっている。MRHにはRDRAM用のMRH-Rと,PC100 SDRAM用のMRH-SがあるがMRH-Sを使った場合には、820の抱える問題は回避できる可能性が高い。おそらく、840は問題なく出荷できるだろう。


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('99年9月30日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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