第20回 : ちょっとしたアイディアの積み重ねが使いやすさを変えていく |
Apple ComputerはiMacやiBookでシンプルなパソコンに挑戦しているじゃないか、との声もあるだろうが、それは自社でアーキテクチャ、OS、全製品ラインアップをコントロールできるApple Computerだからこそできる芸当だ。PCメーカーが、従来の周辺機器がほとんどつながらず、フロッピーディスクもないPCに、ありもののWindowsとアプリケーションをインストールしても、全く受け入れられなかっただろう。
余談だが、ソーテックのe-oneはそのあたりを考慮してデザインだけiMacっぽく(ではないとソーテックは言っているのだが)、機能はPCそのもの、という選択をした。製品として人気は出るだろうが、新時代を築く製品とはなり得ない。僕はアップル信者ではないが、Apple ComputerとPCベンダーの考え方の違いが、このあたりにあるように思う。
話が横道にそれてしまったが、そんなPC業界で唯一期待できるのは、IntelやMicrosoftが提案しているEasy PCだろう。コンセプトモデルの持つデザインの奇抜さばかりが強調されているが、機能一辺倒のPCを少しづつ変えていきたいと意図している点に期待したい。ハードウェア、そして一番肝心なソフトウェアの改良が、どこまで本気で行なわれるのか注目したい。今のところはデスクトップPCのことばかりしか情報が出ていないが、その先にはノートPCに関する提案も出てくるだろう。
ただEasy PCの具体的な姿が今ひとつつかめない上、Easy PCのノートPCともなると全くどうなるかわからない。おそらく無線通信を行なうための、Home RFやBluetoothといった技術が今後鍵になってくると思われるが、そうした技術が一般的になるまでもなく、様々な工夫ができることを一部のPCベンダーは示している。
■ 欲張らない無線機能が魅力のA1R
先日掲載されたスタパ斎藤氏のコラムと、多少かぶってしまうのだが、松下電器産業のLet's NOTE A1Rは、最近にない興味深いアイディアが盛り込まれた製品だ。確かに派手さはない。実用性を前面に押し出してきたLet's NOTEシリーズらしい製品なのだが、あまり欲張らずに無線通信機能に取り組んでいる点で好感を持った。
A1Rの無線通信機能は、モデム機能を持つワイヤレスステーションとA1R本体を電波でつなぐことで、無線ダイヤルアップを実現しようというもの。つまり、コードの心配などせずに、家庭内のどんな場所でもモデムで通信ができる。そんな手軽な無線機能だ。ワイヤレスステーションには、シリアルポートも装備されており、そこにISDN TAを接続することでISDN通信に対応することもできる。
ちなみにワイヤレスステーションとA1R本体の間は、PIAFS 2.0に準拠した64Kbps通信で接続される。つまり、A1R内蔵の無線ユニットとは電話番号登録できないPHSであり、ワイヤレスステーションとはモデムを内蔵したPHSの親機なのだ。
A1R本体側は3台までの親機を、ワイヤレスステーション側には4台までの子機を登録できるそうなので、会社に置いた別のワイヤレスステーションを使ったり、1台のワイヤレスステーションを複数のA1Rで共有(通信は同時に1台しかできない)できる。
なお、おそらく保証することはできないと思うが、子機としてPIAFS対応のPHSを登録すれば、そのPHSを使ってA1R以外のPCからもワイヤレスステーションにアクセスできる。逆にPIAFS 2.0対応の親機に対してA1Rを接続することも可能だ。たとえばNECのAterm IW50などにA1Rを子機登録すれば、ワイヤレスステーションなしでもISDNによる通信を行なえる。
さらにワイヤレスステーションとA1R本体は、PIAFSで接続されているが、PC上で動くソフトウェアからは、単なるシリアルポートとして見えるようになっているため、ワイヤレスステーションのシリアルポートに別のPCを接続し、接続をクロス接続にするスイッチを切り替えると、Windows 9xのケーブル接続機能を使ったファイル転送を行なうことが可能になる。
こうして使い方をいろいろ書いていくととても盛りだくさんの機能のようだが、機能を整理してみるとモデムをシリアルポートごと切り離し、PIAFSで間を繋いだだけのシンプルな構成であることがわかる。技術的なフィーチャーとしては、特別最新の要素が組み込まれているわけではない。
iBookのように無線LANの端末機能が最初から組み込まれているわけでもなければ、将来の家庭内無線通信標準化に向けた製品展開……といった大仰な立て看板があるわけでもない。おそらく、数年後にはPIAFSを使った家庭内の無線通信というソリューションは、本流からはずれて使われない技術になっているのかもしれない。
しかし今現在、煩わしい電話線の問題に対する解決策としても、手軽に自由なスタイルで通信を楽しむためにも、なかなかおもしろいアイディアだ。A1Rの無線通信機能は、欲張った多機能でも高性能でもないが、低コストで最大限に使いやすくする機能として評価したい。こうしたアイディアの積み重ねが、数年後のPCをより簡単で楽しいものにするはずだ。
■ ドッキングステーションも実用的に
もうかなり以前のことになるが、なぜドッキングステーションを採用したノートPCを、もっと提案の中に盛り込まないのか、というメールをいただいたことがある。僕自身もどちらかといえばドッキングステーション好きだ。PowerBook DUOは良かった……などという話はあまりにも古いかもしれないが、デスクトップで使っている環境をそのまま持ち出すには、ドッキングステーションを使うのがもっとも合理的だと思う。
またCD-ROMを除くことで軽量化と薄型化を実現すると、OSの再インストールが難しくなったり、別途CD-ROMドライブをインストールしなければならなかったりと、あまり初心者向きではない制限が加わってしまう。かといってフル機能のノートPCでは大きく、重くなってしまい、機動力に欠ける。
実際、手元には日本IBMのThinkPad 570やコンパックのARMADA M300といったドッキングステーションを使うことを念頭に開発された製品を置いている。これら最新のドッキングステーションは、かつての製品と比較すると使いやすさの面で大きく進化している。
ドッキングステーション自体はずいぶん昔から存在していたし、Windows 95のプラグ&プレイ機能でサポートされてからは、よりスマートに利用できるようになっていた。しかし、スマートになったとはいえ、Windows 95でドッキングステーションの切り離しを指示し、サスペンド状態になってから取り外さなければならなかった。
その上、本体をドッキングステーションに脱着する際、位置あわせが面倒だったり、何らかのフックを引っかけなければならなかったりと少々面倒だったのだ。僕は以前、アキアのTornade 515Mというドッキングステーション付きPCを使っていたのだが、そのあたりの面倒さがあって、あまり脱着を行なわずに運用するという本末転倒な使い方をしていたほど。
上記で挙げた2製品は、このあたりとてもスマートにまとめている。両製品とも独自のユーティリティを用いることで、Windows 95/98はもちろん、Windows NTでも電源を入れたまま脱着するホットプラグ機能をサポートしているし、レバーやボタンだけで簡単に取り外せ、取り付けの際も手間のフックに引っかけて押し込むだけ。実に手軽にドッキングステーションを扱うことができる。
特にARMADA M300は、ドッキングステーションから取り外すと薄型B5サブノートPCになってしまうため、本気で持ち歩くPCをデスクトップではメインマシンとして使いたい人にはいい製品だ。液晶パネルがSVGAであるとか、メモリが最大128MBしか搭載できないといった不満点はあるが完成度はかなり高い。
また、ドッキングステーションを取り巻く技術も整備されつつある。PCIデバイスを動的に脱着可能なPCIホットプラグの規格化はすでに終わっているし、動的なデバイスの再構成を行なうことが可能なACPIも今年秋には2.0にバージョンが上がる。さらにそれら技術を標準でサポートするWindows 2000も、来年の前半には製品版が入手できるだろう。
上記2製品は、独自のユーティリティで機能を実現しているが、ドッキングステーションがより簡単に使えるようになるための技術が標準化されることで、もっと多くのPCベンダーから製品が登場してくるだろう。なお、上記2製品もACPIに対応しており、Windows 2000β3でドッキングステーションのホットプラグを行なえることを確認している。
今ひとつ人気が盛り上がってこないドッキングステーション対応機だが、使いやすさがアップし、様々なPCベンダーがいろいろなアイディアを盛り込んだ製品が出てくれば、もっとこなれた製品になってくるのではないかと期待している。これまであまり製品が出てこなかっただけに、ちょっとしたアイディアで人気のパッケージングに化けるかもしれない。
[Text by 本田雅一]