ポータブルMP3プレーヤーの理想型、Fresh Music登場 |
世界初のポータブルMP3プレーヤー、MPManの登場から約1年。この間にいくつかのメーカーから数種類のポータブルMP3プレーヤーが登場し、様々な方面で話題になっている。そして先週、PCユーザー待望の機能を備えるポータブルMP3プレーヤー「Fresh Music」が秋葉原に登場。発売前から注目度が高く予約分が多かったため、実際に店頭に並ぶことはなかったものの、かろうじて1台ゲットに成功したので、どの程度の実力を備える製品なのか検証してみたい。
付属品は本体以外にCFのPCカードアダプタと首かけ用のストラップのみで、ヘッドホンやCFは付属していない | 本体は十分小型・軽量で、MPMan同様携帯性は高い |
Fresh Musicは、台湾のNTK Computerが開発したポータブルMP3プレーヤーだ。本体の大きさは、58×18.5×96mm(幅×奥行き×高さ)と、一般的なポータブルプレーヤーとほぼ同じ。筆者手持ちのMPManと比較すると、Fresh Musicのほうが幅が狭く若干高さがある。
重量はバッテリ抜きで56gと非常に軽量だ。バッテリは単3電池2本だが、それを含めても100gほどにしかならない。バッテリを入れない状態ではあまりにも軽すぎて不安になるほどだが、このボディサイズと重量ならば携帯性に関して文句はない。ボディ素材はプラスチックで、見た目だけでなく実際の作りも非常にチープ。シルバーメタリックカラーに塗装されているものの、一見してプラスチックとわかる。ボディの接合部分など塗装が不十分なところもあり、かなり粗雑な作りという印象を受ける。
ボタン類は操作に必要な最低限のものだけで、情報表示用液晶ディスプレイもない。インジケーターとしては唯一LEDが用意されているだけだ |
用意されているボタン類が少ないことからも容易に想像できると思うが、機能は非常に少ない。基本的に曲の再生と前後の曲へのスキップ、音量調節ができるだけで、ランダム再生やプログラム再生といった特殊再生機能は全く用意されていない(再生時は常にフルリピート再生となる)。再生の曲順は、メモリにMP3データをコピーした順番がそのまま反映される(メモリ番地の若い位置にあるデータから順に再生される)。また、再生音のエフェクト機能も用意されていない。とにかく、MP3データを再生するための最低限の機能のみが用意されているだけである。
MP3データを保存するフラッシュメモリは本体には搭載されていないが、ポータブルMP3プレーヤー初のコンパクトフラッシュ(CF)対応で、CFを利用して全メモリを確保するようになっている。本体上部にCFスロットが用意されており、別途ユーザーが用意するCFを挿入して利用するようになっている。この点こそが、Fresh Musicの最大の特徴である。
これまでに発売されたMP3プレーヤーで、外部メモリが利用できるものもいくつかあるが、それらの多くはスマートメディアが利用されている。スマートメディアはデジタルカメラなどの記憶メディアとして定着しているが、現在発売されているスマートメディアは最大容量のものでも32MBしかない。それに対しCFでは既に96MBの製品が発売済みで、今後の大容量化もスマートメディアの先を行っている。つまり、容量的にはCFのほうが有利で、MP3プレーヤーで利用するメディアとしては最適というわけだ。
そして、Fresh Musicにはもう一つ大きな特徴がある。それは、CFにMP3データを転送する場合、PCから直接コピーできるという点だ。
本体左側面には、電源スイッチとヘッドホン端子が用意されている | 本体右側面には、HOLDスイッチとバッテリスロットが用意されている。HOLDスイッチをONにすると、電源スイッチ以外の一切のボタンが操作できなくなる | 本体上部のコンパクトフラッシュスロット。物理的な形状から、CF Type2のmicrodriveは利用できない |
付属のPCカードアダプタを利用すれば、ノートPCなどのPCカードスロット経由でMP3データを直接コピーできる |
従来のMP3プレーヤーは、そのほとんどがPCのパラレルポート経由でMP3データを転送する。一般的なMP3プレーヤーのメモリ容量は64MBだが、パラレルポート経由でデータを転送するとなると結構な時間がかかる。筆者は内蔵メモリを64MB搭載するMPManを愛用しているが、60MBを越える容量のMP3データを転送する場合、転送時間に10分以上かかってしまう。Rioなどではデータ転送時間はかなり改善されているようだが、それでも5~6分かかる。
また、データ転送は付属のドッキングステーションを利用しなければならないという機種も少なくない。これでは、ノートPCなどから手軽にデータ転送を行なうことも難しい。しかし、Fresh Musicではそういった欠点がことごとく解消されている。なぜなら、利用できるCFは独自フォーマットではなくFATファイルシステムをサポートしており、付属のPCカードアダプタを利用してノートPCなどのPCカードスロット経由で直接MP3データをコピーできるからだ。
RioなどのMP3プレーヤーではスマートメディアが利用できるようになっているが、それらは全て独自フォーマットとなっており、PCから直接MP3データをコピーすることはできなかった。そのため、外部メディアを採用している事によるメリットはほとんどない。その点Fresh MusicではPCからCFに直接MP3データを書き込んで利用できるわけで、外部メディアを利用するという利点をフルに活用できる。もちろん、データ転送時間も大幅に短縮できる。
ただ残念なのは、先ほど発売が始まったCFサイズのハードディスク、microdriveを利用できないという点だ。microdriveはCF Type2規格で、通常のCFよりも厚みがある。そのため、7月3日付のAKIBA PC Hotline!でも既報のとおり、Fresh MusicのCFスロットには物理的に取り付けることができない。スロット形状はもとより、基板上のソケットとも物理的にぶつかってしまう。物理的にぶつかってしまう部分を削って試してもみたが、電源を入れてもmicrodriveを認識することはなかった。つまり、電気的にも利用できないのだ。
もちろん、この点を考慮したとしても、CFが利用でき、PCからMP3データを直接コピーできるというメリットは非常に大きい。これこそユーザーがMP3プレーヤーに求めていた機能であり、多いに評価できる。
そして、本体にメモリを搭載していないことにより、価格的なメリットもある。事実Fresh Musicの発売価格は、付属品のCFアダプタと首かけストラップを含めて11,800円でしかない。もちろんCF購入代金を含めると結構な金額になるが、衝撃的な価格であることは間違いない。
利用したアルカリ乾電池とヘッドホン。アルカリ乾電池は三洋電機のネオ・アルカリ、ヘッドホンはソニーのインナーイヤータイプを利用 |
測定に利用したアルカリ乾電池は三洋電機のネオ・アルカリで、CFにはアイ・オー・データ機器のPCFC-15Mを利用した。また、ヘッドホン端子にはソニーのインナーイヤータイプヘッドホンを接続した。この条件で連続再生を行なった結果、約17時間弱で再生が止まった(正確には、午後3時36分に再生を開始し、翌日の午前8時20分頃再生が止まった)。
使用する乾電池や気温など諸条件によって誤差はあると思うが、再生と停止を数時間おきに繰り返すといった通常の使い方では、十分カタログ値を達成できるだろう。もちろん、充電式のニッケル水素乾電池などを利用すれば、コスト的にも負担は少なくなるだろう。また、単3乾電池は世界中どこでも簡単に入手できるので、バッテリ寿命に関して不満を感じることはほとんどないはずだ。
Fresh Musicの基板。中央下の長方形のチップが、STMicroelectronics製のデコードチップ「STA013」。サンプリング周波数最大48KHz、ビットレート最大320kbpsまでサポートしている |
基板に搭載されているMP3デコーダチップは、STMicroelectronicsのSTA013というものだ。このチップは、サンプリング周波数8~48KHz、ビットレートは8~320kbpsのMP3データをサポートしている。
ただし、再生音質に関しては問題ありだ。全体的にこもっているというか、くすんでいるというか、とにかくあまり良い音質とはいえない。「MPManでサウンドエフェクトをNORMALにした状態」と書けば、理解してもらえる方も多いかもしれない。
オーディオ製品である以上音質は最も重要なポイントである。機能や使い勝手がいくら優れていようとも、音質が悪ければ製品の価値は大きく損なわれてしまう。この音質の原因はおそらくデコードチップにあると思われるが、MPManのように効果的なサウンドエフェクトを用意することで、音質は十分改善可能なはず。価格を抑えるために、再生に必要な最低限の機能以外一切を省くこと自体に異論はないが、オーディオ製品である以上、再生音質には十分な配慮をすべきではないだろうか。
また、使い勝手もやや気になる部分がある。
電源は本体左側面のスライドスイッチによってON、OFFを行なうようになっているが、電源をONにすると、そのまま電源が入った状態のままになってしまう。再生せずにそのままにしておいても、自動的に電源が切れるということはない。また、一度電源を切ると、その時の再生状況も失われてしまい、再度電源を入れた時にはまた初めから再生が始まってしまう。一度再生を止め、後でその続きから聞きたいというのであれば、常時電源を入れておく必要があるわけだ。コストダウンによる機能の制限だとは思うが、オートパワーオフや曲の再生状況の保存ぐらいはできるようにしてもらいたいものだ。今後の改善を期待したい。
もちろん、手持ちのCDなどからMP3データを作成し、個人で楽しむことに全く問題はない。しかし、インターネットではいまだに違法MP3データが配布され続けており、メーカーや著作権保持者としては、著作権問題の解決は急務なのである。そこで、RIAAが中心となり、レコードレーベルやMP3関連企業など多数の企業が参加して、著作権保護団体「Secure Digital Music Initiative(SDMI)」を設立した。そのSDMIが提唱する著作権保護規格が今後ポータブルMP3プレーヤーに取り入れられていく見通しになっているのだ。
SDMIが提唱する規格では、MP3データ側に「透かし情報」を加え、プレーヤー側はその「透かし情報」を検知し、正当な「透かし情報」を持つデータのみ再生可能にするようになる。これにより、インターネットからダウンロードした違法MP3データの再生や、ポータブルMP3プレーヤーを利用したデータの交換や譲渡を防ぐことができる。
Diamondでは、Rioの次期モデルであるRio 500の発売を予定しているが、このSDMI準拠の著作権保護機能を搭載して登場することになっている。また、今後様々なメーカーから登場するであろうポータブルMP3プレーヤーについても同様だ。
しかし、Fresh MusicではメモリモジュールのフォーマットとしてFATファイルシステムをサポートしているため、メモリモジュールはハードディスク感覚で利用できる。Windows上からCFにMP3データをコピーしたり、CF上のMP3データを読みとることも可能で、著作権保護機能を搭載することは不可能だ。つまり、著作権保護という観点から見ると、Fresh Musicは最悪の製品となるのである。
もちろんユーザー側から見れば、これほど使い勝手の良いポータブルMP3プレーヤーはない。専用の転送ソフトやドッキングステーションなどを利用せずとも、PCからCFにMP3データをコピーするだけで再生できるという特徴は、PCユーザーにとってMP3プレーヤーの理想型といってもいい。とはいっても、今後は著作権保護が優先されることは間違いなく、Fresh Musicのような製品は登場しないだろう。
個人的には音質の悪さは致命的と感じるが、データ転送に関する理想的な機能は魅力で、音質の悪さを我慢できるのであれば、Fresh Musicが存在している間に手に入れておくべきだろう。当然著作権を侵害するような行為は言語道断だが、手持ちのCDからMP3データを作成し、個人の範囲内で利用するのであれば、非常に重宝する製品といっていいだろう。ちなみに、秋葉原で販売しているショップはAZ'TECおよびフェイスで、双方ともWEBページでオンライン予約を行なっているので、詳しくはそちらを参照してもらいたい。
【お詫びと訂正】
記事中において、「MP3デコーダチップは、表面の刻印が削り取られており正確な製品名はわからない」という記述がございましたが、誤りでした。刻印の削られていないSTMicroelectronicsのSTA013がデコーダチップです。ご迷惑をおかけいたしました関係者の方々にお詫び申し上げるとともに訂正させていただきます。
□AKIBA PC Hotline! 関連記事
【7月3日号】コンパクトフラッシュ対応の携帯MP3プレーヤーに注目
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/990703/etc.html#ntk
□Fresh Music(NTK Computer)のホームページ
http://www.acehigh-tech.com/prod03.htm
□Secure Digital Music Initiative(SDMI)のホームページ
http://www.riaa.com/SDMI/
□AZ'TECの予約ページ
http://www.aztec.co.jp/freshmusic.htm
□フェイスの予約ページ
http://www.faith-go.co.jp/html/mp3.htm
[Text by 平澤寿康@ユービック・コンピューティング]