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SEYBOLD SEMINARS SF 基調講演レポート
プロフェッショナル向けのイベントで発表されたプロ仕様のPowerMac

会場

会期:8月30日~9月3日(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center


 SEBOLD SEMINARSは出版、印刷、DTP、Web Publishingなどのプロフェッショナルを対象にした、カンファレンスと関連製品の展示で構成されている。Macworld EXPOなどコンシューマまでの幅広い層をターゲットとしたイベントとは、明らかに傾向が異なるイベントだ。コンシューマ市場での復活を果たしたApple Computerが、同社の基盤の1つともいえるプロフェッショナル向けの市場で、どんな展望を見せるのか。今回は、展示会開催の初日にあわせて行なわれた同社の暫定CEO、Steve Jobs氏の講演をレポートする。

■10月出荷予定のMac OS 9から9つの新機能を紹介

 定刻の午前9時より、およそ5分ほど遅れて基調講演はスタートした。主催者にうながされてステージに登場したApple Computerの暫定CEO Steve Jobs氏は、観客の歓声に軽く応えたあと、講演の口火を切った。冒頭はここ1年ほどのセオリーどおりに、同社の財務状況のアナウンスから。6月末の決算を経て、7四半期連続の黒字を達成したこと。キャッシュフローも、30億ドル以上に達していること。製品の在庫状況は1日を切り、0.6日という業界ではナンバーワンの状況を維持していること、などを立て続けに紹介した。これらはすべて事務的に取り扱われ、同氏独特のいたずらっぽく間を空け興味をそそるような話術はここでは微塵も姿をみせない。これらはすでに当然のこととして、同氏にとっても聴衆にとっても興味のないことになりつつあるのだ。

 それから、「おもしろいこと」と称していよいよ本番が始まった。最初は、QuickTime 4.0とQuickTime TVの紹介から。ただし、これらはいずれもが7月に開催されたMacworld EXPO/NewYorkでのデモンストレーションのダイジェストとも言うべき内容。唯一目新しいところでは、QuickTime TVのコンテンツサプライヤーに、Warner Bros.とRhino Recordsが加わったことが挙げられる。

 続いて製品の紹介は、Mac OS 9に移っていく。10月のリリースと、99ドルという価格をあらためて確認した後、7月のNewYorkでの講演よりデザインが更新されたCD-ROMのレーベルを見せながら、Mac OS 9がもつ50以上もの新機能のなかから、バージョンにあわせるかのように9個を順に紹介していった。紹介された機能は以下のとおり。

 なかでも、念入りにデモンストレーションが行なわれたのは、声紋認識によるユーザーログインと、TCP/IPを経由したAppleScriptの処理機能。いずれも、デモンストレーションを担当したのはプロダクトマーケティング担当の上級副社長Phil Shiller氏である。まず、同氏はJobs氏のログインネームを利用して声紋認識によるログインを試みるがことごとく失敗(至極当たり前のことだ)。みかねたJobs氏が、同じフレーズを口にしただけで、あっさりとログイン成功。聴衆の笑いを誘った。機能と目的を考えれば全く当たり前のことなのだが、ここでうまく聴衆を惹きつけていく。

 続いて、SEYBOLD SEMINARSというイベントにふさわしいデモンストレーションとして、ニューヨークにあるMacintosh上の画像データベースから、インターネットを経由して画像を取得し、ここサンフランシスコにあるMacintosh上のAdobe InDesign上でカタログを作成する作業を行なった。この一連の作業は、前述のTCP/IPに対応したAppleScriptに手順が登録されており、実際にPhil氏が行なったのは、Scriptファイルの実行だけである。またAppleScriptの処理速度が従来の5倍に向上していることも、ここで明らかにされた。

QuickTime TVのデモを行なうプロダクトマーケティング担当の上級副社長「Phil Shiller氏」。Jobs氏の講演には欠かせないパートナーだ。同氏は、9月7日から幕張メッセで開催されるWORLD PC EXPOで、AppleComputer社の基調講演(9月9日開催)を行なうために来日する
TCP/IPを経由したAppleScriptのデモ。シチュエーションがわかりやすいように、バックグラウンドにはそれぞれの都市における著名な橋の写真が使われていた


■iBookのオーダーは日本を除いてもすでに14万台を突破

 続いて、同社の製品ラインナップのなかでコンシューマ向け製品に位置づけられるiMacとiBookの現状について講演が進む。iMacに関しては発売から1周年を経過した報告とiMacの販売が全世界で200万台を突破したこと、さらにiMacの成功によって増加したMacintosh対応アプリケーションや周辺機器の動向についてなどが語られた。これもiMacの発売以来、恒例となった報告の1つである。ここでは、それらのソフトウェアのなかから、IBMのViaVoiceのデモンストレーションが行なわれた。
 iBookについては、改めてそのスペックや機能を紹介。こちらもニューヨークでの講演のダイジェストといった内容だが、そのなかで、9月の発売とされていたiBookの発売日が、具体的な日付こそまだハッキリとはしないものの、9月中旬とコメントされている。また、発表からおよそ1カ月あまりで、すでに14万台を超えるオーダーがあったことも明らかにされた。この数字には、未だに正式発表がない日本の状況はカウントされていない。ここで、Jobs氏は「世界でもっとも携帯製品の市場が大きい日本を除いての数字」と、あらためて日本市場での可能性も強調している。

Macworld EXPO/NewYorkに続いて、デモンストレーションを行なったIBMのスピーチ製品担当のゼネラルマネージャー「Ozzie Osborne氏」。入力する内容は、同氏が有名ミュージシャンと同姓同名なのにひっかけて、「このOzzieはコンピュータの話はするが、音楽の話は全くしない」とギャグを披露。NewYorkと全く同じネタながら、会場は大受け
iBookの事前注文は14万台を突破。この数字に日本市場の動向は含まれていない。また、無線LANのソリューション「AirPort」については、先日発表された10クライアント対応のBaseStationに加え、50クライアント対応製品の構想も披露した


■G4プロセッサ発表! PowerMac G4 + CinemaDisplayは究極のプロ仕様モデル

 Appleの構築している4系統の製品ライン。PowerBook G3をさらりと流して、いよいよ残るのはPro向けのデスクトップ製品のみとなった。もう、この頃になるとインターネット上の事前の噂話などから新製品の予感で聴衆もテンションが高くなっている。Jobs氏が何か言おうものなら、すぐにでも歓声をあげようかと待ちかまえている状態だ。時間も都合良く、展示会場のオープンとなる午前10時が間近。ここで、Jobs氏が切り出した。「what's next?」。次に彼が問いただしたのは、スーパーコンピューターについて。スーパーコンピュータをスーパーコンピュータたらしめているのは、その演算性能であり、『Gigaflop』がその基準となるという。Gigaflopは「One billion floating-point Operations per second」。1秒間にそれだけの演算ができれば、スーパーコンピュータと同等なのだという。こうして『Gigaflop』をパーソナルレベルで実現するプロセッサ、G4プロセッサが発表された。

 すでに彼の講演では常套手段ではあるが、聴衆をじらすかのようにその新製品を構成する要素が次々と明らかにされていく。G4プロセッサに搭載される「Velocity Engine」、Pentium IIIとのパフォーマンスの比較、400MHz~500MHzというG4プロセッサの製品構成、倍増したメモリバンド幅、AGP 2Xの採用、UltraATA/66のサポート、そしてFireWire、AirPort、ここまで話してようやく、PowerMac G4の姿が公開された。姿と名称は、いつも最後に披露される。聴衆としては盛り上がらない訳にはいかないというところか。

 製品の構成やスペック、価格等は展示会場レポートを参照していただくことにするが、その後もステージでは次々とPowerMac G4に関するデモンストレーションが披露された。Photoshopを使ったPentium IIIとの比較、地球外生命探査でおなじみのSETI@homeを利用したPentium IIIとの比較、そして前モデルであるPowerMacitosh G3との比較である。結果はいずれも見えているのだが、デモが終了したあとに拍手喝采というシチュエーションもこの頃になると、一種の約束事のように繰り返されている。

 こうして、いよいよ講演が最後を迎えようとするとき「もう、ひとつ」と付け加えたのが「CinemaDisplay」である。Jobs氏みずから、壇上に隠してあった同製品を中央に移動して、その姿と性能を披露。PowerMac G4の最高のパートナーと位置づけられるこのディスプレイを紹介して、ようやく1時間30分余りの講演は終わりを告げた。

 出版、印刷、Web Publishingなどのプロフェッショナルを対象とするイベントで発表されたハイエンドデスクトップ製品。まさに的を射た講演と新製品のリリースのタイミングと言えるだろう。また、今回のJobs氏の隠し球的な新製品として噂に上ったものには、「KIHEI」のコードネームで呼ばれる次期iMacがある。結果としてその発表はなかったわけだが、ホリディシーズン、クリスマスシーズンを控えて、事あるごとにその期待はいやがうえにも高まるに違いない。直近の大きなイベントには、9月7日から幕張メッセで開催される「WORLD PC EXPO」、そして9月15日からフランスのパリで開催される「Apple expo」がある。特に「Apple expo」では、Steve Jobs氏による基調講演が行なわれる予定になっており、これまた注目を集めそうな気配である。

発表されたG4プロセッサは、400MHz、450MHz、500MHzの3種類。搭載されている「Velocity Engine」は、これまで「AltiVec」の名称で呼ばれていたもの AppleStoreでも当日から、エントリーモデルの販売が開始された。購入者にはPowerMac G4のポスターがプレゼントされる特典も用意されている 性能がスーパーコンピュータに匹敵するため、PowerMac G4は戦略物資のひとつとして扱われ、特定の国には輸出ができない(?!)。そのためPowerMac G4のCMは、政府が同製品を兵器として取り扱うということで、数台の戦車が同製品をガードする内容。このCMが流されると会場は大受け。アンコールに応える形で再度CMを流すひと幕も

世界にあるCPUのアイドル時間を利用して、地球外生命体からのメッセージを発見しようというSETI@Homeプロジェクト。G4に最適化されたこのアプリケーションでは、従来の3~4倍もの効率で、提供されるファイルの検証を終了することができる。PowerMac G4は宇宙人発見の一助になるのか?! 自ら「CinemaDisplay」を手にして製品の紹介を行なうJobs氏。そのデザインと薄さも強調 こうして同社の製品ラインナップのなかで、Pro向けのデスクトップ製品が新しくなった


SEYBOLD SEMINARSのオフィシャルサイト(英文)
http://www.seyboldseminars.com/
Apple Computerのホームページ(英文)
http://www.apple.com/
Apple ComputerのSteve Jobsの基調講演に関するホームページ(英文)
http://www.apple.com/quicktime/showcase/live/seybold99/

('99年9月1日)

[Reported by 矢作 晃]


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