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塩田紳二のLinuxWorld Expo/Tokyo '99レポート 基調講演編

期日:9月29日~30日
会場:東京臨海副都心 東京ファッションタウン

□LinuxWorld Expo/Tokyo'99
http://www.idgexpo.com/linuxexpo/



 LinuxWorld Expo/Tokyo '99の初日は、キーノートスピーチをはじめ、多数の講演がおこなわれた。今回は、その模様をレポートする。


●O'Reilly&Assciates 社長兼CEO Tim O'Reilly氏

 最初のキーノートスピーチは、技術系出版で有名な米O'Reilly(動物の絵が表紙にあるUnix系の技術解説書など)のTim O'Reilly氏。タイトルは、「インフォウェアの新時代~オープンソースとWeb」。同社は、以前、Perl開発者のラリー・ウォールを雇ったり、最近ではApacheの開発者ブライアン・ベーレンドーフを最高技術責任者(CTO)に採用するなど、オープンソースの世界にかなり接近している企業でもある。

 O'Reilly氏のスピーチの「インフォウェア」とは、Amazon.comに代表されるようなWebサイトやその検索の仕組みなどを総称して、ソフトウェアに代わるものとして作った造語。現在は、かつてIBMがIBM PCをオープンアーキテクチャとして出したときと同じく、オープンソースソフトウェアによって、新たな変革期を迎えているという。かつて、ユーザーが、表計算ソフト1-2-3を使いたいからパソコンを買うといった話にひっかけて、最近、知人から「Amazonにアクセスしたいからパソコンを買いたい」という話を紹介。今後は、デスクトップアプリケーションの代わりに、Webサイトの利用が主流になると考えているという。

 そして、このインフォウェアを実現したのが、ApacheなどのWWWを実現するオープンソースソフトウェアなのだという。かつての、Cinemania(映画データベース検索ソフト。最新情報をダウンロードできるしくみになっていた)やEncartaなどは、オープンではなく、かつMicrosoftに金を払わないと利用できないもので、これらは製品としてはヒットしたが、仕組みとして定着しなかったと指摘。その原因はオープンではなかったからだという。

 Amazon.comを持ち上げる一方、ユーザー数が多いことを頼りにAmazonがたとえば、出版社に要求する電子的な書誌情報を統一させるなどの力をふるい兼ねない「危険性」を指摘、Microsoftも最初から、他社に力をふるうつもりで会社を始めたわけではないが、力をつけたからこそ、いまのような状態になったのだという。

 しかし、オープンソースはビジネスになり、最近ではO'Raillyが一番儲けたと言われている(Prelの開発者を迎え、同社のPerlの本はことごとくヒットしたとか)と発言し、会場の笑いを誘うが、最も儲けたのは、オープンソースによるインターネット技術を取り込んだMicrosoftや、UUNETの創業者だとも。

 当日会場には、O'Reillyのブースがあり、動物が表紙に載った本が大量に展示されていた。インターネットで情報が提供されるにも関わらず、書籍を扱うAmazonなどが流行り、オープンソースの本が売れていくこととあわせ、かえって書籍の需要が拡大しているという。

●Intel上級副社長 Sean Maloney氏

 今度のMaloney氏は、ラフなスタイルで登場。演台をおかず、手ぶりも大きく、舞台のうえを盛んに行き来する。タイトルは「Linux and Intel: Power for the Net」。同氏は、IntelのCPUの簡単な歴史(なんとi4004を持ってきた)に触れたあと、いまやコンピュータの数は増え続け、その中に使われるトランジスタは、世界中で「アリ」の数よりも多いとか。また、能力も増大し続けると、拡大指向の話になる。そして、その能力は、インターネットをよりよくするための4つの問題を解決するという。

 それは、「Access Anywhere」(どこからでもアクセスしたい)、「SensoryOverload」(よりよい情報の管理がしたい)、「Total Reliability」(信頼性が欲しい)、「Instant Response」(すばやく反応してほしい)の4つで、それぞれにデモを交えながら(もちろん、Intelの製品でである)話を進めた。

 Access Anywhereでは、携帯電話や、米国のメール送信が可能なページャー(中にi386が入っているのだとか)を見せ、Sensory Overloadでは、いま、yahooなどで簡単な検索をしても大量の候補が表示されるが、これが数年経つとさらに多くの候補が表示されることになると指摘。検索結果をリストにせずに、最も確からしいところへいきなり飛ぶ検索サイトGoogle(www.google.com)などを紹介した。

 Total Reliabilityでは、Turbo Linux Clasterを紹介、4台のマシンでサービスを行なっているときに、イーサーネットの線を外してもサービスが続行する様子を見せた(なにが起こっているのかよくわからなかったが……)。

 最後のInstant Responseでは、8wayのPentium III Xeonマシンで、データベースの検索をデモ。次に、Mercedを装着したCPUモジュールを見せ、実際にデモするのかと思いきや、インターネット上に公開されているMercedを使ったWWWサイトを見せただけだった。

 振り返るに、Intelアーキテクチャを使えば、インターネットがさらに便利になるよって話だったのだと思うが、デモマシンでLinuxが動いたぐらいで、特にIntelとLinuxの関係などについての興味深い話はなかった。

●ターボリナックスジャパン 社長兼CEO Cliff Miller氏

 キーノートスピーチの最後は、日本を拠点に独自のLinuxディストリビューションを作るターボリナックスジャパン(旧パシフィックハイテック)のCliff Miller氏。テーマは「IT業界をリードするカギとなるハイパフォーマンスLinuxOS」。

 内容は、Linuxの現状や、同社のクラスタサーバーについて、同じくクラスタシステムであるBeowolf(NASAで開発されたLinuxマシンを多数接続して高速計算を行なわせるシステム)などについての話。

●VA Linux Systems社 社長兼CEO Larry Augustine氏

 ここからは、キーノートスピーチではなく、特別講演となるが、とくに何かが変わったわけでもない。

 テーマは「ビジネスへのオープンソース開発テクニックの利用」だが、同氏の話によると、今後はオープンソースの開発者やユーザーが主導権を握り、ソフトウェアメーカーなどの位置づけが変わってくるという。まず、オープンソースで、ユーザーは選択権を持ち、企業は、オープンソースの開発者を迎えることで、よりよいサポートが可能になるからだという。また、それに伴い、ソフトウェアメーカーが担っている部分も小さくなるとか。

 どうも「利用」というよりも、経営者は、こうした事態とどう折り合いをつけるかといった感じ。また、技術者は、インターネットコミュニティでどうやって活動し、どうやってオープンソースと仕事をうまく結びつけるかを考える必要があるし、企業もそれを教育する必要があるという。

●日本Linux協会会長 生越昌己氏

 国内Linuxコミュニティの有名人、生越氏が本日のトリとなる。タイトルは、「企業情報システムに押し寄せるLinux革命―Linuxでビジネスは大きく変わる」。 企業情報システム、IT部門についての話だが、ちょっとした逆転の発想という観点の話、フリーだから、古いマシンで動くからとそれを喜んでいるだけではなく、使い方も従来とは変える必要があるのでは? というのが要旨。

 たとえば、いま、インターネット向けサーバーにLinuxを使えば、旧式マシン1台でDNSやメール、WWWサーバーとすべてまかなえるが、たとえば、安いんだからそれぞれ別のマシンにしてもいいんじゃない? ということ。これなら、1台がダメになっても、他には影響ない。一台に全部入れてしまうこともLinuxならできるが、かといって、従来と同じ考え方をすることはないんじゃないかってことらしい。

 明日は展示会場を中心にレポートする。

('99年9月29日)

[Reported by 塩田紳二]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp