遂に登場したデュアルSocket 370マザーボード
~ ABIT Computer BP6 ~



 ABIT Computerから発売されたBP6は、先月台湾で開催されたCOMPUTEXのレポートでも取り上げたCeleronのデュアル動作が可能になっているマザーボードで、Socket 370が2つマザーボード上に搭載されている。先週に秋葉原の店頭に並んだものの、すぐに売り切れてしまったという今最もホットなマザーボードだ。今回はこのBP6を取り上げ、その魅力に迫っていきたい。



■ 徐々に進化を遂げていった日本発のデュアルCeleronソリューション

ABIT Computer BP6
遂に登場したDual Socket 370マザーボード。Ultra ATA/66も備え、BIOSからFSBやコア電圧を変更できる
 本連載の第3回では、Soltekから発売されているCeleronでもデュアル動作を可能にするSlot 1-Socket 370変換アダプタを紹介した。そもそも、台湾のマザーボードベンダがそうした変換アダプタを販売するようになった発端は、とある日本のPC/AT互換機系サイトであるということを読者の皆さんはご存じだろうか?

 そのページこそ川田智広氏が運営するKIKUMARU'S Technical Laboratoryで、実はSlot 1用のSEPP版Celeronの頃からCeleronをデュアルで動作させる試みを行ない、SEPP版Celeronを改造することでCeleronのデュアル動作に成功したという実績を持っていた。その川田氏が彼の協力者とMSIのSocket370アダプタ(MS-6905)でCeleronをデュアル化できることを発見し、前出のホームページで紹介したところ瞬く間にブームとなり、MSIのSocket 370アダプタは売り切れ店続出という状況になった。改造方法はAN15というPPGA版Celeronのピンと変換アダプタのコネクタ部分のB75というピンをショートすることで行ない、この2点をリード線などで結線すればよい(具体的な方法や理屈、発見に至った経緯などに関しては川田氏のホームページが詳しいので参照するといいだろう)。しかし、このAN15とB75という2点を結ぶには半田ごてを利用して、配線する必要がある。筆者も3枚の変換アダプタでチャレンジしてみたが、3枚のうち2枚は上手くいったものの、1枚は失敗してしまった。ピンは非常に小さい部品で、半田ごての扱いに慣れていない人では成功するのはまず難しかった。

 ならば、最初からAN15とB75を配線した変換アダプタを販売すれば売れるのでは?と日本でのデュアルCeleronブームを見た台湾のマザーボードベンダは考えた。そうして登場したのが配線済みの変換アダプタで、SoltekのSL-02AやMSIのデュアル対応バージョンMS-6905 Version 1.1などがそれにあたる。これらにはジャンパスイッチが用意されており、ジャンパスイッチでAN15とB75を接続したり、切り離したりできるようになっていた(つまりデュアル対応、非対応をジャンパスイッチで切り替えられるという訳だ)。現在ではほとんどのマザーボードベンダがこうしたデュアル対応変換アダプタを発売しており、こうしたアイディアをすぐにビジネスにつなげられるあたりはさすが台湾ベンダといえる。

 しかし、Celeronをデュアルで利用するには、こうした変換アダプタを2つと、何よりもSlot 1のデュアルCPU対応マザーボードを用意する必要があった。変換アダプタ自体も1つ2千円程度はするので、2つ購入すると4千円の出費になる。デュアルCPUに対応したマザーボードも2万円を越える製品が多く、あわせて購入すると結構な出費になる。そこで、はじめからSocket 370のCPUソケットを2つ搭載し、AN15とB75を配線したマザーボードを作ってしまえば変換アダプタ分をコストダウンすることが可能になると考えたくなるのが自然だろう。これまで徐々に進化を続けていったデュアルCeleronソリューションの最終型が今回紹介するBP6なのだ。


■ パーフェクトマザーボードとなるのかBP6

 BP6の特徴は大きく3つある。1つは既に述べてきたように標準でCeleronをデュアルCPUとして利用できることだろうで、2つ目はUltra ATA/66に対応したIDEコントローラが搭載されていること、3つ目がBH6などと同じようにBIOSセットアップで非常に細かくCPUのクロック、コア電圧などを設定できることだ。

デュアル構成に必要なAPICが搭載される
 マザーボード上にはインテルのCPUをデュアル構成にして利用するのに必要なAPICが搭載されており、CPUソケットも2つ搭載されている。CPUソケットはメモリソケットに近い方が1番で、メモリソケットから見て遠い方が2番となっている。このため、シングルCPUで利用する場合にはメモリソケットに近いCPUソケットを利用することになる。なお、そのままでCeleronをデュアルCPUとして利用できるといっても、決して動作が保証されている訳ではないので注意したい。インテルはCeleronをデュアルCPUとして動作させることを保証していないし、実はABIT Computer自身もそれは同様だ。マニュアルには「SMP(2つのCPUを利用すること)はテストでのみ利用できる」と記述されており、Celeronがデュアルで動作しないからといってメーカーの保証を受けることはできない。また、これだけデュアルCeleronがメジャーになってくると、インテルがデュアル動作しないように設計を変更する可能性もないとは言えないだろう。もともと保証されていない使い方だけに、あるロットから突然仕様が変更されたとしても文句は言えないということは認識しておこう。

Ultra ATA/66対応IDEコントローラ HighPoint TechnologiesのHPT366。上には4つのIDEコネクタが見える
 BP6はチップセットにIntel 440BX AGPsetが採用されている。440BXのIDEコントローラはUltra ATA/33にしか対応していないが、BP6では別途IDEコントローラチップを搭載することでUltra ATA/66にも対応させている。そのチップはHighPoint Technologies(HPT)のHPT366というチップで、ちょうどこの連載の第4回で取り上げたPROMISETECHNOROGYのUltra66に搭載されているのと同じようなIDEコントローラがマザーボード上に搭載されていると考えるとわかりやすいだろう。ただし、第4回でも触れたように現時点ではUltra ATA/66が持つ66MB/秒というデータ転送速度を活かすようなハードディスクは皆無といってよく、Ultra ATA/66にしたからといってハードディスクのアクセス速度が高速になるという訳ではない。しかし、440BXが本来持っている2チャネルのIDEポートとHPT366の2チャネルのIDEポートと合計で4チャネルのIDEポートを利用できるようになる。それぞれに2つのIDE機器を接続できるので、標準で8つものIDE機器を接続することができる。どちらかというと、こちらの方がメリットと考えた方がいいだろう。

 ABIT Computerのマザーボードは代々CPUのクロック設定をBIOSセットアップで行なうようになっている。特にPentium II用のマザーボードBX6/BH6からは、BIOSセットアップでCPUのコア電圧までも設定することが可能になっており、クロックアップ時の大きな武器になるとして人気を集めてきた。BP6でも同じように、BIOSセットアップでFSBクロックの設定、コア電圧の設定が行なえるようになっている(なお、コア電圧はソケットごとに設定できる)。特に目新しいのは設定できるFSBの設定が増えていることだろう。これまでのマザーボードでは100MHz以上の設定で、いかに設定項目が多いかということが重視されていた。これは現在インテルから発売されているCPUはすべて倍率がロックされているためで、FSBをできるだけ細かくあげていくことができるマザーボードがクロックアップに向いているとされてきたためである。しかし、Celeronは元々FSBが66MHzのため、100MHz以上の設定にすると動作しない例が多くなってきた。例えば、Celeron 366MHz(66MHz×5.5)やCeleron 400MHz(66MHz×6)などではFSBを100MHzに設定した場合には100MHz×5.5=550MHz、100MHz×6=600MHzとなってしまい、成功する確率は限りなく0に近づいてしまう。

 そこで、BP6では66MHz~100MHzの間の設定を増やすことで、クロック倍率が高いCPUでもクロックアップの成功率を高めようという選択がされている(表1)。具体的には、66MHz、75Mz、83MHzという一般的なマザーボードに用意されている設定の他にも、72MHz、78MHz、80MHzそして82MHzから100MHzまでは1MHzずつの設定が用意されているのは特筆すべき事だ。このため、Celeron 366MHzを使う場合には、80MHz×5.5=440MHzなど微妙なクロックアップが可能になっている。筆者が手持ちの5つのCeleron(466MHz、433MHz、400MHz、366MHz、300A MHz)を標準電圧で試した範囲では、5つのうち3つ(466MHz、433MHz、366MHz)までがとりあえず500MHzでベンチマークが動くことを確認した。あくまで筆者手持ちのCPUにおける例でしかないので、読者の手元にあるCeleronでもそうした傾向がでるとは言えないが、BP6のように細かくFSBを設定できるマザーボードがあれば自分のCPUの限界を調べたりということも容易になる点は評価していいだろう。なお、92MHz~100MHzに設定した場合にはPCIバスのクロックはFSBの1/3に設定される。このため、PCIバスのデバイスが動作しなくなるというトラブルも回避されるように配慮されている点も付け加えておきたい。

【表1:BP6で設定できるFSBの設定】
FSB(MHz)667275788082838485868788899091
PCI(倍率)1/21/21/21/21/21/21/21/21/21/21/21/21/21/21/2
FSB(MHz)9293949596979899100104106108110124133
PCI(倍率)1/31/31/31/31/31/31/31/31/31/31/31/31/31/41/4


■ ベンチマーク結果でもデュアルの効果を確認

 今回デュアルCeleronシステムを評価するのに利用したのはZiff-Davis,Inc.Winstone 99 Version 1.1に含まれるDualProcessor Inspection Testsを利用した(Ziff-Davisのサイトから郵送費だけでCD-ROMを入手することが可能)。Dual Processor Inspection Testsは画像処理ソフトのMicroStation SE、同じく画像処理ソフトのPhotoshop 4.0、コンパイラのVisualC++ 5.0でデュアルCPUを利用した処理を実行してその処理能力を計測するテストだ。一般的にデュアルCPUの真価を発揮させるには、複数のCPUを利用できるようにアプリケーションを設計する必要があり、そうでないアプリケーションでは例えCPUがいくつあろうが結局はシングルの状態と処理能力には変化がない。前出の3つのアプリケーションはそれぞれ複数のCPUがある状態では、複数のCPUを利用するようにアプリケーションが設計されており、デュアルCPU時のパフォーマンスを計測するには最適なベンチマークテストだ。

 また、OSレベルでもマルチプロセッサ環境をサポートしている必要がある。多くの読者の皆さんが使っているWindows 9xはマルチプロセッサをサポートしていない。このため、デュアルCeleronをフルに活用したいのであれば、それ以外のOSを選択する必要がある。x86用のOSでマルチプロセッサをサポートしている代表的なOSといえば、Windows NT、BeOS、Linux 2.2以降などがあげられるだろう。今回はWinstone 99が動作する環境という条件がついたので、Windows NT 4.0 Workstation 英語版+ServicePack 4という環境をチョイスすることにした(なお、英語版を利用したのはWinstone99が英語環境でしか動作しないからだ)。

 今回はCPUとしてCeleron 466MHzを2つ用意し、FSBを72MHz(503MHz)、75MHz(525MHz)へとクロックアップした時のパフォーマンスも計測した。なお、比較対照としてASUSTeK ComputerのP2BでPentium III 550MHz、Celeron 466MHzを利用した時のパフォーマンスも計測した。結論から言えば、Celeron 466MHz×2はCeleron 466MHz×1の状態に比べるとPhotoshopやVisual C++などのマルチプロセッサに対応したアプリケーションを利用した時には顕著な差があることがわかった。また、525MHzにクロックアップした状態ではPentium IIIをも上回っており、Celeron 466MHzを2つ購入した場合よりもPentium III 550MHzを1つ購入した場合の方が圧倒的に高いことを考えれば、十分満足できる結果といってよい。

【Winstone 99 scores (Winstone units)】
Celeron 466×1Celeron 466MHz×2Celeron 503MHz×2Celeron 525MHz×2Pentium III 500MHz×1
Dual-Processor Inspection Tests2.122.352.52.592.52
High-End/MicroStation SE MP2.072.222.382.482.35
High-End/Photoshop 4.0 MP1.781.92.032.12.14
High-End/Visual C++ 5.0 MP2.713.363.513.593.36

【テスト環境】
メモリ:128MB(PC-100 SDRAM)
HDD:6.4GB(Quantum Fireball EX6.4A)
ビデオカード:カノープス SPECTRA 3200R2


■ CGやビデオ編集などデュアルCPUをチープに作りたい人にお奨め

 以上のように、BP6はマルチプロセッサ環境を非常にチープに構築できるという意味では魅力的なシステムだ。CGやビデオ編集ソフトなどマルチプロセッサに対応しているアプリケーションを常用しているユーザーであれば、ベンチマークの結果からも明らかなように顕著な効果が認められる。先週号のAKIBA PC Hotline!でも述べているように、デュアルマザーボード+変換アダプタ2枚+Ultra ATA/66インターフェイスカードをそれぞれ別々に買うことに比べたら、2万円弱で入手できるBP6はコストパフォーマンスが高いといっていいだろう。

 ただ、CPUベンダからもマザーボードベンダからも保証されないということがあるので、業務に利用するのはやや難しい。趣味でフォトレタッチやビデオ編集などををしているユーザーにとってはそうした点は気にならないだろうが、ビジネスユースではそうした点にも注意を払わざるをえず、そうした意味では難しいところだろう。しかし、現在最速のCeleronであるCeleron 466MHzを2つ購入しても、マルチプロセッサがサポートされるPentium III 450MHz 1つの値段にも届かないという現状を考えると、デュアルCeleronシステムは非常に魅力的な存在だと言える。一部ではインテルがCeleronをマルチプロセッサでは使えないように仕様を変更するという噂もあるようだが、できるならばそうした変更はしないで欲しいものだ。

 第7回でも述べたように、同じチップセットを使っている限り似たようなマザーボードになってしまうが、今回のBP6は他社のマザーボードが持っていない様々な新機能(デュアルSocket 370、Ultra ATA/66など)により、明らかな差別化が行なえており、BH6のようにまたまたベストセラーとなること間違いなしの製品だと結論づけたい。

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【5月1日号】世界初のDual Socket 370対応マザーABIT BP6がついに登場一部
ショップに極少量が入荷、サンプル展示も開始
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/990626/bp6.html


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[Text by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp